久しぶりにのぼうの城を見ていたのですけど、あれは名作だと再認識しました。
それと、この話は途中で主人公目線から三人称視点に変わります。
小笠原の説得を終わらせたことを勝千代に報告しに行った。そこには勝千代さんとそばにいる小姓が一人いた。
「真斗。よく戻ってきた。意外と早かったわね」
「いや、こんなのはまだまださ。今回は長時が単純な人で助かったよ。また、頼重みたいな奴だったら苦戦してたかもしれない」
今回は本当に運が良かったと言える。本来ならばもう少し時間がかかるところだろう。
「良い心がけね。勘助の調略も順調そうよ」
「そうでしたか。それで、そこにいる小姓だけど、どこかで見覚えがあるんだけど……誰なの?」
あの赤い髪の子、どこか見たことのあるような感じだけど誰なんだろう。
「この子は飯富源四郎。あの飯富兵部の妹よ」
「ああ。なるほどね」
勝千代に紹介された源四郎はペコリと頭を下げた。飯富さんの妹か。ということは、源四郎ってあの山県昌景だよな。こんなところで四天王の二人目に会えるなんてな。
「源四郎にございまする。姉上のような最強武将を目指しています。以後、宜しくお願いします」
「そんな固くなくて良いよ。俺は白井真斗。まだ、家臣になったばかりなんだ。気軽に真斗で良いよ」
「そうなの。よろしく、真斗」
「おう。そういえば、御屋形様。金脈の方はどうでしたか?」
「ええ。次郎ちゃんと孫六がかなり多くの金脈を見つけたそうよ。これで兵糧も武器も買いやすくなったわ」
元々、甲斐は砂金が豊富にある。信虎はそのことをあまり気にも留めていなかったようだが、勝千代は違った。甲斐が抱えている課題を見つめ直すことから始めたのだ。
「それは良かった。あとは、勘助さんの帰還を待つのみか……」
「ええ。禰々も佐助が救出してくれるそうよ」
「佐助?確か、頼重が御屋形様に放った刺客の名前でしたよね。もしかして……買収したの?」
「ええ、勘助が確かバナナという南蛮の果物で餌付けしたそうよ」
「餌付けって……」
食べ物で買収って。大体、忍びって義理堅いイメージがあったんだけどな……。まあ、忍びも人それぞれってことか。
「真斗。そろそろ、下がりなさい。勘助が帰還するまての間に出陣の支度を整えるのよ」
「はっ!」
◆
諏訪攻略は勘助の策略通りに動いた。高遠は諏訪惣領となるべく挙兵。それに武田は援軍として出陣した。武田晴信、甲斐の戦国大名としての初陣である。
一方、諏訪も上杉家の援軍が来ないことを知り、小笠原に援軍を要請したが、真斗の説得に応じた小笠原は援軍要請に見向きもしなかった。形勢が不利と見た諏訪頼重は本城の上原城から撤退し、守りが堅い桑原城へ逃げた。
そして、武田が降伏を条件に和議を申し込み、諏訪はそれを承諾。武田は一兵も失うことなく諏訪を攻略したのである。
「城とはこれほど容易に落ちるものなのか。それがしの二段構え、三段構えの策も無用であったか」
山本勘助は軍師として華々しい勝利を収めた。しかし、それは呆気ないものだと感じていた。
「勘助さん、やりましたね。一人も兵を失うことのない大勝利です」
「これは真斗。いや、お主が小笠原を説得しなかったら、武田は諏訪勢と相い見えていたでしょうな。ところで、なぜ小笠原が援軍として来ると読んだのか?」
自分は未来から来たからです、と真斗は言えるはずもなかった。ただ、理由として挙げるのであればそれは一つ。
「小さくても可能性が一つでもあるならば潰した方が良いと考えたからです。戦はいつどうなるか分かりませんからね。例えば、源平合戦の一ノ谷の合戦なんて、義経に崖から奇襲を仕掛けられて平氏は負けたのと同じように、絶対ということはないのですから」
「なるほど。同感ですな……」
「それで頼重はどうするんですか?」
「彼奴は御屋形様の命を狙った。それは降伏した今もだ。生かせば災いを呼びかねない……」
「ならば、腹を切らせると」
「御屋形様次第かと。武田家には一門は殺さぬ掟がありますからな」
「このまま頼重が大人しくていれば万々歳なんだけどな……」
「真斗、お主に確かめなければならないものがある」
「ん、どうしました。勘助さん」
「お主はわしの後を継ぐに相応しいか、この場で見定めさせてもらおう」
