エースウィッチ達に「鬼神」について聞いてみた 作:シャケ@シャム猫亭
『鬼神』
彼女はいったい何者なのだろうか?
記事や資料によって捉え方が全く異なる。
そして、私が取材した人たちもまた、同様に異なる見解を抱いている。
私は『彼女』の人物像に迫るため、それらを何度も読み返し、一つ一つ分類していった。
すると、『彼女』に抱く見解は、おおよそ三つに別れることがわかった。
あるものは言う。彼女は
冷徹さとプライドを併せ持つ、戦闘のプロフェッショナル。
彼女にはまるで、戦いの女神がついているかのようだったと。
あるものは言う。彼女は
瞬時に戦場を見極め、戦況を変える。
戦いの申し子たる彼女には、戦場こそが相応しいと。
あるものは言う。彼女は
戦場がどこであろうと純粋に力を信じ、すべてをなぎ倒す。
彼女の前には倒すべき敵しかなく、彼女の後ろは屍しかないと。
いったい、この内のどれが『彼女』なのだろうか。
それぞれは時期も場所もバラバラで、『彼女』が段々と戦いの中で変わっていったのではない。
もしや『彼女』は三つ子なのではないかと、そんな突拍子もない推論まで私の脳裏には浮かんだ。
もちろんそんなわけはなく、『片羽』に三つ子説を言ったときは大笑いされてしまった。
だが、共通する点もある。
『彼女』はひたすらに強く、強烈な魅力を持っていたということだ。
一九四一年九月。
ついにブリタニア南東部にネウロイが絶え間なく飛来する原因が判明する。
ネーデルラントの首都アムステルダムに、ネウロイの巣が確認されたのだ。
これを破壊しないことにはネウロイの飛来は止まらず、ブリタニアは年を越す前に陥落する。
決死の反撃が始まった。
そして『彼女』もまた、戦争の中心へと押し上げられていく。
戦場の舞台は、円卓から欧州本土へと移っていった。
―─────────────
オラーシャ帝国陸軍
586戦闘機連隊
その可憐さから『白百合』と呼ばれるウィッチ。
当時、弱冠九歳でありながらもナイトウィッチとして頭角を現し、やがてかの有名な第501統合戦闘航空団に配属される。
大戦終結に合わせて退役した彼女は、祖国オラーシャのラジオ局に就職。深夜のパーソナリティとして、長い夜を孤独に過ごす人々の癒しとなっている。
●REC
ごめんなさい、こんな真夜中にお呼びすることになってしまって。
仕事上、昼間は寝ていることが多いから…………。
私はナイトウィッチで慣れているから平気ですけど、記者さんは大丈夫ですか?
取材で慣れてる……そうですか、少し安心しました。
あの、『鬼神』さんのことを聞きたいんでしたよね?
私も『彼女』のこと、ずっと気になってたんです。もしよろしければ私の話の後で、差し支えない範囲でお教えいただけませんか?
…………ありがとうございます。
──今でも鮮明に覚えています。
一九四一年の九月六日。
太陽が地平線に沈み、けれど月はまだ昇りかけの時分。私とガルム隊のお二人は、ブリタニア南東部ノリッジ基地から飛び立ちました。
夜の帳に身を隠すように、ひっそりと。
向かう先は海の向こう側にある、ネーデルラント。私にとって、始めての長距離飛行でした。
目的は────ネウロイの巣の捜索です。
当時、ブリタニアの情勢はよくありませんでした。
ネウロイが次から次と飛来し、前線のウィッチたちは休む間もなく出撃を繰り返していました。次第に一人、また一人とエースが墜ちていき、ストライカーユニットの方も修理が間に合わず、空に上がれるウィッチがどんどん減っていたんです。
このままではそう遠くないうちに防衛線が突破され、ブリタニアは陥落する。ナイトウィッチで人付き合いが少なかった私の耳にさえ、その噂が届くほどでした。
状況を打開する方法は一つ。
飛来してくるネウロイの、その巣を破壊することだけでした。
ですが、それには大きな問題がありました。
ネウロイの巣の場所が、わかってなかったんです。
ネウロイの飛来する方角から、ネーデルラントの首都アムステルダム近郊に巣があるであろうことは予想されていました。
けど、そこに向かった偵察隊は一機も帰ってこなかったんです。
ネーデルラントからブリタニアまでは距離がありすぎるため、最後の通信すらありませんでした。
そこでナイトウィッチを連れての夜間偵察作戦が立案されました。
ご存知と思いますが、ナイトウィッチは魔導針を使って、広い範囲を索敵することができます。
これを使い、ネウロイに見つからないよう避けながら巣を確認してくるという作戦です。
今でこそ魔導針レーダーはストライカーユニットに組み込まれた補助装置によって誰でも使えますが、あの頃はまだ魔導針は純粋な
そのなかで一番索敵範囲が広いのは……私でした。
夜の空は、とても静かです。
いつもは自分のストライカーユニットの音と、風の音くらいしか聞こえません。だから、とても寂しいです。
でもあの日は、私以外にガルム隊の二人がいました。
とくに『片羽の妖精』さんは陽気な方で、飛んでいる間に色んなお話をしました。
どんな話を、ですか?
