織田信奈の野望 〜in風林火山〜   作:マクロなコスモス

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 2話連続投稿です。投稿ペース考えないと……。


第2話 問答

 長尾景虎を知るために真斗は越後に潜入し、長尾家の本城、春日山城に侵入する。探索するなか、彼は倒れている白い髪、白い肌をした少女を見つける。彼女こそ、越後の守護代・長尾景虎だった。

 

 真斗は井戸水が入った水筒を取り出す。

 

「まずは、これで口を濯いで。このままだと歯が溶けるぞ。安心しろ水筒は洗ってある」  

 

 景虎はコクリと頷き、水筒に口をつけ、口を濯いだ。次は血を拭くことだな。

 

「太ももはどこから怪我をしたんだ?今、止血してやるから」

 

 それに対して彼女は首を横に振った。

 

「怪我は……していないわ」

 

「怪我をしていない?それはどう…いう……」

 

 真斗はもう一度血塗れの太ももを見て、傷口らしきところはなかった。

 

「えっと……、少し待ってほしい」

 

 顔を赤くし、顔を俯く。なんとも、年頃の少女らしい反応だった。

 

 あの貞操観念がないに等しい晴信とは正反対だ。あいつにもそれくらいの恥じらいがあればな……、とふと頭の中に過ぎる。しかし、今はそれどころではない、苦しんでいる彼女をすぐに助けるのだと、真斗はすぐに着ている服の袖を刀で切りとり、まだ水筒に残っている水を濡らし、彼女に渡した。

 

「お、俺は反対側を向いているから、終わったら言ってくれ」

 

「え、ええ」

 

 景虎は真斗から渡された濡れた布で血がべっとりと付いている太ももを拭き取る。真斗は彼女に背を向けて、終わるのを待つ。

 

「……もういいわよ」

 

 彼女の言葉に真斗は振り返る。そこには衣服に血が付いているものの、あの倒れている時の姿がまるで嘘かのような可憐で白い雪の妖精のような少女が座っていた。

 

「お腹、まだ痛むか?」

 

 痛みを堪えていたのか、少し顔が歪ませながら頷く。

 

「まずは深呼吸して。気持ちを落ち着かせて」

 

「すー…はー……」

 

 景虎は頷き深呼吸を数回繰り返す。

 

「どうだ?」

 

「痛みは大分和らいだわ。礼をい……」

 

 突如、景虎の言葉が途切れる。

 

 バタンッ

 

 彼女が礼を言おうとした瞬間、真斗は倒れる。それもそのはずだ。彼は先程の商人の荷物運びを手伝ってから今まで水を一滴も飲んでいない。それどころか、井戸で汲んだ水を全て景虎を助けるために使ってしまっていた。

 結果、彼女が大事にいたらなかったことに安心して緊張が途切れ、一気に脱水症状が彼を襲ったのだ。

 

(やばい。水、飲んでなかった……。)

 

 真斗の意識が薄れゆく中、景虎が慌てて彼に近づく。

 

「どうしたの!?だ、誰か居らぬか!!早くこの者を助けよ!」

 

 景虎にはどうすれば彼を助ければ良いのかわからない。戦には天才的な才能を持っているが、人命を助ける術は知らない。

 だが、そんな理由で自分を助けようとした恩人をこのまま死なせることは他ならぬ自分自身が許さなかった。

 

 必死に叫ぶ中、誰かの足音が景虎の耳に入る。

 

「どうした、景虎!」

 

 洋風な帽子を被った総髪の男が景虎に近づく。彼こそ、長尾家の軍師・宇佐美定満である。そして、彼女を忌み嫌った為景に代わり「義」の心を教えた。つまり、育ての親とも言える存在だ。

 

「宇佐美!この者、わたしを助けた後に倒れてしまったのだ。このままにはしておけない、どうすれば助けられる?」

 

 宇佐美は倒れている真斗を見て、あの井戸で出会った小僧か、と口にする。これで真斗が突然井戸から走り出したのか、合点がいった。彼は何かしら景虎の危機を察して助けるために駆けつけたのだ、と。

 

 宇佐美もこのまま真斗を放置するわけにはいかなかった。

 

「ああ、わかったわかった!とりあえず、まずは涼しいところに連れていくぞ。こいつは水を飲んでいない。この暑さにやられたんだ!ここからだと一番近いのは毘沙門堂だ。そこで休ませる。良いな?」

 

 宇佐美の問いかけに景虎は頷く。

 

 しかし、宇佐美は真斗をどうするか考えていた。景虎は自分を助けた彼を必死に介抱するだろう。素性の知らない少年をただ助けるわけにはいかない。そう考えていた。

 

