さらに数週間が経つと、お姫様はずいぶん街に溶け込みました。時々ミスはあるものの熱心に仕事をこなし、部屋の片付けやお洗濯、さらにお料理まで親方に教わるなどして、着実に独り立ちしていきました。お姫様はそんな実感を感じていたため、自分を誇らしいと思うようになりました。何より、同年代のお友達がお姫様を変えていったのです。
かすみ「あっ! それ私のタコさんウインナーだよ!」
彼方「良いではないか〜」
お姫様も友達と一緒に学校へ通うことにしました。その間、うさぎはお家でお留守番をしています。ぷくーとほっぺたを膨らませて「寂しくて死んじゃうよ」と言っていたうさぎを、お姫様は愛おしいと思ったりしていました。
何人かの兵隊がやって来ました。
街の人々は雰囲気に戸惑いました。覇気のない無表情の兵隊が、列を成してやって来たのです。皆、黒い鎧を着ていました。
愛「前の国……とは違う?」
馬車が列の中間を彩り、禍々しい佇まいが漂っていました。馬も赤い眼を光らせています。街の人々は怯えながらその様子を見守っていました。
果林「いだっ!」
一人の女性が声を上げました。
果林「ちょっと! 貴方たち私の脚を踏んだわよ! 脚が長いから飛び出した脚を踏んだ! その馬でね! その馬の蹄の跡が脚に刻まれちゃったじゃない!」
女性の脚はぺちゃんこになっていました。
果林「聞いてるの!」
兵隊「麗しき……姫、真心を……」
その列は女性の言葉に耳を傾けませんでした。しかし馬車の中だけは反応しました。
「鏡よ鏡。王女たる私に歯向かう不届き者にはどのような処罰を?」
女性にはかろうじて聞こえていました。
「ふふ、決まりました。わさび寿司の刑です。あぁ。しっかりと悶えて下さいね」
果林「な!?」
女性が理解した時には、兵隊に羽交い締めにされ、口を開かれていました。そして、匠が握ったシャリと腐りかけのわさびをドッキングさせた塊を、口の中へ放り込まれました。
果林「あああぁあぁ……」
女性は悶絶してしまいました。
街の人々は閉口してしまいました。
あゆぴょん「どうして酷いことをするんですか!」
人々を掻き分けて飛び出したうさぎは、さらに続けました。
あゆぴょん「勝手に来て、こんなこと! 許される行為じゃありません!」
「……許す許さないではありません。私が真実で鏡が絶対なのです。下等な草食動物が良くもまぁしゃあしゃあと。踏みつけなさい」
うさぎの口答えに、馬車の中は怒り心頭に発しました。列を成す一際大きな馬がうさぎを潰そうとしました。
愛「だああぁ! あっぶなーい! ぎり! マジでギリギリ!」
質屋の女は間一髪でうさぎを抱き抱えました。金色の髪が馬の足に触れました。質屋の女はすぐさま逃げ出しました。
「っ……追いかけなさい! すぐに!!」
街の人々は怯えていました。
かすみ「人だかりがあるね」
学校を終えた二人は、帰路に就いていました。そこで、街の異変に気付いたのです。
かすみ「何かあったんですか?」
街の人「コノエル家だ……だけど、変わってしまった……」
友達はもう一人にも話しかけました。
街の人「一人逃げたみたいだが、捕まるのも時間の問題……」
かすみ「向こうに行ってみよう」
彼方「NPCみたい」
二人は騒ぎのある中心を目指しました。開けた広場です。いつもならマーケットが開かれるそこには、黒い鎧の兵隊と馬車が一台止まっていました。街の人が5人捕まっていました。
「兵隊さん、兵隊さん。女が捕まるその時まで、私は退屈で退屈で仕方がありません。どうでしょう。この五人を使って一番私を楽しませた方には、ご褒美を差し上げるというのは。ふふふ」
お姫様はその声の主を、ぼんやりと覚えていました。そして、コノエル家という名も。
かすみ「なんですか……これ、ひどい」
兵隊さんは縛り上げた街の人の靴を脱がせてくすぐったり、般若心経を耳元で囁いたり、こんにゃくを投げつけたりしました。それがしばらく続くと叫び声が鳴り響きました。
愛「はーなーせー!」
あゆぴょん「やだやだ!」
兵隊に質屋の女とうさぎは捕まってしまいました。
彼方「あっ!」
かすみ「だめだよ! 今出たら危ないよ!」
友達はお姫様を抑えました。
「手間を取らせましたね。丸焼きにしてあげましょう」
彼方「だめ!」
かすみ「あっ!」
お姫様は友達を振り切って広場に飛び出しました。
兵隊「何者だ……おまえ、は?」
「あはははははははははははははははははははははははは!!」
馬車の中が昂りました。そして、お姫様は思い出しました。
彼方「……しずく、ちゃん?」
しずく「あは……こんな所にいたんですね。おじょうさ……いや、彼方ーー」
姿形も見せずに馬車の中にいる人間は、声を強くしました。
しずく「ひざまずけ」
すると、お姫様は膝から崩れ落ちました。
彼方「あれ?」
あゆぴょん「彼方さん!」
しずく「うさぎや女など、もうどうでもよいです。私は、物心がついた頃から貴女を……まぁ、今となっては……ですが」
馬車の中が話すのをやめると兵隊がお姫様に近づいていきました。
かすみ「かなた!」
彼方「動けぬ」
しずく「その動かない姿こそ、本当の貴女です」
馬車の中が言い終わると、兵隊はお姫様の元に辿り着きました。そして、腰にぶら下げた剣を抜き取り、大きく振りかぶって、振り下ろしました。
あゆぴょん「いやあぁ!!」
ガン!
何かが衝突する音が、街の人々から漏れ出す悲鳴と重なりました。剣と剣がぶつかっていました。
せつ菜「……良かったです、間に合いました」
王子様はたいてい間に合います。
しずく「っ……」
せつ菜「私はユウキーヌ・ファブ・セツナ! その紋章、コノエル家ですね! 民を傷つけるなどあってはならないことです!」
彼方「……コノエル家」
しずく「いつもいつも……貴女は私の邪魔ばかりぃ……」
せつ菜「さぁ、その馬車から降りて来て下さい! あなたから魔が魔がしいオーラを感じます!」
しずく「……城に帰りましょう」
兵隊は剣をしまい馬は動き出しました。馬車も方向を転換します。街の人々は安心しました。
せつ菜「……御手を」
彼方「ありがとう」
うさぎも質屋の女も、そしてお姫様も自由な身体になりました。
あゆぴょん「彼方さあぁん! うえーん!」
かすみ「大丈夫!? 平気!?」
彼方「ぴんぴんしてる、みんなは?」
あゆぴょん「うえーん!」
彼方「愛さん、あゆぴょんを守ってくれてありがとう」
愛「平気平気ー! 友達は守ってなんぼっしょ!」
お姫様はありがとうと言えるようになっていました。