詳しい人なら、原作との設定の矛盾はすぐに見つけられると思います。
いつか丁寧に修正して書き直すかも。
春。雄英高校の新学期、その最初の一日である。
配属されたクラスは1-A。出久はその扉の前に立ち、胸を高鳴らせて今後共に歩むクラスメイトに思いを馳せていた。
特に、入試で顔見知った四角い眼鏡の彼とか、爆破に定評のある幼馴染あたりとは別のクラスだったら嬉しいなぁと思いつつそーっと扉をスライドさせて教室の様子が窺ってみる。
「机に脚をかけるな! 雄英の先輩方に申し訳ないと思わないのか!」
「思わねーよどこ中だ端役が!」
が、残念、これが現実……! 教室ではまさしく脳裏に浮かべた二人が言い争いをしている真っ最中だった。二人は何度か言い争っていたが、ふと、眼鏡の男子生徒が出久に気づいて声を掛けてくれたので、そのまま簡単に自己紹介を済ます。この眼鏡の青年は飯田天哉というらしい。
「緑谷君、君はあの実技試験の構造に気づいていたのだな」
飯田の言う実技試験の構造とは、つまり救助活動Pを受験生に伏せた上での試験のことを指しているのだろう。何らメリットの提示されておらず、他を省みるほど自身に余裕のない状況で、それでも誰かの為に行動できるか? と、そういうことである。
あの実技試験は単純にヒーロー活動に欠かせない戦闘力や情報力の他に、いわゆる自己犠牲の精神、ヒーローになくてはならないそれを持ち合わせているかどうかを見るものでもあったのだ。
無論、出久はそんなことを知るはずもなかった。試験のときのあれは裏を見抜いた上での打算的の行動などではなく、ただ"勝手に体が動いた"それに尽きる。
だが、だからこそだろうか。もう既にこの1-Aのクラスメイトの出久を見る目は、入試試験前に向けられていた嘲笑うような視線とは真逆のものだった。
「あ! そのモサモサ頭は!」
「……?」
僅かに聞き覚えのある声を聴き、出久は振り返る。視線の先にいたのはふわっとした髪型の女子生徒。校門の前で転ぶのを救けてくれたのにはじまり、遂には試験終了後にプレゼントマイクに獲得したポイントを譲渡できないかと直談判したあの女子生徒である。
それと、もう一人。嫌に見覚えのある白い仮面が見えた。あの異形型の個性の女子(?)生徒である。雄英のクラスを仕切る扉は、彼女の巨躯であっても余裕もって通れるサイズであった。そのためのバリアフリーである。雄英に抜かりなし。
(良い人! 制服姿やっべえええええ! あと仮面の人も! 入試のときまんまだ!)
思わぬ再会による喜びと、再会した女子生徒のうららかなエネルギーに当てられ思わず赤面する出久。その一方で、仮面の生徒の姿を見て黙ってはいられない生徒がいた。まさしく飯田天哉その人である。
「君、制服はどうしたんだ! 入試のときはまだしも、今日は入学初日だぞ! 雄英高校では制服の着用が義務付けらているはずだ、それは異形型の個性でもあっても例外ではない!」
「……着てる。中に」
この時、密かにクラスメイトに衝撃が走った。
その容姿で女子なのかよ、と。
しかも声めっちゃ可愛いじゃん、と。
そしてすぐに、クラスメイト──特に男子生徒──に二度目の衝撃が走る。
異形個性の生徒が言うや否や全身に巻き付けた黒い帯をするするとほどき始めると、その内から白くしなやかな肢体が露わになったのだ。雄英の制服に包まれていてもなお、たわわに実ったものや、くびれた身体のラインがくっきりと見て取れた。
クラスの男子の大部分の想いがシンクロする。
そしてそのうちの一人、彼女の姿を血眼で凝視していた小柄な生徒がぽつりと一言。
「中身めっちゃエロ「やや! これは失礼した、僕のはやとちりだったようだ!」
セーフ。留まることをしらない男子生徒のリビドーは真面目な飯田の声でかき消され、本人の耳に届くことはなかった。
それからしばらく、学校のチャイムの音と同時に廊下から無性ひげの目立つ男性が現れた。現れた、と言っても寝袋に入ったまま廊下に横たわった登場である。
そのままのっそりと寝袋を抜け出して静かになるのに○○秒かかりましたという定番の前口上のあと相澤消太と名乗った彼は、なんとこの1-Aの担任教師であるという。
およそ清潔感にかける、それ社会人としてどうなんだ的な風貌の相澤は、学校指定の体操服を突き出して言った。
「さっそくだが体操服着てグラウンドに出ろ」
◆
言われるがままグラウンドに集まりながら担任に詳細を問いただすと、なんとこれから入学式もガイダンスもすっ飛ばして個性把握テストを執り行うという。曰く、ヒーローになるのにそんな悠長なことをしている時間はないそうだ。雄英が売りにする"自由"な校風とは何も生徒だけに当てはまるものではない。相澤はそう言った。
行われるのは通常の体力テストと同じそれ。ただし、個性の使用を前提としその最大限を測るまさしく『個性把握テスト』。
初めに相澤がデモンストレーションとして、一人の生徒に個性全開でのボール投げをするよう指示した。選ばれた生徒の名は、爆豪勝己。とげとげしい髪とガラの悪い凶相が特徴で、その個性は『爆破』。
言われるがまま、大きく振りかぶった爆豪の手からボールが離れる瞬間、轟音と共に景気の良い爆発が巻き起こる。
「死ねぇ!!」
およそソフトボール投げとは無縁と思われる掛け声と共に放たれたボールは、爆破のインパクトを伴い、尾を引くように煙を残して彼方まで飛んでいく。
その記録、まさに『705.2m』。
常人ではどう転んでも弾き出せないような数値に、クラスメイトから歓声があがる。それは今まで抑圧されていた個性を自由に使えるという期待からなのか、中には面白そうという声すらあった。
だが、そのクラスメイトたちの楽天的な思考、意識を象徴するようそのな発言は、合理性を重んじる相澤にとって決して見過ごせるものではなかった。
「面白そう……か。ヒーローになる為の三年間を、そんな心構えで過ごしていくつもりかい?
