エースウィッチ達に「鬼神」について聞いてみた   作:シャケ@シャム猫亭

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①クロスオーバー杯優勝しました。
②ファンアート頂きました。ありがとうございます。
 人生で二度目です。画像の置き方わかんないので鳩平さんのTwitterのURL置いておきます。
https://twitter.com/HatoCLISt/status/1353169261473091584










 一九四一年、九月二十三日。

 

 当時、ロマーニャの地にて従軍していた私の耳にも、あの日の話は届いている。

 忘れもしない、格納庫にてストライカーユニットの整備をしていたときだ。

 皆の気晴らしにと置かれたラジオから、信じられないような話が聞こえてきた。

 普段なら工具で叩く音や上官への愚痴、下っ端を走らせる怒鳴り声で騒がしい格納庫が、この時ばかりはしんとしていた。誰ひとり声を出さず、物音一つ立てない。

 ラジオからニュース原稿を読むキャスターの声だけが、静まり返った格納庫に繰り返し一つの事実を伝えていた。

 

 

 

 ネーデルラント王国の首都アムステルダムが消滅した、と。

 

 

 

 誰かが手から工具を滑らせたのだろう。カランと立てた音が、皆を現実へと引き戻した。

 そして同時に、何人かの整備兵がその場で崩れ落ちた。

 彼らは皆、ネーデルラント王国出身の者たちであった。祖国奪還を胸に、今日まで戦ってきた者たちであった。

 そばにいた者たちが彼らに駆け寄るも、かける言葉が見つからず、ただただ立ち尽くす。

 やがて隊長がやってきて、ネーデルラント出身の者たちを先に上がらせた。彼らが抜けた分の仕事が皆に上乗せとなったが、誰一人文句を言う者はいなかった。

 

 

 その日からしばらく経った後、隊長によって皆が集められ、そして(こと)の詳細を知った。

 アムステルダムを占拠していた巨大ネウロイを破壊するため、『V』──(のち)に『核』と呼ばれる新型爆弾が投下されたのだ。

 あまりに強力な破壊力を持ち、周囲への被害が大きすぎることから開発が凍結されたはずであったが、ネーデルラント軍上層部によって密かに開発が続いていたらしい。

 

 ネーデルラントの古き強国主義者にとって、ネウロイに自国を占拠されている現状は何よりも許せなかったのだろう。

 彼らは語りたかったのか。

 彼の地は我らの物であり、ネウロイが触れて良いものなど砂粒一つないのだと。

 

 ネウロイを滅ぼすという意思によって巻き起こされた、壮絶な自決行為。

 残された、無残な光景。

 欧州奪還の折、故郷へと戻ったネーデルラントの人たちは、それをどう見たのだろう。

 そしてあの瞬間、その空にいた『彼女』は何を思ったのだろうか。

 

 

 

 

 一九四一年十一月六日

 

 ネーデルラント周辺に残存していたネウロイが最後の総攻撃をブリタニアへと仕掛ける。

 七十二時間の防衛戦は少なくない犠牲を出しつつも、ブリタニアはついにネウロイを退けた。

 一年に渡り後退し続けた続けた防衛線も、大きな代償と引き換えにようやく落ち着きを見せる。

 しかし人類とネウロイの戦争は終わったわけではない。冬、低温を苦手とするネウロイが活動を停止するこの時期に、なんとしても人類は態勢を立て直さなければならなかった。

 戦場はテーブルの上へと移され、各国より集まった将官が日夜、起死回生の一手を生むべく議論を交わす。そして彼らの指示の下で様々な研究開発が急ピッチで進められ、人類はネウロイが活動を再開する春に向け、力を蓄えていった。

 

 こうして、半年の時が流れていく。

 空白の半年。

 

 

 そう、ここからが隠された真実の歴史。

 私はその事実に眼を見張った。

 『彼女』を追っていたことに、間違いはなかったのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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 ネウロイに対し、刀一本で立ち回る様から『大空のサムライ』と呼ばれるウィッチがいた。

 

 扶桑皇国海軍 遣欧艦隊

 第24航空戦隊 288航空隊

 

 坂本 美緒(さかもと みお)

 

