これ読んで気になったら、作者ページから連載版を読んでくれると嬉しい。
白銀の比翼1
友人の
「美依、いつも私にゲーム勧めてきて……」
剣や杖を持った男女が数人描かれたパッケージには『New World Online』と鮮やかな文字で書かれているのが見て取れる。
最近になって急激に売上を伸ばしているVRMMOというジャンルで、月夜もそのハードは持っている。もっとも、ゲーム好きな美依に誘われて買って以降、ほとんど使っていないのだが。
「ゲームは好きだけど、私、全然分かんないんだよね……」
美依はゲームに疎い月夜に、このゲームを始めるにあたってやることが書かれたメモを渡してきた。その時のキラキラとした目が忘れられず、無理とも言えず受け取ってしまったのだ。
「あの目は……完全に私が始めるの信じて疑わないんだもんなぁ……今更断りづらいしー」
これで明日、『やっぱりやらない』なんて言ったものなら美依のことだ、隠れて泣く。
「仕方ないから、設定しますか!」
月夜はハードを取り出し、電源を入れる。
別にゲームが嫌いなわけじゃない。
少しくらい付き合ってもいいだろう。
というか美依に『
そんな言い訳を頭に浮かべながら、月夜は初期設定を開始した。
月夜は『New World Online』の初期設定を、メモを片手に終えていく。メモのお陰で設定はスイスイと進んだ。
「よっし、初期設定はこれでいいかな」
いよいよ電脳世界へとダイブすることになる。月夜にとっては久々の感覚。目を閉じて、次に目を開けた時には、もうゲームの世界だ。といっても、まだ月夜がゲーム内で操る分身、いわゆる
「まずは……名前かぁ。私の名前って珍しいし、そのまんまツクヨでも大丈夫とは思うけど……」
月夜はしばらく悩み、読み方を変えたツキヨと名前を入れて決定ボタンを押した。
空中パネルの内容が変わり、映し出されたのは初期装備について。
「へぇ。結構たくさんあるんだ。美依とパーティ組むことになると思うしなあ。どうしよ」
そんなふうに悩みながらスクロールしていくと、気になる項目を見つけた。
「双剣、か……。確か、前にも美依に誘われたゲームでやったなぁ…」
両手で別々の剣を操るとかかっこいい!との理由で現実でも動きを考察したこともあった。ステータスを上げれば、ゲーム的なアシストも加わるので操れない訳ではないが、盾持ちのような防御力もなく、大剣使いに劣る攻撃力に短剣使いに劣る敏捷の中間職のような装備。
逆を言えば大剣使いより速く、短剣使いより高い火力を持っているのだが、パーティの配置に困る武器だったと思い出した。
「……でもまぁ、ソロやコンビなら使いやすい部類だったっけ?それに一応、普通の片手剣も扱えるのか」
そんなわけで、月夜は前にも少し扱ったことがあるという理由から双剣を選択した。
ゲームにおいて、普通の片手剣は
月夜が好むのはそんな片手用片刃直剣だった。そして、片刃直剣は双剣でのみ選択が可能である。
「つぎは、ステータスポイントか」
ステータスポイントは最初に100ポイント与えられていて、今後もレベルが上がると貰えるものだ。
「魔法は使うか分かんないし、とりあえずINTとMPには振らないで良いよね
ちなみに、首や関節、目といった弱点を攻撃した際はダメージが増加するのだが、DEXを上げても攻撃が当たりやすくなるように少し補正がかかる程度であり、動き回る敵の弱点を突くのは容易ではない。そのため弱点を狙うより、確実に攻撃力を上げた方が良いという結論が出ていたりする。
「あー……身長は
月夜の身長は同年代の平均より高く、本人としてはコンプレックスになっているのだが、実はそれなりにスタイルが良く、クールな印象で人気が高いことを知らない。
