魔法少女リリカルなのは~笑顔のために~   作:sinku0004

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第十一話

「バインドは破壊できたみたいですが・・・・」

 

砲撃の先を見つめながらサーチャーで周辺を警戒する。

 

砲撃直後、春夜は左手のバインドを破壊。多重障壁を展開したのは確認出来ていた。

 

その後、障壁を数枚突破。バインドが全て破壊されたのを見届けたリニスは現在の春夜にこの砲撃は防ぎきれないと判断し追撃は行わず、周辺警戒に集中していた。

 

やがて砲撃は障壁を全て破壊し、黄色の濁流が春夜を飲み込んだ。

 

それをサーチャーの映像で確認するとリニスは警戒を強めた。

 

(これで決まってくれればよいのですが・・・)

 

春夜は砲撃を防ぎきれなかった。回避もあの状況ではほぼ不可能。何らかの方法でダメージを軽減し戦闘可能状態だったとしても、その状態の彼を追撃するのは簡単だ。

 

だが、リニスには一点気になるところがあった。 

 

(あの瞬間、ほんの少しだけど砲撃の侵食度が上がった)

 

サーチャー越しに見ただけなので、錯覚という可能性はある。だが、リニスはあれが錯覚などではなく事実だと直感していた。

 

(防御を突破したからというのは安易ですね)

 

リニスの頬を一筋の汗が伝う。

 

それを手の甲で拭い春夜のいた場所を見つめる。既に砲撃は消失し、周辺は土煙に包まれ、春夜の姿は確認出来ない。 

 

「・・・・」

 

油断なく周囲を警戒。土煙が晴れるのを待つ

 

やがて土煙は風で流され、視界が戻る。

 

「っ!」

 

しかし、そこに春夜の姿はなかった。それを認識すると同時にリニスは慌てて振り返った。 

 

(どこに行ったの?)

 

周辺を見渡す。しかしそこには、困惑した顔で同じように周りを見渡す雷とフェイト、そして笑みを浮かべてリニスを見つめる美希の姿があるのみ。

 

春夜の姿はどこにも見えない。

 

(美希のあの顔。やはりまだ勝負はついていない)

 

サーチャーの探索方を映像から魔力探査に切り替え再度周辺を調べる。

 

反応は4つ。1つはリニス自身。あとの3つは美希、雷、フェイトの反応だ。念の為、反応がある地点を拡大して確認するが春夜の反応見当たらない。

 

「いない・・・もしかして・・・」

 

リニスは自身と美希たち3人の反応を除外。再度の魔力探査をかける。

 

 

 

反応は____

 

 

 

(いたっ!場所は・・・・真下っ!)

 

 

 

魔力反応を確認するとリニスは足元をみる。そこにはリニスの影から腕が伸びていた。そして、腕は彼女の右足を掴む。

 

「っ!」 

 

それを認識したと同時に後方へと飛び退く。 

 

「影を媒介にした転移。やりますね」 

 

その間にも腕が伸びていた場所からは頭、上半身と続いて出てきておりもうすぐ転移が完了するところだ。

 

リニスは転移が完了する前に魔力弾での追撃を試みる。その時、右足に違和感を感じた。

 

(冷たい・・・氷?)

 

リニスの右足、正確には右足首に薄く氷が張っていた。

 

そこで思い出した。春夜が変換素質持ちであることを。

 

その隙に春夜の転移は完了。リニスを警戒しながら手足を動かし、体の調子を確かめている。

 

「うまくいけば機動力を削げると思ったんだけど・・・・その様子だとあまり効果はないみたいだね」

 

「ええ、まぁ。確かに、違和感はありますが、無視できない程ではありません。ところでデバイスが待機状態みたいですが、もしかして降参ですか?」

 

今の春夜はヘルメットやプロテクター類が外されおり黒服姿だ。デバイスも待機状態になっているので降参だと思われてもおかしくはない。

 

「まさか。勝負これから。悪いけどここからは本気でいくよ」

 

「今までは本気ではなかったと? 」

 

「そういう訳じゃないんだけどね。ただこれは本当に加減できないから」

 

「それはどういう・・・っ!」

 

その瞬間、春夜の魔力が膨れ上がった。

 

春夜の体からは魔力が余剰光となって溢れている。

 

春夜はもう一度瞬動を使いリニスへと接近する。

 

(速いっ!)