「……はい?」
「では、行くぞ!」
「えっ、ちょ、えぇっ!?」
急な展開に真斗は頭がついていかなかった。自分の後を継ぐのに相応わしいのか、などと初老に入ったばかりの軍師が何を言うのかと。
「女性の魅力それは何ぞや?」
「は?」
いきなり、孫子や呉子などの内容かと思いきや、全然斜め上な質問だった。自分にとってが感じる女性の魅力。それは……。
「女性の魅力はよく包容力があるとか、ふくよかなところだと言われますよね」
これを聞いた時、勘助は失望した。自分の後を継ぐのは自分と同じ価値観を持ってこそ弟子にできるというものだ。
「しかし、俺はそれは違う考えています」
「ん?」
「真に女性の魅力とは、『心』であると。何かを慈しむ心、純真無垢心がある者ならば尚良いかと。その心から生まれる笑顔はとても癒しになり、それが一番の魅力だと考えています……ってところなんですけど、どうっすか?」
この時、勘助の認識は改まった。
「おぉ……おぉぉぉぉっ!!」
「まさにその通り!女性の魅力とは身体つきではぬぁい!!女性の真の魅力、それは純真無垢なところ!つまりは幼女である。愛は幼女也!!」
(え、何言ってんだ。このロリコン軍師は……)
この時、真斗は山本勘助に対しての認識は伝説の軍師から「変態不審者軍師」と改まった。軍法や築城技術は心から尊敬こそすれど、人として尊敬できなくなってしまったのを真斗は心の中で嘆いた。
◆
その後、武田軍は甲斐へ帰還し、晴信は頼重と面会した。武田家には一門は殺さないという掟により、甲斐にて幽閉となった。しかし、何も知らない禰々にとって、諏訪から見れば裏切り同然とも言える行為。これに対して、禰々は激怒していた。
「姉上!」
「禰々……」
「父上を駿河に追放し、わたしの夫を攻め滅ぼすだなんて! 姉上はいったいどうなされてしまったのですか? あの優しい姉上はどこへ行ってしまったのですか?」
禰々はまだ幼い純粋な女の子だ。夫との幸せな時間を過ごしていたのをいきなり自分の姉に取り上げられたと感じていた。
「……ごめんなさい。武田家を守るため、仕方がなかったの。武田家が領土を拡大するために、諏訪はどうしても必要だったの」
先に武田に仕掛けてきたのは頼重の方だった。しかし、だからと言ってそんなことで納得する禰々ではない。晴信は謝るしかなかった。そんな時に信繁と太郎が室内に入って禰々を宥める。
「御屋形様。今川よりの使者が。火急の知らせとのこと」
タイミングが良かったのか、悪かったのか今川から火急の知らせということで使者が来た。それに応じるため、晴信はこの場を後にした。
「逃げないで!」と叫ぶ禰々に晴信は振り返ることはなかった。
◆
今川からの使者。それは河東への援軍要請だった。今川は武田と結んで以降北条との関係が悪化し、北条に駿河国の
晴信はこの要請に応えるため、援軍を出すことを決めた。しかし、この事に乗り気ではなかった。今川は関東管領上杉家と挟み撃ちのつもりで北条を攻めている。しかし、上杉家が北条を討ち滅ぼすとなると勢いが増していき、信濃侵攻に支障が出てくる。ただ、北信濃の村上義清は勢力を拡大する事に興味がないことが不幸中の幸いだった。
「援軍を出すのは良いもののどうするべきか」
「今川を裏切ることはできない。かと言って北条がここで倒れてもらっては困る」
板垣信方は腕を組み難しそうな顔をして悩んでいた。板垣だけではない、晴信、信繁、他の四天王がこの難題に苦戦していた。
「いっそ、今川と北条が和睦すれば良いんだけどな……」
思わず真斗の本音が漏れてしまう。
「それができたら苦労しないわよ!」
信繁が声を荒げる。和睦しているならとっくにできているはずだと思っているからだった。
「わ、悪い。だけど、北条にとって関東が最優先であって、すぐに対上杉に備えたい。それに対して今川は上洛する前に後顧の憂いを断つために河東を取りたい。それだったら、和睦することはできるはずだと思ったんだけどな……」
真斗はこの河東の一乱について詳しくは知らない。ただ、武田にとって一番の最良の結果が北条と今川の和睦なのは間違いなかった。
「ほう、流石。それがしと同じ考えとは」
勘助はニタリと笑い、真斗を見た。勘助のひらめきが策を一気に組み立てた。
