武内P「すみません、プロデューサーに興味はありませんか?」
ぐだ男「YОU、アイドルになっちゃいなYО!」
こころ「おっけー」

これは、それだけのお話。

11/27 書き足しました
11/30 匿名を解除しました

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前職人類最後のマスター、現在はプロデューサー見習いの藤丸立香が秦こころをスカウトする話

 前略、カルデアの皆様。

 人理を取り戻すための戦いを終えた後、いかがお過ごしでしょうか。

 

 『日本に帰りたい』と願った自分のために、迷惑をかけてしまったと思います。

 カルデアを離れたあの日、笑顔で送り出してくれた皆には、感謝してもし足りません。

 

 マシュは無理していませんか? 頑張り屋な後輩のことが、先輩はいつも心配です。

 ムニエルに紹介されたアニメを見ました。シリーズ物と知ったので、次回作が楽しみです。

 所長は、◇◇◇◇は、〇〇〇〇〇は―――――

 

 

 

 

 ……こちらは平和そのものです。魔術のまの字も見かけない平凡な生活に、時々戸惑うこともありますが、そのたびに「自分達がこの平穏を取り戻したんだ」と嬉しくなります。

 

 長くなりましたが、今回はこの辺で終わりにしようと思います。また次回の報告を楽しみにしています。藤丸立香より。

 

 

 

 

 追伸1。先日町を歩いていたら、プロデューサーにならないかとスカウトされました。最初は詐欺じゃないかと疑いましたが、346プロダクションという有名なところなので、騙されたわけではありません。自分にできるか不安ですが、サーヴァントのみんなと過ごした経験を活かして頑張ろうと思います。

 

 追伸2。謎のヒロインXXが「とうとうマスター君も社畜に!?」と暴れるかもしれないので、くれぐれも秘密にしてください。

 

 

 

 

 

 人理焼却からの人理漂白。立て続けに発生した事件で世界の裏側が激震するのと同様に、いわゆる表側、一般社会も不安定極まりなかった。『いつのまにか世界が燃え尽きていた』だの『気が付いたら世界が真っ白に塗り潰されていた』だの、そんな与太話を信じられるわけもない。スケールが大きすぎてガス会社に責任を負わせることもできず、神秘を秘匿する組織が全力をあげて隠蔽に奔走する羽目になり、でっち上げのカバーストーリーを世界中で展開することとなった。

 

 誤魔化しにも限度がある。どうしたって説明の追いつかない事柄が幾つも重なっていくたびに、人々の不安は膨らみ、事件やスキャンダルが後を絶たなかった。そんな中で、彼らが安心を求めた先は何か。

 

 アイドルである。

 

 きらびやかな舞台で、少年少女達が懸命に歌って踊る。お茶の間のテレビや、通勤電車に揺られながら手に持つスマホを通して、人々は元通りの日常に戻るための活力を得た。その熱狂はいまも続いており、世界中の芸能業界が好景気を迎えている。ドラゴン娘ことエリちゃんが聞いたら大歓喜すること間違いなし。

 

 さて日本はというと、昭和から続いて何度目かのアイドルブームの真っ最中である。繁華街を歩いてみれば、右の街頭テレビジョンには新人アイドルのデビュー曲が流れ、左のライブハウスからはスカウト志望の地下アイドルとそのファン達の絶叫が響いてくる。SNSのトレンドは政治よりもアイドルが占めるようになり、学生の就職志望先は芸能関連がスポーツと同じか、それ以上のものになった。

 

 世はまさに大偶像時代。明日のシンデレラは君だ!

