先生のおかげでバトルチップの開発技術は、一定の技量に到達したと言って良いだろう。
開発したバトルチップ開発ソフトは、先生の出入りが無くなった後も研鑽を重ねた。メイクマンが居ることを前提として組み上げられたソフトは、例え先生でも使い熟す事はできない。
メイクマンと言えば、こちらも新たな姿に変わった。具体的にはバトル機能を削って、浮いたメモリを生産活動に突っ込んだ形だ。おかげでジム・キャノンの様なお気に入りのショルダーキャノンはお蔵入りである。
それじゃあセキュリティ面やウイルスバスティングの問題が再浮上してしまう。そんな問題を解決するべく新たに生み出されたのが、完全戦闘型ナビのヘイズマンである。
ヘイズとは気象用語で言う所のスモッグのような物で、厳密には違うのだが、簡単に説明すると視界を悪くする微粒子のことだ。
何かを作れば廃材が産まれる。この電脳世界でそれはジャンクデータだったり、より細かいバグのカケラだったりするのだが、バトルチップの開発を続ければ自然とそういったデータは生まれてしまう。ヘイズマンはそういったデータを微細な粒子に書き換え、自身に取り込む事で強化される永続強化ナビなのである。しかし、そんな霧状の物をどうやってネットナビにするんだと、数時間頭を抱えたが、そこでふとWWWの悪役ナビであったデザートマンの事を思い出した。
あ、粒子状のナビおるやんけと。
まず砂は微粒子より大きい粒である。ならば微粒子の数が多ければ、デザートマンと同じ様に一般ナビに偽装できるのではないだろうか?
結果、出来なかった。
砂を押し固めれば形になるが、微粒子は拡がりやすく余り押し固めるのには向いていなかった。じゃあ何か容れ物に詰め込むかと試行錯誤の上生まれたのか現在の鎧姿のヘイズマンである。
自分の持つ知識上、この騎士甲冑姿しか思い浮かばなかった。人形や武者姿だとホラー路線しか浮かばず、壺なんかの容器だとフルシンクロ後も動けないのでシンクロする利点が大幅に削れる。
メイクマンとワイワイ話しながら造り込み、外で雀の鳴声が響く朝方にヘイズマンの外観は完成した。まだ基本機能程度にしか動かせない一般ナビ以下の性能で、謎の高揚感に身を任せネットワークに送り込んだ。
ついでに新しいバトルチップのテストもしてやると、バックアップも取らぬままに。
広大な電脳世界で重苦しいフルプレートアーマーは疾走していた。ネットバトルに於いて何よりも重要なのは生存し続ける事だが、その方法に攻撃を受けないという選択肢を取ったナビが複数いる。それがロックマン、ブルース、セレナード等である。これだけでもスピードの重要性は察せられる。
そんなわけで戦闘前に足の動作確認を実行しているのだ。
「どうだヘイズマン、異常はないか?」
『はっ、滞りなく』
なおヘイズマンは、デザートマンと違ってちゃんと話せる。言語プログラ厶を削らなきゃいけない程、容量を食うプログラムなどまだ積んでいないのだ。
暫く疾走を続けている最中、みんなの的当てことキャノーダムが周囲に発砲を繰り返している。電脳世界のウイルスは自己増殖するが、キャノーダムはウイルス駆除用のセキュリティプログラムのバグから生まれる為、電脳世界のどこにでも出没する別の意味での生息地不明のウイルスである。ポールに固定されたキャノン砲を見れば、移動が困難なことは明らかだ。
「行くぞヘイズマン!」
『ハッ!』
「攻撃用バトルチップ『フミコミザン』スロットイン!」
ヘイズマンは瞬間的に加速すると、キャノーダムは横一文字に切り分けられた。
ソードを元に作ったチップの為、キャノーダムを一撃で破壊するには十分な威力だ。
「よし、問題なく戦えるな…ん、チップだ!」
キャノーダムの残骸から得られたチップのはキャノンD。遠距離から攻撃できる射撃系チップの獲得に自然とガッツポーズが飛び出す。
「やった!」
『おめでとうございます。マスター透』
「ありがとう、ヘイズマン。君のおかげだ」
『プラグアウトされますか?』
少し考えてから応える。
「いや、まだ試したいバトルチップがある」
そうしてウイルスを探し回っていると、ロックマンエグゼの看板ウイルスであるメットールが生息しているエリアを見つけた。そこは破壊が目的と言うよりも、増殖を目的として集合した偶発的な場所らしく、ツルハシで割った地面からデータを削り出してはそれを材料に新たなメットールを生み出している。
「攻撃用バトルチップ『ソード』スロット、イン!」
『フッ!』
左手に生成された鍔から灰色の両刃が伸びる。ソードの間合いまで駆け寄るり、メットールを次々に切り裂いてゆく。
「そこだ!」
ツルハシで地面を叩こうとしているメットールを見つけ、新たなバトルチップを転送する。
「攻撃用バトルチップ『スローダガー』スロットイン!」
ヘイズマンの右手の中に、小さな刃が生成される。
『ハアッ!』
ヘイズマンが息を吐くような短い声を発しながら、短刀をメットール目掛けて投擲する。
『ピギッ!』『ピギィ!?』『ピギ?』
投げ放った一本のダガーが無数の針状に変化し、横殴りの雨のようにメットールに襲いかかる。幾つかの針が被弾したメットール達は次々と駆除されていく。
射撃系のバトルチップを手に入れられなかった当初、なんとかして遠距離攻撃を生み出せないかとメイクマンと創り出したのが、ソードを元に開発したバトルチップ、スローダガーである。
ミニボムのように投げるバトルチップは数多く、威力は強力だが着弾が遅く当てづらい傾向がある。逆に着弾が遅くとも、ヒットしやすい攻撃を目指したのがこのスローダガーだ。
「使い心地はどうだ、ヘイズマン?」
『はっ、非常に使い勝手が良いかと…バトルチップとして使用するより、鎧に備え付け基本装備としたい程です』
ヘイズマンの本体は物理攻撃の効かない微粒子だ。ナビの様に振る舞う甲冑は、ヘイズマンが操作しているにすぎないからナビ本体とは別にカスタマイズが可能なのだ。カラードマンのボールみたいなものだ。
「んー、試しに加えてみるか?」
『ピギッ』
そこにメットールの放つショックウェーブが、ヘイズマンの鎧目掛けて襲い掛かる。
『ムッ』
衝撃波を受けて、ヘイズマンのHPが減少する。
「ちょうど良いか、サポート用バトルチップ『リカバースチール』スロット、イン!」
バトルチップを転送した瞬間にヘイズマンの身体が高速化を始める。パッパッと地面を蹴り上げるたびに、HPがジワジワと回復し始める。
「良いじゃないか」
ヘイズマンのソードがメットールを斬り伏せる。一体倒すごとにゼニーがPETに振込まれている。
僕は確信した。
ヘイズマンは僕の力になってくれるだろうと。
メイクマン HP100
ヘイズマン HP300