日本全土で起きた連続発火事件から二日、
オフィシャル協会は日本のオフィシャル資格を管理し、資格保有者に対して、適切な仕事を依頼と言う形で割り振る役目を担っている。この仕組みからオフィシャル協会は、非公式的にオフィシャルセンターなどと呼ばれている。
オフィシャル協会ができる前にオフィシャルになった者たちは、海外のオフィシャル扱いな為に、基本外様な対応をされる。一応、オフィシャルからのメールで、ネット犯罪にまつわる情報共有は含まれているが。
オフィシャル協会が最優先で抑えたい
メトロライン電脳ジャック事件、そしてデンサンタウン交通マヒ事件である。
電脳ジャック事件は、ストーンマンとエレキマン、2体のナビに因る共同作戦だった。ストーンマンがメトロ全域の電車を止めて駅から人を追い出し、エレキマンがその電撃でもって列車をジャックした。
ジャックされた列車は減速を知らず、調子に乗ったコーヒーカップの如く加速に加速した。列車は何故か乗り込んでいた光熱斗に因って解決したが、同時に起きた駅封鎖事件は僕が解決せざるをえなかった。
ストーンマンとの戦いで、僕は切り札の一つであるバトルチップ『ビーストコール2』を使用した。ビーストコールは、自身のパソコンに格納されているビーストを召喚するだけの単純なバトルチップだ。今回の呼んだのは砲撃戦仕様に換装したビースト、バスターカノントータスである。全力で砲撃すれば、最高硬度のファイアーウォールすら強引に貫通し、中のデータを残滓も残さずデリートする絶大な威力を誇る。
大型カノン砲を背負った四足歩行する巨大な陸亀が、石レンガの巨像と向かい合った。
ストーンマンの様な超重量ネットナビを相手にするには、基本的にキャノンの様な遠距離攻撃を選択することになる。超重量型はそれに見合ったパワーを持ち、相性の良いガイアハンマーを叩き付けられたりすれば、大抵のネットナビがデリートされるだろう。自立型ネットナビのストーンマンを作り出したワイリー博士は、それを理解してガイアハンマーのバトルチップをストーンマンに内蔵している。
結局は加減して発砲したバスターカノン砲の一撃で、ストーンマンはデリート。その配下のウイルスも駆除されて、無事に事件が終結した。
メトロライン電脳ジャック事件を受けて、国は迅速に対応した。一部のオフィシャル試験を緩和させ、資格保有者の確保に踏み切ったのだ。協会は対
メトロラインの事件の翌日、新たな事件が起きてしまった。それがデンサンタウン交通マヒ事件である。
その日は珍しい外国からの転入生が来ると、学年中で噂になっていた。転校生の名前は綾小路やいと、業界最大手のゲーム会社であるガブゴン社の社長令嬢だ。僕も最年少オフィシャルネットバトラーとして、パーティーに出席することがあったので面識がある。同じ子どもという事で、挨拶回りに付き合わされるよりはと話をした程度だが。
少し話をした所、僕がいるから秋原小学校へ転入したらしい事を聞いた。日本に戻るのが決まったやいとだが、戻れば小学校に通うことになる。現在日本はWWWの影響で、どこもセキュリティが不安視されている。オフィシャルが通っている小学校など片手で数える程もなく、秋原小学校に転入となった。
僕は隣のクラスなので、同じ授業を受ける事はないのだけれど、その日は一日に何回もどよめきの声が聞こえて来た。
交通マヒは案の定WWWによる攻撃だった。攻め込まれたのは、交通管理センターの電脳。車を止められた綾小路さんが、ナビのグライドを向かわせたところ発覚した。僕は綾小路さんの運転手から連絡を受けて、自宅のパソコンから交通センターにヘイズマンを送り込んだ。到着した電脳には数匹のウイルスが隠れていたが、事件はロックマンにより解決した後だった。
連日の報告書作成で疲れている所に、けたたましい警報が鳴り響いた。
「今度は学校襲撃か……」
