ギャル嫌いな俺の隣にギャルがいる   作:イチゴ侍

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対面

「つまり、愛から相談を受けていて何とかしてあげようと思っていたところ、お店の前で怪しい動きをしていた俺が犯人でこうして付き纏っているんだと思ったら居ても立っても居られなくなって⋯⋯」

「⋯⋯ごめんなさい」

「もう、いいですよ。誤解が解けたならそれでいいんで⋯⋯」

「それでも愛ちゃんのお友達を少なからず傷つけてしまったもの⋯⋯本当にごめんなさい」

 

 何度も頭を下げる女性──もとい川本(かわもと)美里(みさと)。彼女と愛は姉妹のような関係で、実際は血のつながりはないが、小さいころからずっと遊んでくれた美里は、愛にとっては姉的存在に他ならなかった。

 

 その美里はというと、ずっとこの調子で謝罪しっぱなしだった。勇樹としても美里の大切な妹を守りたいという気持ちは痛いほど伝わっていたのと、自分が勘違いさせる行動をとってしまったというのも要因の一つだったと自覚しているため、痛み分けで済ませようと考えていた。

 

 

「俺も悪かったんですから、この話はこれで終わりにしませんか?」

「でも⋯⋯」

「(ああ、もう。めんどくさい人だな)」

 

 頑なな美里に頭を抱える勇樹。しかし裏を返せばそれほどまでに優しい人なのだと認識できるため、強く出れない勇樹だった。

 

 

「なら、こうしましょう!川本さんは俺に愛の現状について教えてください。それが俺があなたを許す交換条件です。それが成立した瞬間から今回の事はもう水に流してください。いいですね!?」

「⋯⋯わ、分かったわ」

「(はぁ⋯⋯やっと話が進んだ)」

 

 半ば強引に切り抜けた勇樹。今日一日だけで自分がどれだけの疲労を貯めたのか、考えるのも恐ろしくなっていた。

 ようやく現状が進んだことを皮切りにおばーちゃんがもんじゃの材料と共にやってきた。

 

 

「美里ちゃんが気にするのも分かるけど、勇樹君が気にしないって言ってることをちゃんと聞き入れなきゃダメだよ?」

「はい⋯⋯そうですよね。ごめんね勇樹君、あとありがとう」

 

 何に対してのお礼だったのか分かりかねていた勇樹だったが、素直に会釈で受け取ったことを示した。

 

 

「それで、愛ちゃんの現状よね」

「はい。宮下とはちょくちょく連絡を取ってるんですけど、二日前辺りから全く連絡が取れなくなってて⋯⋯さっきの付き纏ってるとかと関係すること⋯⋯ですよね?」

「詳しくは本人から直接聞くのが一番なのだけれど⋯⋯そうね。愛ちゃんが誰かに付き纏われて嫌がらせを受けているのは本当」

「⋯⋯っ」

 

 テーブルの下でグッと拳を握る勇樹。わずかながら爪が皮膚に食い込みくっきりと跡が残っている。今にも駆けだそうとする気持ちを堪えて話を続ける。

 

 

「具体的な嫌がらせって宮下から聞いてたりしますか?」

「ごめんなさい。それは聞いてるけれど他言できないわ」

「そうですか⋯⋯」

 

 それはおそらく女性の尊厳に関わる何かだと勇樹は感じ、それ以上聞こうとは思わなかった。

 

「愛は今、どうしてるんですか?」

「部屋に籠ってる⋯⋯と思うわ」

「ずっとですか?」

「一度は学校に行ったみたいなの。それで帰ってきたところに例の相手からの手紙がポストに届いてて⋯⋯それっきりなのよ」

「その手紙は今⋯⋯」

「愛ちゃんの部屋よ」

 

 美里がそう言うと、勇樹は立ち上がり厨房に立つおばーちゃんの元に近づいた。その表情には学校で見せていた影は一切残っていなかった。

 

 

「おばあさん。宮下⋯⋯あいつに会って行ってもいいですか」

 

 勇樹が意を決してそう問うと──

 

「ええ。ぜひ会ってあげて。あの子、とにかく勇樹君に会うの楽しみにしてたからねぇ」

「⋯⋯ありがとうございます」

 

 愛が楽しみしていたという情報を聞かされ、照れくさくなる勇樹。しかしその目は真っ直ぐ店の奥を見ていた。

 

 

「川本さん、すいませんが俺のもんじゃ取っておいてください」

「美里でいいわ。もちろん任せておいて」

「(さて、久しぶりのご対面だ)」

 

 

 

 

 

 ◇

 

 

 

 

 

「(──なーんてかっこつけたわ良いものの⋯⋯)」

 

 おそらく愛の部屋だと思われるドアの前に立った勇樹。辺りはどんよりとしていて、光が入ってるはずなのに暗く感じてしまうほどだった。

初めて女の子の家に入ったというのに、こんな泥棒のようになるなんて思っても見ていなかった。

 

 

「(⋯⋯良し行くぞ)」

 

 ドアを軽く三回ノックする。

 

『⋯⋯はぃ』

 

 とても小さかったが、確かに反応は帰ってきた。そのことに勇樹はまず安堵する。しかしまだ声はかけない。

 

 

