彼方「はっ!」
お姫様は目覚めました。
彼方「ここは……」
璃奈「やっと起きた、物語が進ーー」
彼方「みっみんなは!? かすみちゃん!?」
大きな大きな木は、先ほど、ここに連れられたお姫様が騒ぎ出して驚いてしまいました。
彼方「お母様!」
お姫様はお城の方へと駆け出しました。
璃奈「行っちゃった」
お城はずいぶん遠いのです。先程は電動自転車ですいすいでしたが、お姫様の走力では時間がかかってしまいました。しかし、進んでいれば必ず着くのでした。
彼方「私です! 開けてください! 通してください!」
門を通ろうとするお姫様を門兵は止めました。
門兵「帰れ。どこの誰だか知らない奴が、勝手に入れる場所じゃないぞ。本日は客人はないと聞いている」
彼方「なにを……わたしはっ! コノエル・ラック・カナタ! この城の第二王女です!」
門兵「何を言っているんだ。この城の王女は一人しかいない。コノエル・ラック・シズク様だけだ」
彼方「っ! どうして!?」
このような押し問答を繰り返しましたが、門兵が本気で排除しようとしたので、お姫様は諦めました。
とぼとぼと来た道を歩いていました。
大きな大きな木までは遠い道のりでした。
お姫様は生き別れになった友達に会いたいと思いました。訳が分からないこの状況を受け止められなかったのです。
侑「YO! 旅の最中かい? 良かったら隣町まで乗せてやろうか!?」
ロールスロイスに乗った大富豪がお姫様に声をかけました。
彼方「あなたは……」
侑「おっと、俺も有名になっちまったみたいだなぁ。大富豪すぎるもんな」
お姫様は乗り込み、ふかふかな後部座席に身を任せました。
侑「シートベルトは閉めた? OK! 飛ばすぜ!!」
景色が移り変わります。お姫様は鉄の乗り物になるのは初めてでした。たわいのない話をしながら、お姫様はそわそわしていました。
すぐに街に着きました。お姫様はお礼を言いました。そしてすぐにお金が掛からなそうなお店に入りました。学校は開いている時間ではありません。友達が働いている時間を、お姫様はしっかりと記憶していました。
かすみ「いらっしゃいませー」
彼方「かっかすみちゃん! 良かった、元気だね。怪我ない? どうやって帰ったの、心配だったんだよ! 急に居なくなるから」
かすみ「えっと、あのっ、わっ! あのあの」
彼方「お城でのこと覚えてる? 私全然覚えてなくて。あーでも本当に元気で良かったよー!」
かすみ「あの、どうしてっ。どうして私の名前知ってるんですかー? あああ」
お姫様は友達を揺すったり抱きしめたりしていました。お客さん達はそんな様子を見ていたり見ていなかったりしました。
彼方「あはは、何言ってるのー かすみちゃん。一ヶ月以上の仲じゃない」
かすみ「しょっしょたいめんですー!」
彼方「えっ?」
お姫様は固まってしまいました。
かすみ「えっと、私……あなたと友達になった記憶がまったくなくて……」
彼方「冗談だよね……? じゃないと、怒るよ?」
かすみ「すみません、冗談じゃないです。もしかしたら人違いなんじゃ……だって私には……親しい人なんて……」
お姫様はお金が掛からなそうなお店を飛び出しました。頭がこんがらがって、泣きたくなって、喚いてしまいたくて、どうしようもない気持ちになりました。
お姫様は外観が良さそうなお店に入りました。
エマ「あれ、今日はお休みだよ?」
彼方「知ってます……」
エマ「それじゃあどうしたのかな?」
彼方「私のこと、覚えていますか……?」
エマ「えっ、えっと……ごめんねっ。会ったことあるような、ないようなー」
彼方「ぐすっ……」
エマ「ああっ。頑張って思い出すから! ちょっと待っててね! えっと、えっと!」
お姫様にはその優しさが胸に余計沁みました。謝罪をして、そのお店を出ました。
次に、質屋に向かいました。
愛「いらっしゃーい! べっぴんさんだねー この街では見ないし、旅の人!? 色々置いてあるよー!!」
彼方「……」
お姫様はすぐに察して、質屋を後にしました。お姫様を覚えている人は誰もいませんでした。泣きたい気持ちはいつの間にか消えていました。ぼんやりと街並みだけを見ながら歩いていました。辿り着いたのは、街の隅にある小さなベンチでした。それを見つけた途端、急に歩くことが億劫になりました。誰に見られても良いような気持ちにもなりました。お姫様は座って何処を見ることもやめました。ベンチに丸く小さくなって横になりました。難しいことはあんまり考えないほうがいいと思いました。お姫様はゆっくりと目を閉じました。深く深く。睡眠の奥へと向かおうとしました。また、怠け者に戻ろうと思いました。
「…方……!!」
「彼…さ…!!」
「彼方さん!!」
遠くでお姫様を呼ぶ声がありました。
お姫様は意識の中で聞いていました。
「彼方さん!」
それは聞いたことがある名前でした。
お姫様は目を薄く開けました。
「彼方さん!」
夕焼けがやけに眩しく侵入してきました。
お姫様はその声を聞いていました。
「こんなところにいたんですね!」
影になったシルエットを覚えていました。
お姫様は覚えられていました。
「探したんですよ! みんな私のこと覚えてないし、気がついたら道で寝ていたし、いったいどう言うことなんですか!」
正義感に満ちた声でした。
お姫様はそっと手を伸ばしました。
「またこんなところでお休みして! さぁ立ってください!」
小さな手はお姫様の服を引っ張りました。
お姫様はうさぎの頭を撫でました。
彼方「かわえぇ……かわぇぇ……」
きゅぅと力の抜けるうさぎが怒りました。
お姫様はそのままぎゅっと抱きしめました。