エースウィッチ達に「鬼神」について聞いてみた 作:シャケ@シャム猫亭
オリ主かはちょっと疑問。
一昔前……いや、あれは昔というには私にとっては近すぎる。
十年前のことだ。
世界中が、全人類が巻き込まれた大きな戦争があった。
『第二次ネウロイ大戦』
まさに、人類の存亡をかけた戦争であった。
戦死者の数は正確には分からず、様々な文化が、故郷が失われ、未だ悲しみが癒えぬ者たちが多くいる。
我々に大きな爪痕を残した戦争であり、かの出来事を知らない者は戦後に生まれた者だけと言っていいだろう。
それほどまでに我々の記憶に刻みつけられた戦争ではあるのだが、実はこの戦争に関する資料というのはあまり多くない。
それに気がついたのは、恥ずかしながらついこの間である。
十年という節目を迎えるに当たり、あの戦争で一体何が起きていたのか。それを一冊の本にしてみないかと、私が勤める出版社の上司から言われ、私は一も二もなく引き受けた。
元々興味があったということもある。それに加えて、私自身従軍した経験がありながらも、そのときは己のことで精一杯で周りがまったく見えてなかった。
こうして落ち着いて考える時間が出来た今、あの時のあの作戦は正解だったのか、戦友の犠牲はもしかしたら無駄だったのではないかと、シコリの様なモヤモヤしたものが、寝ているとき、あるいはカフェでコーヒーを飲んでいるときなどに、時折顔を覗かせるようになっていた。
ジャーナリズムではない。もっと利己的なものだ。
あるいは、生き残ってしまった事への贖罪なのかもしれない。
どうであれ、あの戦争を調べるという仕事は、私にとって都合がよかった。
早速、資料を集めるため我が国の国連支部に請求を行う。だが、大した資料は開示されなかった。各国の戦死者の数や、戦線の大まかな動きくらいだ。
そんな程度ならわざわざ国連支部に行かなくても、もうすでに各所で開示されており、関連する数多くの出版物が世に広まっている。
私が知りたかったのは取り繕って出された料理のような情報ではなく、各地の作戦の中身や実際の損害報告書など、より生な、素材のままの情報だった。
それを見せて貰えないかと打診してみたが、残念ながら国連支部には保管していないとの回答だった。
ではどこにならあるのか。
国連本部である。
私は本部に閲覧の許可をもらえるよう頼んだが、支部の担当者からは閲覧許可が降りないの一点張りだった。
しかしそこで簡単に引き下がるのなら、私は記者なんてしていない。何度も何度も国連支部へと足を運び、様々な伝手を使って閲覧許可が貰えるよう頼み込んだ。
そうして二ヶ月、支部の受付に顔を出したのも十を超え二十に迫ろうかという時であった。
ようやく閲覧許可が下りた。根比べに勝った形である。
国連の支部長に二度と来ないでくれと言われながら、本部への紹介状を書いてもらい、それを手に私は単身、国境を超えた。
本部ではノッポの書庫管理官が私を出迎えてくれた。彼は私とにこやかに握手を交わすと、すぐに書庫へと案内をしてくれる。
廊下での道中、噂は予々なんてちょっとイヤミを言われたが、私はようやく資料を閲覧できることの喜びでいっぱいだったため、大して気にはならなかった。
彼が案内した先には、まるで銀行の金庫のような分厚い扉があった。扉についたハンドルを回し、重たい扉を開けると、ずらりと並んだ書架が私を出迎えてくれる。
深呼吸すれば、紙とインクの匂いが鼻腔をくすぐった。
大量の資料だ。
これを全て見ようと思ったら、私の人生では足りないかもしれない。
しかし、私に降りた閲覧の許可は一ヶ月しかない上に、ここでは筆記用具の持ち込みが禁止されている。
全て頭で記憶しなければならないため、いつもより効率よく、的を絞って資料を閲覧する必要がある。
私は、まずは有名な作戦や人物を中心に情報を追うことにし、彼に資料を持ってきてくれるよう頼んだ。