……よし。なら、トータル成績最下位の者を、除籍処分としようか」
「「「はああああ!?」」」」
クラスメイトの全員が耳を疑うような発言だった。そしてその言葉が冗談の類ではないとわかると、みな一様に雰囲気が変わった。その顔色からも先ほどまで享楽的な要素は全く失せていた。
「入学初日ですよ! そうじゃないとしても、理不尽すぎる!」
「理不尽一つ満足に越えられないヒーローに何の価値がある? ここは最高峰のヒーロー養成学校。これから三年間、雄英は全力で君たちに苦難を与え続ける。
『Plus Ultra』。全力で、乗り越えろ」
第一種目は50m走。
ふくらはぎから煙を吹き猛スピードで駆ける飯田少年と、健脚によるカエル跳びで好タイムを出す女子生徒など、個性を駆使して好成績を残すのをクラスメイトは興味深そうに、そして不安そうに見ていた。他のクラスメイトの個性に興味がそそられるのは当然として、不安な表情の理由はやはり先の担任の発言が原因だろう。
問題行為や不正行為ではなく、純粋な"実力不足"が除籍処分の理由に足る。足りてしまう。それが雄英の、最高峰のやり方。
「皆工夫が足りないよ。個性を使っていいってのは……」
不可解なきらめき放つ妙な男子生徒がゴール地点と逆向きに立って言う。出久は彼に見覚えがあった。敵ロボットに立ちすくんでいた時、入試試験でビームを発射し救けてくれた生徒だ。その生徒は開始の合図の直前に、大きくジャンプした。
「こういうことさ!」
そう言い放ち、腰に巻いたからビームを照射したその生徒は、隣の生徒を容易に追い越すスピードでグラウンドを飛んだ。まさに個性の柔軟な使い方の手本そのものである。
惜しむべらくは、途中でビームが途切れて地面を転がり大幅に失速してしまったことだろうか。結局隣の生徒に追い越されてしまっていた。
「……参考になった」
その姿を仮面の眼窩で見つめていた絶は、インスピレーションを刺激されたらしい。何か思いついたようだった。順番が回ってきてスタート地点に立つ絶は、走ろうとする構えを見せず、ぼうっと立ち尽くすのみ。
そして、スタートの合図。
絶はそれとほぼ同時にその場で両腕を突き出すと、途端に腕が黒い触手に変じてゴール地点までめまぐるしいスピードで伸びていく。それは瞬く間にゴール地点に展開されたシールドにアンカーとして突き刺ささる。衝撃で一瞬たるんだ触手はすぐさまにピンと張った。触手が収縮している。絶はその引き戻す力に一切抵抗せず、むしろその力を利用し、自分の体を収縮のスピードでゴールまで飛ばす。
「2秒00。触手は超高速で伸縮可能、伸縮力も強力か」
「あんなフックショットみたいな使い方もできるのか……!」
なおゴールと同時に勢い余って自身の展開したシールドに盛大にぶち当たり甲高い防御音を鳴らしていたが、本人は何ともなさそうにしている。
見かねた金髪の生徒が、おそるおそると絶に声を掛ける。
「な、今の痛くねぇの?」
「めっちゃ痛い」
「痛いのかよ!?」
しれっと言い放つ絶に、金髪の生徒は景気よくツッコんだ。
「冗談。インパクトの瞬間に別のフィールドで相殺した」
「お、おう。意外と冗談とか言うのなお前……」
その容姿と言葉少なな性格もあって敬遠されがちな絶だが、なんとなくクラスメイトは感じ始めていた。──こいつ、意外と面白いやつかもしれない。
「な、あんた名前は? オレは上鳴」
「拒 絶。ぜっちゃんと呼んで」
とっつきづらそうではあったが、話してみると悪いやつではない。むしろかなりフランク。勇気を出して声を掛けてみてよかったと思う上鳴であった。
続く種目においても、他の生徒と同じように個性をフル活用してトップクラスの記録をたたき出していく。白い腕を包帯状の触手に変じさせて握力計をがんじがらめにしたり、立ち幅跳びで浮遊したり、ボールをシールドに乗せて空輸etcetc……
最終的に出た結果では八百万 百に続き二位となった。三位は轟焦凍の名が表示されている。
ぜっちゃんは誰とも異なる性格になった。不思議。