中編集 ラブライブ 虹ヶ咲   作:カーテンと手袋

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久方ぶりの空を見に行こう、 (近江彼方9 完)

舞踏会は滞りなく進んでいました。

お城の警備はプレートアーマーを着た兵隊が多く、淑女はそれに紛れました。そして、動物たちはテーブルの下、配管、天井、城の外の茂み、空、さまざまな場所に隠れました。

彼方「非常に動き辛い」

筋力のない淑女はギリギリ誤魔化せていました。

彼方「あぁ、美味しそうな食事がいっぱい……」

 

あゆぴょん「うぅ……緊張するね」

遥「楽勝だって、私たち動物なんだよ。人間に捕まるわけないよ」

あゆぴょん「そうなんだけど……」

リスとうさぎはお姫様が使っていた部屋にいました。

遥「ちゃっちゃと探そ、そうすれば問題ないよ」

動物たちと淑女の作戦はこうでした。

『お嬢様。2日後、私たちは作戦を決行します。チョルンチョルン王国で舞踏会が行われる、そこにアタックを仕掛けます。目的は魔女の手鏡を割ること。作戦はこうです。まず城の中と外に潜みます。そして機動班が、しずくさんにあてがわれた部屋の捜索ーー』

あゆぴょん「うーん。見つからないね」

遥「うん。やっぱり、身に付けてる可能性が高いね」

あゆぴょん「……」

遥「どうしたの?」

あゆぴょん「あのね、遥ちゃんって、影響の受けた人は分かるんだよね」

遥「まぁね、すごいでしょ」

あゆぴょん「うん。それでね。みんなに影響を及ぼすほどの鏡だったら、遥ちゃん、なんとなくでも場所わかるんじゃないかなって……」

遥「……」

あゆぴょん「お城の中にはあるはずだし、距離も近いから……」

遥「……」

あゆぴょん「もしかしたら、探すじかーー」

遥「歩夢。全部を言ったらダメ。ダメなの」

あゆぴょん「……うん、ごめん」

 

せつ菜「だから、ここでキスをしても何も問題がないってことも、知っていますか?」

しずく「はい。心配するのは、周りが慌てることくらいですね」

せつ菜「……ブルーベリーの香りがしますね」

しずく「はい」

せつ菜「踊りませんか?」

しずく「いつまでも」

二人は手を繋ぎ、向かおうとすると、

耳たぶにほくろがある人「きゃーー!」

貴族たちの叫び声が聞こえました。

いったい何が起きているのかお姫様は混乱しました。

語尾にザマスがつく人「サイがいるザマス!」

せつ菜「動物が……城内に溢れている?」

ドレスの裾を踏むフラミンゴ、シャンデリアにぶつかるキリン、メロンを食べるゴリラ、足元を歩く亀。

しずく「いったい?」

せつ菜「危険です! 私から離れないで!」

動物たちと淑女の作戦はちゃんと進んでいました。

『ーーそこで見つかれば良いのですが、確率は低いでしょう。ならば第二のアタック。動物大行進です。必ず城内は混乱します。その隙にしずくさんから手鏡を。乱暴ですが、背に腹は変えられません』

 

兵隊「門の封鎖はまだできないのか!」

兵隊2「難しいです! ゾウとチーターの群れが暴れています!」

城の外も中も騒がしいものでした。

赤いドレスの人「きゃああ」

彼方「大丈夫ですか?」

淑女は転んだ人を助けました。

赤いドレスの人「ありがとう」

彼方「いえ、私は戦士。礼には及ばないぜ」

プレートアーマーを着ていた為、誰にも気付かれません。そもそも、淑女はお姫様ではないのです。淑女は混乱の中、お姫様と王子様に少しずつ近づいていきました。二人はどうにかお城の外へ逃げようとしていましたが叶わず、ホールで停滞していました。動物たちが連携をとり、阻害していたのです。

