思いも寄らない発想の数々に、結構迷いました。
他の作品で名前を出してお礼を言ったら、注意されたことがあったので、名前は出さず。ただ御礼を申し上げます。
ありがとう、めっちゃためになわ!
他人から依頼を受けてバトルチップを作るというのは新鮮で、殊の外たのしいものだった。依頼料が20万というのは、オリジナルのバトルチップを依頼するのに全く足りない報酬だが、まだまだ新人の身であるのだし、ここは金額の事は脇に置いておくことにする。
依頼人の要望は炎属性のバトルチップとの依頼なのだけれど、同じナビを使っても戦い方が違ったり、そもそも人型で無いかもしれないので依頼者に大まかなナビの姿と戦い方を聞くことにした。
メッセージでやり取りする内に、これってファイアマンなんじゃないかと思い始めた。だって手首から先は火炎放射器だとか、この俺のナビに相応しい豪快な炎を使うだの言ってくるのだ。
ファイアマンの強化なら簡単だな。
今回は報酬が少ない駆け出し向けの依頼な為、売りつけるバトルチップは2枚とした。相手は炎属性のバトルチップなら本当に何でも良いみたいだった。取り急ぎフレイムタワーを購入して、火属性のサンプルデータを入手した。豪快な戦いを支える優秀なサポーターを用意してやろう。
学校に通う傍ら、依頼人に納めるバトルチップ用のプログラムを構築している。特に期日の話をしていなかったのは後で思い出したが、相手は国際犯罪者のWWW。なるはやで、よろしく案件だ。
まずファイアマンの戦い方を思い出してみよう。
えーと、たしか役に立たない爆弾と、前方へ向けての火炎放射。他は…ほかは?
無かったかもしれない。それは初心者ネットバトラーにも負けるというもの。ならばボムのかわりに、相手を自動追尾するミサイル的な物があれば良いのでは?
ファイアマンのボム攻撃は、地面を燃やして逃げ場を奪い、両手の火炎放射器でとどめを刺す。言葉にしてみれば確かに豪快な戦い方だなと納得した。しかし、前提のボムでは足場の全てを塞ぎ切ることはできず、そこそこの逃げ場を残してしまう。
相手の行動を抑制するのが目的ならば、それが別の物でも問題ないハズだ。作るチップの形が見えた気がしたので、メイクマンと開発を開始した。
開発開始から3日、1つ目のバトルチップ『シーカーボム』が完成した。このバトルチップは発動後、対象一体の敵に向かってゆっくりと飛来し、接触後爆発するといったシンプルなチップだ。一つ特徴を上げるなら、このシーカーボムは相手の背後を追いかけ、爆発による運動エネルギーをファイアマンの方角へ導く。早い話が使ったナビの方へと吹き飛ばすのだ。
シーカーの存在が移動範囲を狭め、もし起爆させたなら火炎放射器に自分から飛び込む羽目になる。我ながら恐ろしいバトルチップを作り上げてしまった。惚れ惚れする。
そこでふと火炎放射が間に合わなかった事態を思い付く。
『このナビ、近接攻撃する気あんですかねぇ?』とは、一緒に作業をしていたメイクマンの言葉だ。え、ヘイズマンならアップデートが終わった後、暇を持て余してウイルス狩りに行ってしまったよ。アイツの武装なら、ストーンマンとの戦いになっても生還出来る。勝てるとは言わないけどね。
そんなこんなで最後のバトルチップは、近接戦に対応するバトルチップを作ることに決めた。
「そう言えば以前に来た客から、こんなチップが欲しいって、要望を受けていたな」
いつか参考になるかもしれないと、フォルダに保存していた要望書を確認する。
「うーん、なんでこんなにバグの発生する物を欲しがるんだ?」
わざとバグの発生するバトルチップを作ることは難しくないが、バグがどのように発生するかは設定できない。それが設定できたら、そういう効果であってバグではないのだ。バグとは意図して発生させるとバグではなくなる。
これは手の出しようがないので、フォルダの下に視線を滑らせる。タグ分けしたおかげで、炎属性だけを確認することができる。