 

 

 

 

 

 

「……。」

 

 毘沙門堂に運ばれた真斗を景虎は静かに見つめていた。

 

(改めてこの人は一体何者だろうか。何故こうも胸がざわつく。)

 

「んん……。ここは」

 

 薄暗く涼しい場所。暑さにやられた真斗にとって、とても心地よく感じた。

 目を覚ますと白い肌、白い髪、そして赤い眼をした少女の姿が目に映る。彼女の姿を改めて見てようやく「長尾景虎」なのだと気づいた。真斗は兎に角苦しんでいる人を助けたいという一心でやっていたため、気づくのが遅れたのだ。

 

「春日山城。そして、ここはその中にある毘沙門堂よ」

 

「毘沙門堂……」

 

 景虎の後ろに毘沙門天の像を見る。

 

(なぜだろうか。不思議と俺はここに呼ばれていたように感じる。)

 

「助けてくれてありがとう。このまま倒れていたら、どうなっていたか……」

 

「礼には及ばないわ。それは私も同じ。あなたに助けられたわ。それと、あなたを運んだのはあの宇佐美よ」

 

 景虎の視線の先に宇佐美定満が立っていた。真斗は思わず、目を丸くして定満を見た。

 

「あの時の……。宇佐美様、ありがとうございます」

 

「良いさ、景虎を助けたお前を見殺しにするわけにはいかねぇさ」

 

 ただな……、と宇佐美は付け足す。

 

「お前、何者だ?」

 

「え?」

 

「一瞬、商人の下働きかと思ったが、帯刀もしている。それも錆がない磨かれた立派な刀だ」

 

 宇佐美は真斗が持っていた刀を取り出して刀身を見せる。まだ、兵農分離がされていない時代、武士でなくとも帯刀する人は中にはいる。ただ、磨かれた刀となれば話は別だ。ここまで磨くのは武士であることに間違いない。

 

「だが、軒猿にしては迂闊だ。殺気も微塵も感じない」

 

「……。」

 

 真斗は顔色を変えずに一度長尾景虎を見る。

 

(助けてくれた人に嘘は吐きたくないな。それこそ、「義」を重んじている彼女に失礼だな)

 

「わかりました。俺は武田家臣白井真斗。越後に来た理由は長尾景虎、あなたを知るために来た」

 

「「!?」」

 

 景虎、宇佐美は驚きを隠せなかった。この状況を誤魔化す人が多いが、こうまで堂々と自分の正体と目的を答える人はまずいないからだ。それに加え長尾景虎にとって、武田晴信は父を他国へ追放しあまつさえ妹の嫁ぎ先だった諏訪を滅ぼし信濃を我が物としようとする成敗すべき敵として定めているからだ。

 

「……今、武田家臣。そう言ったのね?」

 

「言ったさ。嘘は言わない」

 

「『白井真斗』、こりゃあはまた大物が来たな」

 

「宇佐美知ってるの?」

 

「そりゃあそうだ。以前、武田が信濃守護の小笠原を一気に叩きのめしたって話があっただろ?勝利に貢献したのはこいつだって話だ。まさか、こんなガキだったとはな……」

 

「それで。何が目的なの?」

 

「え、だから。あんたを知るために」

 

「それだけなの?」

 

「それだけだな」

 

 即答だった。ここまで来ると彼が嘘を言っているように見えない。私の命を狙うことが目的ならあの時に携えていた刀で自分を突き刺せば良い話だ。状況証拠は揃っている。

 

 ただ、自分を生かした理由もわからない。あの悪虐非道を尽くす武田晴信の家臣だ。兄がいない今私を殺せば、武田にとって益となるはずだ。真斗の目的が益々分からなくなる。

 

 だからこそ、長尾景虎は真斗に尋ねた。

 

「どうして、私を助けたの?」

 

「え、いや……」

 

 真斗は「うーん」と唸り、少し頬を赤くし恥ずかしそうな顔をして言った。

 

「聞いて笑わないのなら答える。それを約束してくれるなら…」

 

「ええ。約束するわ」

 

 真斗はゆっくりと口を開いた。

 

「そこに苦しんでいる人がいたからさ。それで助けなくちゃいけないな……と」

 

「……。」

 

 景虎は思わず言葉を失った。彼は欲も何も持たず善意で自分を助けたと言った。

 正直さ、誠実さ、そして弱っている者には手を差し伸べる心。それらを兼ね備えている真斗を見て、景虎は目を丸くした。自分が考えている、人として在るべき姿を彼が体現しているのだと感じたからだ。