 かの501統合戦闘航空団にて戦闘隊長を務め、欧州奪還の一番太刀となった扶桑の英雄。

 だが彼女は戦争終結と同時に軍を辞め、以降、公式記録に姿を現さない。

 噂によれば、終戦後に彼女は尼となり、ネウロイで犠牲になった人々を弔うべく旅をしているらしい。激戦区であった土地や、一夜にしてネウロイの瘴気に飲まれた小さな村などは、十年経った今でも(むくろ)が野ざらしになっている。その一つ一つの身元を確認して墓を掘り、(きょう)を唱えて冥福を祈っているのだと。

 

 今回、手紙という形で何人もの人の手を渡り、奇跡的に彼女と連絡を取ることができた。

 彼女の目に、『彼女』はどう映ったのだろうか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 前略

 

 本来であれば拝啓と書き、時候の挨拶をしたためるところなのだがな。何分(なにぶん)この手紙がいつ貴方の元へと届くかわからぬため前略とさせてもらった。

 

 貴方の知りたいこと、そう鬼神について、その全てをここに(したた)めることはできない。

 私も末席とはいえ将官であった身。墓まで持っていかねばならぬことが多くある。

 ましてやこの手紙が本当に貴方の元まで届くのか、一抹ならぬ不安もある。

 故に、ここにはかつての思い出を書く事としよう。

 

 

 

 一九四一年、私は遣欧艦隊の大尉として欧州で転戦していた。

 東の戦況が悪いと聞けば援軍として駆けつけ、南で孤立する部隊がいると聞けば退路を切り開き、北に民間人が残っていると聞けば救援に向かい、そして防衛ラインが下がるのに応じて西へと移動していった。

 本当に、息つく間もなかったな。

 だが弱音を吐くわけには行かなかった。私たちの背後には、何万人もの民間人が居たからな。

 ネウロイ一機を逃すだけで、何百もの命が奪われてしまう。

 

 ヤスリで削られるような消耗戦に転機が訪れたのは、九月の終わり。人類が初めて、ネウロイの巣を破壊することに成功したのだ。

 私はその一報を聞いたとき、暗雲から光明が差したと感じた。

 

 だが報告には続きがあった。

 巣の破壊の代償に、ネーデルラントの首都近郊は、影も形も無くなったのだと。

 

 私は、かの地が失われる前、一度だけ訪れたことがある。

 運河に沿って規則正しく並ぶ家々は実に色彩鮮やかで、また、見事に扇状に広がった町並みは、空から見ればその美しさに圧倒された。北のヴェネツィアと言われるのも納得だ。

 もっとも、それを言うとネーデルラント人にはヴェネツィアこそ南のアムステルダムだと怒られるのだがな。

 しかし、今はもう絵と思い出の中でしか、それを見ることができない。

 

 ネーデルラントの人々の心中は、察するに余りある。

 

 私は巣破壊の詳細を知るため、ブリタニアへと渡った。一体かの地で何があったのか、それを知らなければならない。

 ロンドンにある統合軍本部に着いたのは十月の初めだ。そこにはすでに各国の将官佐官が詰めかけていた。みな目的は同じ、巣破壊の仔細を知るためだ。

 そして仔細を知った人々は、二つに別れた。

 

 自国を焼いてでもネウロイの巣を破壊したことへの賞賛、あるいは、ネウロイの巣を破壊するために自国を焼いたことへの唾棄。

 

 前者はリベリオン合衆国やブリタニア連邦など自国がネウロイに侵略されていない者たちが中心で、ネウロイの脅威から自国を守ろうと戦っている者たち。

 後者は帝政カールスラントやオストマルクなど自国がネウロイに侵略された者たちが中心で、ネウロイから自国を奪還しようと戦っている者たちだ。

 

 私は■■■■■■■■■■■■■■■■■■■。

 ■■■■■■■■■■■■■■。

 ■■■■■■■■、■■■■■■■■■、■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■。

 

 無論、どちらが正解というわけではない。むしろどちらも正しいのだ。

 だからこそ■■■■■■■■■■■■■、

 そして■■■■■■■■■■■■、■■■■■■。■■■■■■■、■■■■■■■。

 ■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■。

 

 そんな折、新人の訓練に来て欲しいという打診が私の元に来た。

 場所はドーバ海峡にほど近いホークエッジ基地。ネーデルラントの巣を破壊したお陰で、以前のような連日連夜の出撃が無くなったため、この隙に補充要員として来た新人たちに戦いの基本を叩き込んで欲しいという話だ。

 