数分の後、彼は何冊かのファイルを持って戻ってきた。閲覧机に置かれたそれを、私は資料を傷めないよう手袋をした手で丁重に開き、さっと眼を通す。
カールスラント語、スオムス語、扶桑語など、様々な言語が入り交じっていた。当時、人類が一つにまとまり、ネウロイと戦っていたことが伺える。
幸い、私は語学に自信があった。というよりも、この語学で食べていた。
管理官の彼には、資料の翻訳という役割もあったのだが、それは必要なさそうだ。代わりに私が読んでいる間、次の資料に当たりを付けてもらうことにする。
三時間ほどだろうか。
読んだ資料もそろそろ二桁になるというところで、私は奇妙な類似点を見つけた。
一人のウィッチに関する記述。
そしてそこに残された『
それが時折顔を覗かせるのだ。
管理官の彼にこのことを聞いてみたが、彼もこの記述には気がついていた。だが、詳しくは知らないらしい。
情報としては不十分のものが多い。だが、私はそこに惹かれた。
私は、この傭兵を通して、第二次ネウロイ大戦を追いかけることにした。
『彼女』には何かがある。長い間記者をしている者の勘だ。
その先にあるものは、この戦争の隠された姿か、ただのおとぎ話か。
一ヶ月という短い間で、この傭兵のことをどれだけ追えるだろうか。
その凄まじい活躍の記録は私の心を躍らせ、寝食を忘れるほど資料へ没頭させた。
これが仕事だということは、二日目にはもう私の頭の中にはなかった。管理官の彼が持ってくるファイルを奪うようにして受け取り、無我夢中で読み進める。
第二次ネウロイ大戦は、一九三九年に黒海でネウロイの巣が発生したことに端を発する。
準備不足であった各国は、次々に現れるネウロイに敗走。瞬く間にダキア、オストマルク、モエシアが陥落する。
ここに来てようやく事態を重く見た各国は人類統合戦線を結成。しかし当初のそれは、お互いに争わないというだけのものであり、人類が一つにまとまったとは、とてもではないが言えるようなものではなかった。
一九四〇年にはカールスラントが。翌一九四一年にはネーデルラント、ベルギカが陥落し、ガリアもまた、ほぼ半分がネウロイに陥落。
欧州の人々はブリタニアに撤退し、そしてそこが最後の砦となっていた。
ここまでは、教科書にも載っている。
同年八月。
突如、ブリタニアの南東側、ベルギカおよびネーデルラント方面から飛行型ネウロイによるブリタニア侵攻が始まる。
それまでの倍近い飛行型のネウロイが次々とブリタニアへ飛来し、撤退の折に各国から集まったウィッチたちが各地でこれの迎撃にあたったが、状況は芳しくなかった。
その中でも、特に激戦だった空域がある。
エリアB7R────通称『円卓』。
数多くのエースが生まれ、そして散った場所。
『鬼神』もまた、ここで生まれた。
私はひたすら資料をめくり、かの傭兵の活躍、記録を目にするたびに歓声を上げた。そして一字一句漏らさずに読み込み、かの傭兵が空に描いた軌跡を想像する。
だが、それも十日ほど繰り返すと、次第にそれだけでは満足できなくなった。
そう、ここにあるのはすべて記録なのだ。
紙という情報媒体にアウトプットするにあたって、抜け落ちたモノがある。
もっと新鮮で直接的な、そう、記録ではなく記憶で、私はかの傭兵を知りたくなった。
そこで私は残りの二十日間で、傭兵の細かい戦果などを調べるのはやめ、かわりに傭兵と誰に関わりがあったのかと、その関わりがあった人の戦後までの足取りを追うことにした。
メモが許されないため、十日間で必要な情報を抜粋し、残りの十日間は脳みそに刻み込むため何度も何度も繰り返し資料を読み込む。
私の記憶力がもっとよければと嘆いたときもあったが、その時間すら惜しかったのですぐに止めた。
最後の日。
私は日付が変わるギリギリまで、資料室に籠った。管理官の彼も何も言わず、共に資料を読みふける。
彼もすっかり鬼神の虜にされていた。
