「ふう」
決戦当日、俺は自室で気合いを入れるとともに部長から渡されたライザー達の資料を読んでいた。
「部長は読まないよりはマシって言ってたけど、とんでもない文量だよな」
俺の手元の資料にはライザーを含めた眷属悪魔全員のこれまでの戦歴がのっていた。どんな戦闘スタイルか得意技は何かだけじゃなく、これまでのレーティングゲームでの戦闘データまであった。
「桃花が作ったって話だけど俺達の修行をしながら作ったとは思えないできだよな。……いや、まあ全然わかんないだけどさ」
一応相手の名前と顔は覚えたけどレーティングゲームの戦果までは覚えられんわ、うん。
「後、二時間後か。決戦は夜の零時からで三十分前に部室集合だったよな」
学生服も着たしそれ以外に必要なもんも全部持ったよな。それに漸く必殺技も完成したんだ、ライザーの奴に目にもの見せてやる!
「イッセーさん、もう準備は終わりましたか?」
ノックと共にアーシアの声が聞こえてきた。
「ああ、ちょうど今な」
「じゃあ、入ってもいいですか?」
「おう、いいぞ」
入ってきたアーシアは初めて会った時に来ていたシスター服で少しだけ驚いた。勿論、胸にロザリオはかけてはいないけどな。
「アーシア、その格好は……」
「は、はい。部長さんに聞いたら自分が良いと思う服装でいいと言ってくれて。それで『私』とも相談してこっちにしました。信仰心は忘れてませんから」
アーシアはそうハニカミながら言った。それにしても
「私って黒い方のアーシアの方だよな?よく了承したよな」
「そうですか?」
「ああ。あいつ俺達以上にアーシアに対して過保護だろ?」
下手したらアーシアに近づく奴は問答無用で爆破するだろ、あいつ。俺がそう考えているとアーシアの首がだらんと下がった。次に首をあげると目付きの悪いアーシア、黒いアーシアになっていた。
「可愛い子には旅させろってものよ」
「そうかよ。まあ、アーシアが考え抜いたなら俺は文句ないけどな。多分部長も同じ事言うと思うし」
「ま、いざとなったら私が守るわよ。それと私の事はクロって今後呼びなよ」
唐突に目の前の奴がそう言ってきた。
「クロ?」
「ええ。……いい加減黒いの、黒いの呼ばれたくないのよ」
宜しくーと言ってクロの奴はまたアーシアと入れ替わった。
「あれ……?また、変わってました?」
「ああ、まあでも変なことはしてないよ。クロって呼んで欲しいとは言われたけど」
「クロさんですね。でも、勝手に交代はやめて欲しいです」
流石にアーシアもぐったりした顔をしていた。まあ、俺からするとドラゴンに体を操られてるみたいなもんか。……そう考えると怖いな。
「あ、あのイッセーさん。隣に座ってもいいですか?」
「ああ、いいけど」
ベッドで座っていた俺の隣にアーシアが座った。そして、俺の目を近くから真っ直ぐ見つめて聞いてきた。
「イッセーさん。……私達は勝てるでしょうか?」
「それは……」
断言は……できないよな。ライザー達に勝てる様に頑張ってきたけど実際にそこまでたどり着いたなんてわかりっこない。だから俺にできるのは……
「ああ、勝てるよ。いや、絶対俺がライザーの野郎をぶっ飛ばしてやる!」
「ッ。はい!」
せいぜいアーシアを元気づける事だけだよな。
深夜十一時四十分。俺達は旧校舎のオカルト研究部の部室に集まった。それぞれがリラックスできる方法で待機していた。アーシア以外は皆いつもの学生服だ。
木場は椅子に座って静かに眼を瞑っていた。瞑想ってやつか?初めてみたけど木場の奴は結構さまになっていた。
小猫ちゃんは椅子に座っていつも食べっているお菓子よりも少し高そうな物を食べていた。近くの机の上には格闘家がつけるようなオープンフィンガーグローブが置いてあった。
朱乃さんと部長はソファに座り、優雅にお茶を飲んでいた。さすがに俺らのお姉さま達は落ち着いてるよな。
レイの奴は壁にもたれかかって天井を見ていた。何か船こいでないか?少し気になったからアーシアと一緒にレイの近くまで歩いて行った。
「おーい、レイ。大丈夫か?」
「……あ、一誠。大丈夫、緊張で寝てないだけ」
「おーそうか。……嫌々、全然大丈夫じゃないだろ!」
「大丈夫ですか、レイさん!?」
アーシアが急いで回復のオーラをかけようとした。
「アーシア、それ寝不足には効かないだろ!」
「あっ、そ、そうでした!!じゃ、じゃあどうしましょう!!?」
アーシアが混乱していてそれを俺が宥めていると目の前にいるレイも含めた部員の皆が笑い出した。
「み、皆?」
俺が困惑した表情で言うと部長がお茶を机に置いた。
「ふふ、ごめんなさいイッセー。貴方達があまりにもいつもどうりだから緊張している私達が馬鹿らしく思えてきたのよ」
「え、緊張していたんですか!?」
「もう、貴方は私達を何だと思ってるのよ」
部長が拗ねたようにそう言った。それを見て俺とアーシアも思わず笑ってしまった。だって部長可愛すぎだろ!!