彼方「王子。お助けに参りました」

せつ菜「ありがとうございます!」

王子様に指示をされ、淑女はお姫様の護衛につきました。城外へ出ようと動物たちをかき分けていきます。順調です。王子様はサイと相撲をとっていました。そして、淑女は作戦に乗り出しました。

彼方「ごめんね、しずくちゃん」

淑女はお姫様を押し倒しました。

しずく「なっなにを!?」

ドレスを上から手で触り手鏡を探します。しかし、ドレスです。隠す場所は限られています。お姫様は抵抗しましたが、プレートアーマーの重さにどうすることもできません。

しずく「あなた! かっ……かなたですね。いったい……なぜ、邪魔をぉ!」

動きづらいプレートアーマーで、何とか手鏡を見つけました。ジタバタするお姫様は、手鏡を背中に布で巻き付けていたのでした。淑女は、腕のプレートアーマーを外し、手を伸ばしますが、手首を掴まれます。揉みくちゃになった二人を気にする人はいませんでした。皆、自分のことで手一杯だったのです。

しずく「手鏡ですねっ! させませんん。鏡よ鏡んんっ!」

淑女は魔女の力を借りようとするお姫様の口を塞ぎました。

しずく「んんっんんん!!」

彼方「しずくちゃん、大人しくして! どうしてそんなに!」

しずく「くぅう、あ…なたんん! に分かぐぅ! んっんんもんですか!」

口を塞ごうとすると、両の手で探すことができません。淑女はお姫様の言葉と抵抗する身体に意識が向きました。

せつ菜「しずくさん!」

王子様がその名を呼ぶと、お姫様は一瞬だけ気を取られました。その隙を淑女は見逃しません。ごろんと横向きになりました。

しずく「しつっんっい! んんっこい!」

彼方「くうぅ!」

脚を脚に絡ませ、片手は口、もう片方は腕。お姫様の自由な腕は淑女を叩いていました。

あゆぴょん「えいやー!」

突然、鼓舞する叫びがお姫様の背後から鳴ります。うさぎは動物たちの隙間をするすると抜けてきたのでした。淑女がもつれあう姿を見て、居ても立っても居られなかったのです。

しずく「やめっ……てっ!」

パリンと小さな音がなりました。

そして、ガコンと重たい音もしました。

あゆぴょん「えいえい!」

鏡は割れていました。うさぎは尚もお姫様の背中を叩きます。すると、もくもくと黒き煙が立ち登り、鏡の破片はまるで悲鳴でもあげるような鐘の音を出しました。

彼方「なにっこれ……」

耳をつんざく悲鳴のような音は、淑女にもうさぎにもお姫様にも、さらに広がり動物や城内に居合わせた兵隊も貴族にも苦痛として鳴り響きました。その音は余りにも大きく、視界が白く霞んでいくほどでした。

暫くすると、音が消え、静寂が訪れました。淑女もそっと目を開けます。そこには見知らぬ女の子が立っていました。辺りでは驚嘆した声があがっています。

しずく「……」

元お姫様は天井をぼーっと眺めていました。驚嘆は騒然へと移り変わり、歓声も聞こえ始めていました。

彼方「もしかして……あゆぴょん?」

歩夢「えへへ……そう言われるとちょっと恥ずかしい」

淑女と女の子は抱き合いました。何も言わずにただ抱き合いました。元お姫様はその様子をぼんやりと眺めていました。そして、割れた手鏡をドレスの中から取り出し、その破片を掴みました。

歩夢「えっ! だめ!」

いち早く気がついた女の子は、元お姫様がガラスの破片で首を裂こうとする所を止めました。

しずく「はなせぇ! 死なせろ! 痛みなんて無いんだ! だから! だから!」

歩夢「そんなことしちゃだめ!」

彼方「しずくちゃーー」

栞子「しずくさん」

亀であった召使いは元お姫様ーーいや、召使いを睨みました。

しずく「っ……栞子さん、やっぱり、そうなりますよね、そうなって当然ですよね」

召使いは囲まれていました。皆、憤怒を越えた目を光らせ、各々が武器を持っています。彼らは動物に変えられてしまったものたちでした。記憶がありながらも忘れられたものたちでした。淑女も女の子もその光景に驚きを隠せませんでした。