オフィシャルの僕が通っているからか、それとも尽く作戦の邪魔をするロックマンを狙ったのか、秋原小学校にWWWがやって来た。それも教育実習生と言う正式な認可を取って。
『我々の…ネットワーク支配計画の本当の目的を今ここで発表する!』
ブラックボードから発せられるDr.ワイリーの声が、学校中に轟く。
「最近のネット犯罪増加はこれが理由か…」
『世界の終末戦争を起こす事じゃ!その為の優秀なスタッフを……教育プログラムスタートじゃあ!』
最近増加傾向にある小学生のネット犯罪。影響を受けやすい子どもが、WWWの真似をして起こしたものと報じられていたが、実態はもう一歩踏み込んだ洗脳処理を受けていたとは知らなかった。
デリケートな問題であり、事実をそのまま報道は出来なかったのだろう。
クラスの皆を教室から逃がそうと扉を掴むが、しっかりと電子ロックが掛けられていて開く事が出来ない。
「これよりオフィシャル権限による緊急捜査を開始します。ヘイズマン」
『心得ましたマスター』
ブラックボードにプラグインし、ヘイズマンが学校の電脳に降り立つ。ウイルスがプログラムの周りに居座り、映像データを映し出している。
「ウイルスを駆除するよ」
『ハッ!』
ハルバートを振るう度にメットールが駆除されて、数分後にウイルスが全滅した。
「教室の電子ロックを解除するぞ!」
学校の管理システムを守るセキュリティプログラム。その管轄下にある電子ロックを解除するには、前時代的なパスワードを突破しなければならない。
戦闘に特化したヘイズマンの弱点として、それ以外の能力が他のネットナビに比べて脆弱であり、ハッキングやプログラムの追跡、情報検索などは壊滅的だ。当然セキュリティの解除など、門外漢である。
「先生、パスワードに心当たりは?」
「ああ、っと…スマン氷川!分からん!」
ロックマンならパスワードのヒントを調べられたのだろうが、ヘイズマンにそんな機能はない。
「こんな手で来るなんてね…でも甘いよヘイズマン!」
透の指示を受けたヘイズマンが、電子ロックのプログラムを力任せに叩き切る。プログラムが破壊されたことで機能不全が発生し、安全装置が作動して部屋のロックが解除された。学校など人の集まる施設の安全装置は、ロックして人を閉じ込める可能性があるので、逆にロックが解除される事が多い。
「先生は廊下の安全を確保してください!」
「任せろ!」
急いで廊下に駆けて行く名勝先生を見送り、クラスメイトの顔を見渡す。
「洗脳プログラムを投影していたウイルスは倒したから、皆は教室の中で寛いでいて」
安心した様子で頷きあうクラスメイト達を一瞥し、廊下に掛けられたプロテクトを解除させる。ここに以前戦ったストーンマンが送り込まれたら、ネットワークが遮断された学校の電脳にビーストを呼ぶ事が出来ないヘイズマンは不利になってしまう。
廊下から無事を確かめ合う生徒たちの声を聞きながら、犯人がいると思われる管理システムの中枢へと急がせた。
『グライド!?』
中枢にたどり着くと、ナンバーマンが綾小路さんのナビであるグライドをサイコロ爆弾で攻撃していた。防壁に阻まれて近付けないロックマンとロールが、襲い掛かるウイルスと戦っている。
「ヘイズマン!」
周囲にいたウイルスのモスキートを撃破し、ロックマンに接触する。
『君は…?』
『私はヘイズマン、事態を捜査しているオフィシャルのナビだ。君はロックマンだな?状況を教えてくれ』
言葉少なく状況説明を求め、ロックマンはそれに答えた。ナンバーマンとグライドとを隔てる防壁は、学校のセキュリティプログラムを利用した防壁で、セキュリティを解除するにはパスワードが必要なこと。そして現在ロックマンのオペレーターが、パスワードのヒントから学校中を走り回って、セキュリティのパスワードを探している。
「またセキュリティか…」
『オフィシャルのナビなら、防壁をなんとか出来ませんか?』