 ……と、空前絶後のアイドル人気に沸く世の中で、ひとつの問題が発生した。

 

 

 プロデューサー側の人材枯渇。

 

 

 日常に埋もれたアイドルの原石を見出し、その一人ひとりにあった育成プランを組み、日本中に営業をかける。縁の下の力持ち的な存在が、アイドル需要の急騰に追いつけなくなってしまったのである。せっかくのアイドル候補生達を塩漬けにしかねない事態に、芸能プロダクション各社は焦りに焦った。

 

 早急に人材を確保するように、という上司からの厳命を受けて、ぬぼーっとした長身と凄みのある顔面で街中をうろつき回る社会人、武内プロデューサーと藤丸立香が出会ったのは、そうした事情があってのことだった。

 

「すみません。プロデューサーに興味はありませんか?」

「えっ」

 

 その時の立香はというと、カルデアから帰国して三カ月ほど休息し、そろそろ次のことを考えるようになっていた。なにしろたっぷりと危険手当が追加されたので、口座には見たことのない桁の預金が振り込まれている。就職か、それとも旅にでも出ようか、と悩んでいたところへ、まったく予想もしない選択肢が示されたのだ。

 

 最初はドッキリか詐欺の類かと疑ったものの、話を聞けば思った以上にまともな仕事のお誘いである。少なくとも献血現場で海外派遣を紹介された前職よりは常識的だった。困ったように首へ手をやりながら説明する武内Pからして、立香とほぼ同い年だというのだから、よほど人材が不足しているのだろう。口には出さないものの、相当に切羽詰まっているようだった。

 

「芸能界はまったくの未経験なんですけど、どうして自分に声をかけたんです?」

 

 それを聞いた時点で半分以上は承諾するつもりだったのだが、立香としては確認しなくてはならない。

 質問された側の武内Pはというと、たっぷり三分ほど硬直してから、

 

「……何故でしょう? あなたには、きっと向いていると思ったので」

 

 かつてカルデアで耳にした半人半馬の英霊によく似た声で、そう答えたのだった。

 

 

 

 

 一週間後。

 

「すみません。収穫ゼロです」

「謝る必要はありません。最初はそういうものです」

 

 がっくりとテーブルに突っ伏す立香を励ます武内P。346プロダクションの社内カフェで繰り広げられる光景に、同僚の社員や所属アイドルから温かい視線が寄せられているのだが、いまの立香には気にする余裕もない。

 

 研修の一環として武内Pを手伝うように指示されたのだが、『プロデューサーの仕事はスカウトから』と力説する武内Pに押し切られる形で、入社して早々に立香はスカウト業に走り回っている。魔術礼装で着慣れたサラリーマンスーツによく似た一張羅に袖を通した時は、これが自分の仕事着になるのか、と感慨深いものがあった。

 

 障害にぶち当たったのは、そのすぐ後である。

 

「……あれぇ?」

 

 繁華街の中心。

 ライブハウス。

 公園の一角。

 

 およそ人の集まるところなら、どこにでも足を運んだ。可愛い、美人の相手を見つけようと意識して、常に気を配った。何度かお巡りさんから職務質問を受けそうになったのはご愛敬である。

 

 それだけ真剣に仕事へ打ち込んだのにも関わらず、

 

「ひとりも見つけられないなんて……」

 

 声をかけて断られるのは想定内だった。

 不審者に間違われるのも覚悟していた。

 

 まさか、声をかける相手自体がいないとは思わなかった。

 

「本当にすみません。サボっていたつもりじゃないんですけど」

「藤丸さんの行動範囲は会社から支給されたスマホのGPSで把握していますし、その心配はありません……誰にも声をかけないというのは、予想外でしたが」

 

 そういって眉を寄せる―――怒っているのではなく、心配しているのだと立香にもわかる―――武内Pがスマホを確認する。ここ数日で立香が回った場所のリストは、業界人なら誰もが利用するスカウトポイントで埋め尽くされている。アイドル志望の子供達もそれを知っているから、声をかけられるのを期待してたむろする。玉石混交とはいえ、ひとりふたりは目をひくのが普通なのだが、

 

「気後れしたのではない?」

「はい」

 

 美人ではあった。可愛くもあった。

 テレビに映るモデルと遜色ない外見と立ち居振舞いをする子もいた。

 