彼は今後、職務の合間に鬼神の記録を探し求めることだろう。それがたまらなく羨ましい。
日付が代わり、ついに資料室から出る時、資料室に鍵をかける彼の背中に私はそれをポツリと漏らしてしまった。
すると彼は黙って手帳を取り出すと、さらさらと何かをメモし、ちぎって私に手渡す。
書かれていたのは、彼の住所だった。
書庫管理官としてではなく、鬼神の一ファンとして、いつでも連絡してこい。そう言って彼は私を見送った。
彼とは硬い握手を交わし、私は母国への帰路へ付いた。
帰国して早々に、私は上司へ次の出張の許可を願い出る。
そう、鬼神を知る人に会いにいくためだ。
そこまでする必要はない。それが上司の第一声だった。
だが、私は折れない。何なら退職してでも私は行くつもりだった。
何時間にもよる議論の末、ついに上司が折れた。出張費は私費という条件ではあるが、そんなもの今の私には何の縛りにもならない。
半年後。
あの時に調べた傭兵に関わった者たちへのアポイントメントが、ようやくすべて済み、私は再び国境を超えた。
彼女らから見た大戦と、私の追う『
当事者たちの声を、そのすべてを残そうと思う。
―─────────────
カールスラント空軍
第52戦闘航空団 第2飛行隊 司令
通称、『
常に冷静沈着で、希望や憶測を挟まない現実主義者。
カールスラント軍人の鑑と言われるほど規律に厳しいことから部下に恐れられたが、一方で空では部下たちに誰よりも信頼されていた。
大戦中に中佐まで昇進するも、現在は第一線を退き、故郷の地で小さなレストランを開いている。
●REC
む、もう撮っているのか?
そうか……改めて、ゲルトルート・バルクホルンだ。
遠路はるばる、よく来てくれた。
さて、何から話せばいいか…………。
そうだな、やはり初めからがいいだろう。少々長い話になるかもしれないが、許して欲しい。
一九四一年。
私の隊の任務はブリタニア南東部のコルチェスター基地にて、侵攻してくる飛行型のネウロイを撃墜し、人類の制空権を維持することだった。
そう、あのエリアB7R──決して突破されてはならない重要な空域、『円卓』だ。
あそこの制空権を取られてしまえば、一気に都市までネウロイが流れこむ。それだけは、なんとしても避けなければならない。もう我々には後がなかった。
そんな頃だ、私が『彼女』と出会ったのは。
あの日、軍本部からの出撃要請を聞いて、私はすぐさま空へ上がった。
ネウロイへの怒り。青く静かなそれは、だが確かな熱を持って、私の中で燃えていた。
隊長として、編隊を引き連れ空を翔ける。
みな、無口だった。連日の出撃に疲労が溜まり、軽口一つ出てこない。
良くない兆候だ。だがあの頃の私は、それに気が付くことができなかった。
戦闘空域に入って、すぐに気がついた。報告よりもずっと数が多い。
敵の数はゆうに十倍は超えていた。
すぐに司令部に通信を入れる。もちろん増援を呼ぶためだ。
だが間の悪いことに、周囲の基地のウィッチたちはすでに出払っており、すぐに送れるのはたまたま近くの拠点にいた傭兵のウィッチを二機のみだという。
増援は傭兵、それもたった二機。
どこぞの誰とも知らないような奴など、アテにならない。
自分たちでやるしかなかった。
ここを突破されれば、民間人の住む都市を空襲されてしまう。私は叩きつけるようにして通信を切り、武器を両手に握り締めた。
カールスラントの民を、何よりも妹を守るため、私は雄叫びを上げネウロイの群れとの戦闘を開始した。
前後左右、それだけでなく上下も。あらゆる方向から攻撃が飛んでくる。
乱戦も乱戦、どこを向いてもネウロイだらけ。適当に乱射しても当たるんじゃないか、そう思うほどだった。
ドッグファイトを仕掛け、倒したと思ったらすぐ次が現れる。息つく暇もない。
次第に編隊から遅れる者が出始めた。私の予想よりもずっと早く。
連日の出撃による疲労のせいだ。ここに来てようやく、それに気がついた。
