ギャル嫌いな俺の隣にギャルがいる   作:イチゴ侍

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クレープをおくれーぷ!

 ゲームセンターで一通り遊び尽くし、ショッピングモールを出た二人。時刻は既に昼近くまで経っていて、そろそろ小腹がすいてくる頃合。近くの広場にやって来た二人の目にとまったのは、クレープを売るキッチンカーだった。

 

 

「美味しい?」

「⋯⋯」

 

 チョコとバナナ、カスタードが入ったクレープを口いっぱいに頬張り、頷く勇樹。

 そんな勇樹の様子を愛は微笑ましそうにただ眺めていた。

 

 

「いつも思うんだけどさ、俺の食べてるとこなんて見てて楽しい?」

「楽しいよ?」

「⋯⋯そんなはっきりと」

 

 動じない愛の姿勢に苦笑を浮かべる。

 

 

「だって、勇樹さんの食べてるとこってハムスターみたいで可愛いんだもん」

「ハムスター⋯⋯?」

 

 勇樹の頭の中に、小柄でもちもちとした小動物が浮かぶ。それは手渡されたひまわりの種を次々と口の中に放り込み、ほっぺは膨らみかけの風船のように丸みを帯びていた。

 イメージの中では確かに可愛い様子だが、それを自分と掛け合わせて可愛いかと言われると、勇樹にとっては素直に頷けるものではなかった。

 

 

「ないない」

「そんなこと無いって。ほら、見てみてよ!」

 

 愛は携帯を取り出すと、勇樹の目の前に突き付けた。それを恐る恐る覗く勇樹。

 

 

「宮下⋯⋯?これはいったい」

「前にあたしが撮った勇樹さんの食べてる所。お店のブログ用だって撮ってた写真のうちの一枚だよ」

「ああ⋯⋯そういえばそんなこともあったな」

 

 勇樹が"みやした"に通い詰めるようになって二か月経ったころ、愛から"お店の事をもっともっと広めたい"と相談を受けたことがあった。もちろん勇樹はいつもお世話になっていたため、率先して手伝うことに決めた。

 

 しかしながら勇樹にはそれらの知識は足りなかった。そこで自分よりもネットに強い景虎、そして景虎が掲示板で募集した勇樹もとい"ギャルころ"親衛隊の面々の力を借りることにし、ほんの僅かな時間でサイトとブログが完成した。

 

 そして掲載する用にお店の雰囲気と、お客の様子──と題して勇樹が食べている写真が撮られていたのだった。

 

 

「(あれ⋯⋯?)」

 

 勇樹は疑問を感じた。

 

 

「確か俺も載せられた写真は見てたけど、俺がこんなになってる写真無かったよな?」

「あー、うん。そうだね」

「ってことはだ⋯⋯宮下が持ってるそれはたまたま撮れた写真なだけであって、いつもは普通に食ってるんだろ!」

 

 一矢報いてやったとばかりに鼻を高くする。自分がいつもそんな姿を晒しているわけがない、という意地が一時でも報われた瞬間だ。

 しかし──、

 

 

(実は可愛い勇樹さんをわざと載せてないだけ⋯⋯って言ったらどう思うかな~)

 

 愛の画像フォルダの中には、数々の"食べる姿が可愛い勇樹"の写真がいくつもあった。

 だが、その存在を勇樹は知る由もなくクレープを頬張り、写真と変わらない可愛い姿を晒していた。

 

 こうして勇樹の意地は、つかの間の休息ののち音もなく崩れ去っていくのだった。

 

 

「(あんまりこの姿を他の人に見せたくないっていう愛さんのわがままなんだけど⋯⋯いいよねっ)あ、勇樹さんの一口欲しいな!」

「ん、いいぞ。ほれ」

「──っ!?」

 

 勇樹は言われた通り、自分のクレープを愛に食べさせようとしていた。驚くほど軽やかに行われたそれは、まさしく──、

 

 

「(あ、あーん⋯⋯だよね!?確かに欲しいって言ったけど!言ったけどさ!)」

「⋯⋯?いらないのか」

「い、いる!いります!」

 

 勇樹が一度差し出した手を引っ込めようとした所で、愛はその手を捕まえた。そして、ぎゅっと自分の傍までクレープを勇樹の腕ごと引き込んだ。そして引き寄せたクレープにガブッと齧り付く。

 

 美味しいか、と勇樹が問いかけると愛は小さく首を縦に振った。

 勇樹の予想以上に愛の一口は多かったが、それ故に愛の口元には齧り付いたことによってチョコがくっついていた。

 

