福引で当てた温泉に行くものの、進展があったような無かったような。
ひょんなことから、会社でお竜さんの話になりーーー?
※坂本さんの同僚として斎藤さんが出ます。
僕の名前は坂本龍馬。
この東京で、しがないサラリーマンをしている。
僕が働いている会社は、都内にある小さな中小企業だ。
規模は小さく、働いている人もほとんどは話したことがあるような顔見知りばかりだ。
休憩時間になり、お昼を食べようと鞄からお弁当を出す。
すると、同僚の斎藤くんから声をかけられた。
「よう、坂本。今から昼?」
「ああ、そうだよ」
斎藤くんは部署は違うので関わりは薄いが、年近いこともあり互いによく見知っていた。
「弁当美味そうじゃん、良いなぁ」
「斎藤くんは、今日は外食じゃないのかい?」
「今金欠でさ。今日はコンビニだよ。それさぁ、噂の彼女の手作り弁当?」
「え?」
「沖田ちゃんからそう聞いたけど、違った?」
「いや、お竜さんはーーー」
そこまで言いかけて、言葉を呑んだ。
話題を逸らすために、温泉に行った話をした。
「ーーーで、温泉まで行って何もしなかったわけ?プレゼントまであげて、何も無し???」
「ああ、そうだけど...何かおかしいかい?」
ひどく驚かれたので、こちらも驚いてしまう。
すると、怪訝な顔をされてしまった。
「坂本。前から思ってたんだが、お前...」
「なんだい?怖い顔して」
「もしかして、女に興味無いとか?」
「へ?」
「じゃあ、もしかして勃たないとか?」
「...なんで、そういう突飛な発想になるんだい?」
「いや、だってさぁ...仮にも同棲してる女の子と旅行したってのに何もしないで帰るとかさぁ...」
「うん?」
「女に興味無いか、不能か。どっちかなんじゃないかって思うに決まってる」
そう言われ、思わず苦笑いする。
「....残念ながら僕は至って健康だし、女の子が好きだよ」
「だよなぁ。お前には、今まで合コンで何人女の子を取られたか...」
「おいおい、人聞きの悪いこと言わないでくれよ。あれは、人数合わせで頼まれて仕方なく」
「で、写真とかないわけ?」
「え、写真?誰の?」
「たからぁ、お前が一緒に住んでるおりょーさんとかなんとかいう娘の写真だよ。一枚くらい、なんかあるだろ?」
「...うん、あるよ?」
「ちょっとさあ、見せてくんない?」
「...なんでだい?」
「そりゃあ、お前がどんな女の子と住んでるか見たいからだよ」
(あの坂本が一緒に住んで半年なのに手ェ出さないってことは...あんまり可愛いくないか、他に何か深い理由がある筈だ)※斎藤の心の声
「ちょっと待ってね。えーーーと...」
「なあ、あった?あった?」
「はい、これで良い?」
画面をスクロールして一番最初に目に入った写真。
それはこの間の旅行先で撮ったものだった。
それを見せると、斎藤くんは目を見開いてこちらを見た。
「ん...んーーー...?おい、坂本」
「なんだい、急に怖い顔して」
「...おい、これ...」
「...な、何だい?」
まさか、お竜さんの正体がバレたーーー?