遅れた僚機が、一機、また一機と、ネウロイに墜とされていく。
しかし彼女らを回収し、後方に下がらせるだけの余裕は、私には無かった。ハルトマンにも無かったと思う。私たちも身を守るので精一杯だったのだ。
どれだけ戦ったのかはわからない。ネウロイの撃墜数は十を超えた辺りで数えるのを止めていた。
気づけば、僚機はハルトマンだけになっていた。
両手に持つ機銃の弾がついに切れた。ハルトマンも同じだ。
半分以上を残したネウロイを前にして、さて機銃を棍棒として使って何機墜とせるだろうかと半分真面目に考えていた。
残り半分? 妹の治療費が私の遺族年金で足りるか計算していたよ。
そんなときだった。突然、私の無線機に通信が入った。
内容は一方的で、そしてたった一言。
『ガルム1、
直後、二人のウィッチが戦場に飛び込んできた。
そしてそのまま彼女たちはネウロイに銃弾を浴びせながら群れを突っ切り、反対側まで抜ける。
彼女たちが通ったところはネウロイが撃墜され、文字通りネウロイの群れが真っ二つに切り裂かれていた。
一瞬だ。一瞬で『半分以上』だったネウロイが、『半分』にされてしまった。
私もハルトマンも、呆気にとられていたよ。
そのまま二人のウィッチは大きく旋回し、そして二回目の突撃を始める。今度はネウロイも迎撃態勢が出来ていた。
雨のようにネウロイの光線が、彼女らに向かって放たれる。だが彼女らはシールドを張るのではなく最小限の動きでそれを躱し、勢いを殺すことなくネウロイの群れに突っ込んでいった。
まるで光線が自ら避けているように見えたな。
二回目の突撃、それは私たちの真横を通るコースだった。そして実際、難なく彼女らは私たちとすれ違う。
──目が合った。
一番機はハルトマンと同い年か、ひょっとしたら十にも満たない、幼い少女だった。
二番機は私と同い年くらいに見えたな。片方のストライカーユニットを赤くペイントしていたのが印象的だった。
すれ違いざま、二番機から通信が入る。
『よう、まだ生きてるか?』
何とも軽い声だった。まるで街中を散歩中に挨拶されたかのように。
なんとか無事であることを伝えると、そいつは上々、なんて笑い声が返ってきた。
『もう少ししたら援軍が来る。ここからはアタシたちに任せて、アンタらは先に離脱しな』
『……すまない、感謝する』
『アタシたちは傭兵だ。感謝は報酬で、きっちり用意しておけ?』
『報酬だと? そんなもの──』
『ならケーキとかどう? 街で美味しいお店を見つけたんだ』
『いいねぇ、お財布握り締めて待ってろよ』
彼女らが三度目の突撃コースに入ると同時、私たちは空域からの離脱を開始した。
私たちに追いすがろうとするネウロイが何機も向かってきたが、それを見た彼女らが優先して撃墜し、結局私たちはまっすぐ飛ぶだけで──もちろん全速ではあるが──空域を離脱することができた。
私がこんなことを言うと笑われるのだが。
あのときの彼女の姿はまるで、おとぎ話の騎士のように見えたよ。
颯爽と現れ、姫の危機を救う騎士に…………。
あの強さがあれば、私もクリスを守れたのだろうか。
○REC
―─────────────
カールスラント空軍
第3戦闘航空団 司令
通称、『
ビフレスト撤退作戦の折に臨機応変な戦術で功績を上げ、瞬く間にエースとして台頭したウィッチ。
気品に溢れ物腰優雅であり、戦場ではその固有魔法で空域のあらゆる目標を感知・識別し、的確に指示を与える姿から、敬意を込めて
大戦終結の立役者であるが、情勢の安定を機に退役。今はカールスラントの国民的な歌手として多忙の日々をおくっている。
●REC
お待たせしてしまったわね。
ごめんなさい、リハーサルが長引いてしまって。
……この衣装? 今度の公演の衣装よ。
着替える時間も惜しくて、そのまま来てしまったわ。
私の前にトゥルーデ──バルクホルンさんに会ったのでしょう?