「あ、でもリアルバレ防止に髪の色とかは結構変えられるんだ……なら」
月夜は、納得がいくまで髪や目の色を弄りまくる。そうして十分ほど経ち、ようやく満足のいくデザインになった月夜は、フフンと自慢げに一息ついた。
「うん、完成ー!よし、じゃあ行こう!」
月夜の体が光に包まれる。
次に目を開けた時、そこは活気あふれる城下町の広場だった。
◇◆◇◆◇◆
「へぇ……所詮ゲームって思ってたけど、すっごいリアル!」
一目見て、納得した。この景色は現実でも見たことがない。幻想と現実が両立した中世に紛れ込んだかの様な独特の雰囲気がある。
「おっと…。とりあえず、ステータス!」
ヴォンという音と共にツキヨの前に半透明な青いパネルが浮かび上がる。
―――
ツキヨ
Lv1 HP35/35 MP21/21
【STR 15】 【VIT 0】
【AGI 40〈+10〉】 【DEX 45〈+25〉】
【INT 0】
装備
頭 【空欄】 体 【空欄】
右手 【初心者の双剣】左手【初心者の双剣】
足 【空欄】 靴【初心者の魔法靴】
装備品【空欄】
【空欄】
【空欄】
スキル
なし
―――
「うーん…双剣は両手の武器装備欄埋まっちゃうし、防御力に振ってないし…失敗だったかなー?」
よくわからないので、ツキヨは装備品の項目をタップしてみた。すると、再びヴォンという音と共に、別のウインドウに切り替わる。
―――
『初心者の双剣』
【DEX +25】
『初心者の魔法靴』
【AGI +10】
―――
「んー……まぁ、AGI高めに振ったし、攻撃は避ければいいよね。弱点のダメージ増加狙いなのは変わらないし」
とりあえず、今知りたいことの確認を終えたツキヨは、恐らく既に来ている友人を探すことにした。
「さてと。私は見た目にこだわって時間かかっちゃったけど、美依のことだから、もう始めてると思うんだよねー」
そんな訳で、ログインして最初に目についたもの。青空から降り注ぐ光により、雫がキラキラと輝く噴水の方へと足を向ける。美依が分かりづらい場所にいるはずがないという信頼からだったのだが、予想通り、現実と同じ赤毛の少女。
「わーぉ。ツキヨさん、予想通りすぎてちょっとビックリだよ」
周囲をキョロキョロキョロキョロと不安そうに見渡している姿は庇護欲すら湧きそうで、もし近くに悪質プレイヤーでもいれば声をかけられそうな様子である。
早いところ声をかけよう。そう決めて、ふと、なんと声をかければいいのか分からなくなった。
「ネットマナーとして、ゲーム内で本名呼んじゃいけないよね……プレイヤーネームくらい聞いとくべきだったなぁ…」
悩んでいても無駄に時間がすぎるだけなので、ツキヨはよしっ、と軽く気合を入れると、美依の元に近づいていく。
…………後ろから。
んんっと喉の調子を確かめて、少しだけ声音をキザったらしく。
「やぁ、そこのお嬢さん?」
「ふうぇうはぁ!?」
―――
「ぷっ、くくくっ!さいっこう!ふうぇうはぁ!?だって!ふうぇうはぁ!?あっははは!」
「つ、月夜なの!?お、驚かすのはやめてよ!」
「ぷっくく……はぁ、はぁ。ごめんごめん。なんて声かければ良いのか分かんなくてさ。ゲーム内で本名は呼んじゃいけないから。私はツキヨね。本名と似てるから、今のは聞き間違いってことにしといてあげる」
一頻り笑いを収めてから、ツキヨは驚かした理由を話す。名前を知らなかったから、今のは不可抗力だ、と。
「だったら真正面から来てよ、全く…。わざわざ無駄にカッコいい声出さなくていいよ。それと、私はミィだからね」
「ミィが可愛いから仕方ない」
「理由にならないからねそれっ!」
胸を張って堂々と宣言するツキヨに毒気を抜かれたミィは、友人の現実とは違いすぎる特徴にようやく気付いた。