えっと──あれ? 何を話したんでしたっけ?
いっぱいお話したのは覚えてるんですけど……うーん…………。
──逆に『鬼神』さんは物静かな人でした。
おしゃべりが嫌いってわけではないみたいでしたけど、言葉を交わしたのは一言二言くらいです。
それにしても、随分と迷いなく飛ぶんだなって思いました。
ナイトウィッチになりたての人は、よく迷うんです。
昼間に飛んでいると遠くに山だったり足元に街だったりが見えて、自分の飛んでいる方向が何となくわかるんですけど、夜に雲の上を飛んでるとそれがないですから。
慣れてくると星の位置で方角がわかるんですが、それまでは真っ直ぐ飛ぶだけでも大変で…………新人はコンパスを持たされて、一分置きに方角を確認するよう言われるんです。
もしかしたら、『鬼神』さんも夜間飛行は慣れてたのかもしれません。
あのとき聞いておけばよかったです。
道中を半分過ぎたあたりから、魔導針に時折ノイズが走るようになりました。
──ネウロイの反応です。
戦うという選択肢はありません。戦っていては、帰りの魔力がなくなってしまいます。
とくに私は、できるだけ飛ぶ負担を減らすため、武器すら持ってきてません。
私たちはネウロイに見つからないよう、慎重に迂回しながら飛びました。
始めはそれでも十分でしたが、陸地が近づくにつれて、段々と哨戒しているネウロイが増えてきます。
ネーデルラントの沿岸に着いたときには、私の魔導針はノイズが走りっぱなしでした。
周りはネウロイでいっぱい。ここから更に奥、アムステルダムまで見つからずに行くなんで出来るわけないって、思いました。
でも……『鬼神』さんは違いました。
私が索敵したネウロイの位置を伝えると、先行して飛び始めました。
『片羽』さんは黙ってその後を追いかけました。私も遅れながらもそれに続き、ネウロイの位置を常に更新して逐一お二人に報告します。
『鬼神』さんの飛び方は不思議でした。空には何もないのに、まるでそこに壁があるかのように、何かに沿って飛ぶんです。
その何かは、きっとネウロイの感知範囲なんだと思います。『鬼神』さんの飛んだラインを飛ぶと、視認できるほど近くにいても、ネウロイは気づきませんでした。
きっと、何も知らない人がみたら、お酒を飲んで飛んでると思ったかもしれません。あっちにいったり、こっちにいったり、時には向かう先と反対方向に飛んだり。
でも気づいたら、どんどんアムステルダムに近づいていました。
あるところで、急にネウロイの数が減りました。多分、警戒網を抜けたんだと思います。
それまでの緊張がふっと解けて、私はちょっとふらついてしまいました。それを見た『片羽』さんには笑われてしまいましたが、でもよくやったと褒めてくれて。『鬼神』さんも頷いていました。
とっても嬉しかったです。
そこからは真っ直ぐにアムステルダムまで向かいます。
その途中、さっきまでとは違い、弱いですがずっとノイズが魔導針に入るようになりました。
このノイズから想定されるネウロイの大きさは、大型を越える巨大型です。それも知らないタイプの。
…………あ、ごめんなさい。
魔導針というのはネウロイについて、そのノイズの強弱で距離を、大小でネウロイの大きさが、ノイズの波形でネウロイの種類の区別が付きます。
後はそのノイズがどこの方角から来てるかを合わせれば、どこに何型で何タイプがいるかが分かるんです。
あのときのノイズは、巨大なネウロイがアムステルダムの中心にいるというのは分かりましたが、それ以外は不明でした。
目標が地上にいることから地上型ネウロイと想定し、私たちは高々度まで上がりました。
地上型というのは、総じて地上戦向きの構造をしている分、対空能力は低い傾向にあります。なので、高度を上げれば上げるほど私たちは安全になります。
