翌日の朝。
「全然人おらんがな」
今日はこたつのあるいつもの執務室ではない。長机とパイプ椅子、それから黒板だけのささやかな作戦会議室だ。
しかし、昨日の晩にこの小さい基地中からかき集めたパイプ椅子は、半分以上が空席だった。
「やっぱり朝から会議は無茶でしたね。みんな寝坊ですよ」
「流石にこんなに少ないとは思ってなかったなあ」
結構大変だったんだけどなあ、椅子集めるの。こんなことなら手ごろなダンボール詰んで椅子にするくらいで丁度良かったな。
午後からの会議にすればよかったかなとも思ったが、それはそれでみんな居眠りするのがオチのような気がする。そして、たぶん居眠りする連中とこの会議に寝坊したやつらはほとんど同じメンツになる気がする。
「とりあえず今いるやつだけでやるか」
「では、出席を取りましょうか」
そう言ったのは春田さん。今回は書記をお願いしている。
大した人数ではないが、こうも欠席者が多いと出席確認が大切だ。欠席者になんらかの罰を与える意味でもな。
今回の罰はそうだなあ、夕飯のカレーの時にフォークしか使えない罰にしよう。お米もルーも満足に掬えない歯がゆさに苦しむがいい。
「まずはSPAS」
「もぐもぐ」
「食べるか喋るかどっちかにしてくれ」
「もぐもぐ!」
「食べるの優先しよった!」
出席とってる最中だよ今!? 食うなよ! そして食べ物を持ち込むなよ!
「ちょっとどう思います春田さん!?」
「まあまあ、SPASさんですから」
春田さんはもうSPASのこの態度に理解を示しているようだが、絶対おかしいからね?
ハンバーガーを口いっぱいにほおばっててなに言ってるかわからんけど、その割に元気のいい返事なのが無性に腹立つ。今日だって朝ごはん食べるために起きてたんだろうな。だってSPASだもん。お前はそういうやつだ。
食事中のSPASなんて相手にしてられん、次だ次。
「あー……AA-12」
「うっす」
「その様子だとお前また徹夜か?」
「私は睡眠を超越した」
「お前それ絶対徹夜テンションだろ」
キャンディをくわえたまま、両手でサムズアップするAA-12。目の下の隈をみるに相当キてるようだが、こいつ大丈夫か。突然ぶっ倒れたりしないだろうな。
しかしこの徹夜テンションのが上手い事働いて斬新な意見が飛び出すかもしれない。こういう人員がいてもいいだろう。
でもそうだな、こいつが会議中に居眠りしたときは見てみぬふりをしてやろう、それくらいの情けはあってもいい。
さて次。
「ネゲヴ」
「……zzzz」
「……」
「春田さん、これどう思う?」
「寝てますね」
「寝てるよな」
やっぱこれ絶対寝てるわ。春田さんが言うんだから間違いない。背筋のピンとして伸ばして座ってるけど、とても穏やかな寝顔してるわ。「スヤァ」って擬音をつけたい。
「ネゲヴー?」
「ハッ! ……寝てないわよ」
「……まあいいけど。出席してくれただけでお前は偉い」
「でしょ! やっぱエリートだから私」
「ちょっとぽんこつ入ってるのが玉に瑕だけどな」
「さ、誰がぽんこつですって!」
「よせ。お前のぽんこつエピソードには本当にいとまがないんだ。こんな朝っぱらから俺にその数々を紐解かせる気か」
「すべて私が間違っておりました」
「よしそれでいい」
ネゲヴは自分のことを一流エリートだと思い込んでる一般ぽんこつエリートだからな。有能なのに諸々がぽんこつなんだよなぁ。その割に自分に対する謎の自信はいったいどこからやってくるのか。でも正直見てて面白いんだよなこいつ。結構すき。
「ナガさん」
「おるぞ。わしは早起きなんじゃ」
朝早いのはさすがおばあちゃんといったところか。しかも常識的。だって名前を呼んでそれで終わったもん。出席をとるときって普通はそうなるよね。
さて、これで全員らしい。ほんとに少ねぇ。どうせドラグノフは来ないとは思ってたけど、昨日までせっせと準備してたグリズリーまでいないし。夜の椅子集めまで手伝ってくれたのに。
まあ仕方ない。
「さっそく本題なんだが、うちの基地のまわりに装甲つきの人形がうろちょろしててな。まあこれは直接偵察してもらってるお前たちならわかってるだろうが」
「わしあいつら嫌いなんじゃ。撃っても撃ってもまるで歯が立たなくてのう」
苦々しい顔でナガさんがぼやく。やはり現場で戦ってる人としても装甲兵の存在は目の上のたんこぶであるらしい。まあそらそうだわな。
「ナガさんの言う通りでな、弾薬の消費量も馬鹿にならんし対策を考えにゃならん」
「なら私がいるじゃない。このネゲヴに任せれば一網打尽にしてみせるわよ」
「お前はダメだ」
「何で!」
ネゲヴが俺に食って掛かる。お前からしたら理不尽に感じるかもしれない。でもなネゲヴ。これにはちゃんと理由があるんだ。
「お前すぐトリガーハッピーになるじゃん」
「いやいやいやいや!」
いやいやじゃなくて。お前否定できるような立場じゃないんだぞ。完膚なきまでに事実じゃん。なんなら否定材料がまったくないことくらいお前自身が一番わかってるだろ。
「違うの! あれは単なる100点バーストだから!」
「わかってねぇこいつ!」
俺の想定を超える常識をお持ちだった。え、何? 100点バースト?