 

最初の瞬動は桁違いの速度。リニスがそれを認識した時には既に春夜は攻撃態勢に入っていた。

 

リニスは慌てて障壁を展開する。

 

パギィィン!

 

しかし、春夜の拳は止まることなく障壁を貫通する。

 

「なっ・・・!」

 

リニスは咄嗟に両腕で春夜の攻撃をガードするが、衝撃で数メートル吹き飛ばされる。

 

(障壁があんなにあっさり・・・・スピードも威力も桁違い。腕は・・・折れてはいないみたいだけど)

 

攻撃の余波でしびれる両腕の感触を確かめる。

 

(砲撃後で魔力にはあまり余裕がない。それに障壁が意味をなさない。ただあれほどの魔力。長くは持たないはず)

 

額の汗を拭うとリニスは前を向いた。

 

 

 

 

 

 

「クライシス、残り時間は?」

 

『およそ2分。それとご注意を。現在のマスターの体と魔力量では、強力な攻撃と防御を同時に行うことは困難です。攻撃の際、障壁への魔力供給はカットされ身体強化のみとなります』

 

「わかった」

 

(時間がない。一気に畳み掛ける)

 

そう決めると春夜は周辺に可能な限りの魔力弾を生成。その数50を超えていた。

 

「ちょ・・・なんですか! その数!」

 

「とりあえずこれが今の俺の限界かな。じゃ、行くよ!」

 

そういうと魔力弾を数十発をリニスへと発射。

 

「多ければいいというわけではっ・・・・!」

 

リニスはステップ、障壁、受身あらゆる手を尽くし魔力弾を防御・回避する。

 

さすがに全ては防げず小さなダメージが蓄積していく。

 

そして最後の一発を防ぐと杖を背後へと向け一閃。

 

パシィ!

 

「さすがに二度は通じないか」

 

「当たり前です。それと、いつまで掴んでいるつもりですか?」

 

そういうとリニスは杖から魔力弾を1発発射した。

 

『それはもう解析済みです』

 

しかし、発射された魔力弾は春夜の目の前で消滅した。

 

「なっ!」

 

「驚いている場合? 俺の魔力弾はまだ残っているよ?」

 

「っ!」

 

残った魔力弾が四方八方からリニスを襲う。

 

リニスは杖から手を離し、前方の魔力弾へと突っ込んだ。

 

急所やダメージが大きいところ以外は無視。必然手足への被弾が増える。

 

そして魔力弾を抜けると振り返り障壁を全力展開。残りの魔力弾を防いだ。

 

(なんとか防ぎましたが、右足へのダメージが大きい。それに魔力も残り少ない。デバイスも取られている。これは・・・・)

 

「私の負けです」 「俺の負けだ」

 

「「えっ?」」

 

「負けは私の方でしょう。デバイスも取られてますし」

 

「いや、リニスも気づいていると思うけど俺の魔力はもう殆んどない。身体強化がやっと。クライシスもオーバードライブの影響でほぼ使えない。こんな状態じゃ、リニスに攻撃を通すのはほぼ無理だ」

 

「なるほど。確かにその状態なら私に攻撃を通すのは難しいでしょう。しかし、それは私も同じです。右足のダメージのおかげで素早くは動けませんし、魔力も防御がやっと」

 

「それもそうか。だったら引き分けかな?」

 

「私もそれで異存はないです。ですが、せっかくなので審判さんの判断も聞いてみませんか?」

 

「第三者の意見も重要だしな。結果はそのあとでも遅くはないか」

 

そう言うと春夜はリニスへと杖を返し、二人で美希たちの下へと向かうのであった。


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