怪文書、集めました   作:へか帝

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勢いで書いたやつ筆頭


第10の生徒(1)

試験

 

 

 

 雄英高校入学試験日。

 

 転びかけたところを、通りすがりの受験生に"浮かせて"もらった緑谷出久は、女子と会話した喜びに打ち震えていた。

 

 だが悲しいかな、一方的に声を掛けられ、返事もしないまま別れることを世間一般的に会話とは言わない。

 

 しかしそんな些細なことは、当事者である出久には関係ない。入学試験直前に女子から"お互い頑張ろう"と激励をもらったとあれば、思わず立ち止まって雄たけびを上げてしまうのも仕方ないことだったのかもしれない。

 

 

 

 だが、今日は倍率300倍超を誇る雄英の入学試験日であり、ここはその雄英の玄関先。当然ながら相応に混雑している。そんな中、ぼうと突っ立っていたらどうなるか。当然、人とぶつかる。

 

 

 

「うぉっとと、ごめんなさ……!?」

 

 

 

 後ろから誰かにぶつかられた出久は、すぐに自分の障害物っぷりに気づいた。慌てて振り向きつつ、謝罪の言葉を口にしようとして──思わず、息が詰まった。

 

 

 

「い、異形型の個性……!」

 

 

 

 ベルト状の触手がミイラのごとくびっしりと巻きつけられた、繭のようなシルエットの巨体。顔があるであろう前面には口の裂けたハニワのような白い仮面が張り付けられており、肩と思わしき部分には琥珀のような物体が輝いていた。

 

 まごうことなき異形型の個性。いや、だとしてもこれほど人の原型を留めないものは珍しい。

 

 

 

(ひょっとすると変身するタイプの個性か? 少なくともこれが本当の姿じゃないよな。全身に巻いている帯は個性で発達した体の一部で、それで全身を覆い隠しているのか。だとしても、異形型の個性には何かしらのモチーフがある場合がほとんだ。動物から架空の生物までバリエーションには事欠かないけど、これはまるで予想がつかない。仮面も作りものではなくて体の一部にみえるし──)

 

 

 

 驚きをよそに、外見からわかる情報で個性を分析する。

 

 日がなヒーローを追いかけては、その個性のポテンシャルを考察するのが趣味としている出久の悪い癖だった。

 

 

 

「……? どいてほしい。小回りが利かないから」

 

「は、ハイ! ごめんなさい! どきます! 今!」

 

 

 

 出久は裏返った甲高い声を上げつつ、無駄に機敏に道を譲った。相手はそのまま、出久を一瞥することもなく校舎へと歩みを進めて──

 

 

 

(……ない! 浮いてるー!?)

 

 

 

 その生徒は、足元に丸い影だけを残し音もなく前進していた。空を飛ぶ個性もまた、希少なものである。ましてやそれが羽や翼によるものではなく、"浮遊"であれば尚更だ。少なくとも、誰もかれもが見慣れているものではない。

 

 

 

「そっか、小回りが利かないっていうのはそういうことだったのか……」

 

 

 

 その背中を見送りながら、出久は一人で納得した。しかし見れば見るほど印象的な姿。小さく見えるほど遠くなっても、独特のシルエットからして一目瞭然。

 

 ほんの一瞬の邂逅であったが、当分は忘れることができないだろうと出久は思った。

 

 この個性社会、いろんな姿を持った人がいる。それは今や常識であり、それが当然の環境で生まれ育った出久ももちろんそんなことは弁えている。でもあれは少々インパクトが強すぎた。

 

 しかし、それを差し引いても。

 

 

 

「まさか、女の子だとは思わなかったな……」

 

 

 

 一体誰が、あの物々しい仮面の奥から耳触りの良い柔らかな女声が聞こえてくるなどと予想できようか。

 

 出久は、その外見とのギャップも相まって、彼女の声がしばらく耳に残っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 所変わって講義室。講義室とはいっても、そこは流石の雄英。大勢の受験生を全て収容できるケタ違いの広さは、いっそ舞台といって差し支えないレベルだった。