「マシンガンってそういうものだから! ノーカウントよノーカウント!」
「おだまり! お前の妄言に付き合ってたら二日と経たずに弾薬が底を尽きるでしょうが!」
ネゲヴが謎理論を提唱するのも今回が初めてじゃないしな! しょっちゅう弾を使う言い訳しやがるんだこいつ。
「うちの運営方針は一にコーラに二に倹約だ、忘れたとは言わせんぞ!」
「ぐぬぬ……!」
「春田さんを見習え、ワンショットワンキルだぞ。こんなにお財布にやさしいことが他にあるか」
「あら、光栄です」
「それにひきかえネゲヴ。お前はどうなんだ、言ってみなさい」
「い、いっぱいショットワンキル……」
「そういうとこだよ!」
だからぽんこつなんだお前は。マシンガンゆえの多量な弾薬消費は、まあしょうがない部分もある。でもそれに対する考え方というか、そのあたりの諸々がお前のぽんこつたる所以だよ。
「まあネゲブ。お前だって腐ってもマシンガンの端くれだ、引き金から指を離したないのもわかる」
「く、腐ってないし」
「だからお前のために半年に一回だけ撃ちまくってもいいXデーを設けてるだろ? それで我慢ししてくれ」
「まあ、わかってるケド……」
ほんとはこのXデーも相当しんどいんだ。正直年に一回に伸ばしたい。出費めっちゃきついんだ。コーラに回したいんだ。
でもネゲヴには普段から無茶とかさせてるし、我慢もさせてる。これはなんとか維持したい。たぶんネゲヴもそれをわかってくれてるからこそ引き下がってくれる。
確かにネゲヴはこの付近の装甲兵程度なら、本人の言葉通りものの見事に壊滅させてくれるだろう。弾薬消耗量どえらいことになるけど。
「てかコーラちゃん呼べば解決じゃね?」
AA-12が、さも不思議そうに問う。やはりその疑問はみんなが持ちうるものなんだな。
「それはダメなんだ。コーラが足りない」
「出た指揮官の謎の尺度」
謎ではない。きちんとしたコーラレートに則った単位でコーラを考えている。まあそれを人に言ったところで理解を得られないのも経験上わかっているので、わざわざ弁明したりはしない。
「ともかくそういうことだから他の方法を頼むよ」
と、ここでさきほどまで食に没頭していたSPASがすっと手を上げた。
「お、なんだSPAS。言ってみろ」
「おかわりください」
「ねぇよ!」
この期に及んで何を言い出すんだこいつは。一瞬でも建設的な意見が出るかもしれないと思った俺が間違っていた。だいたいおかわりもなにもお前に一食目のハンバーガーを提供したの俺じゃないし。
「お前が来た日を特異点としてエンゲル係数がバグってるんですけどその自覚はおあり?」
「?」
「何かわいらしく首傾げてるわけ?」
だめだ。自覚症状がまるでない。しばらく余裕のあった配給の貯蔵が、いっきに火の車になった全ての原因はお前にあるんだぞ。
ちなみに貯蔵量の動きだけ見ると配給もコーラもだいたい同じような推移をしている。つまり一個人が左右してるってということが読み取れるわけですね。
今どうでもいいわそんなこと。
バァン!
