怪文書、集めました   作:へか帝

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あんまり先を考えていないけれど、無双しか道が無いように思える。


第10の生徒(3)

 

 翌日。1-Aのクラスメイトは昨日と変わらず全21名、本日も欠席無しである。教室には昨日の個性把握テストで最下位を記録した緑谷出久含めて全員が揃っている。先日担任の相澤が言い放った"成績最下位の者を除籍処分とする"という発言は、テストの結果発表のタイミングで生徒の最大限を引き出すための合理的な虚偽であったと説明された。故に最下位だった緑谷出久も俄然雄英の一員のままである。

 

 

 

 名門雄英とて飽くまでも高等学校、日がなヒーロー訓練をするわけにもいかず、午前中は通常の必修科目等の授業が執り行われる。

 

 避けては通れぬ退屈なそれらを乗り越え、来たるヒーロー基礎学。

 

 オールマイトの引率のもと、入試試験と同じ市街地を模した演習場へと案内される。

 

 そして生徒は皆、自身の為に特別に誂えられたヒーロースーツを着用している。ヒーローとて、とどのつまりは人気商売。いかに自分を魅せるかである。ヒーロースーツの目的として個性を補助、強化する要素を備えてはいるものの、最大の目的は"最高にかっこいい/かわいい自分"を演出すること。これに尽きる。

 

 自信満々にコスチュームを着こなす生徒の面々。それぞれがいかにも"俺を見ろ!"といった体だが、それと同時に周りのコスチュームにも興味を隠せずにいた。特に女子生徒への視線は顕著だった。

 

 特に発育豊かな八百万と拒の両名。八百万は体の大部分を露出したコスチューム。恐らくは肌の露出が個性の発動に関係するのだろうが、年頃の女子らしからぬ大胆な格好であった。

 

 一方の拒は一見すると全裸のようだが、よく見ると肌の色と同じ真っ白なタイツで全身を包んでいる。首元から胸元にかけては肋骨のようなものが露出しており、内側に深紅の球体が鎮座していた。頭部以外は人間らしい特徴を持つ彼女の、一層特異な部分である。

 

 が、それでも彼女の女性的な部分に目を引かれてしまうのはコスチュームの罪である。当の本人は周囲の視線に頓着は無いようだった。

 

 

 

 

 

「先生! ここは入試と同じ演習場ですが、また市街地演習を行うのでしょうか!?」

 

 

 

 全身を白い鋭角的なアーマーで包んだ人物が声を上げる。顔はフルフェイスのヘルメットで覆われてるが、そのハキハキとした喋りと声で飯田天哉であるとわかった。

 

 

 

「いいや! もう二歩先に踏み込む! 屋内での対人戦闘訓練さ!」

 

 

 

 存在からして画風の違うオールマイトが、力強く答えた。

 

 

 

「ヴィラン退治は屋外で頻繁に見られるが、凶悪ヴィランは屋内の方が出現率が高いんだ。このヒーロー飽和社会、真に賢しい敵は屋内に潜む!

 

 君らにはこれから「ヴィラン組」と「ヒーロー組」にわかれて2対2の対人戦を行ってもらう!」

 

「!?」

 

 

 

 一番最初のヒーロー基礎学の内容が、まさかの対人戦闘という事実に生徒たちの間に衝撃が走る。

 

 

 

「基礎訓練もなしに?」

 

「その基礎を知るための訓練さ!」

 

 

 

 生徒の一人、蛙吹梅雨が首を傾げながら尋ねたのに対し、オールマイトはそう即答した。椅子に座ってお上品にアレコレと御託を並べる前に、とりあえず実戦で体を動かして自分にできることや足りないものを直接叩き込むという算段らしい。

 

 

 

 生徒たちはすぐに勝敗の設定をどうするのかや人員の分け方、攻撃の加減などの質問をオールマイトにぶつけた。オールマイトはすぐに質問には答えずに、すっとカンニングペーパーを取り出し、説明をつづけた。流石にそこまでは暗記していなかったようだ。

 

 オールマイト。教師としてはまだまだ新米である。

 

 

 

 さて、今回の状況設定はアジトに核を隠しているヴィランと、それを回収処理しようとするヒーローという構図となっている。ヒーローは制限時間内に敵を捕縛するか核兵器の回収をすること、ヴィランは制限時間いっぱいまでに核兵器を防衛するかヒーローを捕まえることが勝利条件。

 

 

 

「コンビ及び対戦相手はくじで決めるぞ!」

 

「しかし先生、我がクラスは21名の奇数です!」

 

「ああ、だからうち一回は2対3の戦闘になる。数の多いほうがもちろんできることは増えるが、当然連携の難易度も上がる! 数の暴力を活かすのも楽じゃないぞ! ちなみに戦闘の風景は地下のモニタールームでクラスのみんなと観戦するからな! 講評もあるから心しておくように!」 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「聞けば聞くほどトンデモ個性だよね……拒さんの」

 

「ぜっちゃんと呼んで」

 

「え、あの」

 

「呼んで」

 

「わ、わかりました……。改めてよろしく、ぜっちゃん」

 

 

 

