ひょんなことから、温泉に行くことになりーーー!?
※坂本さんの同僚として沖田さんが出ます。
僕の名前は坂本龍馬。
この東京で、しがないサラリーマンをしている。
今日は訳あって、東京を離れ遠出している訳でーーー。
「ーーーあったあった、ここだ」
渡されたチラシと建物を見比べる。
東京から少し離れたとはいえ、かなりの田舎だ。
「いやぁ。まさか、こんな山奥に旅館があるとはね」
「確かにお竜さんもびっくりだ」
「途中から、ナビに出ない道になってかなり不安だったよ」
「そうだな。このまま山の中でソーナンするかと思ったぞ」
「はは、流石にそれはないかなぁ...」
レンタカーから降りると、荷物を手にして玄関を開ける。
「こんな鉄の塊より、お竜さんの背に乗せてやるのに」
「人のままじゃそんなに早く飛べないでしょうが」
そうして、旅館の中に入った。
「へー。なんていうか、趣があるね...」
「リョーマ。それはつまり....ボロいってことか?」
「お竜さん、そういう言い方は良くないよ(小声)」
ヒソヒソ声で耳打ちするお竜さんを咎める。
そんなやりとりをしていると、女将がやって来た。
「いらっしゃいませ、二名でご予約の坂本様でしょうか?」
「あ、はい」
「まあまあ、ご夫婦で遠いところからようこそ」
「えっ」
夫婦と言われ、思わず声が裏返る。
「旦那様も奥様も、東京から長旅でお疲れでしょう?」
「は、はあ...そう見えますか?」
気まずくなり、ちらりとお龍さんの方を見る。
旅館が物珍しいのか、色々見て回っているようだった。
「ええ。美男美女でとってもお似合いで...まさか違いましたか?」
「いやぁ、あはは・・・」
笑って誤魔化すと、受付をした。
「さ、お部屋へご案内致します」
僕らの部屋は長い廊下を渡ってある、離れの部屋のようだった。
「いやぁ。自然がいっぱいで、のどかな所ですねぇ」
「リョーマ、それはつまりクソど田舎ってことか?」
「だからお竜さん、そういうこと言っちゃ駄目だって...ああ、すみませんね。彼女はちょっとばかり世間知らずでして...」
「いえいえ。まだお若い奥様ですものねぇ...」
「いや、その...」
「何かありましたら内線電話でどうぞ。ごゆっくり」
もしかしたら、あらぬ誤解をさせてしまったのだろうか。
しかし、赤の他人に今更説明するのも気恥ずかしい。
「ま、まあ...いろいろあったけど、無事に着いてよかったよ」
「結講広い部屋だな。福引きにしては良い部屋なんじゃないのか?」
「ああ。実は僕から、離れの部屋をお願いしたんだ」
福引きに自費を上乗せする形で、この部屋を取ったのだった。
そうでなければ、安月給では泊まれないような豪華な部屋だ。
「なんでわざわざそんなことしたんだ?」
「お竜さん、人間酔いしやすいだろう?せっかく旅行に来て、気分が悪くなったら困るからね」
「じゃあお竜さんの為にか?」
「まあ、そうだね」
「ふーん...」
お竜さんは、部屋の中をうろうろしながら様子を見ている。
「いやあ、本当に良い部屋だなぁ。今からアパートに帰るの、嫌になりそうだよ」
畳を堪能してゴロゴロしていると、お竜さんがこちらをジーっと見ている。
「ん?どうかしたかい?お竜さんも、ゴロゴロして良いんだよ?」
「な...なあ、リョーマ。お竜さん達...その...」
「どうかしたのかい?」
何か言いたそうなお竜さんを見る。
「その...」
「うん」
「....脱いだ上着、コートにかけとくからな。お茶も淹れてやる」
「え?ああ...ありがとう。そうだ、夕飯も豪華みたいだよ」
「そいつは楽しみだ。腹が減った甲斐があったな」
「はは、そうだね』
何故温泉に来たかと言えば、それは数日前のことーーー。
※
会社の帰りに、同僚沖田くんに買い物に付き合って貰った後のことだ。