「コホン!皆……勝って必ず帰ってくるわよ!!」
『はい!!』
俺達がそう言い終わったのとタイミングを同じくして部室の魔法陣が光り、グレイフィアさんが現れた。
「皆さん、準備は出来ましたでしょうか」
グレイフィアさんの言葉に俺達は揃って頷いた。グレイフィアさんが説明を始めた。
「開始時間になりましたら、ここの魔法陣から戦闘用のフィールドに転送されます。場所は異空間に作られた偽者の世界。そこではどれだけ派手な事をしても構いません。使い捨ての空間ですので」
戦闘用のフィールド……脳裏に零王、いやダグバとの戦いが思い浮かんだ。あれもこれと同じ技術だったのか?
「それから、今回のレーティングゲームは両家の皆様も他の場所から中継でご覧になります。また、魔王サーゼクス・ルシファー様も今回の一戦を拝見されておられます。それをお忘れなきように」
魔王様が!?俺らのトップまで見に来るとかどんだけ注目されてんだよこの試合!!
「……そう、お兄様が直接見に来たのね」
「え、あの、いま、お兄様って……」
「ええ。魔王サーゼクス・ルシファーは私の兄よ」
「え、えぇぇぇぇ!!?」
マジかよ!?部長のお兄さんが魔王様!?あれ、でも……
「イッセー、お兄様は本来の魔王ではないのよ。先の大戦で本来の魔王様達は既に亡くなっているのよ。でも魔王無くして悪魔は成り立たない。そういう訳で当時悪魔の中でも強かったお兄様を含めた四人の悪魔が魔王を引き継いだのよ」
「な、なるほど。ああ、だから部長が家を継がないと駄目なのか」
「そろそろ時間です。皆さま、魔法陣のほうに」
グレイフィアさんに促されて俺達は魔法陣に集結した。
「一度あちらへ移動しますと終了するまで魔法陣での転移は不可となります」
魔法陣の紋様が見た事の無いものに変わり光を発した。俺達はその光に包まれ、転移が始まった。
『皆様、このたびグレモリー家、フェニックス家のレーティングゲームの審判役を担う事になりました、グレモリー家のメイドグレイフィアでございます』
転移が終わったと思ったら部室にいた。俺が不思議に思っていたら校内放送でグレイフィアさんの声が聞こえてきた。
『我が主、サーゼクス・ルシファーの名のもとにご両家の戦いを見守らせていただきます。どうぞ、よろしくお願いいたします。さっそくですが、今回のバトルフィールドはリアス様とライザー様、それに我が主のご友人の意見を参考に、リアス様が通う学び舎、駒王学園のレプリカを異空間にご用意しました。両陣営、転移された先が本陣となります。リアス様の本陣が旧校舎のオカルト研究部の部室。ライザー様の本陣は新校舎の生徒会室。兵士の方はプロモーションをする際は相手の本陣まで赴いてください』
プロモーションって確か兵士が王以外の駒に変化できる能力の事だよな。こっちは俺しかいないけど向こうには八人居るんだよな……。何としてもそれだけは阻止しないとな。
「全員、この通信機を耳につけてください」
朱乃さんが部員にイヤホンマイクタイプの通信機を配った。それを耳につけながら部長が言う。
「戦場ではこれで味方同士やり取りするわ。全員盗られては駄目よ。それだけでライザー達に作戦が漏れてしまうわ」
そうか、これ盗られたら俺達の会話も筒抜けになるもんな。気をつけないとな。
『開始の時間となりました。なお、このゲームの制限時間は人間界の夜明けまで。それでは、ゲームスタートです』
グレイフィアさんの放送が終わり、学校のチャイムが鳴り響いた。これが開始の合図か。これってタイムアップの時もチャイムなのかね。
「さて、まずはライザーの兵士……よりも女王ね」
「え、どうしてですか?」
部長の言葉に俺は違和感を覚えた。だって兵士を倒さないでいて本陣まで来られたら女王が9人になるわけだろ。だったら先に倒すもんじゃないのか?