 ただそれだけでしかなかった。

 

(目が肥えすぎたのかなぁ、俺)

 

 

 

 カルデアでの数年間、藤丸立香は百人を超える英霊達と出会い、中には日常生活を共にするまで親密になったサーヴァントもいた。気が合ったから、ぶつかり合ったからと、きっかけは様々であるにせよ、友人や家族のように心を許した者は数知れない。

 

 席を並べて、向かい合って食事した。

 珍妙奇天烈なイベントを駆け巡った。

 屋根もない荒野で、ひとつしかない布にふたりでくるまったこともあった。

 

 ……世界から英霊と称されるほどの存在は、たいていが眉目秀麗であったり、絶世の美貌の持ち主である。そんな相手と寝食を共にする生活を送ってきた立香の目は、無意識の内に磨き抜かれていた。いささか過剰なレベルまで。

 

 それだけの審美眼で見てしまったら、どんな相手でも見劣りするのは当然である。合格ラインからはじかれたアイドル志望者達が可哀想な程だった。現に、立香が去ってから他のスカウトに声をかけられた者も多数いる。果たして彼と彼女達がデビューできるのかはともかく。

 

 

 

「もっと基準を下げた方がいいんでしょうか?」

 

 悩む立香が口にした言葉に、

 

「それはいけません」

 

 武内がはっきりと首を振った。物静かな彼にしては珍しく、声に力が籠められている。

 

「藤丸さん、確かにあなたの目は厳しいかもしれません。でも、だからこそ、私はあなたをスカウトしました」

「……」

「いま、この業界は熱狂しています。現場の私達が混乱する程のアイドルブームの真っ只中です。昨日までの一般人が、今日の夜にはシンデレラの靴を履いている。そんな夢物語が叶ってしまう、異常事態といってもいい。その靴を用意しているのは、他ならぬ私達なのです」

 

『君もステージの中央でスポットライトを浴びて輝く存在になれる』

 

「その言葉を信じて、毎日多くのアイドルが誕生しています。しかし、彼女達のほとんどは途中で脱落するのです。実力が足りなかったり、あるいは家庭の事情であったりと、理由は様々でしょう。ですが、彼女達のほとんどが、こういって辞めていくのです」

 

 こんなはずじゃなかった。

 自分には向いてなかった。

 

 ――――アイドルなんて、ならなければよかった。

 

「私達プロデューサーには、彼女達をアイドルにしたという責任があります。その責任を果たせないのなら、彼女達をアイドルにすべきではなかったことになる。自分が胸を張って『この子はアイドルなのだ』と送り出してやれないのなら、そもそもスカウトするべきではない。私はそう思います」

 

 普段の言葉少なな様子からは想像もつかない熱さを見せる姿からは、同い年とは思えない落ち着きと包容力を立香に感じさせた。これで社会人になって二年目だというのだから信じられない。

 

(この人に守られる子達は安心だな)

 

 自分がカルデアで過ごした一年と、彼が社会の荒波に揉まれて過ごした一年は、まったくの別物だろう。自分には自分の苦労があり、彼には彼の苦労がある。両者を比較することはできない。それでも、多くのアイドル達を守るためにひとりの大人であろうとする彼は、立香には眩しく尊いものに見えた。

 

 そんな立香の視線に気づいたのか、武内Pがゴホン、と咳ばらいを一つして、首筋に手をやった。自分が熱くなっているのを自覚したのだろう、いささか気恥ずかしそうにしながら、

 

「……すみません。話を戻しますと、藤丸さんには方針を変えることなく、スカウトを継続してほしいのです。プロデューサーにスカウトの実績が必要なのは事実なので、そちらの経験を積みつつ、営業や事務を学んでいただく予定でいます」

「了解です。あの、武内先輩」

「はい?」

 

 相手がいぶかしむのに構わず、頭を下げる。

 “この人となら一緒に働ける”と思いながら。

 

