今日の朝は憂鬱な時間だった。
特にこれとして、突然に境遇がマイナスへと落下したわけではないけど、あの頃のような現実的解釈が交通事故に一致して、私達を底へと引き摺り込もうとしている。ーー寂しくはない。私はそう言い続けて、今日まで生き続けてきた。大学に入って、講義を受けて、オンラインゲームで時間を潰す。定期的なテストさえクリアすれば、いや、単位を取るためなら出席さえ偽装してしまえば、私には永遠の時間が与えられている感覚に浸ることができた。でもそれは、私を苦しめる拷問器具になんら変わりはないのだけれど、平然と捨て去る勇気を持てないのが、なんとも歯痒く、そして怠惰であった。
そんなふうに時間を持て余していると、どうやら、私はお台場のコンテナ倉庫が立ち並ぶ港まで来てしまったようだった。どうしようか。そこらの公園に居座ろうか。私は皮膚に漂う蚊を叩きながら、そこに入った。すると、小汚い子猫が私の足元へと駆けてきた。ーー似ている。はんぺんにとっても。そして、想起される。再生していくのは、不快な思い出だ。歪んでいく景色とは反対に、私の表情はツルツルなままなのだろう。
はんぺんーーこれからはそう呼ぶーーについて行くと、少し開けた場所に出た。ただ広いだけで何もない。その適当な場所で、はんぺんは地面を掘り出した。ここ掘れワンワン。猫だけど。私はそんな事を思いながら眺めていた。時間はあまりかからなかった。はんぺんの爪が何か硬いものに当たる音が響いていたのだ。カンカン。空き缶だろうか。カンカン。はんぺんはそれ以上は不可能ですと言った様子で、私の足元に寄った。私は音が鳴る方へ向かい、はんぺんが掘った穴を手伝った。カンカン。やはり、何か硬い物があり邪魔をしている。側面に沿って取り出そうと、城の溝を掘るみたいにかたどっていく。どうやら四角だ。砂を払いながら掘り進めていくと、バランスが悪くなったように揺れ始めたので、私は四角く硬い物の縁を掴み、引っこ抜いた。ーーもしかしたら掘り起こしてはいけないものかもしれないーー脳裏によぎったのは、タイムカプセルだった。赤く錆びついた鉄のような箱。しかし私は好奇心に負けた。ーーもしかしたら退屈だったのかもしれない。きっとそうだ。あの時からずっとそうーー箱の中は簡素な物だった。たった数枚の紙が入っているだけだった。箱を開けた時から、善意が遠くに逃げ出してしまっていたので、私は乱雑に紙を取ろうとしたが、はんぺんが先に紙を咥えてしまった。適当にそこらへ散らばる。
「あなたはそこにいない?」
拾う時に、いったいどこのページだか見当もつかないが、その文が見えた。
「急な出来事が起こって、大切な人が死んでしまった」
その先に書いてあった文は私を重くさせた。それは今の私には堪える。ただそれだけでなんの意味もないのだけど。
私は自宅に帰ってから読むのも面倒になった。そこらのベンチを見つけて、適当に読んでしまうのがいい。あぁ、はんぺん。あそこに座ろう。私たちはテクテクと歩き、落ち葉が乗ったベンチに腰掛けた。古ぼけていて汚かったけれどあまり気にならなかった。もうこの時には、紙の中身へと意識は引っ張られていたのかもしれない。私は身体を預けたはんぺんを撫でながら、そのページをめくり始めた。蚊はまだ飛んでいる。