それを危惧しながら、恐る恐る尋ねる。
「......すっっっごい、可愛いじゃないの」
「...そ、そう?」
「可愛い、すっごい、可愛い」
「そんなに?普通、じゃないかな...」
「いやいやいや、誰がどう見ても可愛いだろ?10人が見たら13人が可愛いって言うレベルだぜ?これは」
「それは、凄い可愛いってことかい?」
そう言って、僕から携帯を取り上げ画面に見入る姿を見る。
「でも...どっちかっていうと、可愛いより美人だねぇ。つうか、若くない?」
「まあ、(見た目は)僕よりは...」
「こんな別嬪さんと、一体どこで知り合ったわけ?」
そう言われ、言葉に詰まる。
まさか、出張先の山に封印されていたドラゴンとは言えないーーー。
そこで、嘘は言わないが本当のことも言わないようにした。
「実はその...この間の出張先で色々あって...」
「もしかして、ナンパか?やるねぇ」
「いや、違うよ。ちょっと、(封印されて)困ってたみたいだから(引っこ抜いて)助けたんだ」
「なるほど。それで、連絡先を交換して...?」
「いや、何事もなく別れたよ」
「はあ?」
「大変だったね。じゃあ、(もう封印されないように)気をつけてねって。そうしたら...」
「そうしたら?」
「どうやって調べたか分からないけど、僕が泊まってたビジネスホテルまで来ちゃったんだよね」
「...結構、顔に似合わず情熱的な娘なんだな」
「それがまあ、ちょっと...いや、かなり変わった娘で...」
まさか、押しかけて来た時には服も着てなかったとは言えない。
「開けないと、暴れる(しお前を食う)って言うから」
「...ここまで聞くと、かなり変わってるな」
「それで、そんなところを他の人に見られたら困るから...部屋に入れたんだ」
「えっ?部屋に入れたわけ?」
「それで...(裸で)寒いって言うから、風邪引くといけないからシャワーを浴びさせたんだ」
「は?シャワー、浴びさせたの?」
「それでまあ...色々と身の上話を聞いたんだ」
「話を、聞いたの?」
「そうしたら、帰る場所が無いって言うからさ」
「もしかして、家出?まあ、若いし?」
「うーん...詳しいことは分からないけどね。長い間、家族も身寄りも居ないみたいで」
「...それで、こっちまで連れてきたわけ?」
「連れてきたっていうか...どうしても僕についてくるって言うから」
「...情熱的っていうか。それ、かなりヤバい女なんじゃ?」
「最初は断ったよ、勿論。ずっと一人みたいなんだ。だからまあ、ほっとけなくて...交換条件として、家事をして貰ってるだけだよ」
「へえ.....」
ここまで話すと、かなり怪訝な顔をされた。
「なあ、坂本。警察行こう?」
「へ?」
「僕だって、同僚が犯罪に遭ってるのは流石に見過ごせないわけよ」
「それ、一体どういうことだい?」
「お前なぁ、人が良いにも程があるからな?」
「...うん?」
「そういうのはな、彼女じゃなくてストーカーって言うんだ。世間じゃ立派な犯罪だ」
「いや、違うんだよ。斉藤くん」
「大丈夫だ。警察にはいくらか知り合いが居る。悪いようにはしない。な?」
そう肩を叩かれ、引き攣りながら苦笑いする。
「ーーー誰にも、言わないでくれる?」
「何?何なの?まだ何かあるわけ?」
「違うよ。実は...彼女、人間じゃないんだ」
そう言うと、斉藤くんは目を丸くした。
「あーーー...そういうこと。確かに。目ェ、赤いな。ああ、納得した」
「だからまあ、変わってるのはそういう理由なんだ」
「って言うかさ、最初からそれ言ってくれればさぁ〜...相手、種族は何?正味、いくつなわけ?」
「種族は...蛇系かな。若く見えるけど、年齢は多分ピーーー歳くらいかな...」
ふと、遠い目をする。
「ほんと、普通の女の子だったら...色々と良かったんだろうけどね」
「別に、今時人外とか珍しく無いだろ」
「まあ...出来れば、彼女が人間じゃないのは内緒にしてくれると有り難い」
「なんで?」
「訳ありなんだよ」
「...まあ、良いや。ところでさ、おりょーさんだっけか?紹介してくんない?」
「へ?」
「だって、別にお前の彼女じゃないんだろ?」
「いや、それは...まあ、そうなんだけど」
「なんだよ、嫌なのか?」
そう言われ、少しどきりとする。
嫌、なのだろうか?