「ありがとうございます。これから、よろしくお願いします」

「……はい。こちらこそ、よろしくお願いします」

 

 

 

 

「うえっへっへ……無表情系先輩と子犬系後輩、ふたりの熱いコミュニケーション……良いもの見てるじぇぇ……!」

 

 成人男性が社内カフェの中でふたり、お互いに会釈し合ってから姿勢を戻し、さてこの微妙な空気の中でどうやって仕事の話に戻ろうかと頭を悩ませつつある様子を、三つ離れたテーブルで一心不乱に描きなぐる同人アイドルの姿があったとかなかったとか。

 

 

 

 

(先輩はああいってくれたけど、どうしたもんかな)

 

 夕暮れに染まる空を眺めながら、立香はとぼとぼと帰路についていた。上京のために借りた1LDKマンションは都心からわずかに離れており、昔ながらの商店街と大型ショッピングモールのちょうど境目にある。光回線やWIFIも完備と、至れり尽くせりの環境である。立香本人にそこまでインターネットに興味がないので宝の持ち腐れだが、今後の仕事で嫌でも使うことになるだろう。

 

(せめてひとりは発掘したい)

 

 焦らなくていい、といってくれる先輩の好意はありがたいが、それに甘えてしまうのも違う気がする。常にアイドルのためを思って動く武内プロデューサーの期待に少しでも応えたいと、立香は久しぶりにやる気を感じていた。

 

 とはいえ、現状ではどうすることもできない。自分の目にかなう相手を見つけるまで、空振りに終わったスポットを回り続けるだけである。体力には自信があるので問題ないが、徒労感だけはどうしようもない。慣れてくれば多少は薄れるのだろうか。

 

 やがて自宅のあるマンションが見えてきた頃、立香の視界にふと、それまで目につくことのなかった建物が映った。いたるところの塗装が剥げた鳥居に、申し訳程度に水の流れる手水、荒れが目立つ本堂。

 

(神社か)

 

 引っ越し先を探していた時に、地図の片隅に神社があったのを思い出す。まったく用事がなかったために、参拝しようという気が起きなかったのである。せっかく通りがかったのだから、と思い、立香は寂れた境内に足を踏み入れていった。

 

 ちょろちょろと流れる水で両手を清めてから本堂へと向かう。やたらと大きな賽銭箱の前に立って、懐の五円玉を投げ入れる。

 

 二礼二拍を済ませてから合掌し、こうべを垂れた。

 

(どうか自分に、将来のアイドルが見つけられますように)

 

 

 

 

 

 きっかけは一時の気の迷いだったかもしれない。

 けれど、神前に込めた願いは本物で、立香には特別な縁があった。

 

 であるならば、どこかの神の目に留まるのは必然であり、その出会いは運命だったのかもしれない。

 

 

 

 

 

 心の中で念じている内に、思いのほか真剣になっていたようだった。力を込めすぎて赤くなった両手の合掌を解いてから、ゆっくりと目を開ける。

 

 目の前の賽銭箱に、ひとりの少女が腰かけていた。

 

「……」

 

 無言のまま、じっと自分のことを見つめる姿からは、立香が三カ月前まで毎日のように感じていた気配が漂っている。霊長類の勝者になる過程において、ほとんどすべての人間が捨て去った神秘。その残り香ともいうべき魔力が、眼前の少女からはっきりと感じられる。

 

(はぐれサーヴァント?)

 

 腰まで伸びた薄紫色のロングヘアをなびかせ、同じ色の瞳をまばたきで閉じることなく参拝者を見つめている。青と薄青のチェック柄の上着はほんの少しだけ起伏を生じさせており、中性的な外見が少女であると証明していた。

 

 とりわけ目を引くのは、長い両足をすっぽりと隠すバルーンスカートだった。ところどころに人間の喜怒哀楽を表現したような紋様の穴が空いているのは、ダメージジーンズから着想を得た彼女なりのお洒落だろうか。

 

