ひょんなことからお竜さんは家を出てしまう。
坂本さをは慌てて探しに出るがーーー?
僕の名前は坂本龍馬。
この東京で、しがないサラリーマンをしている。
お竜さんが、家から居なくなってしまった。
あれから随分周りを探したが、お竜さんは見つからなかった。
あたりは家の灯も消え始め、身体も冷えて来た。
手足は悴み、寒さを通り越して痛んでいた。
諦めて家に帰ろうとした、その時だった。
ポケットに入れた、スマートフォンが振動した。
「は、はい?!」
悴んだ手で画面もろくに見ないまま慌てて電話に出る。すると、意外な人物の声がした。
「...あー、坂本さん?こんばんは」
「...その声は、沖田くん?」
「あのー、もしかして今外です?」
「ああ、そうだけど」
「実は、坂本さんちのお竜さんなんですけど...今、うちに居ます」
「...なんで!?」
思わず、大きな声で叫んでしまった。
「実は、さっき家の近くでばったり会って。行くところが無いって言うから」
「じゃあ、お竜さん...ちゃんと生きてる?」
「当たり前じゃないですか、生きてますよ!だからまあ、坂本さん心配してるだろうから。ちゃんと、連絡しとこうと思って」
「そ、そう...なら、良かったよ」
安心して、その場に座り込む。
「だから、心配して警察に捜索願いとか出さないで下さいね?」
「それは出さないけど...お竜さん、何か言ってたかい?」
「いや、何にも。ただ、泣いてましたよ」
「そう...」
「何か、揉めるようなことあったんですか?」
「いや、その...」
さっきまでのことを思い出す。
『お竜さんの、好きにしたら良いよ』
なんで、あんなことを言ってしまったんだろう。
あんなに傷付いた顔、させたくなかったのに。
思い出し、唇を噛み締める。
「顔、ぐしゃぐしゃにして泣いてましたよ」
「...そう、ごめんよ」
こんなに寒い中、お竜さんは行く場所も無く一人ぼっちで泣いていた。
それを思うと、胸がぎゅうと締め付けられた。
「だからまあ、冷静になって下さいね?」
「...お竜さん、今代われる?」
「いや、今お風呂に入らせてます。寒くて、体がカチコチでしたからね」
「今から、沖田くん家に迎えに行っても良いかい?」
「いえ、ちょっと考えたんですけど....今日はうちに泊まらせますから」
「でも、悪いよ。すぐ迎えに行くから」
そう言って、歩き出した矢先だった。
「...今日はもう、会わない方が良いと思うんです」
「え?」
「お竜さんは何も言わないし...優しい坂本さんが女の子に酷いことしたり言ったとは思えないですけど、お互いにちょっと冷静になった方が良いと思うんです」
「...沖田くん」
「ほら、女の子同士の方が良い時ってあるじゃないですか。お竜さんも、話してスッキリすることもあるだろうし」
「でも...」
「大丈夫。ちゃんと帰しますから。あ、お風呂出たみたい...じゃあ、また週明けに!」
「ああ、すまないね。ありがとう...」
「何かあったら連絡しますから。じゃ!」
そうして電話を切られてしまった。
宙ぶらりんな気持ちのまま、画面をジッと見る。
だが、無事で良かった。
寒さに凍えて、どこかで倒れていたらどうしようかと思った。
「はあ......」
安堵して吐いた溜息は、雪のように白かった。
ーーー
坂本さんに電話をした後のこと。
台所で飲み物を用意すると、それを手渡した。
「お竜さん、はい」
「すまない。ありがとう」
「あ、寒く無いですか?寒くて冬眠したら大変ですからね」
「大丈夫だ。これ、すごくあったかいぞ」
冷えた体をお風呂で温めてて、もこもこに着こませたので一安心していた。
「これ、飲んで良いのか?」
「もちろん」
ふーふーと息を吹きかけ、飲み物を啜る様子を見る。
「...どうです?気に入りました?」
「ああ!甘くてあったかいし美味いな。これ、何て言うんだ?」
「なら良かった。それはですね、ココアって言うんですよ」
「ここあ?」
「気に入ったらなら、また淹れますよ」
「本当か?なら、おかわりして良いか?」
「はい、どうぞ」
そう言うと、嬉しそうに笑った。
お竜さんは泣き疲れたのか、少しだけぼーっとしている。
「...一人で、何してたんですか?もしかして、喧嘩でもして家出?」
「いや、リョーマにさよならしてきたんだ」
「えっ!?!?」
思わず、声をあげてしまった。
「さよならって...家出じゃなく?」
「いつまでも、リョーマの厄介になるわけにもいかないしな。だから、山に帰ろうかと思って」
「や、山って?」