「いやぁ、助かったよ。生憎僕は、こういうのはさっぱりだからね」
「坂本さんから貰ったら、女性ならなんでも嬉しいと思いますけどね」
「お竜さん、喜んでくれると良いんだけどなぁ」
そんなことを言いながら、駅前を歩いていた。
「で、坂本さん・・・本当に、何もしてないんですか?」
「何にもって?」
「だから、その、お竜さんと何もしてないんですか?」
いつになく、神妙な面持ちで訊いてくる。
「え?うん?してないよ。何にも・・・だって、当たり前じゃないか」
「裸で押しかけてきたのに?」
「うん。それは服を持ってなかったからだし」
「風邪引いて、添い寝したのに?」
「だから、それはお竜さんが疲れてて仕方なくだって・・・」
いつものやり取りをしていると賑やかな声が聞こえてくる。
「坂本さん、坂本さん。ほら!福引きやってますよ!」
「ああ、さっき買い物で貰った券が使えるみたいだね。沖田くん、やる?」
「え、良いんですか?!」
「買い物に付き合って貰ったし、これくらい安いくらいだ」
「なら、遠慮なく!」
沖田くんは意気込んで引いたが、当たった商品は全てポケットティッシュだったようだ。
「沖田さん、一生の不覚。こんな筈では...」
「まあまあ、ティッシュってあれば助かるから良いじゃないか」
「ティッシュじゃ腹は満たされないんですよ...」
「あはは...あ、あと一枚あったよ?」
「え!?」
「最後に、引くかい?」
「どーせ、またティッシュなんで良いです・・・」
そう言って落ち込んでしまったので、最後の一枚は僕が引くことになった。
するとーーー。
「おめでとうございます!特賞の秘境の温泉宿のペア宿泊券です!」
カランカランと、軽快に当たりの鐘を鳴らされる。
「・・・いやぁ、当たったみたいだ」
「えええ!?坂本さん、運良過ぎですよぉ!たった一枚で!?」
「昔から、こういうのだけはよく当たるんだよね。なんでだろう?」
「ズルいですよ!沖田さんのこの大量のティッシュと替えて下さいよ!」
「え、良いよ?テッシュはいくらあっても困らないからね。はい、どうぞ」
そう言って渡そうとする。だがーーー。
「だ、ダメ!ダメですよ!」
「なんで?僕は行くあてもないし、ティッシュのが嬉しいよ」
「何言ってんですか!?お竜さんと、行って下さい!」
「へ?お竜さんと?」
「そう!お竜さんと!」
「温泉に?」
「温泉に!」
(いくら鈍い坂本さんでも...さすがに温泉宿に行けばなんらかのフラグが立ちますよね)
※沖田さんの心の声
「確かに、お竜さんとはまだ泊まりで出かけてないし」
「うんうん」
「良い骨休みになると思うよ。でも、本当に良いのかい?」
「それは坂本さんが引いたんだから、坂本さんが行くべきなんです!」
そういうわけで、僕らは温泉旅行に来ているのだった。
※
お風呂に入る準備をすると、露天風呂に向かった。
「リョーマと一緒に入れないのか?」
「だから、それはダメなんだって」
「お竜さんは、気にしないから良いだろ?」
「ダメだって。他にお客さんもいるし...ほら、風呂上がりにアイス食べようよ。ね?」
食べ物で言いくるめられ、お竜さんはしぶしぶ納得した。
「じゃあお竜さん、お風呂出たらこのあたりで待っててくれる?」
「ああ、わかった」
「暑かったら、飲み物でも飲んでてね」
そうして、女風呂に入る。
あったかい。すごくあったかい。
ぽかぽかぬくぬくする。気持ちいい。
風呂には他の人間はまだ居ないので、お竜さん専用みたいだ。
「リョーマ、お竜さんの為に...」
こんなところに連れてきてくれたのが、嬉しかった。
さっきも、女将に夫婦って言われて否定しなかった。
いつもだったら「そういうんじゃないです」とかなんとか、
秒で否定するのに。
もしかしたら、これは新婚旅行というやつなんじゃないか...?