『防壁を破壊するだけなら可能だ…が、中枢のセキュリティを破壊すれば、学校中のデータが外部に流失してしまう』
学校のデータ位と思われるかも知れないが、生徒の成績から住所や連絡先。教師の給料や教員免許を始めとした経歴、個人情報が目白押しであり、ウラにでも渡れば学校の閉鎖の可能性も出てくる。
『そんな!?』
「せめてパソコンがあれば、セキュリティプログラムの解除が出来るのに…」
「パソコンなら視聴覚室にあるわ!」
オペレーターの声が防壁を超えて届く。
「綾小路さん…ダメなんだ。即興で解析プログラム組んでる時間はないから…」
「そんなぁ…もう『オーラ』が持たない、グライド…」
そんな折に熱斗くんの声が電脳に響いた。
「パスワードはHANA665だ!」
声を聞いたロールが素早くパスワードを入力し、防壁が解除されるとロックマンがかけだし、グライドとナンバーマンの間に体を滑り込ませた。
ロックマンのエリアスチールによって、6×3のサイコロ爆弾を回避し、グライドを担いで退避していた。
「ロックマン、バトルチップ『ワイドソード』スロット、イン!」
「ナンバーマン、『インビジブル3』でマス!」
ロックマンに体を切り裂かれる寸前に、発動したインビジブルがナンバーマンを守る。
「WWWに入れば、こんなレアチップも買えるでマス。バトルチップ『ビッグボム』スロットインでマス!」
バトルチップが転送されると、ナンバーマンが両手で抱き抱える様に実体化したビッグボムを頭上に掲げ、ロックマン目掛けて投擲した。
『後に下がれロックマン!』
ヘイズマンが前に出る中、急いでハイパーシールドを転送した。ビッグボムがハイパーシールドに接触して起爆、大きな爆炎を上げハイパーシールドを粉々に吹き飛ばした。
『グッ!』
ロックマンたちの盾となって、その身で爆炎を引き受ける。爆風で体が吹き飛ばされれば、プラグアウトは免れない。
『ヘイズマン!』
「『ハイパーシールド』がこうもあっさり……」
唸る僕にナンバーマンのオペレーター日暮闇太郎は、自慢げに胸を反らしながらのたまう。
「とーぜんでマしょう。『ビッグボム』はレア度5の最高レアリティのバトルチップでマス!それをネットナビ4人分もダメージを引き受ければ、盾ぐらい簡単に吹き飛ぶでマスよ」
爆風が止むと同時に、片膝を付き動かなくなるヘイズマン。
「ヘイズマン!」
「足手まといを庇って良くやったでマスが、それもここまでマス」
ゆっくりとヘイズマンに近づくナンバーマン、その手には止めのサイコロ爆弾が掴まれている。
「ロックマン、『ショットガン』だ!」
「無駄でマス」
ロックマンの放った散弾は、ナンバーマンを捉えることなくすり抜けた。
「ちゃんと授業を聞かないからそうなるでマス。教えたでマしょう?ネットバトルはまず防御から、特にインビジブル系は優れた防御力を持つと……やっぱりダメでマス。こんな未熟な子どもがレアチップを使いこなせる訳ないでマス!」
日暮がそう言うと、ナンバーマンの目がグライドに釘付けになる。サイコロ爆弾の爆風でロックマンを吹き飛ばし、グライドに一歩二歩と近づいて行く。
「…今だ!攻撃用バトルチップ『ブレイブソード』スロット、イン!!」
ヘイズマンの真横を通り過ぎて背中を見せた瞬間、ヘイズマンの右手で輝く剣がナンバーマンの背中を切り裂いた。
「ナンバーマン!?」
炎山からの依頼で作り上げた、パラディンソードを超える威力を持つ最強の剣。代償として圧縮された剣身はソードのサイズまで小さくなってしまった。
『こ、降参です……』
『プラグアウトして貰おうか?』
ブレイブソードを突き付けられたナンバーマンは、日暮のPETに帰っていった。
「みんなもプラグアウトして、僕は学校のシステムを復旧する」
事件解決まで、もう少し掛かりそうだ。
システムを復旧して、学校のサーバーがある職員室に入る。そこで何だか改心した様子の日暮と、それを取り囲む熱斗くん達がいた。
