かすみ「いらっしゃいませー」
それほどお金が掛からなそうなお店に入ると、テーブル席へ案内されました。店内は8割の席が埋まっています。店員さんも忙しそうでした。メニューを理解できないうさぎさんを尻目に、パエリアが美味しそうに見えたので、お姫様はそれを頼むことにしました。お姫様が真っ直ぐと手を伸ばすと、店員さんは反応しました。
かすみ「はい! ただいまー……わっ、とっ」
此方に向かう途中、店員さんはつまづいてしまいました。
果林「あら、ごめんなさいね。足が長いから通路に飛び出しちゃったみたい。足が長いから」
べちっと膝から転んだ店員さんは、すぐに立ち上がります。
かすみ「……申し訳ありませんでした」
果林「いいのよ、此方も悪かったから」
あゆぴょん「ひどいことしますね! ぷんぷん!」
どうやら、うさぎさんはあの脚の長い女性が故意にやったと思っているようでした。お姫様はちゃんと見ていなかったので、沈黙を守りました。
かすみ「ごめんなさい、お待たせしましたっ」
あゆぴょん「あれは違うと思います! ガツンと言うべきです!」
かすみ「いえいえ、私の不注意です」
あゆぴょん「でもでも!」
彼方「まぁまぁ。ごめんね〜 ちょっとうさぎさんお腹空いてて〜」
お姫様はうさぎさんの口を押さえました。
あゆぴょん「もがもが」
かすみ「ああいうのは慣れてるんです」
彼方「……こんな質問して良いのかわからないんだけど、どうしてそんなに頑張るの? 辛かったら辞めちゃえばいいのに」
かすみ「私のお家は貧乏なので、勉強をするには働かないといけないんです」
彼方「がーん」
お姫様は衝撃を受けました。まるで後頭部に落雷を受けたように。
かすみ「でも、物心ついた頃から働いているので、苦じゃありません。
彼方「彼方ちゃんは40のダメージを受けた、ぐふぅ」
立ち直れなさそうな心理的ダメージを受けたお姫様は、懐にしまった大金を全て出しました。
彼方「これを使う時が来た」
お姫様はその大金を、店員さんに渡しました。
かすみ「ええっ! なんですか!?」
彼方「こうするべきだと神が言う」
うさぎさんも首を激しく縦に振りました。
かすみ「……そんな、悪いですよ」
彼方「いいってことよ」
かすみ「……」
彼方「私は姫だから」
かすみ「くす……面白い冗談です」
彼方「なぬ」
かすみ「……」
店員さんは中々受け取ろうとしませんでした。
彼方「もしも気病むのなら、そのお金でご飯を奢っておくれ。彼方ちゃんたち、長旅でお腹ぺこぺこなんですな」
あゆぴょん「うんうん!」
涙目になりながら店員さんは頷きました。注文を聞くと、少しスキップのような、弾んだ様子で厨房へと向かいました。
また一文無しになってしまったので、仕事を探すことにしました。とりあえず適当に、外観が良さそうなお店に入りました。
エマ「あれ、今日はお休みだよ?」
彼方「私は一文無し、宿無し」
エマ「?」
彼方「私にお仕事を下さい」
エマ「お仕事? 働きたいってこと?」
あゆぴょん「はい! 一生懸命働きます!」
エマ「わあぁ、可愛い。うーん、そうだなぁ。確か、空き部屋が一つあった気がするし……頑張ってくれるのなら……」
彼方「これ以上なく燃えています」
エマ「そっか〜 じゃあお願いしようかな。えっと……」
彼方「彼方ちゃんです」
エマ「よろしくね、彼方ちゃんちゃん!」
彼方「ふむ」
あゆぴょん「ちゃんは一つで大丈夫ですよ!」
働き口を得た二人は、親方に連れられ、宿へ向かいました。今日から住み込みです。仕事の内容は明日説明してくれるそうです。
エマ「ここの部屋だよ〜 好きに使ってね」
二人は頭を下げました。
エマ「ふふふ。じゃあオープン〜」
空き部屋と言っていた割には、広いお部屋でした。お姫様にとっては狭かったのですが、あまり気になりませんでした。
あゆぴょん「ふかふかのベットがありますよー!」
彼方「何から何まで」
エマ「いいよー いいよー」
あゆぴょん「こほっこほっ」
ベットの上を飛び跳ねていたうさぎは、押し上げられた埃を吸ってしまいました。
