果林「あら、せつ菜だけ?」
部室のドアを開けた果林はパッと目に入った状況に、そう呟いた。
せつ菜「はい。皆さんまだ来ていませんね」
パソコンの前に座るせつ菜は、椅子から立ち上がって返答した。
果林「今日は暑いわね〜」
せつ菜「最高気温が14年ぶりに更新されたらしいですよ!」
果林「それは大変」
果林は立たなくて良いのよと左手でジャスチャーをした。それを受け取ったせつ菜は、自身の熱さを披露した後、席に座った。
果林「べたついちゃうわ」
部室の奥へと進み、ロッカーの鍵を開けた。果林は自分の制服を摘み呟いた。
果林「何か調べ物? スクールアイドル?」
荷物から練習着を取り出し、シャツのボタンを外しながらせつ菜に質問した。
せつ菜「いえ、これは先日公開された映画の予告です! シリーズ物なんですが、今作はその一作目ということで注目されているんです。その予告映像を観ていました!」
果林「なるほどね、せつ菜の大好きが伝わってくるわね」
せつ菜「この主人公の声優さんが実際にLIVEで行った演出が、アニメの中でもトレースされているんです! 果林さん、このアングルです! 見えますか!?」
画面の映像を果林に見せようと、自身の身体を横にずらした。そして、しっかりと視線の共有が出来ているか、せつ菜は振り向いて確認した。
せつ菜「このあぁっ! ごごごめんなさい! 見てません! 見ていませんので!」
果林「あら」
着替え途中の皮膚面積が多い状態を覗いてしまったせつ菜は、まるで男性のように慌てふためいた。
せつ菜「着替え終えたら言ってください! それまでじっとしていますので……」
デスクトップに正面を戻したせつ菜は、画面を見ずに俯きぎゅっと目を瞑った。恥ずかしさを一点に抑えている。
果林「……」
子どもっぽい、そして純情なリアクションを見せるせつ菜に、果林は悪ノリに火がついた。歩み寄る。上半身だけ下着のままだった。
果林「この動画、よく見たくなっちゃった」
せつ菜「!?」
デスクトップが置かれるテーブルに片腕をついて、覗き込むのに画面を見た。そしてわざと、果林は自身の髪がせつ菜の皮膚を撫でる距離まで顔を近づけた。
果林「このロボットのアングルが良いのかしら?」
せつ菜は瞼をぎゅっと瞑っている。
果林「ねぇ、せつ菜」
せつ菜「まだきっきき着替えて……ないじゃないですか……」
顔を真っ赤にし、今にも沸騰しそうなせつ菜の横顔が愛しく見える。デスクトップのモニターに薄くせつ菜が反射している。
果林「だって、呼ばれたんですもの」
せつ菜「それは……そうなんですが……」
耳も高揚し、手を脚の間で握り、指をモジモジとさせる。
果林「……せつ菜はいったい何を考えているのかしら?」
わざと耳元に甘い吐息を混ぜて鼓膜を震わせた。せつ菜は身震いをし、突然立ち上がった。
せつ菜「わたっ! わたし! 生徒会の仕事を思い出しました!! ちょっと行ってきます!!」
ピューンと駆け抜けて行くせつ菜の香りが、辺りをマーキングし、ドアを勝手に開けたかのような勢いを醸し出した。
果林「あら。もうランニングの時間なの?」
一人取り残された果林は、開け放たれたドアを閉めて、のんびりと練習着へと着替えた。