ギャル嫌いな俺の隣にギャルがいる   作:イチゴ侍

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終戦

「いやーあはは~おっかしい~!」

「そこまで笑うかよ⋯⋯普通」

 

 中学生のギャルに思いっきり腹を抱えて笑われる高校二年生──氷川勇樹。

 勇樹が目を細め、恨めしそうに見るその先には、レジ袋を片手に涙を拭きながらなおも笑う愛がいた。

 

 行く当てはあるのかと愛に問われた勇樹だったが、外に出る以外の目的を決めていたわけではなかった。そのため、勇樹が取った行動というのが、愛の家から少し離れた場所にあるコンビニに寄ることだった。

 

 

「ひぃーひぃ⋯⋯あぁ、笑い死にそ……」

「そろそろ殴りたくなってきた⋯⋯」

 

 眉間に青筋を立て始め、握りこぶしに力を込める勇樹。

 

「ご、ごめんって⋯⋯はぁ、元を辿れば勇樹さんのせいだよ!」

「は?俺がなにしたんだよ」

「『──外に出かけよう』⋯⋯って、めちゃくちゃカッコいい顔で言ってたのに行先はコンビn⋯⋯ぷっ」

 

 やけにクオリティの高い愛による勇樹のマネ。それを見せられた当の本人はというと──

 

 

「(はぁー!やっぱギャル嫌いだわぁぁぁー!)」

 

 決して声に出すことは無いその悲鳴は、勇樹の胃の中を駆け巡り胃液によってかき消された。あくまで"宮下愛"という目の前の彼女を名指しせず"ギャル"と言い放つ辺りに勇樹の愛に対する気持ちが揺らぐことは無いのだと垣間見えるのだった。

 

 

「⋯⋯もう一生、出かけてやらないからな⋯⋯」

「えー?その言い方だとこれからも一緒に出かけてやるつもりだった⋯⋯とも聞き取れるなぁ~」

「⋯⋯」

 

 咄嗟に顔を逸らす勇樹。

 

「⋯⋯あれ、勇樹さんもしかして照れてる?」

「⋯⋯」

「うわっ、顔真っ赤⋯⋯純粋?」

 

 年下に揚げ足を取られたこと、そして自分の放った言葉の解釈を聞かされたことで顔に熱が灯った勇樹。なんだかんだとクールぶっている勇樹だが、カウンターにかなり弱かった。

 

 

「⋯⋯前見て歩けって」

「えー、もったいないよ!勇樹さんのこんな顔初めて見たんだし」

「危ないだろ⋯⋯」

「えへへ~こんな時でも気に掛けてくれるんだ。ありがとっ」

 

 

 行きでは途中まで手を繋いでいた二人だが、今は少し離れていた。それでも愛の現状を忘れずにいた勇樹は、少し離れすぎればさりげなく自分から愛との距離を詰めるようにしていた。

 もちろんそれに気がつかない愛ではなかった。

 

 

「(⋯⋯やばいやばいやばい、めっちゃドキドキしてる⋯⋯お店出た辺りからずっとこの調子だよぉ⋯⋯。今はまだ勇樹さんをいじって誤魔化してるけど、これももうもちそうにないー!ていうかさっきから離れすぎないようにって距離詰めて来てるのバレバレだし!照れながら「危ないだろ⋯⋯」なんて言われてちょっとクラって来ちゃった⋯⋯あーもうわけわかんない!)」

 

「勇樹さん顔真っ赤だー」

「お前⋯⋯めっちゃくちゃ調子戻ってんじゃねぇか⋯⋯。てかむしろ元より増してないか?」

「そうかなっ?」

 

 この女。かなり平常心に見えるが内心では赤面し、情緒不安定になり、かつ顔を両手で覆い体育座りしていた。

 

 それはともかくとして、実のところ現在、愛の頭の中からすっかり例の手紙についての記憶はきれいさっぱり跡形もなく消え去っていた。むしろ消え去っていたというよりも勇樹によって塗りつぶされた⋯⋯というのが当てはまるまである。

 

 

「はぁ⋯⋯お前もう少し緊張感を──」

 

 と言いかけた所で勇樹は踏み止まる。勇樹から見ても愛は明らかに自分が受けた行為が頭から消え去っているように見えた。それは愛にとって良いことに変わりはなく、ここで掘り起こしてしまうという余計なことはしたくなかった。

 そしてそこにはこれ以上、この笑顔を曇らせたくないという勇樹の無意識な感情も含まれているが、本人が認識することは無いのだろう。

 

 

 

 

 

 が、それを許してくれるほど現実は甘くはなかった。

 

 

「──宮下。少し走るぞ」

「えっ、あ⋯⋯ちょ!?」

 