『⋯⋯おばーちゃん?ごめんね⋯⋯今日もお手伝いできない⋯⋯』

 

 勇樹が覚えてる中でも、これほどまでに掠れた弱々しい愛の声は記憶になかった。今すぐにでもドアをこじ開けて面と向かい合いたいという気持ちをグッと堪え、勇樹は静かに声をかけた。

 

 

「⋯⋯俺だ。勇樹だ」

『──っ!』

 

 扉越しでも愛が息を呑んだ様子は、勇樹に伝わっていた。

 

『⋯⋯ど⋯⋯して』

「どうしてだって?ちゃんとお前に来ることは伝えてるぞ」

『ぇ⋯⋯』

「その感じだと全く携帯見てないってことか」

 

 勇樹は愛とのトーク画面を開く。見られていないのなら消しておくべきだったメッセージの数々が目に痛いが、勇樹はそのメッセージに確かに"既読"の文字が表示されたのを確認した。

 

 

『⋯⋯ご、ごめんなさい⋯⋯あたし⋯⋯ずっと』

「気にするな。大まかなことはお前の姉さんから聞いたよ』

『姉さん⋯⋯って、おねーちゃん?』

「ああ、ちょうどさっきお前に付き纏う犯人扱いされたよ」

 

 ははは、と笑い話にしながらも少し皮肉を交えて話す勇樹。

 

『⋯⋯ちがぅ⋯⋯勇樹さんは⋯⋯あんなことしないもん⋯⋯』

「ははは、宮下にそう言ってもらえるだけでも嬉しいよ⋯⋯」

『勇樹さん⋯⋯?』

 

 先程までの賑やかさが無くなったことに困惑する愛。それでも決してドアは開けたくなかった。まるで愛を守るようにその場に堂々と立つ扉。しかし、勇樹は少しばかり卑怯だと自覚するが扉をこじ開けるために行動に出た。

 

 

「あぁ、ごめん。いやほんと良かったよ」

『⋯⋯』

「実はさ、ここに来るまで怖かったんだよ。最後に会った時ちょっと様子おかしかっただろ?あんときは疲れが溜まってるだろなって勝手に解釈してさ、今にして思えばお前なりのサインだったんだろうな」

 

 部屋に籠る愛は、静かに勇樹がもたれかかっているドアの向かいに背中を合わせる。そして静かに勇樹の話に耳を傾ける。

 

 

「その日を境に連絡返してくれなくなって⋯⋯」

 

 それに関しても時系列が繋がれば簡単な事だった。まず勇樹は前日に行くことを伝え、翌日に今から行くことを伝えるようにしていた。しかし、愛の学校は携帯の持ち込みは禁止されており、勇樹がどのタイミングで来るかは帰宅してから知ることになる。

 

 そしてその日、帰ってきた愛を待っていたのは例の手紙。それから愛は部屋に籠り、連絡どころか携帯すら手に取ることも無くなった。

 

 こうして勇樹が連絡しても帰ってこないという状況が意図せずして起こってしまったのだ。

 

 

「もしかしたら嫌われてもう会いたくもない⋯⋯って思われたのかと思ったんだ」

「──そんなわけないっ!!」

 

 その固く重苦しい扉は、愛自らの手によって開かれた。勇樹はこうなることを予想していた。自分はまだ嫌われていない。自分が一瞬でも想像したことは何一つ現実じゃない。そしておばーちゃんが教えてくれたこと。それらの思いが力となって、勇樹に行動させたのだ。

 そして愛の性格ならば、ここで接近して否定してくるに違いない。かなり運要素が豊富な作戦だったが、見事に愛は勇樹の前に姿を現し、接近してきた。

 しかし、そこで勇樹にとって誤算が起きた──

 

 

「──なっ」

「違う⋯⋯違うもん⋯⋯勇樹さんを嫌いになったりなんてしない⋯⋯信じてぇ⋯⋯」

 

 腕を掴まれる程度だと予想していた勇樹の予想は遥かに超えられて、愛は全身で勇樹を離すまいと抱きついていた。

 

 

「み、宮下⋯⋯?」

「お願い⋯⋯連絡返せなかったのは謝るからぁ⋯⋯だから⋯⋯」

「宮下、わかった⋯⋯分かったから⋯⋯」

 

 一心不乱に泣き叫ぶ愛。

 勇樹の限界は近かった。愛の格好はパジャマで、籠っていたこともあってブラは付けていなかった。そのためその中学生らしからぬ感触が勇樹にダイレクトで伝わっていたのだ。

 

 

「(俺もメンヘラの気質あるらしいけど⋯⋯宮下も案外⋯⋯普段元気な子ほど独占欲強いとかあるもんな)」

 

 しかしそれを恋だなんだと考える勇樹ではなかった。

 

「(愛はおそらく弱った状態で冷静な判断ができないでいるんだ⋯⋯まて、つまり俺はそんな弱ったところにつけ込んだクソ野郎ってことじゃねぇか!)」

 

 ようやく自分が犯した罪に気がつき、せめて引き起こしてしまった責任として──

 

 

「勇樹さん⋯⋯勇樹さん⋯⋯」

「うん。ほんとごめん。マジでゴメン」

 

 未だ泣き止まない愛の頭を勇樹はゆっくりと撫で、落ち着かせていく。

 

 

 

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