 渡りに船。

 今まさに二分化している本部で■■■■■に巻き込まれそうだった私は、手早く荷物をまとめ、その日の内に基地へと向かった。

 

 大体、エースとはいえあの頃の私は尉官だ。■■■■■■■■■■みたいな話は佐官か将官にするべきだろう。

 ……いや、これは書くべきことではないな。前文含め、少々黒塗りさせてもらう。

 

 

 

 さて、何はともあれ、だ。

 私はホークエッジ基地に着任した。二週間という短い期間だ、やれることは限られている。

 すぐに基地のウィッチを集めて模擬戦をさせて練度を確認したのだが……思っていた以上に出来が悪かった。

 仕方がないのだ。彼女たちは半ば徴兵の形でウィッチ養成校に入れられ、飛べる、撃てる、シールドを張れるの三つを身に付けただけで従軍させられている。それほど、戦況に余裕がなかった。

 私はただの案山子だった彼女たちを、三日目で動く的に鍛え、六日目で不時着出来る的に鍛え、九日目に反撃する的まで鍛え上げた。かなり強引に鍛えたため泣き出す者もいたが、あの時、恨まれてでも鍛えて正解だったと思っている。

 でなければ間違いなく、彼女らはあの日を越えられなかっただろう。

 

 

 十二日目、十一月六日。

 ネーデルラントに残存していたネウロイによる総攻撃が始まった。

 そしてその舞台となった場所こそ、コルチェスター基地、かの「円卓」だ。

 

 

 無論、私にも出撃命令が出た。ホークエッジ基地とコルチェスター基地はそう離れていないからな。

 しかし問題があった。連れて行けるのが新人しかいないということだ。

 この基地にもベテランは居た。だが、先のネーデルラント強襲作戦の折に負傷し、療養中だった。

 その穴埋めが、大量の新人投入というわけだ。

 

 私は比較的できる者を三名選び出し、正直どんぐりの背比べ感はあったが、一個小隊として円卓へと飛び立った。

 それが、長い防衛戦の始まりだった。

 記録では三日間だが、そうではない。

 七十二時間という、世界で一番長い一日の出来事だったのだ。

 

 

 

 

 交戦から二十四時間。

 墜としても墜としてもやってくるネウロイ、鳴り続ける警報。

 食事も睡眠もままならないまま空を飛び続け、魔力が切れたら地上から援護射撃を行い、回復したらまた空に上がる。

 後方から援軍が次々とやって来るが、それと同じくらいネウロイもやって来て、まるで事態が好転しない。いいやそれどころか、交戦から四十時間を過ぎたあたりから戦況は徐々にネウロイ側へと傾いていた。

 

 原因など言うまでもないと思うのだが、そう、疲労だ。

 

 隊機として連れてきた新人たちは()っくの()うに魔力切れを起こし、ほとんど気絶に近い状態でホークエッジ基地の床に転がっていた。

 情けないなどとはいうまい。彼女らは一人五機以上のネウロイを撃墜してエースの仲間入りを果たし、ストライカーユニットを壊さず基地に降りられたのだから。むしろ大金星と言っていい。

 おかげでユニットを破壊されて堕ちたウィッチが、彼女らのユニットを履くことで空に上がれている。

 

 疲労はもちろん私にも及んでいた。

 まず、魔力消費の激しい遠距離での魔眼使用ができなくなった。そして小型のネウロイを相手にする余裕が無くなり、大型にのみ標的を絞ることになった。

 必然、烈風斬での一撃離脱になってくるが、段々と魔力を烈風丸に集中させる時間が長くなり、集めても一刀で倒せず装甲破壊からのコア破壊という二撃離脱になり、終いにはコアの位置だけ確認して後は任せることになってしまった。

 

 私自身、至らなさを痛感したよ。

 だからせめてもと、入れ替わりの激しい中での指揮系統の統一を図り、前線指揮官として飛び続けた。

 それでも、もう限界はすぐそこに見えていた。

 

 交戦から六十時間。

 航空戦力の四十%以上を損失し、もはや壊滅状態と言っていいなかで、いまだ防衛ラインを突破されていないのが奇跡だった。

 

 

 

 

 だが本当の奇跡は、朝焼けの空、薄く棚びく雲を切り裂きやってきた。

 

 

 

 

 絶えず火の手が上がり続けるこの戦場に彼女らは躊躇なく突っ込むと、手当たり次第にネウロイを撃墜していく。紛れもないトップエースの動きに、すぐさま私は彼女らの識別コードを確認させた。