「ええ。私も普通ならそうするわね。ただ、今回私達には桃花が用意してくれた情報があるわ。それを見てみるとね、ライザーは兵士が多い事を利用して
「なんかそれだけ聞くと最低に聞こえますね」
「あら、戦術としては正しいわよ。私は好きになれないけど」
多分部長が嫌いなのは犠牲の方だよな。敵には容赦とかしないし。
「とはいえ、直接狙うわけにはいかないわ。だからおびき寄せる必要があるわ。その為にまずは準備ね」
部長は立ち上がって部員一人一人に声を掛けて行った。
「祐斗と小猫は近くの森に対空用のトラップを仕掛けてきてちょうだい。そちらから来る事はまずないと思うけどお願いね。朱乃は二人がトラップを仕掛け終えたら周囲に霧と幻術を掛けてちょうだい。ライザーの眷属にのみ反応するようにね」
「はい」
「わかりました」
「了解しましたわ」
木場、小猫ちゃん、朱乃さんと続いて次は俺の番だ。
「イッセーはアーシアとレイと一緒に此処に待機……いえ、そうね、その前にこっちに来てちょうだい」
部長は此方に来るように手招きをしてくれた。
「はい!」
「じゃあ、此処に座ってちょうだい」
部長はそう言って座っているソファーの隣をポンポンと叩いた。俺が隣に座ると部長は次に自分の太ももを指差した。
「ここへ横になりなさい」
「え、そ、そ、それって膝枕って事ですか!!?」
俺の叫びにアーシアは苦笑をレイは耳に指を入れて怒った表情を浮かべていた。部長はフフと笑うと慈愛に満ちた表情で言った。
「ええ、そうよ。嫌いだったかしら?」
「いえ、そんな事はありません!!」
「だったらいいじゃない」
「そ、そうですね。じゃ、じゃあ、よろしくお願いします!」
最高だった。これほど素晴らしい枕があっただろうか、いや無い!!部長の白いおみ足は見た目通りに柔らかく、横になっているだけでその感触がダイレクトに伝わってくる。更に部長がそんな俺の頭を撫でてくれるから更に眠気を誘ってくる!絶対に売ったら高値で売れる!!いや、こんな素晴らしい物を売るなんてとんでもない!!いや、しかし素晴らしい物は広めろってエロい人も言ってたし……痛ッ!
「いい加減、トリップから帰ってきたら?」
頭に走った痛みの元凶を探しているとレイが手に蔦のような鞭を持っていた。アーシアが傍によってきて回復のオーラを俺の頭に当ててくれた。
「す、すまん」
「流石にあの顔はキモイから止めて」
き、キモイって。流石に言い過ぎだろ。そういう意味を込めてアーシアを見たら眼を逸らされた。あ、あのアーシアまでって相当きもかったのか。……こ、今後は自重しよう。
「な、何だか時間が掛かったけどイッセー。貴方にかけた封印を解くわ。少しだけだけどね」
「封印?」
俺が疑問を口にすると俺の体の中から力が沸いてきた。それと同時に俺の中のドラゴン達も喚起の叫びをあげた。
『ハハ、いい塩梅だ。この状態なら俺の力を全開に使っても五分は持つだろうよ』
『いや、五分って短くないか?』
頭に直接話しかけてきたドライグにそう聞くともう一体のドラゴンが口を挟んできた。
『フン、こいつの力なら五分もあれば十分だろう』
『そうなのか?』
『ああ、五分もあればライザー・フェニックス程度は造作も無いさ』
『ていうか、結局お前の名前は聞いてないんだが』
俺がもう一体の銀色のドラゴンに聞くと鼻で笑ってきやがった。
『今回、生き残れたら教えてやるさ』
『いや、それ前も言ってたろうが!!!』
ずっと黙って脳内会議をしていた俺を心配してか部長が声を掛けてきてくれた。
「イッセー、大丈夫かしら?」
「は、はい。大丈夫です」
「いま開放したのは兵士の駒の本来の力よ修行を経た貴方なら使いこなせる筈よ」
「わかりました!」
それから数分後、木場達が戻ってきた。
「では、そろそろ攻めていこうかしら」
部長は俺達に指示を出していった。俺と小猫ちゃんは体育館に木場とレイは別行動。内容は二人しかしらないらしい。万が一ライザーの眷属に心を読むような能力を持った奴がいる場合への対策らしい。で、アーシアと部長はこの場に待機。朱乃さんはライザーの女王が出てきたら加勢に来てくれるらしい。
「じゃあ、皆行くわよ!」
『はい!』
絶対、この試合は勝ってみせる!あんな野郎に部長を渡してたまるか!!