 そして、無表情な少女の気持ちを代弁するかのように、頭に着用された面。どうやらこれが彼女を魔術的な存在たらしめるアイテムらしい。魔術師としてはへっぽこ同然の立香の目にも、おぼろげながら魔力を発しているのが見える。それは狐の面だった。日本においては稲荷信仰で親しまれる狐は、神の使いとしても知られている。その面を着ける少女は、さしずめ代行者とでもいうべき存在なのか。

 

 古ぼけた神社に音もなく現れた神秘の存在が、託宣を告げるかのように、おもむろに口を開いた。

 

「我が名は秦こころ。古より続く能楽の付喪神として、汝の願いに応じて現界した」

 

 めっちゃ聞き覚えのある前口上だった。具体的には、カルデアの資材を切り詰めて捻出した虹色の石を大量に消費して現れる英霊的な。

 

「願い?」

「ここは芸能の神社。あなたが願ったということは、私の力が必要だということ。いつもなら参拝者の才能を伸ばすんだけど、特別な縁をたどって私自らが来た。おーけー?」

「特別な縁っていうのがいまいち……色んなサーヴァントと会ったから、誰なのかわからない」

「人たらしならぬ、鯖たらしだったか。ならば、これでどうだ!」

 

 どこからか取り出した仮面を、こころの細い両腕が立香の前に突き出す。禍々しい柄をひと目見た瞬間、立香の脳裏にまざまざと記憶が浮かび上がる。

 

 それは一夏の小旅行。ひと気の絶えた廃村を舞台に繰り広げられた、死を記録し続ける一族の研究と、成果を回収するために現れた始祖たる女との衝突。

 

 二千年の時を超えて宿願を果たした英霊の作り上げた、死の概念礼装。それを模した仮面が、少女の手にあった。

 

「徐福ちゃんの!」

「ちゃん!?」

 

 すっとんきょうな声を上げて固まる少女。表情はこれっぽっちも変わらない。かわりに、頭の面が狐から猿へと変化していた。どうやら彼女なりに驚いているらしい。

 

「おかしい……二千年の長きに渡って死を刻み続けてきた、恐るべき存在だって聞いたのに、ちっとも畏怖がない。こわくない?」

「ぐっさん、ええと、虞美人先輩と会えて幸せそうだったよ」

「なんで世界三大美女がでてくるの? ほわい?」

 

 こてん、と首を傾げる少女。いわれてみれば、どうして徐福と虞美人が絡むのか、立香にも説明がしにくい。そうだったんだからしょうがない、としかいえないのだが。

 

 

 

 

 

 人類最後のマスターから、プロデューサーになった青年、藤丸立香。

 彼の願いに応じて現れた、表情豊かなポーカーフェイス、秦こころ。

 

 やがて芸能界に暗黒能楽(モンキー・ポゼッション)の一大ムーブメントを巻き起こすふたりの出会いが、今ここに果たされたのだった。

 

 

 

 

 

 小ネタ集

 

 

◇入社前◇

 

「武内先輩ですか? はい、ついさっき、自分もスカウトできました。この子ならきっとアイドルになれるって信じて……身分証? あー、ちょっと聞いてみます」

「ないよ」

「……すみませーん、ゴルドルフ所長ー? ちょっとお力をお借りしたいことがあって電話しました。いや、カルデアに再就職じゃなくてですね、サーヴァントの戸籍みたいなのをひとつ用意できないかなって……もしもーし?」

 

 

 

◇ダンスレッスン◇

 

「飲み込みが早い。一度見ただけでリズムもテンポも合わせられるのは、天性の才能だろう」

「舞踊の経験者なのも見てわかる。プロ顔負けの体幹だ。素晴らしい逸材だと私も思う」

「問題は――――」

 

「いよーーーーーおっ、ぽんっ」

 

「教えたものがすべて能楽になってしまうのはどういうわけだ!? 能楽系アイドル路線一本で売り込むと!? 正気か君は!? 先輩として何かいってやりたまえ、武内君!!」