 

 識別信号は、ガルム。援軍はアムステルダムの「剣」を抜いた、あの傭兵だ。

 戦場の空気が変わった。もはやこれまでかと諦めていた者たちの瞳に希望の光が宿る。諦めるな、まだ負けていないという声が無線に交じるようになった。

 撃ち漏らしが無くなり、基地の真上まで迫っていた戦線が当初の位置まで上がっていく。

 

 ちょうどその時、魔力が回復した新人たちが空へと上がってきたため、私は無線で指示を飛ばした。

 

 噂のガルム隊だ、よく見ておけと。

 

 もっとも、そんなこと言わずとも彼女らは目に焼き付けていた、いいや、焼き付いていたがな。

 目を離せなくなる強いものが、敬意を抱かずにはいられない何かが彼女たちには有った。

 

 

 

 だが彼女らに向けられた目は敬意だけではない。

 戦況が好転していく最中、私の無線機が誰かの呟きを拾った。

 

 

 

容赦ない攻撃だ(They're attacking without mercy.)

 全てを焼き尽くすつもりか?(Do they plan on burning everyting?)

 

あのネーデルラントの傭兵(That Netherlands mercenary,)なんてウィッチだ!(damn her!)

 あいつが戦況をひっくり返してやがる(She's turning the tide of battle in their favor.)

 

奴はバケモノか(She can't be human!)!?』

 

悪魔だ……(She's like demon.)

 

そんな生易しいものじゃない(I've never seen anything like it.)

 

 

 

 そうだ、悪魔なんかではない。

 だから私は、彼女に畏怖を向けるその無線に向かって、こう返したのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ああいうのは(That kind of Witch)────『鬼神』というのだと。(They call a Demon Lord.)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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 ペリーヌ女史への取材の終わり、彼女はある人物のことを私に紹介してくれた。

 

 リネット(LYNETTE)ビショップ(BISHOP)

 

 ブリタニア空軍 第11戦闘機集団

 610戦闘機中隊 曹長

 

 ウィッチの名家として名高いビショップ家において、歴代最高と公言される狙撃の名手。彼女が考案した『敵が初弾を避けた後、その避けた位置を推測して撃ち抜く』という狙撃理論は、ネウロイ狙撃の高等技術として教本にも書かれている。

 彼女は現在、ペリーヌ・クロステルマンが立ち上げた戦争孤児支援団体に所属し、院長としてそして子供らの『母』として日々を過ごしている。

 

 だが、彼女の活躍時期は鬼神とは異なる。当時の彼女はロンドンに住む一市民でしかない。

 そんな彼女に、なぜペリーヌ女史はアポイントメントを取り付けてくれたのか。

 

 答えは、彼女の撮った一枚の写真にあった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

●REC

 

 

 

 

 

 ごめんなさい、散らかってて。

 来客があるからって昨日掃除したのだけれど、朝になったらもうこんな状態で。

 

 子供たちですか? 他の先生たちが気を使って、散歩に連れて行ってくれました。

 おかげで、何とかお通し出来る程度には片付けできました。

 

 

 ええ、ペリーヌさんから聞いてます。本当に偶然だったので、あまりお話し出来ることがないのですが……これが、その写真です。

 小さくてわかりにくいのですが────はい、そうです。その背を向けて飛んでいるのが、サイファーさんです。

 

 撮影日は、一九四一年十二月三十日。

 

 

 

 

 あの日、私は母と一緒にロンドン郊外へ出ていました。

 クリスマスプレゼントに貰ったカメラで色んなものを撮りたくて、それで母に少し無理を言って連れて行ってもらったんです。

 道中で花や鳥、山や川、街では撮れない物を夢中になってカメラに収めました。

 

 お昼を過ぎた頃でしょうか、不意にエンジン音が聞こえてきたんです。

 空を見上げれば、沢山のウィッチがロンドンの方へと向かって飛んでいました。

 そして間を置かず、ロンドンの方角からもウィッチが飛んできました。こちらは二機です。

 ロンドンに向かっていた一団は、その二機に気が付くとすぐさま攻撃を開始しました。二機はその初撃を予期していたのでしょう、あっさり避けるとそのままその一団へ突っ込み、乱戦が始まりました。

 