 愛が身構える間もなく勇樹はその手を握って走り出す。突然の事で戸惑う愛だったが、ほんの少し見えた勇樹の横顔がそれまでとは打って変わって真剣な表情だったことに気がつき、待ったをかけることも無くただ勇樹に従うことにした。

 

 全速力で走り抜ける二人。すれ違う人達から様々な目を向けられるが、気にする素振りも見せずただ走り続けた。

 

 

「はぁ⋯⋯はぁ⋯⋯」

「ふぅ⋯⋯」

 

 ある程度走った先で二人は公園で立ち止まった。夕方近くだという事もあり、遊ぶ子どもたちの様子も見受けられない。その場には勇樹と愛しかいない中で、勇樹は深呼吸をして声をあげた。

 

 

「──さっきから後をつけて来てたやつ、こそこそしてねぇでいい加減出てこいよ!」

「⋯⋯え?」

 

 勇樹の言葉でふと周囲を確認する愛。しかしその姿を捉えられてはいない。

 

「俺達が家を出た辺りからずっと付けて来てる奴がいたんだよ」

「それって⋯⋯」

「おそらく俺らが捜してる奴だろうな」

「⋯⋯!」

 

 ギュッと勇樹の袖を掴む愛。背中に隠れるように勇樹の後ろに立った。

 

 

「俺が考えた予想として犯人は宮下が家に付くタイミングを把握していた。一通目の手紙では宮下のばあちゃんが手に取っていたが、二通目に関してはお前が直接手にしていた。ただの偶然だって言われればそれまでだが⋯⋯二通目も一通目の時と同じくばあちゃんが事前に受け取ってるはずだと思ったんだ」

 

 それに⋯⋯と勇樹は続ける。

 

「俺が店に行くってメッセージを送ってるのって宮下が俺と会うタイミングを見計らいたいからじゃないか?」

「えと⋯⋯う、うん」

「だったら俺はお前が手紙を受け取った二日とも同じ時間に行くことをメッセージで事前に送ってる。まぁ、返事は貰えてなかったけどさ。で⋯⋯なら必然と宮下が家に戻ってくる時間も2日とも同じくらいになるはずだと考える」

「⋯⋯た、確かに」

「それで犯人は宮下が家に辿り着くタイミングってのを一通目で把握して、二通目は直接本人が手紙を取るよう仕向けたんだろうな」

 

 その日、確かに学校が終わると真っ直ぐ家に帰ったことを愛は記憶していた。勇樹からの連絡も通知を見るだけで返信できる心の余裕が無かったため送れなかっただけであり、何時に勇樹がやってくるかは把握していた。

 

 

「⋯⋯なんであたしが最初に取ることにこだわったんだろ」

「そりゃ、ラブレターだったからな。好きなお前に受け取ってもらえた気分にでもなってたんだろうさ」

「⋯⋯っ」

 

 愛が受け取った二枚目には同じく写真と紙が封入されており、紙には明らかに告白まがいな文が綴られていた。

 しかし、それを受け取った愛には恐怖でしかなかった。現に今も怖さから逃げようと勇樹の背中にしがみついている。

 

 

「一応、その二通目限りじゃないかもしれないと思って、宮下家を出る時に郵便受けを確認したら入ってなかった。そこで二つ目の俺の予想だが、犯人は宮下と同じ学校の生徒で、何かしらの部活に入ってると予想してる」

「ぶかつ⋯⋯?」

「丁度今はだいたいの部活動が終了する時間だ。もしそいつが部活動をやっていて、二通目以外にも一番最初に手に取ってほしいみたいなこだわりが無いのだとしたら⋯⋯手紙を入れる現場に鉢合わせられると思ったんだがな⋯⋯」

「それで遠くのコンビニ⋯⋯」

「時間稼ぎしたいだけだったんだからもう笑うなよ?」

「うん⋯⋯えへへ」

 

 頭を優しく撫でられ愛の表情が少し緩んだ。

 

 

「まぁ、まさかこっちが当たるとは思わなかった」

 

 勇樹は人の気配のする方を睨む。

 

 

「こっち⋯⋯?」

「休んだ宮下を心配する生徒を装って近寄ってくるかもしれないって一番考えたくなかった方だ」

「えっ⋯⋯!?」

 

 手紙の内容を見るに、犯人は異常なまでに愛に執着していることは明白だった。そして要所要所に見え隠れする歪んだ汚い愛情。それを見た瞬間、勇樹は危険だとすぐさま感じたが、そんなことが起こるのは恋愛ゲームの中だけだと考えを捨てた。

 

 

