お節介な転生TS鬼巫女ロリババァの話の外伝   作:葛城

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目を離したら超高速で絶対殺すマン VS 目を離したら拗ねて面倒くさいマン


勝つのはどっちかな?


中編

 

 

 ……しかし、何時までもこうしてはいられない。

 

 しばしの間、『膨大な歯車を積んだ鋼鉄の機械』を興味深く眺めていた鬼姫は、さて、と機械のある部屋から出た。

 

 途端、サイレン……いや、これは『警告』か。

 

 至る所に反響して響くソレが、鬼姫の全身を叩く。先ほどの部屋の中では多少なりともマシだったが、やはり五月蠅い。

 

 幽体なので別にどうこうなるわけではないが、元来我慢強くない鬼姫は、鬱陶しげに歩を進める。

 

 とにかく、まずはここが何処なのかを調べなければならないが、その手掛かりらしきものが何一つない。というか、鬼姫が理解出来るものが何一つ存在していない。

 

 ここで目を覚ましてから、体感で小一時間ぐらいだろうか。ここに来るまでに何度か人間を見かけることはあったが、彼ら彼女らは皆一様に忙しない。

 

 遠目からでも慌ただしく、緊迫した様子で何処かへと駆けてゆく。その誰もが『力』を持っていないから、誰も鬼姫に気付かない。見えないフリではなく、本当に鬼姫の存在を感知していないようなのだ。

 

 ……ワシがここに居るということ自体、こやつらは気付いていないのかもしれない。

 

 何度か彼ら彼女らの前に躍り出ても、誰一人足を止める者はいない。その様子から鬼姫を探しているというわけではないのは明白で、そのうえ、彼ら彼女らは何だか下っ端な気もして。

 

 ……もしかしたら、ワシがここに居るのはもっと別の……この者たちすら感知していない者たちの仕業ではなかろうか。

 

 そう、鬼姫が考え始めるのも仕方がない状況であった。

 

 そんなわけだから、何も知らないであろう彼ら彼女らを強引に引き留めるのも悪い気がして、その次、そのまた次と見送り続けて……かれこれ、もう16回も見送っている。

 

 仕方がないことであるとはいえ、いい加減、嫌気が差してきていたのが鬼姫の本音である。

 

 しかも、探している間に様々な部屋を見つけたが、そのどれもに何一つ知っている物が見当たらないから、余計にそう思えてくる。

 

 そろそろ話が通じそうなやつと一人ぐらい遭遇したらいいなあ……と思いつつ、鬼姫は扉をすり抜け、壁をすり抜け、天井をすり抜ける。

 

 頭上から降り注ぐ『警告』に苛立ちすら覚え始めながらも、鬼姫はひたすら進み続けた。

 

『……ん?』

 

 ──と、不意に。

 

 もはや幾つ障害物をすり抜けたかすら分からなくなった頃。ぎぎぎ、と何か固い物同士が擦れる音に気付いた鬼姫は、振り返って『……?』首を傾げた。

 

 鬼姫の背後には、人型の石像が立っていた。

 

 頭に当たる部分は削れて分かり難く、形は大きく、その場に直立したような姿だ。芸術なんていうものに疎い鬼姫の目にはそれが、まるで仁王像のように見えた。

 

(……はて?)

 

 しかし、そのデザインよりも何よりも、鬼姫が強く気に留めたのは、だ。

 

(この石像、後ろにあったじゃろうか?)

 

 鬼姫が居る場所は、これまで幾度となく見た十字路の一角だ。石像越しにその後ろを見やっても……誰かが運んできた形跡はない。つまり、この石像は初めからここにあったということになる。

 

 ……何も考えずに進み続けていたから見落としたのだろうか。だとしたら間抜けな話だと、鬼姫は苦笑した。

 

 こんなデカい石像を見落とすぐらいだから、よほど苛立っていたのだろう。

 

 やれやれ、苛立った所で事態が好転するわけでもないのだと、己を戒めながら鬼姫は再び探索を──。

 

『ん、んん?』

 

 ──始めようとした瞬間、何かが喉元を通り過ぎたような気がして振り返った。

 

 けれども、そこにあるのは先ほどと同じ石像が一つ。他の気配は何も感じない……気のせいかと首を傾げた鬼姫は、再び──。

 

『……?』

 

 ──歩き出した途端、今度は口元を何かが通り過ぎた。

 

 何だ何だと辺りを見回すが、やはりそれらしい気配はない。鬼姫の真後ろに石像があるだけで、その石像も特に変化は見られ……ん? 

