中編集 ラブライブ 虹ヶ咲   作:カーテンと手袋

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召使いの独白 (近江彼方8)

記憶がない頃から、いや、生まれた瞬間から身分なんてものが存在して、私は召使い。家事を行い、忠誠を誓うことが美徳であり、私の全てでありました。でも、反抗心はありません。揺るがない世界に怯えはなく、秩序ある生活でしたから。適度な食事も忙しい勉強もふかふかなベッドも、持たざる人達からは嫉妬されるような幸福。これ以上ありませんよ。別に、それに対して気にすることもありませんしね。

 

可愛らしいお嬢様はお姫様でした。歳が同じとあって、お嬢様は私をお友達と呼びました。少しめんどくさがりだけれど、優しい心の持ち主で、同じ身分であったならどんなに幸せだろうと思いました。世知辛い世の中。幼少の召使いには溢れ出るほどの幸せです。お嬢様に読み聞かせていた絵本の中で、白馬に乗った王子様を知りました。容姿と知性、そして品格。お姫様に相応しい、素晴らしい相手だと思いました。

 

友達はどんどん動くことを億劫に感じ始めました。近辺の街では"なまけ姫"なんて呼ばれています。私は心配で心配で堪りません。そんなある日、外出を拒む友達が、替わりに私を行かせようとしました。もちろん変装して。背丈も声も案外似ている。こんなに上手くいくことがあるのか。私は驚いてしまいました。それに一人で。お城の外は未知の世界。たった数時間の冒険が始まりました。

 

大きな木、野原、花、空。綺麗な川、街。移動する鉄の乗り物。私はずいぶん遠くへと来ました。2つ目の街で買い物を済ませ、私はゆっくりと帰りました。林や森の入り口。太陽はまだ高いところにありました。図鑑で見かけたプラプラの実。勝手にとって勝手に食べました。とっても美味しい。渇いた喉を優しく撫でてくれます。

「それ、何処にありましたか?」

「えっ?」

私は驚いて振り返りました。

「あっ、ごめんなさい。ただ、あなたが食べているそれがとっても美味しそうに見えて」

その男の子は私が持つ実を眺めていました。

「欲しいの?」

「いえっ! そんな!」

実から視線を逸らすことは出来ずに、男の子は否定の言葉を言おうとしました。

「あのね、これ……あなたに」

「いいんですか!? いただきますね!」

謙遜などなく、私の手から受け取りました。

「プラプラの果実。この木から取れるの」

「むしゃむしゃ。これは、とっても美味しいです!」

会話、通じているのかな。夢中になってしまって、私のことなんて気にしていないみたい。

「よかった」

「あなたの名前は?」

そんなことを考えていると、男の子は急に意識を私に向けました。私はなんで答えればいいのか分からなくなって。咄嗟に、

「私は……カナタ……コノエル・カナタ」

お嬢様の名前を伝えました。本来外出しているのは、お嬢様で私は偽物なのだから、これは何も間違っていないと、自分で納得しました。

 

年月が過ぎると、お城で舞踏会が開かれました。そこにはあの日に会った男の子がいました。兵隊を連れ、現王女の隣で「お母様」と言って。どう見ても隣国の王子様でした。あの日とは全然違う。あの人は全然違う。身分違い。なぜか、ガンと重い衝撃が身体の内側に起きました。あれ? 確か、王子様はお姫様と幸せに。そんな絵本の一文が脳裏にこべりついていました。そしてお互いの大臣が会話している所を偶然聞いてしまいます。お嬢様と、男の子は結婚をする。将来必ず。約束されていて、それは当然のこと。どんな絵本も、王子様はお姫様と結ばれた。考える必要のないこと。どうして? どうして、決まっているの? 私は不思議になった。これもそれも、こんなに焦る自分も、黒い黒い何かが内側から湧き出てしまう感覚も。

 

私は召使い。城の中で忠誠を誓う者。反抗なんてしません。革命なんてものも。私は密かにあなたを見ています。特別な力や魔法なんて存在しないのだから。豊かな生活に不満なんてないのだから。私は召使い。生まれた瞬間から恵まれた子。そう言ってさえいれば、私は私を許せるものね。

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