人間界に慣れてきたお竜さん、どうやら働きに出るようでーーー?
※ケーキ屋のおじさんはモブの一般人です。
僕の名前は坂本龍馬。
この東京で、しがないサラリーマンをしている。
あれから少しして、お竜さんはバイトに行き始めたらしかった。
らしかったというのは僕が働いている間に手伝いに行って夕方に帰るので、実情は何をしているのからよく分からないからだ。
沖田くんに最近どうなんだと聞かれ、そのことを話していた。
「ーーーアルバイト?お竜さんが?」
「そうなんだ。何か、自分で買いたいものがあるみたいでね」
「へえ。もしかしてもうすぐクリスマスだし、何かプレゼントなんじゃないですか?」
「プレゼント?お竜さんが、僕に?まさか、ねぇ...」
お竜さんが何かくれるというのが、あまり想像出来ない。
いつだったか、カエルを大量に捕まえてきたのを思い出して苦笑いする。
「ーーーそれってさぁ、まさかエッチなお店?」
話を遮るように入ってきたほうを見ると、斎藤くんが居た。
「斎藤さん、セクハラですよ。それ」
「そうなよ。なんだい、藪から棒に」
「いやぁ。そうしたら、行って指名でもしようかなって思ってさぁ」
「...え?」
「だってお前さぁ、肝心のお竜ちゃん全然紹介してくれないじゃん?」
「...ああ、そうだったね」
「そうだったね、じゃないよ。ったく。で、いつ紹介してくれるわけ?」
そう言われ、思わず目を逸らしてしまう。
あれからのらりくらりと避けていたが、紹介するわけでもなく。
かと言って断るわけでもなく、曖昧な態度のままはぐらかしていた。
「なんなら、今日お前んちに行っても良いんだけど。どう?」
そう言われ、思わず口を開く。
「...お竜さんはさ、そういうことに鈍いから。あんまり分からないんじゃないかな?」
「鈍いって?」
「この間、一緒にドラマを見ていて...なんで女の人が泣き出したり、男の人が怒りだしたりしたか。そういうの、まだあんまりよく分かってないみいでさ。だから、」
「...鈍いのはさぁ、お前の方だと思うよ?なあ、沖田ちゃん?」
「わ、私に振らないで下さいよ!あ、もうお昼時間終わりですからね!さあさあ!」
そうして、斎藤くんを引っ張っていく沖田くんを見送った。
なんだか、心がひどくざわついた。
(鈍いって、僕が?何のことだ?だって、僕はーーー)
まるで、お竜さんを渡したくないみたいじゃないか。
(いや、そんな筈ない。お竜さんはもう、家族みたいなもんだ)
そう言えば、今日はクリスマスだ。
お竜さんのバイトは、今日が最終日だった筈だ。
間に合うようなら、帰りにバイト先に寄ってみよう。
そう思いながら、雑念を振り払うように仕事に向かった。
※
今日はクリスマスイヴで、駅前は一層賑やかだ。
それに負けじと、お竜さんは大きな声を出す。
「クリスマスケーキ、どーですかー?」
お竜さんが着ているのはサンタの衣装だ。
もうこうして数日間、駅前でケーキを売っている。
「美味しいケーキは、いかかですかー?」
「あら、美味しそうね。一つ貰おうかしら」
「がってん承知...って、お前は隣のメディアじゃないか」
「人を隣のト○ロみたいに言わないで頂戴。心配だから、ちょっと見に来たのよ。貴女に、接客業とか出来てるのか不安で」
「心外だな。これでもびんわん美人売り子として大活躍なんだぞ」
「はいはい、さっさと売って頂戴。後ろにもお客さんは居るわよ?」
そうして、ケーキはどんどんと売れていった。
やはり、お竜さんはびんわん美人売り子のようだ。
「...ふぅ。働くって、結構大変だな」
「少し疲れただろう?お嬢ちゃん、そろそろ休憩にしよう」
声をかけたのは雇い主のケーキ屋の店主だ。
クリスマスは、ケーキ屋にとって一番の稼ぎ時だ。
それで、短期バイトを募集していたので応募したのだった。
「だから、お嬢ちゃんじゃなくてお竜さんだ」
「はいはい。バイト、今日でラストだから頼むよ」
そうして、店の中にある休憩室でお茶を啜る。
お弁当を食べながら、リョーマのことを考えていた。
「そういや、バイトの連絡した時に電話に出た彼氏さん。随分と優しそうな人じゃないか」
「ん?彼氏?」
「ああ、男の...」
「違う、リョーマは...別に彼氏じゃない」
「だって、一緒に住んでるんだろう?」
「色々あって、お竜さんが無理矢理おしかけたんだ。リョーマとは、まだ何も無い。なんにも」
そう、別になんにもない。
だけど、リョーマは優しい。
お茶が入ったコップをぎゅっと握る。