彼女は元気にしてたかしら?
そう、よかったわ。
っと、ごめんなさい。時間も無いことだし、本題に入りましょうか。
あれは、よく晴れた日だったわ。
あの日いつものように書類仕事に追われていた私に、突然、一個小隊のウィッチ連れて前線へ出るよう指令が出たの。
当時私は、第501統合戦闘航空団の立ち上げのため、軍本部に近いロンドン近郊の基地にいたのだけれど。
それが、エリアB7R────ストライカーユニット、そしてウィッチにも損耗の激しい『円卓』へ、よ。
そこで『彼女』に出会ったわ。
私たちが着任した先の基地には、たった二人しかウィッチがいなかった。
十歳にも満たないような幼いウィッチと、私の同じ年頃のウィッチ。
──ああ、私たちの部隊が送られるわけだ。おそらくこの子たちの部隊は最近壊滅してしまい、彼女らはその生き残りなんだろう。
それが間違いだということは、すぐに思い知らされたのだけれど。
着任して次の日よ、私の部隊に出撃命令が出たわ。
もちろん彼女たちにも。
最初は彼女たちを、特に幼い方のウィッチを連れて行く気はなかった。哨戒のウィッチの報告で、大型ネウロイが何機も混じっているのが分かってたもの。
間違いなく激戦になる。二番機のウィッチならまだしも、幼い彼女には厳しいでしょう。
けれど、彼女らの指揮権は私にはなかった。彼女らはカールスラント軍ではなく傭兵で、それもネーデルラント軍所属だったの。
彼女の出撃は止められない。ならせめて、目の届くところで。
そう思い、彼女を私の二番機にしたわ。それくらいは、現場の判断で何とかなるから。
一緒に空に上がって、気がついた。
彼女の飛び方は、ブレがなく、とても滑らかで。そしてぴたりと私の後ろを付いてくる。
それを見て私は認識を改めたわ。
ああ、この傭兵は強いってね。
そして実際、強かったわ。途轍もなく。
戦闘空域に着いてすぐ、彼女たちは私の小隊から離れたの。
新参者がいては編隊を維持しにくいだろうからって、気を使って言っていたけれど…………多分、私たちが足手まといだったのね。
私が彼女たちの飛ぶ姿で強さをわかったのと同じように、彼女たちもこちらの強さに気づいたのでしょうから。
とはいえ、離れるといっても同じ戦闘空域。それなら私の感知内だったわ。
私の固有魔法は『三次元空間把握能力』と言ってね。およそ戦闘空域内の敵味方の識別や、位置なんかを常に把握できてたの。
戦場を大局的に見れるから重宝していたわ。
でも、あの時は魔法がおかしくなったんじゃないかって疑った。
冗談みたいな勢いで彼女の周りのネウロイの反応が消えていくの。
戦闘中にも関わらず、思わず私は彼女の戦っている方を見たわ。そして、何度も眼をこすった。
部下たちも私に釣られて彼女の戦いを見たのでしょう、同じ反応をしていたわ。
私はそれを見てようやく『ああ、これは現実なんだ』って理解したの。
戦場では、たまにああいう子が現れる。
いわゆる
彼女はその中でも、とびっきりだったわ。先にも後にも、あれ以上を見たことないくらい。
すぐに気を取り直して戦いに戻ったのだけれど、頭の中ではずっと彼女を追っていたわ。
地形、気流、彼女のストライカーユニット、機動、残弾────そして相対するネウロイのことも。
そして気がついたわ。