そのまま雲の上を飛行し、ついにアムステルダムに到着しました。ですが、ガリアのネウロイの巣のような、黒雲の積乱雲は見当たりません。
魔導針で確認してみても、街の中央に巨大ネウロイ一機と東西南北に大型のネウロイが一機ずつ、計五機しか反応がありませんでした。
せっかくここまで来たのに……思わず肩を落としかけましたが、険しい顔で雲の向こうの地上を睨むお二人を見て、自分の勘違いに気がつきました。
お二人に
私たちは目視で確認するため、雲の切れ間を待ちました。
雲が流れてくる方を見ると、ずっと先まで雲が続いています。切れ間が足元に来るには、まだしばらくかかりそうです。
その日は満月でした。足元の雲海には私たちの影がくっきりと写り、それが雲の形に合わせてゆらゆらと揺らめくのを、私たちはじっと見ていました。
やがて、雲の切れ間がやってきます。私たちは雲の近くまで高度を落とすと、床下を覗くかのように、地上を見ました。
巨大な
そしてその根本は滑走路のようになっており、飛行型のネウロイがずらりと並んで飛び立つ時を待っています。
間違いありません。あのネウロイこそが巣なのです。
もっとよく見ようと、ほんの少しだけ雲の切れ間から身を乗り出した時でした。
──巨大なネウロイと
もちろん本当に合ったわけではありません。だってネウロイには目がありませんから。
でもあの感覚はそうとしか言えません。
私たちは即座にその場から撤退しました。それと同時に、雲の下にいるネウロイから発せられるノイズの質が変わりました。
身のすくむような強烈なノイズを発し始めて、それがすごい勢いで大きくなっていったんです。
何かが起こっている。でも、ネウロイは雲の向こうなので見えません。
突如、先頭を飛ぶ『鬼神』さんが急激に方向を変えました。『片羽』さんも私も、何も言わずにそれに続きます。
間を置かずに、ネウロイのノイズが最高潮に達し────
雲海が光の柱によって真っ二つに切り裂かれました。
直前に飛ぶ方向を変えていたから、私たちは避けることができました。でも、手を伸ばせば触れてしまいそうなくらいギリギリでした。
あと一秒でも遅れていたら…………あまり考えたくありません。
私たちは脇目も振らず一目散に撤退しました。一息つけたのは、ネウロイの防衛線も抜け、海上を半分ほど進んだ頃でした。
『あんなの、倒せるんでしょうか』
『さぁな。倒せなきゃブリタニアは御終いだ。俺たちは次の戦場……そうだな、スオムスかアフリカにでも行くか』
ポツリと漏らした私の言葉に、『片羽』さんがそう答えました。
『鬼神』さんは何も答えませんでした。
ただ、時折振り返っては、アムステルダムの方をじっと見ていました。
○REC
―─────────────
大戦終結にもっとも貢献したウィッチはと問われれば、多くの人が彼女の名を上げるだろう。
カールスラント空軍
ウィッチ隊総監
ヒスパニアでの怪異出現から大戦終結に至るまで、空で、机上で、ネウロイと戦い続けたウィッチ。
彼女がいなければ人類はネウロイに敗北していたと、多くの評論家は言う。
そんな彼女は大戦終結後に打診されたカールスラント空軍元帥の地位を辞退し、退役。現在は航空コンサルトの実業家として世界を飛び回る
●REC
やあ、よく来てくれた。
遠かっただろう? ここは田舎も田舎、私の別荘以外何にも無いところだからね。
まあお陰で、気兼ねなく飛行機を飛ばせるから私は気に入っているんだが、やはり人を招くには向いていないな。
さて、君が聞きたいのは
もちろん知っているとも。おそらく君が知りたいことの全てを。
だが、私は元カールスラント空軍大将。当然、話せることと話せないことがある。
それは分かっているね?