「御屋形様。河東を今川に譲渡する事を条件として、我ら武田が和議を取りなすのです!今川を裏切らず、北条との関係を強めることもできまする!」
「なるほど、やってみる価値はあるわね。勘助頼むわ」
「ははっ!」
「皆も聞いた通りよ。急ぎ出陣の支度をせよ!」
「「「「ははっ!!」」」」
◆
勘助の作戦通り、武田の仲介によって今川は北条と和議を結ぶことを決めた。北条も上杉との決戦に備えるため、河東を今川に譲渡することを決めたのである。
これにより相駿の和平が結ばれることとなり、話し合いは善得寺にて行われることとなった。
「善得寺。後にここであの三国同盟が結ばれた寺か」
真斗は善得寺の入り口にて警備を任されていた。善得寺はあの大原雪斎が修行した寺として伝わっている。雪斎は今川の全盛期を築き上げた名軍師である。桶狭間の戦いも雪斎が生きていれば存在していなかったと言われるほどである。また、徳川家康の師でもあったため、日本の歴史に大きな影響を与えた人物だと言っても過言ではない。
「あなた、見たことのない顔ですね。武田の新参者か?」
「ん?」
黒い長髪を後ろに結っており、右手に槍を携えている女の子だった。その姿は「可憐」という言葉が相応しい。
「まあ、そうだけど。俺は白井真斗。よろしく」
「名乗られたら私も名乗らなければなりませんね。私は岡部五郎兵衛元信です。この善得寺の警備を任されました」
岡部五郎兵衛元信。史実では今川家中でも猛将と言われた武将で、その武勇は桶狭間の戦いの勝利者である織田信長を感動させ、義元の首を取り戻した。また、駿河が武田の支配下になった後は駿河衆をまとめ上げたと言われている。
「あの猛将と言われた岡部か?いやあ、東海道一の猛将と一緒に警備ができるなんて運が良いな!」
「そ、そうですか。そう言われるのは悪くないですね……。あまり褒められたことがないので」
髪を弄りながら少し恥ずかしげに答えた。
「え、なんでさ?」
「家中では公家文化を好んでいる方達が多いので……」
「そうなのか。それで、何で俺が新参者だということが分かったんだ?」
「実は私、一度甲斐に身を寄せたことがありまして。その時に武田の家臣達の顔を見たことがあるんです。私、記憶力には自信があるんですよ」
「なるほどね……」
「それで真斗殿が警備を任されるなんて、武勇には自信があるの?」
「いや、実は俺、戦に参加したことがないんだ」
「え?」
「ただ、兵部さんから『真斗なら大丈夫だろ!!安心してくれ御屋形様。あたしが保証する!』と言ってたから、まあ多分大丈夫だと思う」
勘助が高遠を調略している間、暇を持て余した太郎と飯富に連れ去られ、稽古の相手にされた。連れ去る理由として、真斗の使う八極拳やそれを応用した槍術に興味を持ったのが理由だった。最初はボコボコにされる日々が続いていたが、段々とついてこれるようになり、槍の稽古で十回中一本取れるまで成長していた。
その飯富兵部と太郎は一緒に駿河で隠居している信虎に会いに行っている。
「飯富殿が言ってるならそうだと思うわ。戦になったら自信を持っていくと良いわ」
「あ、ああ。そうだな」
「それと、あなたに足りないものが一つあるわ」
「それは?」
「覚悟よ。人を殺す覚悟があなたから感じられないわ」
「っ……。」
そう言われた瞬間、真斗は少し俯いた。元信の言った通り、真斗は人を殺したことがない。村にいた時も山賊や盗賊の襲撃に対して槍で応戦したものの、人を殺すことが一切なく、追い払う程度のものであった。
「人を殺す覚悟がない限りあなたは武将になれない。この時代でそんな覚悟で主を守ることは疎か生きていくことなんてできないわ」
「……肝に命じます」
その後、何事もなく会談は終了し、和議が成立した。甲斐に戻る前に真斗に対して、元信は彼の肩をぽんぽんと叩いて「頑張って」と言い、この場を去った。
二代目武田四天王はあと1〜2話で出揃えるつもりです。
真斗の視点では武田晴信を「勝千代」、三人称視点では「晴信」と呼んでいます。
長尾家と真斗をどう組み合わせるか、ここで時間がかかりそうです。話的にはまだまだ先の話ですが……。頑張って書きますのでそこも楽しみしていただけると幸いです。