 私は、ウィッチの訓練が見れるなんて運が良いと思い、カメラを向けシャッターを切りました。

 しかし、母は違いました。その初撃を見た瞬間に血相を変えると、私を抱き抱え車に押し込めました。

 そしてすぐさまエンジンをかけると、急発進でその場を離れたのです。

 私は文句を言おうと思いましたが、母が見たことがない怖い顔をしていたため、何も言えませんでした。それに幼いながらも、何かが起こってるんだと感じました。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ええ、今ならわかります。なぜ母があんなにも急いでその場を離れたのか。

 あの時、ウィッチたちが撃った弾は、はっきりと見えました。弾道を把握するための曳光弾が入っていたんです。それはつまり────実弾。

 

 

 

 

 

 

 あれは訓練なんかじゃなくて、きっと…………クーデター、だったんだと思います。

 

 

 

 

 

 

 

○REC

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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 ネーデルラント空軍 第6航空師団

 第4飛行隊 クロウ隊3番機

 

 パトリシア(Patricia)ジェニファー(Jennifer)ベケット(Beckett)

 

 誰もがガルム隊に畏怖と敬意を向ける中で、ただ一人、彼女らと共に飛ぶことを選んだウィッチ。

 ガルム隊と共同作戦を行うようになってからは目覚しい成長を遂げ、わずか三ヶ月でトップエースの仲間入りを果たした。

 しかし彼女は一九四一年の冬に行われた大規模演習の際、ストライカーユニットの整備不良が原因で事故に遭い、ウィッチとして再起不能となり除隊している。

 少なくとも、公式記録ではそうだ。

 

 

 

 

 

 

 

●REC

 

 

 

 ────あはは、なんか緊張しますね。

 取材を受けるなんて初めてなので……それで、ええっと、何から話しましょうか?

 

 ──自己紹介? 

 

 ────なるほど、緊張を解すために…………わかりました。

 

 えっと、パトリシア・ジェニファー・ベケットです。

 元ネーデルラント空軍のウィッチで、その時の階級は少尉。TAC(タック)ネームはパトリシアとジェニファーのイニシャルを取って『PJ』でした。

 十三歳の時にウィッチになって、ずっと欧州方面で戦っていました。ただまあ、見ての通り右足を吹き飛ばしてしまいまして、十六歳の時に除隊となりました。

 でも幸い、上がりを迎えても魔力は残る体質だったみたいで、こうしてストライカーユニット式の義足を使えてるので不便はしてないですよ。

 

 

 

 ────『彼女』の第一印象ですか?

 

 そうですね、「なんて綺麗に飛ぶんだろう」って思いました。

 あの人を初めて見たのはジャッジメント作戦。ネーデルラント海岸に敷かれたネウロイの防衛ラインを突破しようと、攻勢に出ていた時です。

 

 彗星のようでした。

 あの人が飛ぶ後ろには、ネウロイが消滅する光が続いていたんです。まるで尾を引くように。

 

 すごい奴がいるっていう噂は、同じネーデルラント軍ですから耳にはしていました。けどまさか、あれほどとは思いませんでした。

 憧れましたね。私もいつかあの人と一緒に飛べたら、いいや、飛んでやるって心に誓いました。

 その機会は想像よりもずっと早く来ちゃいましたけど。

 

 

 ジャッジメント作戦の折、私は長機を失いました。大型ネウロイを倒したことに浮かれ、エクスキャリバーから気を逸らした一瞬の出来事でした。私が生きてるのは、コイントスで表が出たというだけです。

 その後、まあ色々あって作戦は成功しましたが、クロウ隊は部隊再編のため解散となりました。欠員の補充ができなかったためです。

 先輩たちは二機編隊(ロッテ)を組んでましたから行き先はすぐ決まったんですが、一人の私はなかなか決まらなくて…………一週間くらいかな、後方の基地で辞令を待ってました。

 そしたら偶々基地に立ち寄ってたガルム隊に会いまして、「暇してるならウチに来いよ」って言われたんです。反射的に「行きます!」って返事したら、もうその日からガルム隊の3番機になってました。

 ……いえ、実は手続きをすっ飛ばしてたので、司令部は相当怒ってたみたいです。なのにお二人といったら涼しい顔で。

 結局、司令部が折れてクロウ隊とガルム隊の共同作戦という形で収めてもらえましたが……イーグルアイさんの飲んでる胃薬が増えてました。

 

