ギャル嫌いな俺の隣にギャルがいる   作:イチゴ侍

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冤罪

 虚しい。

 そんな感情を覚え始めたのはいつだったのか? 小学校で友達と喧嘩して口を聞かなくなった時だったか。勇樹は自問自答を繰り返す。

 

 

「おーい、勇樹? 勇樹さんやー?」

 

 親友である景虎がいつも以上に、勇樹に話しかけていた。何故なら、勇樹はここ数日間、毎日のように学校へ来ては机に突っ伏していた。やっと顔を上げたと思えば、その表情は無感情。

 

 まるで生きる目的を失った廃人かのような雰囲気の勇樹を心配し、景虎は健気に話しかけていた。

 

 

「あー、うん。なんだ」

「ほら、昨日次のイベント告知が公式から上がってただろ?」

「あー、そうか」

「そうか……って、お前の推しアイドルグループだろうが」

「……んー?」

「産まれたての赤ちゃん相手にしてる気分だよ」

 

 勇樹は重症だった。

 

 

「はぁ……」

「そんなに気になるなら、連絡なりなんなりすればいいだろうが」

「そうなんだけどさ……」

「んだよ、女々しいやつだな」

 

 あまりにもハッキリとしない勇樹に苛立った景虎は、勇樹の携帯を無理やり奪い取る。

 

 

「お前の代わりに俺が聞いてやる」

「あ、おい……」

 

 勇樹の静止を振り切り、愛とのトーク画面を開いた景虎。

 ──そして彼は絶句した

 

 

 

 

『昨日、行った時に様子が変だったけど大丈夫か⋯⋯?』

 

『今日も食べに行くよ』

 

『もしかして忙しかったか?』

 

『返事が無いと困るんだが⋯⋯』

 

『なぁ、既読も付けられてないんだけどもしかしなくても無視されてる?』

 

『俺がなんかやって嫌われてるんだったらほんと謝るから⋯⋯』

 

『ごめん』

 

『ごめん』

 

『ごめ──』

 

 

 

 それは確かに勇樹と愛のトーク画面で間違えはなかった。だが、景虎の目に一番最初に飛んできたのは、勇樹の一方的なメッセージの数々だった。

 

 

「⋯⋯勇樹よ」

「⋯⋯」

「お前って、メンヘラ?」

「違う」

「悪い。聞き方を間違ったな。お前って、重い女?」

「男」

 

 空気が凍った。近くで聞いていた者たちは「え、そこ?」と気持ちを一つにしていた。

 このまま勇樹にだんまりを決め込まれると感じていた景虎だったが、それとは裏腹に勇樹はボソボソと話し始めた。

 

 

「宮下からの連絡が来なくなったのは二日前⋯⋯だったかな。いつもうんざりするくらい連絡よこしてた宮下から急に来なくなって、宮下の要望で店に行くときは必ず連絡することにしてたから二日前もそれで連絡したら⋯⋯」

「全く音沙汰無しってわけか」

「正直メッセージに関しては自分でもドン引きしてる⋯⋯」

「お前にもそういう一面があったってだけだ。それだけあの子との時間を気に入ってたんだろ?」

 

 小さく頷く勇樹。勇樹にとってここ最近の生活は驚くほど快適で色鮮やかだった。その毎日には、必ず太陽が顔を出して照らしてくれていたからこそ、それが失われてからの勇樹の毎日には霧がかかっていた。

 

 

「勇樹。こうなったらいっそのこと家に押しかけろ。そんで徹底的に拒絶されたら俺の所に来い。仲良く失恋パーティーでもしようや」

「景虎⋯⋯ありがたいが、別に俺は恋してるわけじゃないぞ?単純に寂しいだけだ」

「⋯⋯どーしてこう、寂しいとかは自覚してるのにそっちは全くなんだろうかね」

「なんか言ったか?」

「何でもありませんよ。ほらほら、そうと決まればさっさと学校終わらせて行ってこい」

「ん?でも俺ら今日掃除担当じゃ⋯⋯」

「君のようなカンのいいガキは嫌いだよ」

 

「使い方あってんのかな⋯⋯」

 

 

 

 

 

 ◇

 

 

 

 

 

『しつこくて悪い。でもさすがに心配になるから今日は客としてじゃなくて友達としてお前ん家に行くからな』

 

 

 景虎の計らいにより放課後の掃除を抜け出すことに成功した勇樹。未だに見ているのかも分からない状況であったが、念のためにと勇樹は愛にメッセージを送る。

 

「(宮下に直接聞きに行くって案は考えなかったわけじゃないんだが、自分で踏み出すには勇気が足りなかったな⋯⋯)」

 