 

 

 

『今日は俺のライヴにようこそー!!! エヴィバディセイヘイ!!!』

 

 

 

 スタージに立つ首元に小型のスピーカーを下げたサングラスの男性が、講義室に余すことなく爆音を響かせる。

 

 すかさずで合いの手を期待するように耳を澄ませるようなジェスチャーを取るが、今日の聴衆はライブに訪れたフォロワーではなく、胸いっぱいの不安を抱えた受験生。誰一人として、声を上げる者はいなかった。

 

 

 

『こいつあシヴィー!!! 受験生のリスナー! 実技試験の内容をサクっとプレゼンするぜ!! アーユーレディ!?』

 

 

 

 無論次の呼びかけにも誰一人として呼応しない。だが、それは彼が滑っているとか、知名度が絶望的とそういう理由ではない。単純に場が悪い。

 

 

 

「ボイスヒーロープレゼントマイクだ! ラジオ毎週聞いてるよ感動だなぁ……!」

 

 

 

 現に出久はプロヒーローを目にした感激の声を抑えきれていない。

 

 雄英の教師は全員が第一線で活躍するプロヒーロー。壇上に立つ『プレゼントマイク』もまた例外ではなく、重度のヒーローオタクである出久が興奮せずにいられるはずがなかった。きっとそういう生徒は出久一人だけではないはずだ。

 

 

 

(それにしても……)

 

 

 

 出久は恐る恐る、ちらりと目線だけで隣の席に視線をやった。それだけで、見覚えのある黒い巨躯で視界の半分以上が埋め尽くされる。

 

 

 

(隣の席かぁぁぁぁl!!!)

 

 

 

 遠くから見かけてもすぐにわかる容姿だなぁなどと思っていたが、もちろん近くても全然わかりやすかった。視界の端に入れるだけで一目瞭然レベル。あまりに早すぎる再会であった。初めが良い出会いとは言えなかっただけに、出久は気まずさを感じずにはいられない。 

 

 

 

(ど、どうしよう。何か声とか掛けた方がいいのかな? でも何を?)

 

 

 

 プレゼントマイクの説明や、他の生徒の質問、回答の内容をを耳に入れつつも隣の席の様子をうかがう。件の生徒の表情は、相も変わらず白い仮面そのものであり一切窺い知ることができない。 

 

 

 

(個性のこととか、聞いてみても大丈夫かな……?)

 

 

 

 ことヒーローオタクの出久にとって、個性の洞察や活用方法の考察もまた癖のようなもの。当人の得体の知れなさも相まって、出久は知的好奇心が刺激されていた。

 

 だが、いざ声を掛けようとした瞬間、プレゼントマイクに質問を投げかけていた生徒が、質問の終了とともに振り向き声を上げた。

 

 

 

「ついでにそこの君! 先ほどからぼそぼそとうるさい上に……次は隣の生徒にちょっかいでもかけようとでもしているのか!? どういうつもりで雄英に来たんだ君は!」

 

「す、すみません……」

 

 

 

 ひっそりと縮こまりながら、何とか謝罪の言葉だけは絞りだす。周囲からは小さな笑い声が聞こえるのを、出久はじっと耐えた。

 

 その後も説明は滞りなく進み、やがて校訓"Plus ultra"の言葉を最後に締めくくられた。

 

 次に案内されたのは試験会場。ビルの立ち並ぶ市街地であり、雄英の広大な敷地をふんだんに活用した実際の街と遜色のない景観だった。

 

 

 

 不安から出久は周りの受験生の様子を見回す。

 

 見れば持ち込んだ個性補助のアイテムを確かめる者から、ただただ雄英の敷地のスケールに圧倒される者など、他者多様であった。

 

 その中に一つ。これまた見覚えのある、そして分かりやすすぎる人影を見つける。

 

 

 

(隣の席の人……! 同じ会場だったのか! なにか一言だけでも………)

 

 