 

 それからはもう、転戦に次ぐ転戦です。司令部の腹いせもあったんでしょうね。

 片羽──ルーシーさんは「アタシたちを墜として報酬を踏み倒す気なんだろ」って言ってました。そのときは冗談だと思って笑ったんですが、もしかしたら本当にそうだったのかもしれません。

 お二人は傭兵なので成果に応じて報酬が支払われるんですが────あ、察しが付きました? お二人の報酬額、凄いことになってました。

 

 ────いやいや、私は普通の軍属でしたから、給料も普通でしたよ。まあ……その、ガルム隊になってからは出撃回数が異常に増えたので、交戦手当はいっぱい貰いましたけど。

 

 コホン……ともかく、本当にもう戦いの日々でした。

 必死でしたね。

 必死にお二人に食らいつきました。

 それでも簡単に追いつかせてはくれないお二人でしたが、『実戦に勝る訓練なし』とは言ったものです。ひと月で何とかお二人の後ろに付いて飛ぶことくらいは出来るようになりました。

 

 

 その頃の思い出深い戦闘ですか?

 うーん…………やっぱり一番は、円卓(B7R)での防衛戦ですね。

 十一月の始めだったかな、ネーデルラントに残存していたネウロイの総攻撃があったんです。その時私たちはガリアに渡って、パリ近郊に発生したネウロイの巣へ威力偵察をしてたんですが、直ちに戻ってこいと言われまして。ワイト島の基地に戻ったら補給もそこそこに円卓へ飛ばされました。

 

 着いたのは明け方でしたね。

 なんかもう、すごかったですよ。地上でも空でもあっちこっちで火の手が上がってて。私たちはそこに飛び込んでいったんです。

 花火の中に突っ込むっていうのが比喩じゃないくらいでした。

 

 戦況は完全に押されていました。

 信じられますか? 航空戦力の40%は堕ちてたっていうんですよ。壊滅もいいところじゃないですか。

 そんな所にたった三機のウィッチが来たところで何が出来るんだって、普通は思いますよね。

 それをひっくり返しちゃうところが、サイファーさんが鬼神と呼ばれる由縁です。

 

 ────私? 私はただ付いて飛んでただけですよ。

 スコアだって、私が一機墜とす間にあの人は五機墜としてますし。

 でもお荷物にならないくらいには、私も成長してたんです。あの戦いを切り抜けた時に、そう実感できました。

 

 最後の一機を倒した時、地上で歓声が湧き上がりました。街からは勝利を告げる鐘の音が鳴り響き、そして人々が見上げる先にはあの人の機影がありました。

 それを眩しそうにルーシーさんが眺めていたのをよく覚えています。

 

 

 ワイト島に戻った私たちは基地のみんなに迎えられ、そのまま祝勝会となりました。

 これでもかと言わんばかりに酒やら肉やらが出てきて、もう飲めや歌えやの大騒ぎ。戦果報告のため遅れてやってきたイーグルアイさんはそれを見て頭抱えてましたが、ヤケになったかすぐに騒ぎに混じるとワインをラッパ飲みしてました。

 あの真面目なイーグルアイさんが「ワインは喉越しだッ!」って叫ぶんですよ、今でもわらっちゃいます。

 楽しかったですね……ネウロイとの戦争中で、一番楽しかったです。

 

 

 でも次の日、ルーシーさんが居なくなっていました。彼女のストライカーユニットもありません。

 初めは街の方にでも出ているんだと思いました。ルーシーさんは前にもストライカーユニットで街へ遊びに行ったことがありましたから、今回もそれだろうと。

 ですが、夜になっても、次の日になってもルーシーさんは帰ってきません。イーグルアイさんがサイファーさんを問い詰めますが、あの人は(だんま)りでした。

 

 公式記録では、確か夜間の単独哨戒中のMIAでしたっけ?

 

 ────そうですね。脱走、なんでしょう。

 どうしてそんなことをしたのか、私にはわかりません。でも、実は少し前からルーシーさんは何かを悩まれているようでした。それが理由なんだとは思います。

 私には、その悩みを教えてはくれませんでした。

 もしかしたらサイファーさんは知ってたかもしれません。いえ、あの人が知らないはずないですね。だから黙ってたんだと思います。

 

 

 ルーシーさんが去って、私がガルム隊の2番機になりました。

 私なんかがとは言いません。私だってエースの端くれです。ですが……やっぱり、力不足を感じましたね。

 あの人の背についていくことと背中を合わせることは、まったくの別次元。一ヶ月かけてようやく、受けた指示をこなすぐらいは出来るようになりました。

 

 ────どんな指示、ですか?