「ああ。お竜さんが、リョーマが来るまでずっと眠って居た場所だ。でも、その為の帰り道も分からなくて...どうしようか困ってたんだ」
話を聞くと、お竜さんは随分と遠くから来たようだった。
「...えっ?九州なら、鈍行列車でも一日はかかりますよ?」
「そうか。東京までリョーマと来た時はビューッて着いたから、すぐ帰れると思ったんだが...」
「第一、お金は?」
「リョーマに貰ってたお金は家に置いてきた。あとは、バイト代の残りだけだ」
「あー...これじゃあ新幹線は無理そうですね」
そうして、カエル型の貯金箱を見せてくれた。
「これな、リョーマが買ってきてくれたんだ」と、少し寂しそうに教えてくれた。
お竜さんの持ってきた荷物は本当にわずかで、家出というよりは迷子のようだった。
「本当に、戻らないんですか?」
「ああ」
「でも、坂本さん心配して探してたみたいですよ?」
「良いんだ、もう。リョーマは、お竜さんが居なくなっても平気みたいだから」
「え?」
「今日、帰ってきて...お竜さんを他のオスにショーカイするって...」
「......あっ!!?」
それを聞いて、全てを察してしまった。
「...やっぱり、お竜さんは人間じゃないし。ガサツだから、リョーマは嫌になったんだろうな」
「そんなことないですよ。前は残業ばっかりしてたのに、今じゃお竜さんがご飯を作って待ってるから帰るねって。さっさと定時で帰ちゃうのに」
「...リョーマ」
「坂本さん、鈍すぎるのにも程があるんですよ。全く...」
はあ...とため息を吐く。
「坂本さん、自分の気持ちも分からないダメダメな人ですからね」
「...リョーマは、ダメダメなのか?」
「いや、その...坂本さんは良い人ですけど。自分の気持ちには鈍いんですよ。そんなんだからモテるのに続かないで、すぐフラれるんですよーって...あっ」
流石に、今は他の女性の話はまずいと思い口を紡ぐ。
「とりあえず、今日は寝ましょう。もう遅いし」
「...ああ、そうだな」
そうしてお竜さんに寝るように促すと、横になった。
「なあ,,,?」
「はい、なんですかお竜さん」
「リョーマ、心配してたのか?」
「え?ああ、もちろんですよ」
「.....そうか」
それきり何も言わないで、寝入ってしまったようだった。
ーーー
沖田くんからの電話を聞いて、僕はようやく帰宅した。
「ただいまー...」
当然だが、誰もいない。
一人きりの家は、なんだか無性に広く感じる。
「お腹空いたし、何か食べようかな」
そうして、冷蔵庫を開ける。
「あっ...」
今日の夕飯に出してくれたカレーやごはんは、丁寧にタッパーに入れられていた。
電子レンジで温めている間、お竜さんにカレーの作り方を教えた時を思い出していた
「...なあ、リョーマはカレーが好きなのか?」
「ああ、うちは兄弟が多かったからね。カレーはよく食べてたし大好きだよ」
「そうか、大好きなのか」
「うん」
「じゃあ、これからはお竜さんがたくさんカレー作ってやるからな」
「へえ、そいつは楽しみだ」
「ああ、まかせろ」
そう言って、週末はいつもカレーにしてくれていたのだ。
レンジでチンしたものを取り出し、手を合わせる。
「...いただきます」
誰もいないリビングで、もそもそと食べる。
(美味しいけど、おいしくないな...)
カレーは美味しかった。でも足りないのだ。
思えば、いつもご飯を食べる時はお竜さんが居た。食べ物を美味しそうに食べる、そんなお竜さんを見るのが僕は好きだった。
いつも側に居て、僕なんかに寄り添ってくれるお竜さんのことが、
好きだったんだよ。
(馬鹿だな。こうなってから、ようやく気付くなんて...)
彼女は、僕を食いに来たんじゃない。
本当は、全部分かっていた筈だ。
それを理由をつけて誤魔化して、気づかないふりしてた。
誤魔化していたのは、僕の気持ちだ。
静かに泣きながら、一人でカレーを食べる。
涙と混じり、しょっぱいご飯を噛み締める。
お竜さんと暮らし始めて、手狭になった部屋を見渡す。
今年はどこか、もっと広い部屋に引っ越そうかと思っていた。
だが、もうその必要も無さそうだ。
一人になった今は、とても広く感じる。
食事を取り終えると、リビングの電気を消した。自分の名を呼んでくれる声が、今は堪らなく恋しい。
つづく!
いつも呼んで頂いてありがとうございます!
お気に入りやしおりも、励みになります!
前回が長くなった分、今回は短くてすみません。
だいぶシリアスになってしまいましたが、次で最終話の予定です。
ちゃんと完結させられるように頑張ります(⌒-⌒; )