いや、そんな筈は無い筈だ。
口から出たのは、自分でも思いも寄らない言葉だった。
「やめといた方が良いんじゃないかな...?」
ーーーそうだよ。
斎藤くんがお竜さんに噛み付かれたり、万が一食べられたりしたら困る。だからこれは、同僚として斎藤くんの命を心配してるんだ。多分。
「良いじゃん。俺はさ、そういうの気にしないからさ。可愛いければ、中身はなんだって良いんだよ」
「例えば...ドラゴンでも?」
「ははっ、ドラゴンなんかさぁ今の世の中居るわけないじゃん」
「...もし、居たら?」
「まあ、別に。可愛いし、いいかな」
「可愛いかったら、君はドラゴンでも良いのかい?」
「...例えドラゴンでも、愛があればなんとかなるでしょ。だから、紹介して。いや、しろよ。な、坂本???」
「斎藤さん!そろそろ休憩時間終わりですよ!!!」
ヒートアップして僕に掴みかかる斎藤くんを、沖田くんが身を挺して止めてくれた。
「なんだよ沖田ちゃん!僕ァ、今忙しいんだよ」
「はいはい。そうだ、坂本さん。こないだ選んだプレゼントはどうでした?」
「ああ、あれなら...おかげさまで付けてくれてるよ。最初は、食べ物じゃなくてガッカリしてたけどね」
「あはは。なんだか、変わった人ですね...」
「でも、すごく旅行は楽しかったよ。ありがとう」
「いえいえ。なら良いんですけどね」
そうして立ち去ろうとすると、斎藤くんにがっしりと肩を掴まれた。
「な、なんだい?」
「なあ、坂本。紹介...忘れないでくれよ?な?」
「...うん。考えとくよ」
そう言うと、午後の仕事に向かった。
※
(場面変わって、2人のアパート)
お竜さんは、隣のエルフ耳ことメディアと優雅にアフタヌーンティーを嗜んでいた。
まあ、井戸端会議ってやつだな。
「ーーーで、やっぱり何も無かったの?」
「まあな...でも、楽しかったぞ!」
「ふうん」
「それに、リョーマには家族みたいに大事って言って貰えたんだ。つまりこれはだな」
「...つまりこれは?」
「これはもう、お竜さん達は夫婦も同然ってことだ」
ドヤ顔で言うと、ため息を吐かれた。
「貴女...世間知らずだから教えてあげるけど...それ、恋愛対象外ってことなんじゃないかしら?」
「...恋愛、タイショーガイ?」
「彼は貴女とは夫婦とも恋人になる気、無いんじゃないかしら?ってことよ」
「...ガーーーーーーン」
「ガーン、じゃないのよ。しっかりなさい?貴女、やっぱり騙されてるのよ」
「で...でも、リョーマからプレゼント貰ったぞ。ほら!」
「ふうん...」
リョーマから貰った金属の鎖を、ジロジロと見られる。
「まあ、品は悪くないけど...普通、意中の相手にはブレスレットより指輪が妥当でしょ」
「普通は、指輪だと良いのか?」
「まあ、男から送るのはね。だから、なんとも言えないわ」
「女から贈るのは?」
「女から?そうね...ネクタイとか、身につけて欲しいものよ」
「そうか...」
そうして、少しだけ考え込む。
「やっぱり貴女、騙されてるんじゃない?」
「そ..そんなことないぞ!リョーマは優しいし...」
ーーー優しいから、それ以上求めるのは怖い。
もしそれ以上求めて、リョーマに拒まれたら怖い。
あの優しい顔が、冷たくなるのが怖い。怖いんだ。
「忠告はしたわよ?このまま弄ばれて捨てられても、それは貴女が選んだことですからね?
そう言われ、黙ってしまった。
「ーーー冗談にしても、少し言い過ぎたわ。ごめんなさい」
「良いんだ。お前、口は悪いけど...お竜さんを心配してくれてるんだろ?」
「...別に。ただ、貴女を見てると...昔の自分を見てるみたいでモヤモヤしてね。つい、口出ししたくなるのよ」
「そーなのか?」
「だいたい、惚れた女の弱みにつけこむ男が悪いのよ。貴方の彼だって、いけすかない顔してるしーーーああいうのはね、絶対に女を泣かせる顔だわ。だいたいねぇ」
そう言って、早口で捲し立てる様を見ていた。
(お竜さんは、リョーマになら泣かされても良い。それでも側に居たいんだ...)
