「あのね、これ……あなたに」
「いいんですか!? いただきますね!」
「プラプラの果実。この木から取れるの」
「むしゃむしゃ。これは、とっても美味しいです!」
「よかった」
「あなたの名前は?」
「私は……カナタ……コノエル・カナタ」
兵隊「本日の舞踏会は、ユウ伯爵も来られるそうです」
しずく「そうですか」
サーモンのカルパッチョやコーンスープが並べられたテーブルを前に、兵隊はスケジュールを話しました。
兵隊「ニジガサキ王国全土から貴族や華族が来られます」
お姫様はオムレツを食べました。無機質な粘土みたいな感触でした。味は分かりません。
母親「ユウキーヌ家の王子も、しずく。粗相のないように」
しずく「当たり前ですよ」
お姫様はシャンパンを一つ開けました。コップを持ったであろう右手を眺めながら、口へと運びました。恐らく喉を通りました。この量では身体は重くなりません。コップを眺め、空になったことを確認すると、お姫様は飲んだことを理解しました。脳みそがきゅっと締め付けられた気持ちがしました。
しずく「ようやく、ちゃんと会えるのだと思うと、幸せな気持ちでいっぱいです」
ご馳走様をしました。
舞踏会はチョルンチョルン王国の七城で行われます。お姫様たちは列を作り、三日を掛けて辿り着きました。くたくたになった一行は、十分な休息を取り、その日の翌日、七城へと向かいました。階級や人種、家柄を持った人々だけが集まる城内は、優雅に、しかし厳格に統制されていました。お姫様は、ずっと夢見ていました。この情景を、ひとりの少女のように。
侑「よく似合ってるYO!」
伯爵はお姫様が着用したイブニングドレスを褒めました。純白な礼服は、少しばかり目立ってもいました。
しずく「デビュタントですから」
侑「そこまで堅苦しくしないで、はっちゃけはっちゃけ!」
初めての社交界に緊張するお姫様を、伯爵は優しくはっちゃけました。お姫様は伯爵に御礼を述べた後、次々と参られる貴族や華族に挨拶をしました。心身ともに、これはお姫様を疲労させました。
赤いドレスの人「わあぁ、ユウキーヌ王子よ」
耳たぶにほくろがある人「高潔な血よ」
語尾にザマスがつく人「凛々しさの中にカマキリざます」
王子様はその場に居る人たちの視線を、一瞬で奪いました。
お姫様はダンスの場から少し離れた場所で、静かに踊る貴族を見ていました。憧れていた情景と、その裏側で繰り広げられる探り合いのギャップに、お姫様のやる気は削がれていました。ここは親たちによる見合いの要素が強い舞踏会でした。
せつ菜「お疲れですか?」
でも、お姫様は焦ってはいませんでした。
しずく「ええ。少し」
ユウキーヌ家とコノエル家は代々良好な関係を築いていました。
せつ菜「一緒にいても?」
周りがどう立ち回ろうとも、決められたレールの上なのです。両家の親は既に縁談を進めています。これは顔合わせみたいなものでした。
しずく「楽しくさせられるか、不安ですが」
せつ菜「それは私の仕事ですので、心配なさらず」
二人は他愛もない会話をしました。そこに居たのは、ただの男と女。何者も二人の仲を侵害することはできません。
せつ菜「知っていますか?」
しずく「なにを?」
王子様は質問しました。
せつ菜「私たちは婚約するということを」
しずく「知っています。ずっと待ち侘びていましたから」
お姫様はそれに答えました。
せつ菜「だから、ここでキスをしても何も問題がないってことも、知っていますか?」
しずく「はい。心配するのは、周りが慌てることくらいですね」
王子様とお姫様は幸せなキスをしました。
せつ菜「……ブルーベリーの香りがしますね」
しずく「はい」
お姫様は何の味もしませんでした。恐らくキスしたのであろうことも、王子様がそう発言されたので分かりました。
せつ菜「踊りませんか?」
お姫様は王子様の手を掴んだことを、しっかりと見ていました。