「でも、好きなんだろう?」
「えっ?」
「バイト代、前払いで借りてプレゼントを買うくらいにはさ」
「それは...」
バイトの面接で、お竜さんはプレゼントを買いたいから先にお金をくれと言った。
普通だったら、失礼だと断るところだろう。
だがお竜さんは力持ちだから荷物をたくさん運べるとか、体力には自信があるとか、たくさんたくさんアピールした。
今のお竜さんは、リョーマに養われている。
だから、どうしてもプレゼントが買いたかった。
「体力なら自信がある。なので、ここで働かせてくれ。頼む」
「うーん...アンタ、その雰囲気は人間じゃないね?」
「...ああ、やはりダメか?」
人間でないことで不利益を被ることは少なくない。
だから、諦めて帰ろうとした時だった。
「いや、アンタ別嬪だし。良いよ、採用だ」
「え?本当か?本当なのか?」
「ああ。ただし、条件があるーーー」
お竜さんの熱意が伝わって採用して貰えたわけだがーーー。
ケーキを売るのはクリスマスだ。
だからサンタの格好で働くなら良いと言われ、寒い中こんな格好をしているわけだ。
「リョーマには、色々貰ってばかりだからな」
「人間じゃなくても、アンタみたいな美人に惚れられたら嬉しいだろうに」
「惚れ....?い、いや!別に、お竜さんはそういうつもりじゃない」
「今更隠さなくても良いんじゃないか?」
「リョーマは、お竜さんを家族みたいって言ってくれたんだ。それ以上望んだら、バチが当たるかもしれない...」
そう言うと、食べかけの弁当を一気に食べた。
「電話した時に、お前さんは世間知らずで失礼な物言いはするが、真面目で力持ちでよく働くからよろしくってさ」
「それ、リョーマが?」
「ああ。さ、午後も頼むよ」
リョーマが、そんなこと言っているとは思わなかった。
なんだか嬉しくて、ちょっとくすぐったい気持ちだ。
そうして、張り切ってケーキを売った。
※
夕方になり、日もすっかり暮れた。
山のようにあったケーキはなくなり、後には数個残すばかりだ。
「ケーキ、少し残ってしまったな」
「まあ、これだけ売れば十分だ。なんだったら、バイト代のおまけ代わりに一つ土産にやろう」
「本当か?なら、これがいい」
そう言って、小さなホールケーキを指さした。
「これかい?ああ、あんまり出来が良くないやつだな」
「良いんだ。この菓子のサンタが、ちょっとリョーマに似てるんだ。だから...」
「すいません...」
「ん?」
妙に馴染みのある声に気がつく。
振り向いて、お竜さんはびっくりした。
「まだ、ケーキありますか?」
「...リョーマ」
そこに、仕事帰りのリョーマが居た。
スーツ姿で息を切らしていた。
「リョーマ、もう仕事終わったのか?」
「ああ、だから見に来たんだ。お竜さんが心配でね」
「...そうか?ちゃんと、仕事して頑張ってるぞ」
「サンタさんの格好してるから、びっくりしたよ。はは...可愛いね」
そう言われ、お竜さんは嬉しくてちょっと浮いてしまった。
「お嬢ちゃん」
「ん?」
「もう売る物無いから。これ持って、一緒に帰りな」
そう言って、さっき指差したケーキを袋に入れて渡された。
「...あの、お代は?」
リョーマがそう尋ねると、店主は首を振った。
「良いよ良いよ。どうせ、捨てちまうんだ。二人で、仲良く食べな」
「ありがとうございます。ほら、お竜さんも」
「あ、ああ...ありがとうございます」
そうして着替えると、ケーキを受け取ってリョーマに渡した。
「良かったら、また来年も頼むよ」
「ああ、良いぞ」
「お竜さん、こういう時はよろしくお願いしますって言うんだよ」
「そうなのか?よろしくお願いします」
そう言って、リョーマの真似をして頭を下げた。
※
帰り道、クリスマスで賑やか通りを抜けてようやく家に着いた。
「ケーキ、まだ残って良かったよ」
「リョーマ。お前に渡したいものがあるんだ」
「え、なんだい?」
「気に入ってくれると良いんだが」
「う、うん」
恐る恐る、渡された箱を開ける。
「...ネクタイ?」
「ああ、そうだぞ」
「これ、お竜さんが?」
「お前には、色々ともらってばかりだから。何か、礼がしたかったんだ」
「...欲しいものって、これ?」
「ああ、いけなかったか?お前から貰ったお金じゃ、買えないから」
「いや、それは良いんだよ。ただ、その...」
「その?」
お竜さんは、男の人にネクタイを送ること。
そこに深い意味があるなんて、知らないよなぁ...