 そんなところを景虎に背中を押してもらうことによって、最初の一歩を踏み出せたのだった。直接本人には伝えてはいなかったが、勇樹は感謝していた。

 

 

「(これでやっぱりいけませんでした⋯⋯なんて報告にならないよう、今度は自分自身で勇気出さなきゃな)」

 

 勇樹が見上げる先『みやした』の看板が立て掛けられていた。

 

「(あれ⋯⋯ここってこんなに入りづらかったっけ⋯⋯?)」

 

 勇樹は唾を飲む。いつもより大きく威圧さえ感じるその入り口に汗が止まらないでいた。なかなか入る決心がつかなかった勇樹だったが、意を決してその扉に手をかける。

 

 ──その時だった。

 

 

「そこのあなた。ちょっといいかしら?」

「⋯⋯へっ?」

 

 勇樹に声をかけたのは、美人の若い女性だった。一瞬、その容姿に見惚れる勇樹。しかし、その人の表情は明らかに勇樹を怪しんでいた。

 

 

「あなた。さっきから見てたけど、何してるの」

「いや⋯⋯あの」

「──まさか、あなたなの?最近、愛ちゃんに付き纏って嫌がらせしてる人って⋯⋯」

 

 勇樹は初耳だった。自分が疑われていることよりも、愛が何者かに嫌がらせを受けているという事に意識が持ってかれていた。

 

 

「嫌がらせだけじゃ飽き足らずにストーカー?趣味が悪いわね」

「ち、ちがっ!?俺は⋯⋯」

「見た所学生ね?どうして愛ちゃんを狙うのか、理由を聞かせ貰うわ。学校に連絡するかはその後で決めるから」

「⋯⋯だからっ!」

 

 女性は、勇樹の腕を無理やり引っ張ると店の扉を開けて中に連れ込もうとした。必死に抵抗しようと藻掻くが、ここで反抗してはさらに怪しまれると考えた勇樹はされるがまま、中に入っていく。

 

 

「(⋯⋯この人、よくわかんないけど⋯⋯宮下と関わりありそうだし、形は違えどお店の中には入れたし良しと⋯⋯できないよな)」

 

 中に入れられた勇樹。今は幸運にもお客がいない時間帯だったようで、人の気配は厨房で黙々と下準備を行う愛のおばーちゃんだけだった。

 

 

「あら、いらっしゃい⋯⋯おや、美里(みさと)ちゃんじゃないか」

「こんにちは、おばちゃん」

「⋯⋯?どうしたんだい、そんな血相で」

「おばちゃん聞いて。ようやく愛に嫌がらせしてると思わしき子を見つけたわ」

 

 さっきからお店の前をうろちょろと怪しげにしてたのよ、と掴んだ腕を勢いよく引っ張り勇樹をおばーちゃんの面前に立たせた。

 

「(確かにメッセージでは嫌というほど送ったし、それが嫌がらせだって言われたら俺の罪になるのは明白だ。それに付き纏ってるってのも、ほぼ毎日のようにここに来ては宮下に合っているってのを言うのなら間違いじゃない)」

 

 徐々に勇樹の思考が後ろ向きに変わっていく。

 

「(第一、宮下に会ってからこれまで、ただからかわれてたって線はないのか?最初はちょっと会うくらいの間柄で収めようとしてたけど、俺がだんだん来るようになって鬱陶しくなったから、避け続けて無理やりやってこようものならこの人をけしかけて警察なりなんなりに突き付けて⋯⋯結局、ギャルなんてどいつもこいつも自分勝手に動いては他人が困る様を見て楽しむ奴らなんだ。あいつらにとって俺らみたいのは娯楽の道具に過ぎな──)」

 

「⋯⋯あら、勇樹君じゃない!」

 

 おばーちゃんは、勇樹の姿を確認するやいなや、厨房から出て勇樹の手を握った。困惑する勇樹。しかし知ってか知らずか、おばーちゃんは年齢にそぐわない程の速さで勇樹の手をブンブンと振った。

 

 

「最近来てくれなくなったから飽きちゃったのかと思ったわ⋯⋯」

 

 しくしく、とウソ泣きをするおばーちゃん。勇樹は先ほどまでの空気とのギャップに頭の処理が追い付いていなかった。

 

 

「え、あの⋯⋯」

「──お、おばちゃん!?今、勇樹君って⋯⋯」

 

 突如、思い出したかのように声を上げる女性。

 

「ええ。この子が勇樹君よ。いつも愛ちゃんと仲良くしてくれてる」

「⋯⋯どうも」

 

 控えめに礼をする勇樹。顔が真っ青になりかけている女性が心配になり、勇樹が声をかけようとしたその時──、

 

 

「──ごめんなさいっ!!」

 

 天にも轟くほどの謝罪がお店の中に響き渡った。

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