「はい、到着ー!」
クリームランド特有の低い気温が、日本の夏からやって来た身体に涼やかな風を運ぶ。
「今日から五日間の間、クリームランドに滞在するわよ。明後日からオペレーターランク認定試験が始まるから、二日で準備を終わらせてね」
「もしかして、クリームランド語を勉強させたのってこの為ですか?」
先生はニヤリと悪どい笑顔を作ると、名産の燃えるワインに頬ずりしながら口走る。
「オフィシャル試験もクリームランドで取るからね。自国の言葉を学んで来られたら印象も良いし、同じ国でランク認定されてれば、確認作業で余計な時間もそう掛からずに済むわ」
確かに国外で取った資格の確認には時間が取られそうだが、ネットワーク社会でそこまで時間が掛かるものだろうか。
「ちょうど次のオフィシャル試験日辺りに、クリームランドでコンサートがあるしね」
「絶対それが本命ですよね!」
ホテルに付くなり、疲れる会話をやり過ごした僕は、試験に備えてクリームランドを歩き回る事にした。お供に持ち出したのはヘイズマン。メイクマンは今も自室でビーストの組み立て作業をしているので、日本にお留守番だ。
クリームランドは日本と同じ小さな島国で、オーロラで有名な国だ。首都のゼロキャヴィークには、美しいクリームランド城がそびえ立つ。世界初のネットワーク先進国だけあって、日本、アメロッパ、シャーロと続いて、小さくない発言力を維持している。
アメロッパからの引き抜きで、技術者の数が減少傾向らしいが、治安は雲泥の差なのだからアメロッパに住むより、クリームランドで暮らした方が遥かに安全だ。恐らく稼いだ後はクリームランドに戻ってくるのではないだろうか。
「へー、クリームランドはロブスターが美味しいのか…。ラム肉が豚肉の値段で買えるんだ…生産地かぁ」
僕の知識には技術者の引き抜きによって、クリームランドの技術発展は足踏みを余儀なくされた。しかし、世界最古の家畜用羊や観光資源にオーロラを持つなど、文化的に優れた国なのは疑いようもない。
「プリンセスが思い詰めるほど、問題がある国には見えないけど…」
露店通りを抜けて、見かけたゲームセンターに入ってみる。勉強ばかりしていて、ヘイズマンとのバトルは久しぶりだ。
「プラグイン、ヘイズマン.EXEトランスミッション!」
ヘイズマンをプラグインしたのは、どこのゲームセンターにもあるネットバトル用のホログラムテーブル。プラグインされたヘイズマンが、テーブル上に浮び上った。
『マスター、設定レベルは如何致しましょう?』
「炎山くんとのトレーニング以来だ。軽く最大レベルを試してみよう」
ヘイズマンが操作すると、対戦相手のナビが転送されバトルが始まった。
「ヘイズマン!」
呼び声に反応するように駆け出したヘイズマン。すると先程まで立っていた場所に木の杭がせり上がった。
「ウッディタワー…エリアスチール、スロットイン!」
両手を付けたナビに一瞬で接近すると、携えたハルバートが一撃で分断する。
「クリアタイム、3.78秒」
『所変われば…でしょうか、日本の物より旧型の様ですが』
日本にはバトルチップを使用する自立ナビと、戦えるホログラムテーブルなんて作られていない。僕が知る限り日本では自立型の開発自体が下火で、存在自体が珍しい。
「貴方…なかなかの腕前ね」
後からの声に振り返る。
「君は…」
艷やかなプラチナブロンドを、目深に被った帽子で隠した女性が両腕を組んで佇んでいた。
「よかったら、私とネットバトルしないかしら?CPUじゃあ相手にならないみたいだし」
女性はPETを取り出して見せる。
「ええ、構いませんよ」
「あら、クリームランド語が得意なのね。発音が綺麗だわ」
僕のクリームランド語はちゃんと通じているようだ。毎日クリームランドの歴史ドラマで勉強した甲斐があった。
「お言葉に甘えて…プラグイン、ナイトマン!」
電脳世界に2体の騎士が向かい合い、カウントダウンのホログラムが表示される。
「ヘイズマン!」
「ナイトマン!」
数字がゼロへと崩れ去り、ヘイズマンは駆け出した。どっしりと構えたナイトマンは、向かってくるヘイズマンへ向けて鉄球を射出するが、ハルバートの一撃で弾かれてしまった。
「へぇ、あのトゲトゲ鉄球。すごい強度だ」
「ナイトマンのアイアンハンマーを容易く…思った以上の腕のようね」