 シンプルでしたよ。攻撃、援護、散開、後は固有魔法の使用くらいしか言われなかったですね。

 でも、的確でした。その意図を瞬時に理解出来るようになったら、面白いくらい戦果を上げられました。まあ友人には、そのハードルが高いんだとは言われましたが。

 

 

 あの人を追いかけているうちに、気が付けば十二月になっていました。

 その頃、軍の内部では不穏な空気が流れていました。

 前々から、ある事で司令部内で対立が起きていたらしいのですが、ここに来てそれが表面化してきたんです。

 それは『V』の使用の是非でした。

 

 根本にあるのは政治と権力争いだとイーグルアイさんは言ってましたが、そんなのに興味が無い私たちも、あの日の当事者として否応なく巻き込まれました。

 私は…………わかりません。確かにVのお陰でネウロイの巣を破壊することができました。でもその代償に、私たちの帰るべき家が失われました。

 今でもネーデルラント人の多くがVの事を批難しています。もちろん私もです。

 ですが、あの時の戦況を思うと…………。

 

 基地内では目に見えて対立が起こるようになりました。

 肯定派のリベリオン、ブリタニア。否定派のネーデルラント、カールスラント。ついこの間まで肩を組んで酒を飲んでいた人たちが、互いに罵声を浴びせ合い、時には殴り合いの喧嘩にまで発展することもありました。

 でも、そういう時は決まってあの人が現れて、両者を一撃で沈めてました。何度か同じようなことがあって流石にこりたのか、基地内では表立ってそういうことは無くなりましたよ。

 火種は相変わらず燻ってましたが。

 それでも、火種で済んでいるだけ私たちの基地はまだマシだったみたいです。

 

 

 

 一九四一年、十二月三十一日。

 ネーデルラント軍の上級将校を中心としたクーデターが起こりました。彼ら『国境なき世界』はブリタニア北部のターンハウス基地を占拠すると現統合軍上層部の更迭を要求。十二時間以内に要求が呑まれなければ、統合軍本部があるロンドンに『V2』を発射するとの情報が入りました。

 ……Vの改良型だそうです。威力はVとは桁違いだと聞きました。

 

 ちょうどその時、私たちは式典に参加するため本部にいました。その……私が百機撃墜をマークしたので、勲章を受け取る予定だったんです。

 ですが式典は中止。私たちは緊急発進(スクランブル)の要請を受け、『国境なき世界』によるV2発射阻止のため飛び立ちました。

 

 ……少なくない戸惑いがありました。

 まさか人に銃を向ける日が来るとは思ってませんでしたから、果たして自分は引き金が引けるのかと。

 でも、だからといって黙ってやられるわけにはいきません。私の帰りを待ってる人がいるんです。

 

 迷いが顔に出ていたのでしょう。戦闘空域に着く直前、あの人が急に静止し、私に一つの問いを投げかけてきました。

 私の、パトリシアの空のルールとは何か、と。

 

 

 『生きて帰る』

 

 

 そう。

 そうです。

 それが私のルール。

 

 ならばもう、迷うことはありません。

 パァンと自分の頬を叩いて気合いを入れ、あの人に頷き返しました。

 

 

 

 

 

 

 

 『国境なき世界』はネーデルラント軍だけでなく、オストマルク、カールスラント、ヘルウェスティア、ベルギガなど多くの国のエースたちが加わっていました。そうですね、さながら統合戦闘航空団のようです。

 ターンハウス基地に行くまでの道中、そしてターンハウス基地近郊で彼女ら戦闘になり、その度に死線を越えました。

 

 …………顔見知りもいました。

 

 一度目の戦闘──ターンハウスに向かう道中での交戦では、なぜ貴女がと問いました。

 二度目の戦闘──基地上空での交戦では、貴女もかと問いました。

 三度目の戦闘──V2発射阻止では、もう問いませんでした。

 

 私には死ねない理由と守るべきものがありました。

 ロンドンに夫──当時は恋人でしたが──彼が居たんです。V2が発射されれば、ロンドンは跡形もなくなるでしょう。あのアムステルダムみたいに。

 もしそうなればそこに居る人々がどうなるかなんて、言わなくても分かりますよね。

 