ちらりと時計を見る。
リョーマ、今頃何してるんだろう。
たまには、お竜さんを思い出すんだろうかーーー?
そんなことを思いながら、冷めてしまった紅茶を啜った。
※
仕事が終わると、すぐにアパートに帰宅した。
灯のついた部屋を見ると、何故か心がホッとする。
「お竜さん、ただいまー」
「リョーマ、おかえり」
お竜さんは、ふよふよと浮きながら僕の荷物を受け取った。
コートを脱ぐと、途中だった食事の準備を手伝った。
「今日はな、寒いから鍋だ」
「わあ、美味しそうだね」
「リョーマは鶏肉の鍋がダメって言うから、ちゃんと違う肉にしたからな。安心しろ」
「...駄目って言うか。何故か、家訓で軍鶏鍋は食うなって言われてるんだよね」
「なんだそれ?鶏肉だけダメなんて、変だぞ」
「さあ...よく分からないけど、うちじゃそうなんだよね」
橋や皿を並べると、ようやく席についた。
「お竜さんは、今日は何してたんだい?」
「暇だから、お隣とお茶した」
「へえ」
「リョーマは?」
「まあ、普通かな」
「ふうん」
そうして、作って貰った料理を食べる。
まるで、もうずっと一緒にいるような馴染みようだ。
だというのにーーー。
斉藤くんに「紹介して」と言われたことが、頭をチラつく。
紹介しろというのは.,.斎藤くんはお竜さんが気になる、と。
つまりは、女性として好意があるということだ。
そんなことは、流石に分かってる。
別に何でもないなら、紹介したって良い筈だ。
斎藤くんが危ないから心配なら、はっきり断れば良かった筈だ。
だが、そのどちらも僕はしなかった。
ーーー何故だろう?
何故、何もしなかったんだ。
(考えとくって、一体何を考えるんだ)
ひどく心の中がモヤモヤしながら、無言で口を動かす。
「...リョーマ、飯は美味いか?」
「え、ああ。うん。美味しいよ?」
「そうだろそうだろ?お竜さんなんか、もうご飯五杯目だぞ」
「うん、たくさん食べなよ。はは...」
「なあ、リョーマ」
「何?」
「実はな...」
テーブルの上に紙を差し出され、どきりとする。
「ん...?履歴書?」
「実はお竜さん、働きに出ようと思って」
「えっ?」
「だから、ここにお前のハンコが欲しいんだ。良いか?」
「なんで働きたいんだい?毎月、お金渡してるよね?それじゃあ、足りない?」
「違うんだ、リョーマ。お竜さん、ちょっと欲しいものがあってだな」
「なら、僕が買ってあげるよ。何?洋服とか?」
「...それは、内緒だ」
そう言って、伏し目がちに答える。
お竜さんだって女の子だ。
男に言いたくないものだってあるのだろう。
「...そう。なら、別に構わないけど」
履歴書の保護者の欄に記入すると、坂本のハンを押す。
「お竜さんケータイが無いから、リョーマの連絡先で良いか?」
「ああ、良いよ。面接は?」
「明日だ」
「そう。頑張ってね」
「ちゃんと、家のことはやるから。安心しろ」
「う、うん。分かってると思うけど、何があっても人間は食べちゃダメだし、齧っちゃだめだよ?」
「どーんとまかせろ!」
そうして、ご機嫌なお竜さんを見ながらため息を吐いた。
(大丈夫、かなぁ...)
つづく!
いつも読んで頂いてありがとうございます♪
坂本さんが鈍いのでちょっとここいらで波乱になったら良いなぁと思い、
マイルームボイスから斎藤さんを出してみました。
幕末同年代の2人の、もしかしたらあったかもしれない会話が楽しかったです♪
次回の更新は、来週になりま〜す( ^ω^ )ノシ
(坂本さんは何の仕事してるかは、ご想像にお任せします)