 

「がっつき過ぎだろ……ほら、チョコ付いてるぞ」

「え、どこどこ」

「……しゃーないな」

 

 勇樹の指摘で口元をぺたぺたと自分の手で確認する愛だが、的はずれな部分ばかりだった。その様子を見るに見かねた勇樹は、愛の口元に手を飛ばして指先でチョコを拭き取った。

 

 

「ティッシュとか持ってれば良かったんだけどな、指で失礼して……」

「──あ、ありがと……」

「おう」

 

 直後、勇樹はチョコがついたその指を咥え舐めとった。その様をしっかりと目に捉えてしまった愛はあまりの羞恥に、そのきめ細やかな白い頬を真っ赤に染めた。

 

 

「俺も一口貰っていいか?」

「……いいよ、はいっ!」

 

 愛はやり返しとばかりにニヤッと笑みを浮かべて、勇樹に自分のクレープを差し出した。

 傍から見ればカップルの食べさえ合いっこというイチャつき行為なのだが、当の本人たちはさして意識はしていない様子。

 

 愛の中では、これで勇樹が羞恥すると踏んでの行動だったのだが、勇樹は「ありがと」と一声かけるとなんの躊躇いもなく愛のクレープにかぶりついた。

 

 シャキシャキとみずみずしいレタスの食感、噛めば噛むほどその柔らかさを実感するハムの弾力、程よい酸味のマヨネーズが見事にミックスしていた。そして忘れてはいけない、それら全てを包み込むモチモチの生地。

 食材達が手を取り、勇樹の口内を駆け回り彼の味覚を刺激してきた。

 

 

「……うまっ。クレープは断然、甘いヤツって決めてたけどヘルシーなのもなかなか美味いんだな」

「……」

「宮下? おーい」

 

 なかなか返事の返ってこない事に首を傾げ、勇樹は愛の目先で手を振ってみる。やはり帰ってこない。

 

 それもそのはずで、愛は自分が平気な顔して勇樹に食べさせた(あーんした)事と、自分が食べかけていた部分を容赦なく食べられた事によって所謂、関節キスをしてしまったのではないかということに気がついたのだ。

 

 結果、愛は固まっていた。

 

 

「──っは! ……あれ、あたし」

「戻ってきたか。急に固まるから心配したぞ」

「あ、あはは……ごめん。ちょっと考え事してたら……つい」

 

 本当の理由など本人に言える訳もなく、愛は笑って誤魔化すことにした。

 勇樹も隠してることにはすぐ勘づいたが、深く問い詰めることも無くただ頷いていた。

 

 

「ところで宮下」

「んー?」

「欲しい」

「ほぁ!? ほ、欲しいって……欲しいとは、なにをあげたら……愛さんが上げられるものなんて……」

 

 指と指を絡め俯く。必然と片手に持ったクレープを両手で持ち胸元辺りで抑える。無意識に手に力が入り、クレープを包む紙がクシャッと音を立てた。

 

 その仕草はいつもの愛からは想像もつかないほどの完璧に恋する乙女のそれだった。

 

 

「何言ってんだ?あるだろ」

「へ?」

「クレープ、もう一口欲しいんだって」

 

 勇樹は、はなからクレープの要求をしていただけだった。愛はそれを理解するや否や、安堵と落胆の混じったため息をこぼした。

 

 

(……だ、だよね。ってあたしなんで落ち込んでるの!? いや、でも少しだけ……ほんのちょっとだけ意識しちゃった。うう……あたしこんなにエッチな子じゃないもん!)

 

 偶々、偶然にもクラスメイトの友達から乙女系小説を借りていた愛。そこで見た内容に酷似したセリフが勇樹の口から出たため、結びついてしまったのだった。

 

 

「それで……宮下さん? もう一口……」

「ぷいっ」

「宮下さん?」

「ぷいっだ」

「ええ……」

 

 愛は何度も何度も恥ずかしさを覚えさせた自分のクレープを恨めしそうにしながら、勇樹に向けることなくがむしゃらに口に詰めていった。

 

 

「……ほら、マヨネーズ付いてるぞ」

 

 また一悶着あったのは、別のお話。




投稿が久しぶりになり、申し訳ございません。
この作品に関して自分の中で思う所があったため、なかなか筆を進めることが出来ていませんでした。
投稿間隔が空いてしまってもずっと楽しみにしてくださっていた皆様、本当にありがとうございます。その間で評価も頂けて嬉しい限りです。これからも最後まで見届けていただけると幸いです。

それでは。
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