 覚悟。

 それこそが私があの人の背に追いつくのに足りなかったものでした。

 

 

 

 『国境なき世界』のエースたちを退け、ターンハウス基地の制空権を確保したとき、V2の発射は秒読みに入っていました。残された時間はもう僅かしかありません。

 私たちはストライカーユニットを履いたまま基地内部に突入しました。

 基地の廊下、地下に向かう階段を高速で飛ぶなんて正気の沙汰じゃありません。でもそれが最短最速であり、それしか方法はありませんでした。

 

 ええ、無事にたどり着いたんですよ。今でも信じられませんけどね。

 もう一度やったら、最初の曲がり角で壁にぶつかって終わりでしょう。

 

 発射装置のある部屋にたどり着いた私たちは、目に付く機械を片っ端から撃ちました。跳弾がどうのこうのなんて言ってられません。発射までのカウントは十秒を切っていました。

 私は祈る思いで撃ち続け…………その時が来ました。

 

『…………V2発射シークエンスの停止を確認。ガルム隊、よくやった』

 

 イーグルアイさんの無線が届いたとき、私の緊張の糸は切れました。

 ストライカーユニットが停止し、床に落ちた私は大の字に倒れ、そのまましばらく動けませんでした。

 これでもう、人に銃を向けなくて済む。

 任務成功の歓喜よりも、その安堵が私の胸をいっぱいにしていました。

 

 とはいえ、いつまでも寝っ転がっているわけにはいきません。状況確認が終わるまで基地上空で待機するよう、イーグルアイさんに命じられてましたから。

 倒れた状態でストライカーユニットを機動するのは危ないので一度脱ごうとしたとき、あの人が私のことを覗き込みました。

 そしてふっと笑うと、手を差し伸べてくれたんです。

 その手を掴んで立ち上がったとき、私は本当の意味であの人の二番機になれたんだと思います。

 

 

 

 もう焦る必要はありませんから、ゆっくりと廊下を飛び、外へと出ました。

 手を振る友軍に向かってガッツポーズを返しながら、基地上空へと上がって行きます。

 夕日が山裾にかかり、空は日の赤と雲の白、そして夜のダークブルーが溶け合って、とても綺麗でした。

 

 その時、ふと自分の軍服のポケットになにか入っていることに気づきました。取り出してみれば、小さな箱が一つ。

 恋人へ送るために買った指輪でした。式典が終わったらその足で恋人の所に行くつもりだったんです。あの日は彼の誕生日でしたから。

 あんなに無茶な動きをしたのに、よくポケットから落ちなかったなと感心してしまいました。それと同時に、作戦が終わった後、基地に帰る前にロンドンへ寄らせてもらえれば、今日の内に渡せるかもしれないと考えました。

 ストライカーユニットの私用はあまり褒められたものじゃないですが、今日ぐらいは大目に見てもらえるんじゃないかと、あの人に事情を話し始めた時です。

 

 

『警告ッ!! アンノウン急速接近中、ブレイクッ! ブレイクッ!!』

 

 

 視界には何も映っていませんでした。

 ただ、確かになにかを感じ取った私は、咄嗟にあの人を突き飛ばしました。

 あの人は驚いて目を丸くしていて、そんな顔を初めて見た私は思わずくすりと笑い、

 

 

 そこで意識が途絶えました。

 

 

 次に目が覚めたときは病院のベッドの上で、右足が無くなっていました。

 私は、あの時何が起きたのかも、あの後で何があったのかも知りません。

 それっきりあの人とも会えぬまま私は除隊となり、そして終戦を迎えました。

 

 

 

 ただ、統合戦闘航空団の活躍によって欧州が奪還された頃です。私の元に差出人不明の荷物が届きました。

 夫とふたり、(いぶか)しみながらも開けると、中にはあの日失くしたはずの指輪が入った小箱と、そしてこのストライカーユニット式の義足が入ってました。

 

 

 

 

 

 

 

 

 そうですね。

 きっとこの空の下、どこかで元気にやってるんだと思います。

 

 

 

 

 

 

 

 

○REC

 

 

 

 

 

 

 

 

 




『戦う理由は見つかったか? 相棒』

ジャジャジャジャン チャラチャチャラチャチャララ ジャジャジャジャジャジャジャン ポロロン



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