 

(こいつ、何で常にワシの真後ろにおるのじゃ?)

 

 たった数歩程だが、鬼姫は確かに歩いて、その分だけ石像から離れた。

 

 なのに、石像は振り返れば肩がぶつかるぐらいの位置にある。前も、その前も、常に同じ距離に石像があって、鬼姫を見下ろしていた……はずだ。

 

 ……あれ、こいつ、もしかしなくとも動いて……? 

 

 そんな悪い予感が、鬼姫の脳裏を過った。

 

 いちおう、念のため石像を調べ直すが……やはり、ただの石像だ。『力』は全く感じ取れないし、触れた指先からは石や鉄といった冷たい感触しか伝わって来ない。

 

 ……。

 

 ……。

 

 …………物は試しだ。

 

 そう思った鬼姫は、石像に背を向けて走り出した。そのまま扉をすり抜けて(扉の先も、十字路であった)へ移ると、急いで振り返る。そして、頬を引き攣らせた。

 

 ──石像は、あった。

 

 鬼姫の真後ろで、先ほどと同じく振り返れば肩がぶつかってしまうぐらいの位置で。

 

 わざとやっているのか、ポーズも先ほどから全く変化がなく、仁王立ちしている。

 

 ちなみに、その後ろに有るはずの扉は……中途半端に開かれた状態で破損していた。

 

(こ、こやつ、さっきのあやつと同類か……!)

 

 嫌な予感、大的中。しかも、今度は先ほどの時以上にワケが分からないやつだ。ぶっちゃけ、『異界の住人たち』の方がまだ分かり易いとすら思えてくるぐらいに。

 

 ……生きているのか、死んでいるのか。

 

 感知できる限りでは、『何となく生きているかもしれない』というのが分かるが、正直、どっちなのか鬼姫にもさっぱり読めない。

 

 ぶっちゃけ、生きているように見せている石像だと言われた方が、幾らかしっくり来るぐらいだ。

 

 先ほどのやつも出鱈目であったが、また、似たような類と対面する日が来ようとは……しかも、何故か自分を狙ってくる。

 

 さっきのは不用意に立ち入ったこちらが悪いが、今度は違う。

 

 まだ何もしていないのに……どうしてワシばかりと、鬼姫は色々な意味で頭を抱えたくなった。

 

 だが、しかし。頭を抱えた所で何も話は進まない。

 

 もしかしたら、これも自分が居るせいで起こしてしまった何かなのかもしれないと思うと、落ち込んでいる暇はない。

 

 ……とにかく、目の前の石像をどうにかしなければならない。

 

 自分なら平気だが、他の者たちに被害が及びでもしたら、目覚め悪くなるどころ話ではない……けれども、どうしようか? 

 

 とりあえず『力』を放って通じるか試してみるが、駄目だった。

 

『黒蛇』も『青い炎』も外れることなく直撃はするものの、さっきのやつのように効果が見られないのではなく、反応しないのだ。

 

 まあ、それもそうである。鬼姫の術は、石ころを壊すならまだしも、石ころを殺せなんて、とんち染みた術ではない。

 

『黒蛇』も『青い炎』も、一度は石像に纏わりつきはするものの、すぐにその身体から零れ落ちて……そのまま蒸発してしまった。

 

 ──この様子だと、『死手の誘い』はおろか、『本気状態』になっても通じはしないだろう。

 

 どちらも生者、死者問わず、その魂ごと消滅させる最凶の術だが、物理的に物を壊す類の術ではないからだ。

 

 それに……拘束も無駄だろう。鬼姫の脳裏に、破損した扉の姿が思い浮かぶ。

 