……よろしい。
君が彼女のことを取材して回っているのなら、当然『ジャッジメント作戦』のことも耳にしていると思う。
当時ブリタニアに居たウィッチをかき集めて空母ケストレルに乗せ、ネーデルラントのネウロイの巣へ強襲をかけた作戦だ。
私はその作戦の総指揮官だった。
そして彼女も、その作戦に参加していた。
ネーデルラントの海岸に展開されたネウロイの防衛線。
これを突破するのが作戦の第一段階だ。
洋上に停泊した空母ケストレルからウィッチたちが一斉に飛び立つ様は圧巻だった。あんな時でなければ思わず拍手していただろう。
作戦本部 兼 補給基地のケストレルはヴィルケ大尉に任せ、私も皆を追うように空へと上がった。
──おっと、これは言ってはいけないことだったな。
そうだな……私は時折、そうあくまで
君も長いこと記者をやっているのなら、わかるだろう? そういうことだ。
そうして一歩離れたところから戦場を見ていると、ウィッチの中でも何人か、動きが違うのが居るのに気が付ける。
エースたちだ。
エーリカ・ハルトマン、ゲルドルート・バルクホルン、ヴィクトリア・ウルバノウィッチュ、それからネーデルラント空軍のクロウ隊に────ガルム隊。
とくにガルム1──『鬼神』ことサイファーは一際目に付いた。
良い腕をしていたよ。
噂で聞いてた感じでは、まだ若いウィッチだとばかり思っていたけれど、その時よりも成長していたみたいでね。
飛び方はまだ未完成だったが、戦い方には彼女なりのルールがしっかりと見て取れた。
戦場で大切なのは、憎しみに呑まれないこと。
生き残ること。
そして自分の決めたルールを守りぬくことだ。
彼女らの飛ぶ姿を見て、私は確信したよ。
彼女たちになら任せられるとね。
戦況が僅かながら安定した頃合をみて、彼女たちを一度空母ケストレルに戻らせて補給させる。
そして彼女らが戻ってきたタイミングで、敵防衛線に穴を開けるべく私は──失礼、優秀なウィッチに突撃を命じた。
彼女の活躍のお陰で、エースたちの道が開けたよ。
エースたちはそこから防衛線を突破、アムステルダムに聳える巨大なネウロイ『エクスキャリバー』を破壊すべく、飛んでいった。
正直に言うと、私は彼女たちが羨ましかった。
彼女らと肩を並べて戦えたら……とても楽しかっただろうな。
だが後悔はしていない。
新たな時代を担う彼女らの道を作ることは、先人である私の役目だ。
こればっかりは、誰にも譲れないからな。
私が語れるのはここまでだ。
短くてすまないね。
だが、エクスキャリバーとの戦いについては、私も伝聞になる。
それは、君が求めているものではないだろう?
ただまあ、一つ言わせてもらうなら────
あの作戦の裏で動いてた奴らには、一発殴らなければ気がすまない、かな。
○REC
―─────────────
『黒い悪魔』
彼女についての説明はもはや不要と言ってもいいだろう。
カールスラント空軍
第52戦闘航空団 第2飛行隊
人類最高のウィッチと名高い彼女もまた、あのジャッジメント作戦に参加していた。
●REC
はーい、次の方……今日はどうしました? 風邪ですか?
──え、取材?
……………あ、あれ今日だった!
ごめんごめん、すっかり忘れてたよ。貴方の後に患者は………いないね。
よし、それじゃあ、このまま始めちゃおうか。
ジャッジメント作戦……って、なんでしたっけ?
────ああっ! ネーデルラントの!
そっか、あれそんな作戦名だったんだ……あ、トゥルーデには内緒にして。
また怒られちゃうから。
懐かしいなぁ。何年前になるんだろう?
でも……正直思い出したいようなことじゃないかな。
理由は言わなくてもわかると思うけど。
あの時、ガランド中佐の援護を受けて防衛線を突破したウィッチは全部で八人。
それぞれが
八人で一機ずつ倒していく案もあったけど、その間に他の大型ネウロイ、それからエクスキャリバーに集中砲火されることを考えたら、それぞれが各個撃破する方がいいだろうって。
私はもちろんトゥルーデと組んで北に向かって、ガルム隊は西だったかな。私たちから見える位置だったから南ではなかったはず。
それにしても、エクスキャリバーは凄かったなぁ。
すっごく大きかったし、それに見たことないくらい
あれは防げないよ。あんなのどうやって倒すんだって思ったよね。
コアを見つけて叩くのがセオリーだけど、私たちの中に魔眼持ちはいなかったし。
とにかく、エクスキャリバーに攻撃するにしても回りの護衛は倒さなきゃいけないから、まずはそっちに集中ってことで、大型ネウロイに攻撃を仕掛けたんだ。
時々飛んでくるエクスキャリバーの攻撃を死に物狂いで避けながらね。
大型ネウロイも強かったよ。
なにせ大きいからコアの場所が全然わからなかったし。
でも列車砲型だったのが幸いだったかな。近距離戦が苦手みたいで、近づいてればそれほど怖くなかった。
あ、でも勘違いしないでほしい。比較的ってだけだから。
そう考えると、やっぱりそれぞれ各個撃破に当たるので正解だったね。
もし一機ずつだったら、残り三機のネウロイの攻撃を防ぎきれなかったと思う。
小型ネウロイ?