いや、でもリョーマには何も言われてないしな。
間違いでも、リョーマと夫婦に間違われて嬉しかった。
どれくらい嬉しいかと言うと、誰もいない風呂を
ひとしきり泳ぐくらいには嬉しかったんだ。
そんなことをしていたら、お竜さんは体も頭がぼーっとしてしまった。
「なんか...あっついな」
リョーマもそろそろ風呂を出たかもしれない。
ふらふらする体で、戻ることにした。
※
露天風呂から出ると、コーヒー牛乳を飲んだ。
「いやあ、やっぱり風呂上がりにはこれだよね」
チェックインを早めにしたせいか、風呂は貸し切り状態だった。
お陰でのんびり入れたが、すこし物足りない。
旅行の醍醐味は、知らない人との何気ない会話だからだ。
そうして待っていると、女風呂の方からお竜さんが来た。
「リョーマ。すまん、遅くなった....」
「いいや、平気だよって...大丈夫?お竜さん?顔、真っ赤だよ?」
いつもは青白いくらいの肌だから、赤くなったのがよく分かる。
「ちょっと長湯し過ぎた。茹でお竜さんになってしまった」
「冗談言ってる場合じゃないよ。平気?歩ける?」
「ん...大丈夫だ」
「駄目だよ、足元フラフラじゃないか」
「うぅ...」
「お竜さん。ほら、おぶってあげるから」
「ん...」
「よいしょっと」
ふらふらのお竜さんをおぶると、部屋に戻ることにした。
「お竜さん、意外と軽いねぇ」
「意外ってなんだ、リョーマ。失礼だぞ?」
そう言って、がぶりと背中を噛む。
「ごめん、悪かったよ」
「体重は、企業秘密だから内緒だからな」
「はいはい。ごめんごめん」
風呂上がりの良い匂いに加えて、背中に当たる柔らかい身体にどきりとする。
「リョーマ、良い匂いするなぁ」
「そうかい?」
「揚げたてほやほやリョーマだ...」
そう言って背中に顔をすりつける。
部屋に着くと、既に敷かれていた布団に寝かせた。
備え付けの冷蔵庫の中から、冷えた水を渡す。
「水、飲める?」
「ああ...」
そうして、こくこくと水を飲む様子を見る。
(大きいお風呂ではしゃいじゃったのかなぁ)
そんなことを思いながら微笑ましく思っていた。
だがーーー。
よく見ると、布団が一枚しか敷かれていない。
ご丁寧に、枕は2つ並べてある。
思わず、目頭を抑える。
ここに来た時、「ご夫婦ですか?」と言われた。
それを、否定しなかったのを思い出す。
「...布団、ひんやりして気持ち良い」
「なら良かった。さっきより、顔色戻ったね」
「そうか?茹でお竜さんはレアだから、よく見といた方が良いぞ」
「はいはい」
元気が出て来たことにとりあえず安心すると、電話をかけることにした。
「リョーマ、どうかしたのか?」
「いや、布団が一組しかないから。もう一組借りられないか聞いてみるよ」
「でもリョーマ。枕は、ちゃんと2つあるぞ?」
そう言って、枕をぽんぽんと叩く。
「いや、それはね...」
「一緒に寝るの、嫌なのか?」
「それは、まずいって言うか」
「なんでだ?風邪引いた時、一緒に添い寝しただろ?」
確かに添い寝はしたことはあるが、流石に一晩も一緒の布団では寝られない。
「いやいや、一緒には寝られないよ」
「...リョーマが嫌じゃなかったら、一緒に寝たい」
「えっ」
「...お竜さんと寝るの、嫌か?」
お竜さんは、熱っぽい赤らんだ顔でこちらを見ている。
さっきまで頬撫でていた手が、急に汗ばむ。
なんだか、顔が熱い。
まるで、僕まで湯に茹だってしまったようだーーー。
(後編に)つづく!
というわけで、今回は初めての前後編で温泉です。
坂本さんがこのフラグをどう掻い潜るのか。
それともお竜さんか粘り勝ちするのかーーー。
寒くなって来たので、温泉行きたいですねぇ...。
次回の更新は来週になりま〜す( ̄∇ ̄)ノシ