「しず子はさ〜 考えすぎ!」
パフェの上段に居座るカットバナナの片割れも、私にそうお説教しているような気がした。かすみさんはロングスプーンで器用にカットバナナと生クリームを一緒に取り、口に取り込んだ。もぐもぐと、やっぱり顔の表情が緩んでしまうが、口の中を空にして、私にお説教を始めた。ロングスプーンの先を私に向ける。そして八の字を描きながら自説を得意げに話す。
「ガツンと行かないとダメだよ! そう決めたじゃん、一緒に」
「……でも」
「でももヘッタクレもないの!」
かすみさんは前のめりになって私の眼を覗き込む。勇気がない私は少し眼を逸らす。整えられたまつ毛がとっても綺麗。
「また……演技してるんでしょ?」
「えっ」
思わず目を合わせてしまう。
「先輩の前でさ、八方美人みたいな、清楚で可愛くて、物分かりがいい、理想の後輩を演じてるんでしょ」
ぐうの音も出なかった。本当は反論をしたかった。けれど、目を見てしっかりと「いいえ」なんて、言えるはずはなかった。気付いていなかったのかもしれない、気付こうとしなかったのかもしれない。不意に確信に迫った単語は私の中に浸透した。奥の奥で空気に似た無象に変わって、全身へと巡る。かすみさんには、そのつもりがないのだろうけれど、これはやっぱり私を揺るがした。
「そりゃ、まぁ、好きな人の前では可愛く見せたいの分かるよ。嫌われたらどうしようって思っちゃうし、良いなって思われたい。かすみんだってそうするもん。でも、しず子のそれはやりすぎ。ぜんぶぜんぶ隠しちゃってるじゃん。昔だってそうだったでしょ」
かすみさんは背もたれに腰を預けて、ミルクティーの中身をストローで混ぜた。全部言いましたと、安堵した様子が溢れている。
「……しず子はさ、ありのままだって可愛いじゃん」
頬杖をつかず、首を下げてストローを咥えた。手を使わずに顔だけで迎えに行く姿は、愛犬のオフィーリアを彷彿させた。腕はテーブルの下に隠れて見えない。一口飲んだ後、ボソボソっとかすみさんはそう言った。
「……かすみさんだって可愛いよ」
これは照れ隠し。本音も混ざっているけれど、冗談だって思いそう。
「も〜 あぁあぁ! そういうのずるい! かすみんが今、良いこと言おうとしてるんじゃん!」
確かに私は、本当に仲良くなりたい人や大切な人の前だと、嫌われるのが怖いという根っこから、良い子の仮面をつけてしまう。例えそれが無意識の行動だとしても、それは事実で、昔からの癖はそう簡単に治ったりはしない。私は常に自分と戦っていた。でも、かすみさんに指摘されて、私はハッとする。前を向ける。私と対面でお話ができる。以前抱きしめた私は、今だって抱き合えるはずだ。そして、どんなに暗い私だって、私自信であることは何一つ変わらない。そしてこれからも死ぬまで一緒にいるのだから。
「かすみんはホントのしず子を知ってるんだからね! めちゃくちゃ頑固で、人にちょっかい出すのが好きで、天真爛漫なところがあって、ちょっと運がなくて、悪魔も驚くくらい強欲で、それから、それから……えーとっ」
「……ふふ、かすみさん。ありがとう」
照れ隠しを照れ隠しで返された私は、また照れ隠しで微笑む。言われたそれらは私が受け入れられない暗い場所。人と接する時に枷になる気がして切り落とした場所。少しずつでも出していけたらいいな。拾っていけたら良いな。運がないのはどうしようもないことかもしれないけれど。
「むぅ……わかったのなら、いいけど……」
かすみさんはロングスプーンを握り直してパフェを食べ始めた。
「あっ! バニラが溶けてる!」
「暖房が効きすぎてるからかな、かすみさんがアツすぎるからかな」
「しず子、いま殼を破り始めなくて良いじゃん〜」
「ごめん、ごめん。ほら、私のいちごアイス半分あげるから」
「ええ、いいのぉ?」
「うん。これはお礼。いつも優しいかすみさんに」
「やったー! しず子ありがとう!」
「はしゃぐと危ないよ、かすみさんは冷静さが足りないんだから」
「しず子、今は鞭禁止!」