そんなことを考えていると、お竜さんが不安そうにこちらを伺っていた。
「...あんまり、気に入らなかったか?」
「いいや、そんなことないよ」
「本当に?」
「本当だよ」
「なら、良かった。リョーマ、いつもありがとな」
八重歯を見せて笑う顔を見て、何故かひどく安堵した。
「いや、こちらこそありがとう。まさかこの年になってサンタさんにプレゼントを貰うなんて、夢にも思わなかったよ」
「ふふん。今日のお竜さんは、お竜サンタさんだからな」
「はいはい」
そうして、照れ臭いのを隠すように笑った。
「なあ、リョーマ。そろそろケーキ食おう?」
「ああ、そうだね」
「こっちの、いちごがデカい方がお竜さんのな」
「はいはい、わかってますよ」
そうして、仲良くケーキを分け合った。
こんなに楽しいクリスマスは、久しぶりだ。
※
後片付けをして一区切りついた後、リビングで一人くつろいでいた。
「やれやれ。まさか、お竜さんが僕にプレゼントとはね...」
貰った箱を見ながら一人で晩酌していると、お竜さんが来た。
「なあ、リョーマ。実はな...他にも、プレゼントがあるんだ」
「え、なんだい?」
「それは...だな、」
「うん?」
「なあ、リョーマ」
「なんだい、お竜さ...」
言いかけたところで、口を塞がれた。
「プレゼント、お竜さんとか...どうだ?」
「え?」
「やっぱり、要らないか?」
「いや、その...」
心臓が、早鐘を打つようだ。
鈍いのは僕の方だと言われたことを思い出す。
果たして、本当にそうなのだろうか?
飲み過ぎたのか、頭がふらふらする。
身体が上手く動かない。
「お竜さんのことは...大事だよ。でも、こういうのは、良くないよ...」
「なんでだ?」
「僕たち、別に恋人でも何でもないしさ...」
「なら、恋人にして欲しい」
「へ?」
「お前が、好きなんだ。ずっとーーー」
「いや、だって、僕を食いに来たって」
「お前、鈍いのにも程があるぞ!」
「えっ...うわっ痛いよ!噛まないで...って、泣かないでよ」
「お竜さんは、リョーマのこと好きだ。だから...」
そう言われ、堰き止めていた何かが壊れたような気がした。
そうして、はやる気持ちを抑えながら息を呑んだ。
その時だった。遠くから、自分を呼ぶ声がする。
「...マ。リョーマ!」
「...ん?」
「こんなとこで寝たら、風邪ひくぞ?」
どうやら、僕はいつのまにか眠りこけてしまっていたようだった。
「え、ああ...お竜さん、ありがとう。部屋、行くよ」
「そうか、早く休めよ」
「あ、ああ...」
さっきまでのことは、どうやら夢らしかった。
だと言うのに、まだ心なしかドキドキとしたままだった。
自分の布団にくるまりながら、さっきの夢を思い出す。
あのまま寝ていたら、どんな続きになっていたのだろうか。
それを知るのは、まだ少しばかり怖かった。
つづく!
お久しぶりです&あけましておめでとうございます
仕事が忙しくて、更新が滞ってしまいすみません,,,(⌒-⌒; )
クリスマスの話なので、クリスマスに上げたかったのですが間に合わなかったので悔しいw