 見た所、あの扉は鉄製っぽい。それを粉々ではないとはいえ、あのように容易く破損させ、鬼姫の背後に接近する素早さだ。一瞬ばかり封じ込めに成功したとしても、すぐに脱出されてしまうのが目に見えている。

 

 それならば、と。

 

 石像そのものを壊そうと念じれば、ふわりと石像が浮き上がる。一拍遅れて、落とされた石像は、がごん、と異音を立てて床に叩きつけられた。

 

 だが、石像は全くの無傷であった。続けて、二度、三度、四度と繰り返すが……傷つくのは床の方で、肝心の石像は全くの無傷であった。

 

(重いうえに頑丈……やるだけ無駄じゃな。あ、いや、待て、いかん、いかんぞ。これでは手の施しようがないのじゃ)

 

 これだけやってもヒビ一つ入らないなら、物理的な破壊はほぼ無理だろう。だが、術が全く通じない以上、物理的な攻撃以外に、この石像を仕留める方法がない。

 

(しかし、この場で何か使えそうな物は……っ!?)

 

 いっそ、爆弾か何かでもあればなあ。そう思って周囲を見回した──瞬間、であった。視界の端で、何かが動いた。

 

 ハッと鬼姫がそちらに目を向ければ、鬼姫の眼前……文字通りの目と鼻の先に、石像の手が止まった。

 

『ぬぉ!?』

 

 思わずたたらを踏んで後退する。そうしてから、再び沈黙を維持している石像を見て、鬼姫は……もしや、と石像から一瞬だけ目を離した。

 

 

 

 

 

 ──瞬間、石像は鬼姫の目の前に現れた。

 

 

 

 

 

 突然、そこに出現したかのように己を見下ろしたのを確認した鬼姫は、再び距離を取る。けれども、石像は動く気配を見せない。『なる、ほど。これはまた面倒じゃな』いよいよもって鬼姫は、苛立ちを表に出して舌打ちをした。

 

(どうやらこやつ……注意を逸らした瞬間から攻撃してくるようじゃな)

 

 それも、鬼姫が反応出来ない程の速度で。その事実に鬼姫は唸り声をあげながら……そっと、自身の首もとを摩った。

 

(幽体のままで良かったと思う日が来ようとは、な。ほんに、今日は色々な事が起こるのじゃ)

 

 石像は『力』を持っていないから、霊体である鬼姫に触れることは出来ない。そのおかげで鬼姫は未だ無傷なのだが、これでもし『名雪』に憑依した状態であったなら……おそらく、脳天は粉々だろう。

 

 鬼姫とて死者なのだから、脳天を割られた所でどういうことはない。しかし、おそらくは反撃出来ないまま撤退を余儀なくされるだろう。

 

 悔しいが、この石像の初速は鬼姫を優に超えている。はっきり言って、先ほどの速度で動かれたら、もう鬼姫では捕らえきれないかもしれないからだ。

 

(う~む、このままずっと見つめ続けているわけにもいかぬしなあ)

 

 考えろ。とにかく考えろと、鬼姫は必死に頭を働かせた。

 

 ……。

 

 ……。

 

 …………だが、そう都合よく妙案が思いつくはずもなく。今も絶えずに『警告』が延々と鳴り響いている中、鬼姫は……決断を迫られていた。

 

 このまま逃げるか、否か。単純に逃げるだけなら容易いだろう。壁をすり抜けて移動してしまえばいい。追いかけて来るにしろしないにしろ、どうせ鬼姫に触れることが出来ないのだから。

 

 だが、その場合コイツはどうなるのだろうか。今は鬼姫だけを狙っているが、もし、この場に別の人物が来たとしたら、そいつはどうなるのだろうか。

 

 鬼姫がそうであったように、そいつが石像から目を離した瞬間に襲われるのだろうか……そう思うと、何もかも放り投げてここを離れるのも迷いが生まれ……ん? 

 

(これは……?)

 

 最悪、見捨てる他ないか。徐々にそちらに天秤が傾き始めていた鬼姫の意識が、『何か』を捕らえた。

 

 思わず、そちら……『何か』がある天井の向こうへと目を向ける。途端、首辺りにひゅんひゅんと風を感じたが、構わず『何か』へと目を凝らす。

 

(……ワシを、呼んでいる?)