彼女は強い。間違いなく、ここにいるウィッチの誰よりも。
けれど彼女の飛び方にはどこか躊躇があったの。まだ僅かながら、甘さが見えたわ。
エースと呼ばれるウィッチには、みんな自分なりの戦いのルールがあるわ。
『目の前の敵をひたすら倒す』
『民間人を守ることこそが最優先』
『戦術的勝利よりも戦略的勝利を目指す』
どんなものかは、エースによって様々よ。けどエースならば誰もが持っている。
そしてそのルールに従うことこそ、空で生き残るのにもっとも大事なことなの。
それが彼女の中で、まだ完成されていなかった。
彼女に大型ネウロイが三機も向かっていったのを感知したとき、流石にマズイと思ったわ。
彼女と、その二番機だけでは荷が重い。
すぐに編隊から数名を引き連れて援護に向かったわ。
ところが。
彼女たちは、あっさり私の予想を超えてきたの。
私たちが援護できる距離になったときには、もうネウロイの姿は影も形もなかった。
その後も、彼女の戦いは目まぐるしく変わる。
目の前の敵と戦っていた次の瞬間には、それを無視して敵の群れ深くまで切り込んでいったり。
かと思えばこっちに戻ってきて墜ちそうな味方の援護をしたり。
戦況を的確に読み、必要なところに必要な攻撃を与え、個の戦果ではなく部隊としての最大戦果を得る戦い方。
言うのは簡単よ。でもそれを実践するのはとてつもなく難しい。
何故彼女たちが
だれも、彼女たちについて行けないのよ。
その場にいて、ひたすらネウロイを迎え撃つだけなら援護射撃とかもできたでしょうけど、あれではね。
普通のウィッチでは、追いかけることすらできないでしょうね。もちろん私でも。
実際、彼女の僚機になれたのは『片羽』と、後はパトリシア少尉くらいじゃないかしら。
……ああ、ごめんなさい。
第504統合戦闘航空団のパトリシア・シェイド中尉じゃないわ。そうよね、パトリシアと言った、普通はそっちよね。
パトリシア・ジェニファー・ベケット。ネーデルラント軍所属の少尉よ。
あまり有名じゃないけれど、彼女も優秀なウィッチだったのよ。
あんなことがなければ、第501統合戦闘航空団に勧誘したのだけれど…………。
○REC
―─────────────
ダイナモ作戦の折、ブリタニアに撤退したガリア空軍の有志らによって、一つの軍が結成された。
自由ガリア空軍。
その602飛行隊に、鋭く優雅な飛び方をする『
ガリア貴族の多くがリベリオンなどに疎開した中、ノブレス・オブリージュを胸に最前線で戦い続けた彼女は、ガリア共和国では救国の英雄として知られている。
そんな彼女は今、故郷であるパ・ド・カレーの領地を治める傍ら、戦災孤児を支援する非政府機関を設立し、その事務局長として手腕を振るっている。
●REC
ようこそ、
長旅、お疲れでしょう。お話の前に、ちょっとしたティータイムはいかがかしら?
よい茶葉が入ったんですの。今、淹れて参りますわね。
自分で淹れるのか、ですか?
そうね、貴族の振る舞いとしてはあまりよろしくないのかもしれないですけど。昔、僚機だった子にカモミールティーの淹れ方を教わってから、お茶を淹れるのが
ですから、自慢の紅茶を堪能して下さいな。
ふぅ……いい香りね。
今年の茶葉も、素晴らしい出来ですわ。
貴方も、そう思いませんこと?