「あ、これ好きだなアブラマシマシ。ネーミング最高!」
良さそうな要望をいくつかピックアップしていく。ダイフンカ、ヒートアップ、デッドヒート、シンキロウ、フレイムトーチ。
「いろんなアイデアは、眺めているだけで楽しいな」
まずネットナビの性能そのものを引き上げるのは、バトルチップで行うには厳しい。単純にバトルチップに入るデータ量が足りないだろうというのとは別に、バトルチップの効果は一時的なものであり、長い時間発動し続けられない特徴を持っている。だから、バトルチップでナビの補強をするのは、現実的ではないのだ。
「バトルチップにするとしたら、エリアに設置するタイプか、一時的な強化になるんだよね」
『素直にフレイムソードでも持たせますか?』
ソード系は腕部から鍔、剣身が生成される為、ファイアマンのような手首や指がなくとも使用できる。
「あ、待ってメイクマン!このヒートハートってどうかな?」
受けたダメージを相手に共有させる攻撃反射系バトルチップだ。これならば接近戦の弱点をある程度カバー出来る上に、炎属性を持つファイアマンならば回復する副次効果が得られるかもしれない。
『ほぉ、面白いアイデアだあ!いっちょ、作ってみるか親方!』
―火野ケンイチ自室パソコン内部
「おう、ファイアマン!例のクリアってガキから注文したバトルチップが届いたぜ!」
ファイアマンのオペレーター、ヒノケンこと火野ケンイチはメールのチェック中に、待ちわびていたバトルチップ職人からのメールを発見し、機嫌良く持ちナビを呼びつけた。
最近になってWWWから幹部待遇でスカウトされる程度には有能なヒノケンにとって、ショッププログラムから送金先を割り出すのは容易い仕事だった。そこから口座の持ち主を特定するなど、キャンプファイアーの火を付けるより簡単な事だ。
『はっ、ヒノケン様。あの小僧が満足の行く物を作れたか、楽しみです』
ヒノケンがファイアマンの言葉に緩慢に頷く。
「ほー、俺様とのやり取りだけでここまでファイアマンの動きをシミュレートしてくるとは…」
クリアがよこしたメールには、戦いの中で想定したバトルチップの使い方について記されており、そこにはファイアマンの戦いによく見られる行動や、ヒヤッとさせられた場面を思い出させる内容があった。
『クリア…いえ、氷川透でしたか、分析力は中々の物ですね』
ファイアマンもメールの内容を確認しては、唸る様に呟いた。
「だがマダマダさ!このメールでは、バトルチップを使って戦う動きを想定していない」
ファイアマンが如何に強力なネットナビとは言え、バトルチップを全く使用しないなんてことはない。使うのは専らフレイムタワーばかりだが、接近戦になればフレイムソードだって使う。
「だがまぁ、このチップは悪くない」
炎をこよなく愛するヒノケンにとって、新たな炎属性チップの誕生はそれだけで喜ばしいが、ファイアマンに合わせて作り出されたこの2枚のバトルチップは、ファイアマンの勝利をより揺るぎ無いものとするものだ。
「よし、ファイアマン!早速ネットバトルに出掛ける!ついて来い!」
『はい、ヒノケン様』
その日のバトルは、ファイアマンの頭から発射されるボムで足場を削られた相手ナビが、地面などものともしないシーカーに迫られて動きを止め、ファイアマンが渾身の火炎放射を放ち相手をデリートした。
開発者の想定していない使い方をするのがユーザーの嗜み。透が作り上げたシーカーボムは、想定より悪意の満ちた運用をされることになった。
「この『ヒートハート』ってのは、隠し玉として取っておくか…熱いハートって奴は胸に秘めておかねぇとよ」
そう言ってニヤリとあくどい笑みを浮かべた。
『はっ!』
ヒノケンは就寝前にファイアマンに、一つの司令を出した。
「氷川透のネットバンク口座にウイルスを配置しろ」
ネットナビを用いれば、容易く身元がバレてしまう。クリアの存在を隠すため、そこに至る道を通行困難に細工する。そんな命令を。
あ、誤字報告ありがたいです。