ナイトマンは重騎士らしく、頑丈なステータスを誇る鉄壁の騎士だが、代りに速力に乏しい弱点を持つ。ヘイズマンのハルバートを弾く硬度を持つ、重たい鉄球を自在に扱うパワーも脅威だ。
「遠距離からの攻撃はどうかな?攻撃用バトルチップ『ソードキャノン』スロット、イン!」
ヘイズマンの右腕に射出口が形成され、照準をナイトマンへと固定する。
『凌ぎきれるかナイトマン!?』
「!『ストーンボディ』スロットイン!」
オペレーターがサポートするが、貫通を主軸にしたソードキャノンには効果が薄い。弾丸に貫かれた身体で、どうにか地面に倒れぬように持ち堪えた。
「今だヘイズマン!バトルチップ『フミコミザン』スロット…」
止めのバトルチップを転送しようと構えた所で、ナイトマンはオペレーターの手によってプラグアウトされた。
「降参…負けたわ。貴方、強いのね」
握手を求める女性に快く応じて、お互いの健闘を称え合う。
「あなたこそ、ヘイズマンのハルバートを耐えた相手は初めてだ」
「頑丈なナイトマンの鎧を貫くだなんて、初めて見るバトルチップだったわ」
ネット商人クリアは販売を担当させているのが、自衛能力のないプログラムくんなので、危険なエリアはもちろん国外のサーバーに送った事もない。
「自作チップの1枚さ。よかったら1枚プレゼントするよ」
僕は自作チップのフォルダを取り出して、彼女に見せる。
「あら、いいの?ナイトマンにはどれが相応しいかしら?」
フォルダの中に敷き詰められたバトルチップから、ナイトマンに役に立ちそうなバトルチップを数枚選んでみせる。
「そうだなぁ…ナイトマンは重騎士デザインだし、シールド系は似合うかもね」
取り出したのは『ハイパーシールド』のバトルチップ。相手の攻撃を通さない強固な盾を全面に召喚するバトルチップで、内側からの攻撃を透過する性質から、ナイトマンの鉄球を放つ隙を上手く隠してくれる。
2枚目のお勧めは『デコイ・シューター』だ。自身のデコイを創り出すサポート系バトルチップだが、その真価は放置できないデコイであることだ。作り出されたデコイは、キャノン以下の攻撃力を持つバスターを装備しており、遠距離攻撃の乏しいナイトマンの弱点を補ってくれる。近接型のナビが相手であれば、デコイを攻撃する隙にアイアンハンマーを発射し、大ダメージを与える事も難しくない。
動き回って距離を取る相手の対策に『トラバサミ』はどうだろう。ステルスマイン系の罠を配置するバトルチップ。相手を拘束するのに特化しており、動きを止めるのにはうって付けだ。
「すごいわ…これを自分で?」
「バトルチップの要望をくれる依頼人がいるので…どれにします?」
「意地悪だわ…どれもナイトマンには有用じゃない」
怒ったように頬を膨らませ、態とらしい態度を取って見せる。
「いっそ購入されますか?クリームランドにはまた来る予定ですけど、バトルチップを売りに来た訳じゃないので、また会えるとも限りませんが」
「貴方外国人だものね…日本からかしら?」
瞼を瞬かせ、彼女は質問を飛ばす。
「はい、同じ島国なので潮風には耐性があります」
「それ日本語の教材でみたわ」
そう言ってカラカラと笑って見せる。
「いいわ、買わせて貰おうかしら」
「お買い上げ、ありがとうございます」
「代りに、日本に帰る前にラム肉でも買って帰ってよね」
交渉上手な人だなと思いながら、僕は了承した。
それからバトルチップの練習台として、数えられないくらいバトルを繰り返し、僕の観光は次の機会に持ち越される事になった。勝ち越しはしたが、売った『デコイ・シューター』が余りに厄介だった。
オペレーターランク認定試験では、筆記試験よりも実技試験の方が簡単だった。開催地に合わせた歴史問題が出た時には、あのドラマにちゃんと理由があって見せていたのかと戦慄した程だ。バトルはヘイズマンの使用禁止で、用意されたバトルチップを使用する対応力をみる試験だった。ソード一本で完封してしまったのだけど、全てのバトルチップを使用していないとかで減点されて無いといいな。
ご意見箱からの採用チップ
『ハイパーシールド』
『デコイ・シューター』
『トラバサミ』
名前出して感謝すると良くないかも知れないので、こんな形で感謝を示します。
ありがとうございます。