「……良い……ダンスです……」

「魅了スキル持ちだったかー」

 

 

 

◇ボーカルレッスン◇

 

「お願ひ 灰かぶり

 夢は夢にえ終はらぬ~」

 

「音程は完璧なのに……これ以上なくパーフェクトなのに……あまりにも古文過ぎる……!」

「本人的にどうしても外せない要素だそうです」

「古典の需要もありっちゃありだけど、ニッチ過ぎない? プロンプターで歌詞を流すとかでいいかな……まぁ、上に掛け合ってみるよ。せっかく本人がやりたがってるんだしね」

 

 

 

◇ヴィジュアルレッスン◇

 

「顔良し・バランス良し・姿良し! ただし無表情なのがたまにキズ! ……どうにか笑えない? こう、口の端を釣り上げてさ」

「にーっ」

「あっかんべーになってる……お面で感情を表す? みんなが能楽を知るきっかけになるからこれでいきたい? じゃあ、それでやってみようか」

 

 

 

◇ひとりめのファン◇

 

「こころちゃん! あのっ、ぼく、初めて見たときから推しになっちゃって! 能楽とか全然知らないけど、これから勉強するから! こころちゃんなら絶対トップアイドルになれるって信じてる! 応援するからね!!」

「おー、ありがとう。感謝」

 

「……あの、夢見さん、なんで同じ事務所のアイドルが客席の先頭に陣取ってるの? まだ公式でグッズ作ってないのに、こころの名前入りうちわとか作ったの? ていうかレッスン中じゃ?」

「ぎゃあああ出たな藤丸P! ぼ、ぼくはアイドルの前にひとりのドルオタなんだ! 推しがいてくれるから毎日生きていけるんだ楽しいんだ! ぼくから特効薬を取り上げないで! めっちゃやむ!!」

 

 

 

◇反響・大◇

 

「第〇回、秦こころアイドル会議です……はい、想像以上にファンが増加しています。既存のアイドルと客層が被らないよう、能楽堂や公民館で活動していたんですが、興味を持ったお年寄りが家族を誘って見に来られるようになりました。もう入りきらないので、これからはライブハウスに移りましょう」

「わーい。嬉しいの感情」

「こちらが寄せられたファンレターです」

 

『孫を見るような気持ちになった』

『頑張って演じる姿が可愛い』

『国語のテストの点数が上がりました』

『一生推す』

 

「レッスンをサボタージュして何やってんだ夢見ィ!!」

「ぎゃあああああ!!」

「ああっ、ベテトレさんが鬼の形相でコブラツイストを!」

 

 

 

◇H²(ダブルハート)結成◇

 

「ファン一万人達成、おめでとう! 能楽だけでこの数字は快挙だ、信じられないって専務も褒めてたよ!」

「ぱちぱち」

「……で、そろそろ次のステップに入ろうと思う。既存のファン……古典が好きだからこころのファンになってくれた人達に応えつつ、新規のファンにも古典を知ってもらうんだ。というわけで、流行の最先端を知るアイドルにコラボをお願いしました! どうぞ!」

 

 

「はぁ~い♪ アナタのはぁとをシュガシュガスウィート☆ さとうしんことしゅがーはぁとだよぉ☆ 毎週笑〇見てるから、こころちゃんのサポートはバッチシ・オーケー☆ タイタニックに乗った気分で任せてね☆」←和服

 

 

 なお、意外とまともだった模様。

 

 

 

◇ドラゴン来襲◇

 

「聞いたわよ子イヌゥ! あなたとうとうプロデューサーになったんですってね! いよいよこのアタシをトップアイドルに導く覚悟ができたということね! ずいぶん待たせてくれたじゃない! さぁ、アタシを最高のステージに連れていきなさい!」

「……デスメタル系アイドル?」

「違うわよこのポンコツマスク! どこからどう見てもポップでキュートなアイドルでしょうが!」

 