 平坦な、しかし拒否権を感じさせない圧のある声で『ぜっちゃん』呼びを強制された。拒さんはぜっちゃんと呼んでもらうことに何か譲れないポリシーのようなものがあるのだろうか。

 

 異性をあだ名呼びするというのもやや気恥ずかしいが、彼女はこれからこの共に切磋琢磨するクラスメイトであり、これから始まる戦闘訓練のペアだ。今後の関係を良好に保つためなら自分の羞恥心などは捨て置こう。

 

 しばらく俺をみつめたあと、何かに満足したらしいぜっちゃんはモニターへと視線を戻した。うん、少しずつだけど彼女の見た目にも慣れてきた。

 

 

 

 さて、先ほどからしばらくペアになった拒さんと作戦会議を兼ねて互いの個性を教えあっていたが、その規格外っぷりには思わずため息が出る。今回俺こと尾白猿夫はヒーローサイドで拒さんとペアになった。個性把握テストの時から存在感を放っていた彼女の個性だが、直接彼女の口からその詳細を聞いてみると、まさに強個性としか言いようのないものだった。

 

 

 

 特にわかりやすいのが、高い防御性能の防壁を瞬時に数十枚単位で展開する個性。他にも腕を帯状にほどいて伸縮させられるらしいが、やはり特筆すべきは防壁の方だろう。

 

 方向に制限もなく、ノーモーションで起動が可能。それだけでも俺からしたらべらぼうに強力に思えるが、なんと展開した防壁は防壁の正面に限定して移動させられるという。そのため攻撃手段としての使い道もあるという訳だ。その移動速度も個性把握テストを見るに生半可なスピードではない。

 

 

 

 ただ、一方でいくつか制約もあるようで、特に今回影響があるのが彼女の機動能力だ。

 

 拒さんは体質上、全力で走ったりなどの機敏な動きが困難なのだという。心臓に疾患があるとかそういう類のものではなく、つまるところ異形型個性からくる一種のしわよせというやつだ。彼女に限らず異形型の個性を持つ人には身体能力に難があるケースは珍しくない。俺も大きな尻尾があるのでそういった方面の問題には理解がある。

 

 

 

 幸いにして一応個性把握テストで見せたように触手や防壁を活用して機動力はある程度は補填できるようだし、それらを差し引いても彼女の個性の強力さを考慮すればデメリットを全て補ってなお余りある。今回の戦闘訓練が屋内というのも都合がいい、少なくとも彼女が俺の足を引っ張るような展開は考えにくいだろう。むしろ、その逆の可能性の方が高いかもしない。

 

 

 

「一戦目の緑谷くんや爆豪くんの時にも思ったけど、そういう派手さがちょっと羨ましいな」

 

 

 

 ある程度立ち回り方や方針も固まった来たので、世間話をしてみる。

 

 拒さんは不気味な容姿から話しかけにくい雰囲気はあれど、ついつい会話を交わしたくなる。言葉数こそ少ないが、それも彼女の気質のようなもので俺らに隔意があるわけではないので気にならない。

 

 

 

 内容は先ほどの一回戦の内容だ。特に、彼らの個性について。

 

 緑谷くんの自らの肉体すら耐えきれない、いっそ狂気的とすら言えるパワーには見る者を圧倒する力がある。爆豪くんもそうだ。爆破というのは視覚的にも聴覚的にもよく映える。あれはそのまま爆豪くんのシンボルとなるだろう。戦闘の風景が派手なヒーローは、自然と人気が出る傾向がある。悲しきかな、見栄えというのはヒーロー稼業的にも決して軽視できる要素ではないんだ。コンプレックスとはまではいかないけれど、俺としては目の上のたんこぶといったところか。永久の課題にならないといいんだけど。

 

 

 

「尾白くんのも、強力」

 

「そうかい? とにかく地味だし、さっき話した通り特殊能力とかは秘めてないんだけど……」

 

 

 

 俺は隣の仮面の少女の横顔に、そんなことを言った。

 

 俺はあまりこの個性は"強い"と思ったことはない。無論、俺はこの尻尾を手足の延長として鍛えぬいてきた。信頼できる武器であると胸を張って言える。そして他の個性と比べてみたときに、俺の個性の方"強い"と断言することはできなかった。

 

 

 

 彼女はしばらく思案をしているのだとおぼしき動作をしたあと、その暗黒空間にでも繋がっていそうな黒い眼窩を俺に向けて喋り出した。

 

 

 

「私はあなたが個性把握テストで全ての科目において好成績を収めていたのを覚えている。多方面の要素が混じるテストで欠点のない成績を残すのはとても困難。それを可能とした尾白くんを、私は状況によらず常に高い水準で力を発揮できる人物だと推察している。あなたの個性は、他の要因に左右されない絶対的な要素。私はそれを、とても強力だと考えている」

 

「……」

 

「あなたがいると、心強い」

 

 

 

 今まで聞いた彼女の言葉の中で、一番長いセリフだった。

 

 俺は二の句が継げなかった。驚きや戸惑いなどが色んな感情があったけど、ただひとつ──

 

 

 

 ぜっちゃんとならうまくやれる気がする。それだけは確信した。




第10の生徒の在庫ぶんはこれで終わりです。
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