エマ「璃奈ちゃんはランニングに行く?」
珍しくポニーテールにした髪が、徐に跳ねた。ボディランゲージたっぷりと腕を大きく振った作用が、あそこまで伝わったのだろう。それに「ちょっと一杯行く?」と飲みに誘われたかのようなーーこないだネットで見たドラマーー軽い雰囲気が、少し面白かった。ぽかぽかしているエマさんが、滑稽に素早い動きをすると、相容れない二つが混ざり合って、どうも不思議な愉快さを生み出す。私はそんな瞬間や行動が大好きで、もっと一緒にいたいと思えて、もっと知りたいと思う。だからこそ、エマさんの周りには人が集まるのかなとも思った。
璃奈「私ははんぺんの餌あげてから行く」
エマさんは「そっかー」と言って、キョロキョロと辺りを確認した。どうやら姿を隠したはんぺんを探しているみたいだった。でもすぐには見つからないと悟って、首を傾げて笑った。
エマ「身体が疼き出している!」
思えば、初めからそうだったのだろう。もうほぐれている身体が駆け出したいと疼いているように見える。さっきまで体育の授業だったらしく、体操着のまま部室に来たエマさんは、荷物をロッカーにしまい「このままでいいかな」と言って、私に声をかけたのだった。
エマ「えへへ、せつ菜ちゃんの真似」
柔らかく微笑むと、外界のそよ風が私を撫でる。窓、開いていたかな。ちらりと目をやろうとしたけど、なんだかめんどくさくなってやめた。エマさんは私を見ていた。途端にさらっと揺れて、ガラスを突き抜けた光線と重なった。綺麗だな。私は純粋な気持ちで思った。
璃奈「バッチグー似てたよ」
私は親指を立てた。
エマ「みんなも向かってるのかな」
璃奈「侑さんが居たけど、音楽科の課題があるからって、また出てった」
エマ「なるほど〜」
璃奈「他の子はどうだろう。かすみちゃんは荷物置いてあるからランニング行ったのかも」
エマ「そっか〜 探しに行こうかな」
エマさんが部室を出た後、ひんやりとした風が入って来そうな気がして、少し開いた窓を閉めた。はんぺんは何処にいるのだろう。椅子の影、ロッカーの上、物置の裏。見当たらない。隅に隠れて私達を覗いていたにしては、無愛想なやつだ。ふむ、後で注意の一つでも言ってやろう。
せつ菜「ここです! ここが事件現場です!」
のんびりと着席している時だった。力一杯開けられたドアの向こうで、見向きする必要がないほどの声量を発した人物がいた。
愛「おっ、りなりーじゃん。ちーぃす!」
歩夢「せつ菜ちゃん騒がしいよぉ」
続いて部室に足を踏み入れた二人が私に気がついて会釈した。
せつ菜「璃奈さん! ここに果林さんはいませんでしたか!?」
璃奈「ううん、居なかったよ。エマさんがさっき出ていっただけ」
せつ菜「そうですか。これは迷宮入りですね」
愛「ちよっと大袈裟にしすぎだってー」
歩夢「そうだよ、ちょっとからかわれただけでしょ?」
せつ菜「それはちょっとではありません! 先ほども言ったじゃないですか! 私の純情を弄ばれたんです!! 今日という今日は絶対に仕返ししてやるんです!」
歩夢「仕返しかぁー」
愛「それはそれで面白そうだけど、何か案でもあるの?」
せつ菜「それは……ないですが……」
璃奈「私も考えたい。せつ菜さんの役に立ちたい【璃奈ちゃんボード『オラワクワクすっぞ』】
せつ菜「璃奈さん……!」
愛「あはは、悪ノリが始まりそうかな?」
歩夢「そうみたいだね」
璃奈「悪戯とか面白そう?」
愛「いいねー! 逆にせっつーが、果林をドキドキさせちゃうのは?」
歩夢「面白そう!」
せつ菜「しかし、ドキドキとはどのような」
璃奈「水着でうっふんとか」
愛「じゃあじゃあ、こんなポーズとかは!?」
せつ菜「そんなの出来ませんよ!!」
璃奈「せつ菜さんはこんなポーズがいい【璃奈ちゃんボード『女豹』】
せつ菜「なおさら無理ですー!」
愛「いいねいいね!」
歩夢「せつ菜ちゃんのえっち」
せつ菜「なぜ私ですか!?」