 

 例の生徒とは今朝から何度も縁が繋がっている。とんだ奇遇だが、軽い雑談くらいなら不自然ではないはず。そう思って近寄ると、逆に先に声を掛けられた。

 

 

 

「……私の個性、そんなに気になる?」

 

「えっ? いや、あのっ」

 

「……すぐにわかるわ」

 

『ハイスタートー!』

 

「え?」

 

 

 

 会話の機先を制されたことでリズムを崩され、更に考えていたこと言い当てられ。そこから立て続けにプレゼントマイクの号令。ただでさえ入試という場で緊張しているのに、理解の追い付かないことが続き、出久が一瞬フリーズする。

 

 

 

『どうしたあ!? 実戦じゃカウントなんざねえんだ「LAAAAAAAAAAhhhh───!

 

 ……あ?何の音』

 

 

 

 突如フィールド内に響き渡る女声のコーラス。それと同時に、玉虫色をした八角形の波紋が街の空に幾重にも重なって浮かび──

 

 

 

『だああああああ!?』

 

 

 

 ──街に、奈落がひとつ生まれた。

 

 

 

「え、えええええええ!?」

 

『オイオイオイ今年はいきなりぶちかましてくれるじゃねぇの! オラ他の連中も急げ急げぼさっとしてるとポイント全部かっさらわれちまうぞ!!?』

 

 

 

「……ね?」

 

 

 

 それは少し、茶目っ気のある声だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 所変わって審査室では、試験開始から早くも審査官の間にざわめきが起こっていた。

 

 薄暗い室内には無数のモニターが浮かび、それぞれが別々の箇所、角度から試験会場の様子が映し出されている。

 

 

 

「今のは誰の仕業だ? 悔しいがどういう『個性』で何をどうしたのかさっぱりだった」 

 

「そこのモニターに映ってる異形個性の生徒だな。確か推薦組の候補生だったろう、覚えているぞ」

 

 

 

 モニターの一枚を拡大しつつ、審査官の一人が一枚のプロファイルを手に、内容を読み上げる。

 

 

 

拒絶(こばみ ぜつ)。個性『S2機関(スーパーソレノイド)』。

 体内に無尽蔵にエネルギーを生成する特殊な器官を持ち、"絶対領域"と呼ばれる極めて強度の高いシールドを展開できる個性……だそうだ。恐らく空に一瞬映った八角形がそうだろう」

 

 

 

 映像が奈落の底を覗き込むようなアングルに変わる。地面に空いた大穴は空に見えた波紋と同じ正八角形をしていた。

 

 

 

「なら今のは地面と水平に発生させたシールドを上空から叩きつけたのか?範囲、スピード、展開速度、極めつけにあの破壊力。どれをとっても規格外だな。街の区画丸ごと一つぶちぬいちまったぞ」

 

「初動も早かった。他の生徒を巻き込まない為に狙っていたか」 

 

「ま、この時点の獲得敵Pで実技は合格確定だわな」

 

「他の生徒の敵Pが減るな。こりゃ荒れるぞ」

 

「だが、よく食らいついている。今年は豊作だな」

 

「どうかな、ヒーローとして真価が問われるのはここからだよ」

 

 

 

 がやがやと楽しげに講評が交わされる中、審査官の一人がつぶやくのと同時に、試験会場にビルを突き破りながら巨大ロボットが現れる。

 

 0Pの仮想ヴィラン。倒す倒さないの次元から外れた、圧倒的脅威。

 

 当然ながら、受験生は全員蜘蛛の子を散らすように逃げだす。

 

 そして逃げ遅れた女子生徒が一人と、それを見て躊躇なく飛び出す生徒が一人。

 

 

 

 審査官たちから歓声が上がり、救助活動Pの採点が行われる。

 

 与えられたPは、60点。敵Pが一人の生徒によって大幅に独占された本年度の実技試験において、その数値は。

 

 

 

 すなわち、実技試験合格確定者の二人目を意味していた。

 

 

 

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