 長尾政景も含めた越後の諸将達は皆、景虎を嫁にと血眼になりがら求めるのに対して、真斗は何一つそういった考えを持っていない。

 

 だからこそ、景虎は体を震わせる。武田晴信は彼のような人までを騙し、利用しているのだと。

 

「あなたは……、あなたのような人が武田にいるのかがわからない。騙されているのよ、武田晴信に。父を追放し妹を殺すような卑劣な女に」

 

 この時、真斗は顔を顰める。彼は外側の人が抱いている武田晴信のイメージというのを理解した。だからこそ、悔しかった。あれほど家族を想いやる優しい少女は数少ない。しかし、それとは真逆の評価を受けている。

 

「なあ、景虎さん」

 

 真斗は景虎の赤い瞳を睨んだ。目を逸らさないように、自分の本心をしっかりと彼女に伝えるために。

 

「見たことのない。実際に会ってもない人に俺の主君を侮辱されるってのはかなり怒りを覚えるんだよ。だからさ、今の言葉撤回しろ」

 

「!?」

 

 景虎は怒りを向けられたことに硬直する。敵対しているとはいえ、全て彼女を目的としていたため、敵意を向けられることはなかった。しかし、彼は違う。晴信を侮辱したことに対する怒りと明確な敵意を景虎に向けたのだ。

 

(こりゃあ、根っからの忠義者だ。律義で若さ故の真っ直ぐさ。景虎好みの性格だが……)

 

 宇佐美は景虎にも目の方にも目を向ける。

 真斗が武田晴信に仕えているのは自分の意思であることに、景虎はショックを隠せないようすだった。

 

「だ、だが、事実だ」

 

「噂を事実と認識するのだったら、あんたの兄上、長尾晴景は野望のためだけにあんたを殺そうとしたって噂が流れていたけど、あれは事実なのか?」

 

「それは違う!兄上を侮辱するな!」

 

「あんたが言っていたことは、それと同じことだ。事情も分からない、知らない人に大事な人を侮辱される筋合いはないはずだ」

 

「っ!それは……」

 

 景虎は言い返せなかった。正直、悔しかったが、彼の方が正しい。認めざるを得なかった。

 

「あなたへの主君への侮辱については謝るわ。だが、信濃の豪族達を脅かす武田晴信は私にとって成敗すべき敵だ」

 

「……わかった。俺も晴景公を侮辱するつもりは毛頭なかった。すまない」

 

 真斗は景虎に深く頭を下げた。

 

「それで今、当主が武田を敵と定めた以上俺を切りますか?宇佐美様」

 

 真斗は宇佐美に目を向ける。景虎の武田に対する敵意を示した以上、その家臣である彼をどうするか、処遇を決めなくてはならない。

 

「そうだな。敵である以上、ただでは返すわけにはいかねぇな」

 

「ま、待て宇佐美!たとえ、敵であろうと彼は恩人だ。決して殺すな!」

 

「だがよ、こいつは武田の家臣で、戦場ではあの村上義清に勝るとも劣わないと言われた武将だ。このまま、武田に返せば必ずこの越後の脅威になるぞ!」

 

「構わない!」

 

「っ!!」

 

 景虎の意思は固かった。宇佐美は後ろ頭を掻き、ため息を零した。

 

「まあ、そう言うと思ったよ。好きにしな」

 

「……。」

 

 真斗は景虎の誠実さに思わず魅入ってしまった。見た目だけでなく心も美しく、そして気高い。彼女を狙う国人がいるとは噂で聞いていたが、それも納得がいった。

 

「どうした小僧。惚れたか?」

 

 宇佐美は先程とは打って変わってニヤニヤした表情で真斗を弄り始める。だが、真斗は静かに首を横に振った。

 

「いえ、尊敬の目で見ていました。命を二度も助けられたのに、このまま帰るわけにもいかなくなった」

 

「どういうことだ?」

 

「命の恩人に何もせずに帰るほど恩知らずのつもりはないです。少しは恩返しはさせてほしい。しばらくの間、俺を客将としていさせてもらうことはできますか?」

 

 景虎と宇佐美は首を傾げた。





 上杉謙信を取り扱った歴史番組を見ていたのですが、殆どひらめきで戦を進めていたそうです。それを見ると本当に天才っていうのがいるんだな……と。

 皆さんはどんな才能が欲しいですか?

 因みに私は文才が欲しいです……!

合戦の布陣図について

  • 上田原の戦いの方が見やすい
  • 塩尻峠の方が見やすい
  • どちらも見えにくい
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