いたいた。でも多くはなかったかな。
多分、最初に防衛線で戦ったときに、元々いたのは全部そっちに飛んでったんだと思う。
時々飛んできたけど、あれは多分エクスキャリバーから新たに生まれた奴だったんじゃないかな。
戦況が動いたのは、ガルム隊の方からだった。
大型ネウロイのコア位置が砲身内部にあることを掴んで、ネウロイを撃破したんだ。
でもそれで気を緩めたのがいけなかった。
ヴィクトリアと一緒に南を担当していたクロウ隊の人が、エクスキャリバーの光に呑まれて…………跡形もなかった。
咄嗟にシールドを張ったらしいけど、一瞬も持たなかったって。
ヴィクトリアも避けきれずにストライカーユニットに被弾して。でも幸い、不時着できた。
ガルム隊はそのカバーのため南のネウロイに向かって、私たちも目の前のネウロイを倒すため砲身の根元へ集中的に攻撃を始めたんだ。
コアの場所がわかれば簡単…………とはいかないんだよね。
とにかく装甲が厚くて、削っても削ってもコアが見えてこないんだ。トゥルーデも私も弾切れまで撃ち続けてようやくコアを露出させることができて、最後はトゥルーデが弾切れした機銃を叩きつけて何とか倒せたよ。
でも、もう二人とも武器がないからね。
飛び回って囮にでもなろうかなって考えてたら、トゥルーデが言ったんだ。
『私はヴィクトリア少佐を連れて撤退するから、お前は少佐の装備を借りて戦え』って。
驚いたよ。あの頃のトゥルーデってばネウロイを倒すことばっかり考えてたから。
でも、トゥルーデの中で何かが変わったんだと思う。倒すだけが戦いじゃないって。
だから『いいの?』って聞き返したんだ。
そしたらなんて言ったと思う?
『
そんなこと言われたらさ、頑張んないわけにはいかないじゃん。
ヴィクトリアから機銃を受け取って戦線復帰して、ちょっとだけ無茶しながらも、パトリシア達と協力してもう一機撃破したよ。
まあその間に、ガルム隊の二人はもう一機破壊してたんだけど。
うん、すごかったよ、あの二人。射撃の腕も、動きのキレも段違い。前に助けてもらった時よりも、更に磨きがかかってた。あれこそがエースなんだって思ったね。
でも……うーん、なんて言ったらいいのかな。
えっと、そう、二番機の
────全盛期の私と比べて、どっちが強いか?
それ、よく聞かれるんだよね。いつもはマルセイユだけど。
そもそも『強さ』ってなんだろうね?
ネウロイを撃墜した数で言えば確かに私は強いってことになるけど、ミーナみたいに戦況を読めて的確に指示を出せるのだって強さだと思うし、ペリーヌみたいに誇りを持ってるのも強さだと思うし、トゥルーデみたいに安心して背中を任せられるのも強さだと思うよ。
だからさ、私はどっちが強いかなんて比べられないし、比べようとも思わないかな。
あんまり興味ないし。
話がそれちゃったね。どこまで話したっけ?
──そうそう、なんとか護衛の大型ネウロイを全部倒したんだ。
けどこっちもボロボロでさ。残弾は少ないし、エクスキャリバーの攻撃を避けるのに
もうね、これでどうやって戦ったらいいんだーって感じだよね。
でも、パトリシアが気づいたんだ。
あんな強力な攻撃なんだから、砲身である剣の先端はコアに繋がってるんじゃないか。攻撃の直前にあの砲身を壊せば、エネルギーが逆流してコアを破壊、それができなくても場所はわかるんじゃないかってね。
迷いなくガルム隊の二人、
余りにも判断が早いもんだから、打ち合わせでもしてたんじゃないかって思っちゃった。
エクスキャリバーに向かっていく二人を、私たちは慌てて追いかけたよ。
エクスキャリバーからつかず離れずの距離でタイミングを図って、サイファーが切り込むのを合図にみんなで突撃した。
エネルギーを貯めているエクスキャリバーに近づくのは怖かったなぁ。
離れてたから、あの強力な攻撃を避けられたんだもん。
残り少ない弾数で砲身を壊すなら、近づいて撃たないといけない。けど、もし破壊できなかったら? ちょっとでも破壊するのが遅れたら?