「もしもし、カーミラさん? ちょっと日本まで引き取りに来てほしいんだけど……怪盗は休暇をとってルルハワに行ってる? そんなこといわずに来てください、いや本当に……え、ネロが「余の美声を現世にも響かせる!」って飛び出した? ノッブも?」

 

 

 

◇アイドルとの日常・346カフェ◇

 

「じーっ……」

「こころちゃんが注文した抹茶黒蜜パフェ(ウサミン印)を前にしたまま動かない……あ、あの、こころちゃん? 早く食べないとせっかくのアイスが溶けちゃいますよ?」

 

「……プロデューサーと食べるから、待つ」

 

「良い子過ぎる……どこいっちゃったんですか、藤丸さーん! こころちゃんが待ってますよー!」

 

 

 

◇アイドルとの日常・懐かしい匂い◇

 

「不思議なんですよねぇ……こころちゃんのそばにいると、落ち着くっていうか、なごむっていうか」

「そう?」

「はい、とっても。なんていうか、すごく懐かしいような……ああ、昔よく遊びに行った、おばあちゃん家の縁側みたいな……元気してるかなぁ……zzz」

 

「ナナ先輩? 今日はもう上がりですけど……ありゃー、ぐっすり寝ちゃってる」

「起こさないであげよう。なんだか幸せそうだから」

 

 

 

◇ウサミン星(地球から電車で1時間)◇

 

「うぇっ! う、ウサミン星についてですか!?」

「うん、そう。前にトークショーで話してたのを聞いてから、俺達ずっと気になってて」

「知りたい」

 

(じ、純粋な目でこっちを見てる……何にも疑わない、悪意なんてこれっぽっちもない目だぁ……)

 

 

 

◇ウサミン星(名産は落花生)◇

 

「へー、そんな身近なところに別の星があるんだ。行ってみたいね」

「ウサミンのくれる落花生は美味しい」

 

 

(……あれ? 本当に信じてくれてる?)

 

 

「俺は夢みたいなのでしか宇宙には行ったことないなぁ、誰も信じてくれないだろうけど。こころにも見せてやりたかったよ、銀河を舞台にスペース新陰流の達人同士がきったはったの大勝負をしたり、宇宙ごと自爆しようとする巨大衛星の核をぶった切ったアーサー王っぽい子の振るう銀河流星剣とか」

「いつか見れる。きっと、私も」

 

 

(えっ、何それ気になる)

 

 

 

◇ご当地ダンスバトル◇

 

「346プロ&765プロ共同主催のアサクサ・ダンスフェスティバル、優勝争いはデッドヒートの展開となりました! 注目はコンビ結成から怒涛の勢いの『ダブルハート』のおふたりと、なんと飛び入り参加の一般人! お孫さんとの一糸乱れぬマ〇ケンサンバが審査員の心を打ちます、『謎の老人Y&K』!」

 

「参る―――!」←柳生宗矩

「あ、あの……なぜ私がこのような……?」←春日局

 




解説


◇秦こころ

 東方Project出典のキャラクター。「感情を操る程度の能力」の持ち主。

 聖徳太子に重用された豪族・秦河勝ゆかりの面から生まれた付喪神であり、通称は面霊気。六十六のそれぞれ異なる感情を表すお面を持ち、ころころと変わる自身の感情に合わせて付け替えている。その一方、彼女の表情筋はまったく動かず、常人ではお面無しで彼女の感情を読み解くことができない。

 本作では芸能神としての秦氏を奉る神社で長い眠りについていたが、立香がカルデアの夏イベントにてお面に関連するトラブルに巻き込まれていたこと、その立香が芸能の力を求めていたこと、さらに人理がいまだに不安定な状態であったために、彼の願いに応じて現界した。

 なお、実際には彼女、もとい秦河勝と徐福に関連はない。正確には、中国からの渡来人である秦氏が秦の始皇帝の子孫であると自称していたため、それが縁となって始皇帝を知る立香と結ばれたものと思われる。

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