事の起こりは秋原小学校の給食の時間に遡る。
秋原小学校も他の小学校と同じように、お昼の時間は給食を頂く平和な一日。そのな平和な風景からの騒動の始まりは、やはりと言うべきか我らがヒーロー、光熱斗である。いや、まだヒーローでないし、今回は騒ぎを起こしたヴィラン役だから褒められたものじゃない。
その日の給食はカレーであった。
もう一度言おう。
カレーだった。
どうにも熱斗くんは、その日になって初めてカレーを食べたらしく、一口目に口を付けたと思ったら、ものまま凄い勢いでバクバクと胃にカレーを流し込んでいた。
周りの全員が熱斗くんの様子に唖然としていたんだけど、熱斗くんはあろうことか、周りが止めるのも聞かずにカレーをお代わりし続けた。その回なんと4杯である。
その場は食べ過ぎ熱斗くんがお腹を壊しただけで済んだのだけれど、その後に熱斗くんの食べっぷりが噂になって、噂を聞いた人がなんだかカレーが食べたくなった。
秋原町はカレーブームに見舞われていた。
「街中からカレーの匂いが…」
『我らには分かりませぬが、ここ最近は毎日では?』
そんななか僕はといえば、特別カレーが好きでも嫌いでもない訳で、毎日どこからか漂ってくるカレー臭になんとも言えない顔をしていた。
「カレーかぁ…考えてみれば料理ぽいバトルチップ見たことないかも」
料理とバトルを並べて考えてみれば、回復系のイメージが浮かぶ。食べるという行動には時間が取られる為、ネットバトルにはとても向いているとは言えない。
「あ、ナビが食べられる料理なら需要がある?」
ネットワーク上に飲食店を開けば、掲示板前での待ち合わせのナビ多すぎ問題(掲示板の利用者含む)や、ロールの様な恋愛脳ナビのデートスポット、誰が通るか分からない場所での会話など、人格があるからこそ求められる機能が店にはある。
単純にネットワーク上に個室を貸す商いも出来そうだけど、貸しスペースか何かの場所のアジトを作っていたのが、ネットマフィアのゴスペルである。そんなテロリストを援助しかねない商売は御免被る。
兎も角、まずは料理が再現可能なのかプログラムを考えてみよう。
「これが味覚…なるほど」
「味があるのは理解できるが、それが美味いのか不味いのか、俺たちには判断つかんぜ」
試しに組み上げた料理プログラムを試食させて、帰ってきたコメントである。そうネットナビには味覚を感じる器官をインストールしても、味の良し悪しを判断するだけの蓄積がないのだ。味の好みは、幼少期の食事で決まる。何気ない試食会に全ネットナビの味の趣向が委ねられていた。
「?」
「警告!不正アクセスを確認!」
ヘイズマンの緊張した声がスピーカーから発せられる。
「くんくん…この芳しき香りは」
青白い電光と共に降ってきたのは、全身を薄い青色で染め上げたネットナビ、マジックマンの姿であった。
「なんですか…この感じたことのない欲求を掻き立てる香りは!」
「香り?…もしかしてカレーのこと?匂いまで再現してないけど…」
「いえ、確かに匂いがあります」
何故かは分からないが、試しにと作ったネットナビ用のカレーライスには匂いまで実装されているらしい。これがネットワークが行う情報修正の力なのか。
「所で、そちらのカレー…頂いても?」
「え、あ、どうぞ」
僕らの様子には目もくれず、カレーの入った皿を持ち前の魔法で浮遊させると、自分の眼前まで運び品よく食べ始めた。
(これPET越しのマハジャラマ、困惑してるんじゃないかな?)
「これが!これがカレー!我が主が毎日の様に試行錯誤している料理!」
なんだか知らないが、やけに興奮した様子のマジックマン。自分のオペレーターが食べていた物に、よっぽど興味があったのかな。
「素晴らしいお味でした。また頂きに来てもよろしいでしょうか?ああ、こちら代金です」
不正アクセスをした割に料理の代金は支払うのかとも思ったが、払うのはオペレーター。マハジャラマだし、カレーには真摯なのかも知れない。
送られたデータを確認すると、ネットバンクの口座に大量の炎属性ウイルスが発生しているという情報が書かれていた。
「え?」
「それではセキュリティは、万全に!」
言うだけ言ったとコチラの返事を待たずに、プラグアウトをしてゆくマジックマン。唖然とした様子で見送るメイクマンとは対象的に、ヘイズマンは侵入者に対するセキュリティシステムの必要性を実感している様だった。
「え?ういる、はぁ?!」
透が冷静になるまで、数十分間の時間を要したのだった。