まあもしそうだったら、私はここにいないんだけど。
ほんとギリギリだった。エクスキャリバーの先端はもう直視できないくらい光ってて。
みんな全弾撃ち尽くして、ヒビは入ったけど折れてない。後一歩足りない。
──がむしゃらだった。
墜落するとか考えずに、全部の魔力を使って
もうあまり魔力残ってなかったから大した威力にはならなかったけど………一歩には成ったよ。
砲台を失ったエクスキャリバーは、貯めてたエネルギーが暴走して爆発。その衝撃でみんな吹っ飛んじゃった。
パトリシアに手を貸してもらって体勢を立て直して、エクスキャリバーを見たらあっちこっちに亀裂が入ってた。
でもそれも見る見るうちに修復が始まって、急いでコアを見つけなきゃって思ったんだけど…………そんな必要なかった。
その剣のような長い体躯の中腹に向かって、一直線に飛ぶウィッチ。
うん、『彼女』だ。
その手に持ったナイフに魔力をまとわせると、飛ぶ勢いのまま亀裂の隙間にわずかに見えたコアに突き刺したんだ。
エクスキャリバーは悲鳴のような轟音を立てて半ばからゆっくり傾いて、ついに折れた。とっても大きかったからかな、折れた刀身はいつも見たいにシュッとは消えなかった。地面に着く前には全部消えちゃったけど、いつもよりも長くキラキラした光を残していたのを覚えている。
ああ、終わったんだって、そう思った。
安堵のため息が出て肩の力が抜けて、ちょうど地上を見下ろす形になったんだ。
血の気が引いたよ。慌ててみんなに声をかけた。
エクスキャリバーの土台が、修復を始めていたんだ。
そう、エクスキャリバーはコアを二個持っていて、ネウロイの巣としてはあっちが本体だったんだ。
しかも砲身にエネルギーを使わなくなった分ネウロイを生み出せるようになったのか、ぽんぽん小型ネウロイが装甲から剥がれ落ちるように生まれてた。
すぐに撤退を始めたけど、こっちは満身創痍だからさ。あっという間に追いつかれちゃった。
ガルム隊の二人が護身用の拳銃とナイフで応戦してくれたけど、数分も持たないことくらい目に見えてた。
トゥルーデに任せられたのに………。
悔しさで涙がこぼれそうなときだった。
ほんの一瞬、太陽が
雲にしては早すぎる。
ばっと空を見上げたら、七機のウィッチが遥か上空を飛んでいた。
援軍だ!
よかった、彼女たちに援護してもらえれば無事に撤退できるかもしれない!
そう思って彼女たちに通信を飛ばしたんだけど……返事がないんだ。しかも、ストライカーユニットも真っ黒に染まっててて、どの国のウィッチかわからない。
ピクシーが怪しんで、怒鳴るように所属と名前を言うよう伝えたんだけど、やっぱり無視されて。
彼女たちは、撤退している私たちとすれ違うようにエクスキャリバーの方へ向かって行くと────
七発の爆弾を上空で手放した。
猛烈に嫌な予感がした。
頭の中でガンガン警鐘が鳴って。とにかくこの場にいちゃいけない、アムステルダムから離れなくっちゃって思った。みんなも同じだ。
もうほんと無理矢理魔力を絞り出して、全力で逃げた。
ネウロイの攻撃が飛んできたけど、そんなの気にしてる余裕はまったくなくて。かすったりしたけど全部無視して、ただひたすらに飛んだ。
閃光。
轟音。
覚えてるのは、それだけ。
衝撃波でパトリシアと二人、もみくちゃにされて上も下もわからなくなった。
ほとんど墜落寸前だったけど、なんとかギリギリで体勢を立て直せて。
何が起きたのかと二人してアムステルダムの方を振り返った。
火山が噴火したみたいな大きな爆煙が、七つ見えた。
それしか、見えなかったんだ。
あの日、アムステルダムが地図から消えたんだ。
○REC
夜間飛行は恒例のイライラ棒ミッション。
ストック切れました。