「(ハーレム物にあったよな⋯⋯ヒロインの一人に狂った愛をぶつけるストーカーがヒロインを犯しかけるんだけど、そこに主人公が助けに入ってストーカーを撃退するってやつ)」

 

「まさか本当にあるとはなぁ⋯⋯家を出た辺りからずっと⋯⋯って言ってたろ?ただの勘違いかと思って警戒してたんだが、ここまでついて来られれば確信にもなる」

「⋯⋯じゃあ、その人があたしの⋯⋯撮って送ってきた人ってこと⋯⋯」

「大丈夫だ。頼りないかもだが俺もいる」

「──うんっ」

 

「⋯⋯あの~お二人さん?イチャイチャするのもいいけど、いい加減出て行ってもいいか?」

 

 勇樹君の視線の先から出てきたのは、勇樹の友人でもある景虎だった。

 

 

「てめぇ!!」

 

 殴りかかる勇樹。

 

「は!?待て待て待て!なんでいきなり殴りかかってきてるんだよっ!」

「しらばっくれるな!お前が宮下のストーカーだったのか!」

「しらねぇよ!?てかあの子ストーカー被害にあってんのかよ!」

「ストーカーはお前だろ!?」

「違うっての!!」

 

 勇樹が殴りかかればそれを景虎が避け、避けた景虎を追うように勇樹の拳が伸びた。

 

 

「な、なぁ!君からも勇樹に⋯⋯」

「⋯⋯っ!」

「え、嘘⋯⋯めっちゃ避けられてる?怯えられてる⋯⋯?嘘でしょ?」

「ごちゃごちゃ言ってんじゃねぇよこのロリコン野郎ォ!」

 

 愛に完全に拒絶され、意気消沈と膝を公園の砂場につける景虎。その隙を逃さないと勇樹は殴りかかる⋯⋯が──

 

 

「──おい」

「⋯⋯っ!?」

 

 勇樹の拳は見事に景虎の手のひらに収まっていた。

 

 

「ロリコン発言に関しては受けとめるが、しっかりきっちり無関係な俺に説明しろ。な?」

「⋯⋯いや、お前がはんに──」

「な?」

「はぃ」

 

 

 

 

 

 ◇

 

 

 

 

 

 

 

「⋯⋯なるほどなるほど、つまり俺はタイミングが悪かったんだな」

「ほんとにお前じゃないんだな?」

 

 公園を後にした三人。

 勇樹は常に怪しみながらも景虎に愛が受けている被害について説明した。

 

 

「いやね?俺が完全に紛らわしいことは謝るよ。勇樹と愛ちゃんが上手くいってるか気になって隠れて尾行してたのはさ⋯⋯」

「お前が途中送ってきた帰れないってメッセージは?」

「カモフラージュ用の嘘です⋯⋯はい」

「もしこれが名探偵コ〇ンだったらお前しっかり場を荒らした後で真犯人に殺される役だったぞ⋯⋯」

「それはマジでごめん」

 

 勇樹を真ん中にして並んで歩く愛と景虎。景虎は勇樹を挟んで愛の方に顔を向けた。

 

 

「愛ちゃんも怖がらせたみたいでごめん」

「い、いえ!あたしもごめんなさい。すぐ疑っちゃって⋯⋯」

「ならお互い様だ。ここからは俺も協力するから、どんと任せてくれ!」

 

 そう言うと景虎は自身の胸を叩いて、むせた。

 頼りないな、と呆れる勇樹だが仲間が増えたことはなにより嬉しく感じていた。

 

 

「ところで、天才名探偵である氷川勇樹君の推察だともうそろ犯人が愛ちゃんの家にやってくるんだったよな?」

 

 いろいろとつっこみたくなる勇樹だったが、グッと堪えて強く頷いた。

 

 

 

 

 

 

 

「──じゃあ、あれじゃね?」

「⋯⋯はっ?」

「⋯⋯えっ?」

 

 宮下家にたどり着いた三人。彼、彼女らが見たのは、その手に白い封筒を持ち今にも郵便受けにいれんとする黒縁メガネのデブ男だった。

 

 

「な⋯⋯なんだおまえら!⋯⋯あっ、愛ちゃん!ふへへ⋯⋯ぼ、ぼくのラブレター読んでく──」

 

「死に晒せぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!ゴミくずやろぉぉぉぉぉぉぉぉ!! 宮下に二度と話しかけんなごらぁぁぁぁぁぁ!!」

「くたばれぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!親友たちに疑われた責任取りやがれごらぁぁぁぁぁぁ!!」

 

 

 その日、男子中学生一人を男子高校生二人が死ぬ気で追いかけまわし、精神的にタコ殴りにしていた──とその場で見ていた宮下愛は語った。

 

 

 




次回、出会編ラスト。
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