 

 しばし気配を探った鬼姫は、困惑に首を傾げた。いまいち分かり辛いが、確かに、そこに『何か』がいる。そして、これまた分かり辛いが、自分を呼んでいるような……感覚を覚える。

 

 どうだろう、目の前のコイツや先ほどのあいつとは少し違うようには思える。

 

 気配からも敵意を感じ取ることは出来ないし、ここに来て初めて意思を持って接触を図ろうとする者の存在に、興味も覚える。

 

 ただ、この『何か』からも『力』を感じないから、言ったとしても気づいては貰えないだろうけど。

 

 ……。

 

 ……。

 

 …………行くか、否か。

 

 しばしの間本気で悩んでいると、コロコロと何かが足元で転がったのを視界の端に捉えた。『んん?』視線を下ろせば、そこにあったのは、大きな目玉を持つ、三つの物体であった。

 

 一言でいえば、その外観は人魂に目玉が付いたような形、であろうか。

 

 形こそ似ているが、それからも『力』を感じ取ることは出来ない。今度は何だと屈んで見やるも、その物体は鬼姫ではなく石像を見つめているばかりだ。

 

 そうしてしばし観察を続けていた鬼姫は、とあることを思い出して石像を見上げ……ほう、と頷いた。

 

 どうやら石像は、(霊体であるか否かは別として)人でなくても見られている間は動けないようだ。その証拠に、鬼姫が視線を逸らしても動く様子は見られない。

 

 これは……今の内に来い、ということなのだろう。

 

 実際の所は違うのかもしれないが、とにかくこれで鬼姫は自由になった。

 

 一先ず決断した鬼姫は『すまぬ!』、そう言い残すと同時に床を蹴って、天井をすり抜ける。

 

 天井の先はまた十字路であったが、構うことはない。『何か』が居るであろう方向へと鬼姫はひたすら進み続ける。どこを進んでいるのかは分からなくなり、徐々に『警告』も小さく遠ざかってゆく。

 

『──見つけたのじゃ』

 

 そして、とある部屋へと辿り着いた瞬間、『警告』は聞こえなくなって……鬼姫は理解した。

 

 その部屋は広くはないが言う程狭くもない。真新しいベッドが一式と、そのベッドから伸びている、仰々しいコンセントが壁に一つ。

 

 その壁には他にも、鍵が取り付けられた『小さな窓』があって、唯一外へと通じるであろう扉はこれまた仰々しく頑丈そうだ。それらを順々に見回した鬼姫は、次いで、本命へと目を向ける。

 

 その部屋のベッドに、そいつは居た。

 

 そいつは小さく、見た瞬間、鬼姫はその子を童だと勘違いした。ソフィアと同じく、金色の髪を持つ女の子だと……けれども、すぐにそれは違うことを悟った。

 

 何故なら、タオルケットから飛び出した身体の大部分が、一目で人のソレではないと分かる有様だったからだ。

 

 鋼鉄の頬を枕に預け、機械の手足を折りたたんで横になっているその姿は、まるで赤ん坊のよう。爛々と赤い光を放つその子の瞳が、静かに……何を言うでもなく、鬼姫を捕らえていた。

 

『ワシを呼んだのは、お前か?』

 

 単刀直入に、鬼姫は尋ねた。直後、鬼姫は舌打ちした。返事が返されるとは思っていないが、つい、尋ねてしまったことに思い至ったからだ。

 

『はい、そうです』

 

『──っ!? お主、ワシの言葉が……!』

 

『はい、分かります。あなたの声を、認識しています』

 

 だからこそ、『力』を持たないはずのその子から返事が返されたことに鬼姫は本気で驚いた。『あなたの動揺を、認識しています』そしてそれは、その子にとっては予測済みだったのかもしれない。

 

 きりきりきり、と歯車(ギア)が噛み合う異音と共に身体を起こしたその子は、唯一残されている肉眼を、改めて鬼姫へと向けると。

 

『あなたの存在を、待っていました』

 

 そう、告げたのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 




正解は引き分け、互いに有効打を与えられないからね、しょうがないね
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