大臣「魔女の雑貨の使用は、国同士の取り決めで大罪。それも召使いの分際で、彼方姫に成り代わろうとは。捕らえよ」

彼方「まっ待って!」

せつ菜「おやめください」

王子様は淑女の手をとりました。王子様も目を伏せたまま続けました。

せつ菜「私自身は……いえ、何でもありません。しかし、王子として見過ごすわけにはいかないんです」

彼方「栞子ちゃん!」

栞子「お嬢様、お聞きください。国家転覆に、世界改編、魔女遊具使用。許されることではありません。それに、私たち召使いは日影の存在。陽の光など浴びてはいけないのです」

女の子は兵隊に拘束される召使いを庇っていましたが、あまり意味のなさない行動でした。

彼方「どうにか、ならないの?」

召使いは手錠をかけられ、顔を覆う黒い頭巾を被せられました。もう、召使いの表情は誰にも悟られません。召使いの心中は誰にも分かり得ません。

栞子「なりません」

 

 

その檻には寝室もリビングもありませんでした。たった4畳程の石だけで造られた内装は、頭巾が一枚置かれただけの殺風景な独房でした。

しずく「お嬢様ですか、いえ、もうこの呼び方も相応しくありませんね」

彼方「……やつれたね」

一瞬、人の気配を感じて体を震わせた召使いは、檻の前にやってきたのがおひめさまと分かると、少しだけ安堵の表情を浮かべました。

しずく「だけど、まだ生きています。もう、消えるほどの灯火ですけど」

彼方「やっぱり、どうにもならないや、ごめんね」

しずく「……あなたは大馬鹿ですか。どうしてそこまでするんですか。馬鹿も大概にしないとーー」

彼方「分かんない。分かんないんだけど……しずくちゃんは死ぬのは怖くないの? それに、身体の傷……」

しずく「私は……一度も産まれていません。あと、お気になさらないでください。私はもう痛みなんて何にも感じないし、味も分からない。どんなに蹂躙されても、生ゴミを食べさせられても何も感じません」

彼方「でも、気持ちはどうにも……」

しずく「何も思いませんよ」

お姫様はこの地下に造られた檻へは近づく事を禁止されていました。常に兵隊が置かれ、ネズミの侵入さえ拒まれていました。しかし、お姫様はここに現れました。

彼方「盗んじゃった。割れていたのも修復したんだ」

しずく「……」

お姫様はあの手鏡を取り出すと、召使いに見えるように近づけました。

彼方「色々考えたんだよ。あれから、こんなことしちゃいけないって分かってはいるんだけど」

しずく「代償はとっても大きいですよ?」

彼方「いいの。お姫様である事もあんまり興味ないんだ。これからはお料理もするし、洗濯もするし、お風呂洗いも薪割りだってする。あと、時間があればお金も稼ぐの。勉強だっていっぱいして、トキメク事があればそれにも熱中して、大変なんかじゃないよ? 今までしてくれた事を、私が怠けていた分をみんなに返す、それだけ。それだけだから」

しずく「あなたは、本当に変わったんですね」

彼方「うん。変わったよ。もう覚えられてはいなかったけど、みんなのおかげなんだ。みんなにはーーもちろんしずくちゃんにもーー沢山のことを教えてもらった。今まで会った人たちを大切にしたいと思えるほどだったの。だから、だから私はこの手鏡を使う。もう一度やり直そう? 都合が良いんだけど。もしかしたら運良く幸せになれるかもなんて思っちゃってるんだけど。例え望んだもの以外が奪われてもいい。これから先の人生、辛いことが待ち構えてても大丈夫な気がするんだ。根拠なんてないよ。でも、そんな気がする」

しずく「……私のことなんて、ほっとけば良いのに」

お姫様は軽く微笑んだ後、手鏡に自身の顔を反射させました。そして、静かにハッキリと望む一節を唱えました。

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