「日暮闇太郎。オフィシャル権限により逮捕する」
「!はいでマス…」
覚悟を決めた顔で頷く日暮を校長は、手で静止した。
「今回の一件は学校からの抜き打ち非常訓練だった。そういうことにしませんか?」
校長の言葉に、その場にいた誰もが驚き目を瞬かせた。
「日暮くんはこの通り大変反省しているし、このまま逮捕となると子供たちへの影響も心配です。それにWWWが認可を受けて学校に派遣されたと知れれば、また支持率が低下してしまうでしょう」
「なぁ、ロックマン。支持率てのが下がると不味いのか?」
『支持率は国のみんなが、どれだけ信頼してるかってことなんだ』
ロックマンが説明すると、熱斗くんが腕を組んで考えこんだ後に呟いた。
「つまり、国の保護者会か」
『う〜ん、ちょっと違うけど…』
二人のやり取りに毒気を抜かれ、深くため息をつく。
「オフィシャル協会を通じて、報告は上げますよ?」
全国の小学生が被害に遭っている可能性がある以上、これまで模倣と見られていた事件が裏返る可能性がある。逮捕され少年院に入れられた彼等が、被害者だった事が判明すれば、多くの子どもたちを助けられる。
校長が緩慢に頷くと、手をポンと叩き熱斗くん達を教室に移動させる。時間的には一限目が終わったばかりな為、彼らはこれから二時限目の授業授業が待っているのだ。
日暮さんが逮捕されれば、当然ヒグレヤは開店せず、熱斗くんが扱うバトルチップを増やす手段が一つ減ってしまう。逮捕せずに済む落とし所を見付けなければいけなかった。
「それでは日暮さん、常に連絡が付く様に待機していてください。校長は彼がいなくならないように、しっかり見ておいてください」
「分かったでマス。…汚いお金で買ったチップでマスか…氷川君でマしたな。このバトルチップを証拠品として提出するでマス!」
差し出されたバトルチップは、ビッグボムを始めとした十数枚のレアチップ。
「これは…」
「これはWWWで働いて得たお金で買ったレアチップでマス。私は最初の内こそ、ただレアチップを集める事が楽しかったでマス。しかし、レアチップの情報を追っている内に、多くの持ち主がファッションやら税金対策やら、レアチップの本当の価値を理解していない事に、気が付いてしまったでマス…。そうして私はレアチップの価値を頭に叩き込んでやろうと……思い上がってしまったのでマスなぁ…」
「そんな大切な物を…証拠品として提出されたら、もう戻って来ないかも知れませんよ?」
そう問い掛けると日暮さんは、スッキリした顔で胸を張って答えた。
「構わないでマス!今度は後ろ暗い所のない、誰もが羨むバトルチップを集めるでマスよ!」
晴れやかに笑う日暮さんの顔は、これからは道を踏み外す事は無いだろうと、僕に確信させるには十分な証拠になった。
―熱斗視点
「あーあー氷川のやつ、良いなぁ。あのまま帰っちまったんだから」
『熱斗くん…』
ぼやく熱斗の横で微笑むメイルは、熱斗を宥めながら教室を後にする。
「氷川君はお仕事なんだから、仕方ないでしょ?私達のワガママで日暮さんを見逃してくれたんだから…」
「それはそうだけどさ…」
涙ながらにグライドを呼ぶやいとの声が、今だに忘れられず、オフィシャルである氷川が、もっと早く駆け付けてくれたらと詮の無い事を考えてしまう。
『氷川くんも教室に閉じ込められていたんだから、仕方がないよ。氷川君がいなかったら、学校の電子ロックが閉まったままで、グランドのスイートピーの数なんて数えられなかったんだから』
「それも、分かってる」
どこか思い詰めた様子で、ロックマンに語りかける。
「ナンバーマン…強かったなロックマン」
『うん、手も足も出なかった』
PETを握る手に、力が籠もる。
「強くなろうなロックマン!」
『うん、誰にも負けないくらいに!』
ロックマンと成長を誓い合った。夕日に影を指す熱斗の影を、メイルは微笑ましく見ていた。