エマ「あぁ、ごめんね! お掃除が行き届いてなくて! すぐ掃除するからね!」
どこから取り出したのか、コロコロとほうきを両手に持って掃除に取り掛かろうとしました。しかし、お姫様は親方を止めました。
彼方「己のことは己で致すゆえ」
お姫様は初めて、部屋の掃除に取り掛かったのでした。
4週間が経ちました。
お仕事に慣れ始めたお姫様は、るんるんと整備された道を歩いていました。背負ったリュックにはじょうろとその他植物のお世話をする道具が入っていました。そうです、お姫様のお仕事は、花や木にお水をあげて、お礼に花びらや実を貰うことでした。今日はいつもよりオレンジの実をおまけしてもらったので、上機嫌だったのです。それに、お給料も今日貰えるので、ワクワクそわそわしていたのです。お姫様にとって労働に対して初めての対価でした。
彼方「ぬははは」
街に戻ると、なにやら慌しい様子でした。
馬車や兵隊さんなど活気ある集団が来ていました。街の人たちもお話ししたり、一目見ようと窓から覗いたりしていました。
かすみ「おかえりなさい」
彼方「ただいま〜 これっていかに?」
かすみ「隣国のユウキーヌ家が来てるんだって」
お姫様はその名前を聞いていたはずでしたが、中々思い出せそうにないので諦めました。
彼方「ほえ〜 すごいね〜」
かすみ「見ていかないの?」
彼方「彼方ちゃん、まだお仕事中ですぜ」
お姫様はお店に戻りました。たくさんの実を早くお渡ししなければいけません。
エマ「あ、いらっしゃいませ〜 っとなんだ彼方ちゃんかー びっくりしたよ」
彼方「大量だよ〜」
エマ「わあぁすごい! これは大きく育つよ!」
彼方「もっと褒めて褒めて」
エマ「よしよし」
彼方「あれ、あゆぴょんは?」
エマ「王子様を見て来るって言ってたよ!」
彼方「ミーハーですなぁ」
お姫様が拾った実や花びらは、お料理に添えられたり、そのまま食べたり、さらに大きく育てたり、親方がその状態を確認して仕分けしていきます。親方の観察眼は素晴らしいもので、お姫様は尊敬していました。
「失礼致します」
ドアが開くと、屈強な鎧に連れられた青年が立っていました。
エマ「いらっしゃいませ〜」
せつ菜「ここがこの街一番の植物屋ですか。素晴らしいです。足を踏み入れた瞬間から、独特な香りが大好きを伝えてきてくれています!」
兵隊「王子、婦女子らが」
せつ菜「あぁ、申し訳ありません。私、ニジガサキ王国の第一王子、ユウキーヌ・ファブ・セツナと申します。この度は此方で販売されているプラプラの果実を、是非とも食べたくてですね、はるばる来てしまいました!」
エマ「すごーい。外国まで味が届いているなんて幸せだよ!」
王子様と親方は、楽しそうに談笑していました。
せつ菜「そちらのお方は?」
王子様は、仕分けられた実を倉庫へ運ぼうとしているお姫様に話しかけました。
せつ菜「町娘に見えないほど美しいですね」
キザな台詞を卒なく熟すのが、王子様の凄いところです。
彼方「リアルプリンセスである」
お姫様は真実を伝えました。
せつ菜「ふふふ。お茶目なご冗談です」
彼方「解せぬ」
エマ「たしかに、彼方ちゃんはお姫様みたいに綺麗だよね!」
何で伝わらないのだろうと疑問に思うお姫様でしたが、めんどくさいので考えるのはやめました。
兵隊さんが王子様を呼びました。
せつ菜「失礼します」
二人は一度外へ出ました。
兵隊「王子、反応はありませんでした」
せつ菜「分かりました。”魔女の手鏡"……いったいどこで悪さをしているのでしょう」
隠れて追いかけていたうさぎは、そんなコソコソ話を聞いてしまったのでした。
せつ菜「すみません。それでは、果実と後、おすすめをひとついただけませんか?」
お店に戻った王子様は注文をしました。なにやら急いでいるようにお姫様には見えました。
エマ「は〜い。ちょっと待っててね」
兵隊さんは品物を受け取ると、王子様を先頭に店を出ました。あゆぴょんがその扉から顔を出すのは間もなくでした。