一体何度目だろう。この短時間に何度、目を覚ますのだろう。起きたら、意識が消えて、また起きる。どっちが現実でどっちが夢か分からなくなってしまう。目を覚ましてみても、きっとこれは夢だと思ってしまう。そうであれば簡単に諦めがつく。上手くいかない事に過去をスライドさせて、私ってやつは適当に過ごせば良いのだから。
私の身体は性懲りも無く目覚める。
天井は白いだけで何の情報も持たない。
私は身体を起こすと、ベットの上に寝ていたんだと分かった。キシキシとベットが軋む。あまり来たことはなかったけど、何となく保健室の雰囲気があった。カーテンに仕切られて私は個室にいるみたいだった。横になるのもなんだか疲れてしまって、ぼんやりした時間を過ごす。保健の先生が気が付いたらしい。声をかけて来た。
「へいき?」
「まぁ……おそらくは……」
「そう、もう放課後だからね。たくさん寝たから元気になったのかな」
「そんなに、眠ってたんですね」
「すやすやね。最近休めてなかったり?」
「いや。そんなことはないと思います」
「まぁ、いつでも来ていいからね」
「ありがとうございます」
「荷物はここにあるから教室まで戻らなくても大丈夫。どうする? もう少し休んでいく?」
「いえ……元気になったので、帰りたいと思います」
「そう。明日は休日だからゆっくりしてね」
「はい、ありがとうございます」
保健室の扉を閉める。一連の動作をしただけで一歩も歩きたくないほどの怠さに襲われた。もう少し休んでいた方が良かったかもしれない。それでも、私は家へと歩き出した。
「かすみちゃん?」
帰宅途中、買い物袋を手に掛けた歩夢さんに出会した。袋にはスーパーの店名が記され、駅前まで買いに行った事が分かった。制服は着ていない。
「学校はなかったんですか?」
「うん。今日は振替記念日でお休みなの」
「そうなんですね」
偶然会って、何も話さないまま別れられるほど、軽薄な関係ではない。それに体調が悪いことを気づかれたくなかった。私は続けざまに質問した。
「歩夢さんは……卒業したらどうするんですか?」
「……かすみちゃん。具合悪いの?」
「えっ……どうしてそう思うんですか?」
「あの子と似てるから、なんとなくかな」
歩夢さんとおにぃは仲が良い。非常に、多分両想いと断言出来るくらいに。でも、だからといって私の事なんて分かるのだろうか。正直なところ、おにぃと会話した記憶が中学生に上がってからない。歩夢さんとだって、腹を割った会話なんてした事ないのに。
「ほら、かすみちゃんって、無理しちゃうから。余計なお世話だったらごめんね。でも、ね?」
「ありがとうございます……具合は確かにちょっと悪いです」
「そうだったんだね、ごめんね、話しかけちゃったりして」
「いいんです。歩夢さんと話している方が、なんだか安らぐ気がします」
「ふふふ、なにそれ」
薄い薄い膜で覆われたプライドが優しく撫でられる。シャボン玉のように揺れて、膨らんで、漂う。心許ない情景が、歩夢さんの瞳に映り込んでいる気がして、私はよく見ようと思った。
「歩夢お姉ちゃんは、本当に優しいね」
ーー本当にそう思う。もう、優しさが消え掛かるような世界に住んでいても、遠い町の方から、そっと降らせてくれる雨。みんながみんな望んでいなくても、たった一人のために強く降らす。例えば、道端で倒れている人の栄養、穢れた人の行いすらも洗い流す水。他が雑念みたいに、歩夢さんはたった一人のために頑張れる人。こういう言葉は聖女ではない歩夢さんにぴったりだ。
「嬉しいな」
私の言葉を素直に受け取った歩夢さんは、晴れやかなに笑った。あぁ、私の曇り空も吹き飛ばすように。
「それじゃ、私こっちだから。またね」
もう少しだけ、そう思わせる私の思考をかき消す言葉を放って、歩夢さんの背中は遠くなっていった。不安にも黄色いもやが歩夢さんを包んでいく。私は目を瞑って、振り返って、家へと走り出した。