愛「そういえばさー お婆ちゃんがどうしても思い出せないことがあるんだってー」
歩夢「そういう時ってあるよね」
愛「そう、愛さんも徳川慶……慶、慶子? みたいになっちゃったりする」
歩夢「誰だかわからないけど、可愛い名前だね」
愛「慶子っちはいつも遅くまで敬語の稽古してるんだって」
歩夢「愛ちゃん、これは私からの警告だよ」
愛「負けたっ!」
歩夢「もう、いつ勝負なんてしてたの」
愛「えー 楽しいって思い始めた時じゃない?」
歩夢のクラスに「タノモー」と元気よく侵入した愛は、すぐさま席で帰りの支度を行なっている歩夢を見つけた。「おーい」と体操着を振り回しながら駆け出した愛は、この狭い教室の中で一番輝いていた。簡単に言えば、一番目立っていた。そんな愛に呼ばれた歩夢は自身にも視線が集中する気がして慌てていた。こそこそと鞄を抱いて迎えに行く。愛が自分の席に着くよりも早く。「もう愛ちゃん恥ずかしいんだから!」と歩夢は反発しようとしたが、無邪気に「にしし」と笑う愛を見て、そういう言葉は喉の奥へと引っ込んでしまった。
愛「って違うよ歩夢! お婆ちゃんの話だよ」
歩夢「ごめんねっ、私もぼーっとしてた」
愛「そっかー」
歩夢「それでお婆ちゃんどうしたの?」
愛「うん。好きな駄菓子があってさ、昔から食べてたんだけどそれが思い出せないんだって」
歩夢「駄菓子かー 駄菓子屋さんって最近見なくなったよね」
愛「んー それが曖昧にさせてる原因なのかなぁ」
歩夢「私、愛ちゃんと愛ちゃんのお婆ちゃんの力になりたいな。だから、覚えてる所だけでも教えてくれる?」
愛「助かるよ! えっとね、確かお婆ちゃんが言うにはすっごっーく美味しいんだって!」
歩夢「……それ主観じゃない?」
愛「そうなんだよね」
歩夢「お婆ちゃんの気持ちすっごく分かるよ。駄菓子、全部美味しいもんね。でもそれだけじゃわからないから、もうちょっとだけ教えて?」
愛「確か、当たりがあるって言ってたなぁ」
歩夢「たくさんあるよぉ」
愛「当たり前のようにねぇ〜」
歩夢「……もしかして……あたりめ?」
愛「……なぜ?」
歩夢「愛ちゃんのお婆ちゃんもダジャレが好きなのかなって……」
愛「お婆ちゃんはダジャレの奥深さを分かってくれないんだよねー たはははー!」
歩夢「うーん。段々と絞れてきた気がするんだよね、あとちょっとかな」
愛「あ、そうだね。うーんとうーんと。あ! 棒なんだって!」
歩夢「……あっ、わかった! きなこ棒だよ! 解決したね」
愛「愛さんもね、絶対それだと思ったんだ」
歩夢「違うの?」
愛「お婆ちゃんが言うには、100円有れば9本は買えるらしいんだよね」
歩夢「……きなこ棒だよ!」
愛「むむむ」
歩夢「違うのくるかと思ったけど、順当に特徴を捉えてたね」
愛「でも、分かんないんだよねー」
歩夢「もう……愛ちゃんは何が腑に落ちないの?」
愛「うーん、ほらゲンコツ飴と甘々棒が似てるなぁってさ……」
歩夢「……それって?」
愛「今、写真見せる、これ」
歩夢「……確かに似てるね」
愛「うん、そうでしょ」
歩夢「でも確か当たりがついてるんでしょ」
愛「うん」
歩夢「だったらここに当たりを加えるのは難しいんじゃないかな」
愛「あんたは賢い」
歩夢「もぉ……愛ちゃん、絶対わざとでしょ。私そう言うの分かるんだから。もう一緒に考えてあげないよ」
愛「ごめんごめんて歩夢ー」
先程まで体育の授業が同じだった二人は、教室を出た後、まだ冷めない高揚を活用した。部室に着く間に冷めないように、テンションを高く維持する。初めは誰々のどんなプレーが凄かったとか、歩夢が可愛らしいドリブルをしたとか、為にならないようなことを沢山話した。
歩夢「答えってもう出てる気がするよ」
愛「そうなんだけどそうじゃないような。お婆ちゃん。こんなことも言ってたんだよ」
歩夢「どんなこと?」
愛「爪楊枝に赤い印があったら当たりなんだって」
歩夢「もう確実だね」
愛「あと、二本くらいで飽きるって」
歩夢「水分欲しくなるよね」
愛「あと、帰りに買って来てって言われた」
歩夢「食べたくなっちゃったんだね」
愛「それで色が虹色なんだって」
歩夢「うんうん。あのカラフル、えっ!?」
愛「もう絶対、きなこ棒だね。うんうん。よかったー 解決して。これで同好会に集中できるよー」
歩夢「愛ちゃん!? えっと、最後の。最後のって?」
愛「最後に歩夢に聞いて良かったー 歩夢のおかげだよー」
歩夢「あれ、私がおかしいのかな。きなこーー」
せつ菜「歩夢さん! 愛さん!」
前から駆け足でやって来たせつ菜は、大きな声で叫んだ。
せつ菜「たた助けてくださいっ! 果林さんが! 果林さんが!!」
歩夢「とりあえず落ち着いて、せつ菜ちゃん」
愛「そうだよせっつー 本当にマズイ感じは伝わってるよ?」
せつ菜「すいません! えっと……」
歩夢「何があったの? 大変なこと?」
せつ菜「えっとっ、着替えていて! 果林さんが何を……こうして、ですね」
愛「何があったの?」
せつ菜「なっ、何とは……その……えっと」