「ていうかツキヨ。その髪とその目!どうしたの?」
「ふふん。ミィは見落としたみたいだけど、リアルバレ防止に髪や目の配色を変えられたんだよ。だから少しこだわってみました」
今のツキヨは、きれいな黒髪が銀髪に変わり、瞳は血を思わせる紅色になっていた。
設定時に色々と配色で遊んでみたものの、結局しっくりせず、ツキヨが一番好きな色で合わせてみたのである。
そんなこだわりの見えるツキヨの姿に、ミィは悔しそうな表情を浮かべた。
「むぅ……私も変えるべきだったかなぁ…。今からでも変えられる?」
「一回決定したら、変えるのは少し手間みたいだよ?それか、そういうアイテムが出るのを待つしかないね」
「うぅー…。仕方ない、このままやろ。そういえば、ツキヨは武器何にしたの?私は杖にしたよ」
切り替えが早い。もう見た目については諦めたらしく、武器紹介のコーナーが始まった。
お互いに初心者装備を何にしたか気になるらしく、ミィは自らの杖を掲げた。
「おぉ、なら双剣の私とバランス取れたね」
「双剣か……。確かに二人ならバランスいいね」
「でしょ?それに、下手にやったことのない武器選ぶより、前にもやったことのある武器の方が良かったからね」
「なるほどね。なら私が後衛でツキヨが前衛か」
「そうなるね。ホントは片手剣でも良かったんだけどさ。ほら…ね?」
「たしか、双剣の時だけ片刃直剣を選べたんだっけ?ツキヨは両刃より片刃の方が好きだもんね」
「刀身が大きくなるから、両刃だと重さで振り回されるんだよねー」
しばらく雑談しお互いに何を選んだのか、戦闘スタイルの確認を終えた二人は、まず何をやるべきか話し合うことにした。
「とりあえず、ミィは魔法が必要だね?」
「うん。スキルショップ見ていい?」
「うん。だからまずは、スキルショップに行ってめぼしい魔法スキル探してもいい?」
「いいよ!あ、私も何か良いスキルあれば買おうかな?」
「そう言って、いつも無駄なものまで買うのは誰だっけ?」
「うぐっ……」
「あはは!じゃあ行こ!」
―――
「と、言うわけで、やってきましたスキルショップ!」
「わーわー」
街の中がどうなっているのか確認するため、ショップを探しつつもぶらぶらしていた二人だったのだが、人の出入りが激しく、またその殆どが初期装備な店を発見した。二人してあそこだ!と当たりをつけて突撃したのは正解だったらしい。
「ミィはどの魔法を使うのか決めた?」
何気なしに聞いたツキヨだったのだが、ミィの口から出たのは迷いだった。
「うーんと、さ…。その、ツキヨ」
「なにー?」
「本当はやらない方がいいって思うんだけどね、その……。一属性だけ極めてもいい、かな?」
魔法使いを選択したプレイヤーの多くは、少なくともニ属性を取得している。その理由としては、モンスターによって一属性だけでは対応しきれない場合があるためだ。火に耐性のあるモンスターや水につよいモンスターなど様々いる。パーティの中に魔法使いが複数いれば、一属性だけという選択肢もある。だが今のところ、ツキヨとミィはコンビだ。だからこそ、ミィは迷っていた。
しかし、そんなミィの迷いも虚しく。
「へ?いいんじゃない?」
ツキヨ、あっけらかんと答えた。
「その内にパーティメンバーも増えるかもしれないし、ギルドやクランでも実装されるかもしれない。ならむしろ、一つに特化した方が強いかもよ!」
「た、確かに…」
「それにミィなら、耐性も打ち抜く火力を出せそうだし」
根拠もなく、冗談のような言い方で笑うツキヨに、ミィも笑う。そして結局、ミィは『火魔法』と『魔法の心得』というスキルを。ツキヨは『双剣の心得』『連撃剣』というスキルを購入し、早速フィールドに向かうことにした。