「UMP40ちゃんの登場だぜオラァーッ!」
「ぶおおおおおおぉぇっげほっげほっ。……ぶおおおお!」
「朝っぱらぐらい大人しくできねぇのかてめぇらはよぉーっ!」
けたたましくドアを打ち破って現れたのは、ギャリギャリと小さなタイヤをフル稼働させながら台車を押すUMP40と、簀巻きの状態で台車に乗せられながら謎のエンジン音を口ずさむアーキテクトだった。
ご覧の有り様のとおり、こいつらはこの基地における筆頭問題児。この二人に比べたらトリガーハッピーのネゲヴやエンゲル係数の破壊者SPASなんて可愛いもんよ。
だいたいこいつらはここに来たいきさつからしてもうよろしくない。
アーキテクトはなんと鉄血のハイエンドモデルの捕虜であるそうだ。まあ藤のような紫色の瞳とか陶器のような白すぎる肌など、IOPの人形らしからぬ特徴があるのでまあわかりやすいっちゃあわかりやすい。
そもそもなんで鉄血のがうちの基地ではっちゃけてるのかと言えば、どっかで捕虜にしたはいいけど諸々がめんどくさいことが判明したので、暇なうちの基地に押し付けられてしまったという悲しい理由がある。この基地の方面には大規模な鉄血の勢力もないのも要因かな。
それにしてもこのアーキテクト、ハイエンドモデルという肩書に対して申し訳ないくらいにアホである。たぶん上の人にもほとんど危険視されていないんじゃないかな。
そしてUMP40だが。こいつはなんか色々とダメだ。うちの基地に新しく人がくるときは何かしらの形で事前に連絡が来るものなんだが、このUMP40だけなんの連絡もなく家具を運搬する物資箱に詰められてやってきた。ご丁寧に『存在してはいけないことなってるからよろしく♪』というポストカードつき。送り主からして不明という数え役満。
無尽蔵のテンションが生み出す暴走列車とはお前のことだ。
「で、何しに来たんだよ」
「じゃーん!」
「……なんだそれ」
「装甲兵に困ってるって聞いて、作ってみた!」
UMP40が取り出したのは、密閉されたコーラのペットボトル。
「これね、コーラ爆弾」
「コーラ爆弾!? な、なんておぞましいものを……!」
コーラ爆弾。それは、コーラのペットボトルのキャップの裏に糸を通したメントスを仕込むことで、コーラを投擲した際の衝撃で内容を攪拌させメントスコーラ反応を引き起こす、れっきとしたケミカルウェポンである。しかしそのあまりに非人道的な要素を伴うため、その実用は見送られてきた。
その現物が、ここに……。
『UMP40、道徳を失う。』今回の議事録の副題はこれで決まりだな。
とか言ってる場合じゃねえ、こんなところコーラちゃんに見られるわけにはいかん、すぐに処分しなければ──
「ねえ指揮官。コーラが無いんだけど……」
「ヒィッ」
おかしいなあ、天使が死の宣告してくる。
恐る恐る作戦会議室の入り口を見てみると、ただコーラが見つからない状況に対して、悲しそうに眉を下げるコーラちゃんだけがいた。なんていたたまれない……。だが、いまコーラをコーラちゃんに提供することはできない。UMP40のほうをちらりと伺うと、コーラ爆弾は後ろ手に隠していた。UMP40もこの状況の危うさが分かっているらしい。
よし、このままうまい事隠し通して──
「コーラならあるよ! ほら!」
このアホ! バカ! だからお前はアーキテクトなんだ! なんて自ら寿命を縮めるような発言をするんだ! 台車の上で嬉しそうにうねうね跳ねやがって! だいたい何で簀巻きになってるんだよ。いつもほとんど放し飼いで好き勝手歩きまわってるのに。ノリか? やっぱノリなのか?
しかしまずいぞ、アーキテクトのキラーパスのせいでコーラ爆弾を隠し通せなくなってしまった。だが、うまい事言いくるめることができればあるいは……!
「あ、えっと、コーラ爆弾っていいまして。これ、あの。えへ」
「へたくそか!」
ちっとも言い訳できてないじゃねえか! 何ならもうどうしようもなくなっちゃって愛想笑い浮かべるしかなくなっちゃってるじゃん!
しかしあの傍若無人、テンションの永久機関たるUMP40がたじろいでいる。コーラを前にしたコーラちゃんおそるべし。見たまえよあのぎこちない笑顔と冷や汗。ちょっとかわいそう。というかそんなビビるくらいなら最初からコーラに手なんか出すなよっていう。
「いいねそれ! 私好きだよ!」
「え、ほんと!?」
おや。これは風向きが変わってきたぞ……? これなら、あるいは五体満足でこの作戦会議室から出ることが──
「これ振ればいいの?」
「あ、ちょっここで振ったら──!」
20XX年 X月 XX日。
作戦会議室は、コーラの泡に包まれた──
このあとめちゃくちゃ掃除した。
春田さん:議事録を指揮官からくすねた借りたペンで書いてる
UMP40:指揮官がいないとしおれたひまわりみたいになる
指揮官:UMP40がいるとしおれたひまわりみたいになる
コーラちゃん:コーラ爆弾を常備するようになった
SPAS:このあとおかわりした
AA-12:寝た
ネゲヴ:寝た
アーキテクト:あほ