さて、一息付いたことですし、本題に入りましょう。
それにしても懐かしいわね。『鬼神』の名を聞いたのは、何年ぶりかしら。
あの頃の
だから私は、ブリタニアの地で自由ガリア空軍に志願し、ウィッチになったんですの。
それこそが、私のノブレス・オブリージュでしたわ。
でも、当初は中々空に上がれませんでしたの。ブリタニア側からストライカーユニットが支給されなかったせいですわ。
もちろん、今なら仕方がないことと理解しています。あの頃はブリタニアも避難民の受け入れで精一杯でしたし、何より正規軍の分を削ってまで、ぽっと出の部隊にストライカーユニットを回すほどの戦力的余裕もありませんでしたわ。
長い間待って、ようやく回されたストライカーユニットは旧式でした。正直、あれでは第一線で戦えませんわ。ですが、めげてる暇もありません。
あのストライカーユニットでもできる任務をこなし──輸送艦の護衛ばかりでしたが──着実に実績と戦果を積みました。
これもすべて、祖国奪還のため。
扶桑ではそれを、臥薪嘗胆というらしいですわ。友人に教わりましたの。
そんな折ですわ。私が『彼女』と出会ったのは。
あの日の私の任務は、ガリア北西部のブレストからブリタニア南西部のプリマスへと渡る輸送艦の護衛でしたわ。最前線のブリタニア南東部からは少し離れてましたので、ここはまだ海路が生きておりましたの。
あそこは最前線と違って、ごくたまに数機のネウロイが現れる程度。
私たちでも護衛としては十分でしたわ。
十分なはずでした。
海路を半分ほど進んだ時ですわ。
司令部から緊急通信が入りましたの。
『サウサンプトン基地より、ブリタニア海峡を西に進むネウロイを一機確認。警戒されたし』
私はこれを戦果を上げるチャンスと捉えましたわ。
相手は一機、対する私たちは、旧式とはいえ二機ですもの。
私と、僚機のプランシャール軍曹ならやれると判断し、迎撃に出ましたわ。
もちろん護衛の任務を放り出したわけではありません。むしろ護衛のため、輸送艦の近くで戦闘にならないよう、こちらから打って出たのですわ。
今思うと、なんであんなに血気盛んだったのかしら。もう少し待てば司令部から、その一機は大型だって通信が入ったのに。
ええそう、大型でしたの。
とてもじゃないですが、旧式のストライカーユニットで勝てる相手ではございません。
退くべきでしたわ。
私と会う前に中佐──ミーナさんと会ったのでしたね。なら、言ってなかったかしら?
空でのルールのこと。
私のルールは、『国を守ること』でしたわ。
貴方は考えたことがあるかしら?
国とは何かを。
私にとって国とは、ガリアの民あってこそであり、一人一人が国ですわ。彼らがいるからこそ国は成しているの。
だから、私はあの大型ネウロイを目にしたとき、すぐさま輸送艦まで戻ってストライカーユニットを外し、飛ぶ分もすべてシールドに回して防戦すべきでした。
それこそが私のルール、輸送艦にいるガリアの民を守る最善の方法なのですから。
でも、できなかった。あの頃の私は、未だルールが定まっていませんでした。
貴族としてのプライドが退くことを躊躇させたのですわ。
時間にしたら一瞬の隙、でも空でそれは命取り。私たちはネウロイの猛攻撃にさらされ、退くことができなくなりました。
背中を見せた途端、撃墜される。戦うしか、ありませんでしたわ。
最初は、プランシャール軍曹とお互いをカバーしあい、ネウロイに攻撃を加えていたわ。けどそれも、本当に最初だけ。
すぐに私もプランシャール軍曹もストライカーユニットに被弾し、目に見えて機動力が落ちてしまいました。
するともう、そこから先は一方的ですの。避けるだけの機動力を持たない私たちは身を寄せ合い、代わる代わるにシールドを張って耐えるしかありませんでしたわ。
それだって時間の問題。
先に魔法力の限界が来たのはプランシャール軍曹でしたわ。その後すぐに、私も。
けれどそこで踏ん張れたのもまた、貴族のプライドでしたわ。
プライドだけで、シールドを張り続けました。
そしてついに、『彼女』が現れた。
通りすがりの一撃。たったそれだけで、私たちが手も足もでなかったネウロイを撃墜したのですわ。
嘘のような、あっという間の出来事…………。
そこで私は魔力の枯渇で気を失い、気がついたらプリマス基地のベッドの上でしたわ。
眼を覚ましたのが夜でよかった。
周りには誰もおりませんでしたから。
私は静かに泣きました。
生きていることの嬉しさと、負けたことの悔しさに。
ネウロイにではありませんわ。
『彼女』に、ですの。
ノブレス・オブリージュ。
貴族として国を背負う義務、権利────そして
それが私の戦う理由、強さの源でした。
けれど国をまたぎ、渡り鳥のように戦場から戦場へ移動する傭兵に、守るべき国などありませんわ。
………そんな相手に、私は『負けた』んですの。
ただ強さだけを求めていたような彼女に、私は一生かかっても追いつけないことを刻み付けられたのです。
国を背負わねば、速く飛べるとでもいうのかしら…………。
○REC
こういう感じの読みたいんですが、誰か知りません?