ギャル嫌いな俺の隣にギャルがいる   作:イチゴ侍

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出会編
遭遇


 高校時代、勇樹は帰宅部だった。何か惹かれる部が無かったというのも一つの理由だったが、ただ単純に面倒くさいというのが正直なところだった。

 

 放課後。他の生徒たちが練習着やジャージに着替えて外に出て行く様を横目で見る勇樹。家に帰って何があるわけでもない勇樹は、スクールバックを肩からぶら下げ帰路につく自分と彼らを見て卑屈になっていた。

 

 

「⋯⋯はぁ、何してんだろ⋯⋯俺」

 

 こうして時々、勇樹は他者と自分を比べてどれだけ自分が劣っているかを考えてしまうことがあった。それは逃げている自分の現状が大きく関わっていた。

 中学一年のあの日から、勇樹は何一つとして変わってなどいない。外見からオドオドとした雰囲気は確かにきれいさっぱり消えてるし、誰からもからかいという名のいじめは受けていない。それでもただ一つ、頑固な汚れのように勇樹の内面にこびりついたものが、トラウマ。

 

 勇樹は決して治療を施したわけではない。地獄のような日常から二次元の世界に逃げたのも、ただその場しのぎをしているだけに過ぎないのだ。

 

 そしてそれが露見してしまったのが、先日のとあるもんじゃ焼き屋で出会った店員のギャル──宮下愛との出会いだった。

 さらに酷なことに、愛の容姿は勇樹にトラウマを与えたギャル──佐藤のものと類似していた。顔は明らかに愛の方が上なことに間違いはなく、勇樹もそれに関しては自覚していた。それでも勇樹の目には佐藤の姿が重なってしまい、その結果、愛の手を振り払うという行動に繋がってしまったのだ。

 

 

「(結局、きちんと謝ることもできてないんだよな)」

 

 食べ終わった勇樹は、帰る前に一言謝ろうと考えていたのだが、タイミング悪くお客の波が激しくなってしまった。愛は新しく入ってきたお客の対応に追われ、結果、勇樹は一度も話せず店を出ることとなってしまったのだ。

 

 勇樹自身、何度かまた店に立ち寄ろうと考えたこともあった。しかし、いざとなると勇気が出せずに逃げてしまい、それが勇樹が卑屈になる要因の一つだったりする。

 

 こうして今日ももやもやとしながら家に帰るのだった。

 

 

「──ほらほら!次行くよー!」

 

 女子テニス部達がテニスコートで玉打ちをしている。勇樹の帰り道には中学校がある。部活動が活気的な学校で、毎日のように掛け声が飛び交っていた。

 

「(──眩しいねぇ。良い中学校生活送るんだぞ……)」

 

 若い頃は俺も……などと話していた親戚のおじさんを思い出す勇樹。あの時こんな気持ちだったんだなと、改めて実感するのだった。

 

 

「愛〜!今日も急に入ってもらってごめんねー!」

「いいよいいよ!さっ!どんどん行くぞー!」

 

 その時、勇樹の耳に聞き覚えのある女の子の声が届いた。

 テニスウェアを身にまとって玉を意気揚々と打つ、愛の姿がそこにはあった。

 

 

「(あの子、テニス部なんだ。ヤリサー……いやいや何言ってんだ俺)」

 

 馬鹿なことを考えたと、自分を叱る勇樹。

 

「(──あれ、てか中学生だったのか!?)」

 

 勝手に同い年くらいだと勘違いしていた勇樹だが、今どきの中学生でギャルがいるのかと驚愕していた。

 そして、年下の女の子にあれだけの事をしてしまったのか、という罪悪感が募る一方だった。

 

 

「……あの人、どこの学校の人だろ」

「あの制服って高校のじゃなかった?」

「ってことは年上じゃん! 誰か待ってるのかな?」

「てか、かっこいいね」

 

「(やば、見すぎてた……)」

 

 フェンス越しからテニスコートをガン見していた勇樹。傍から見ればそれは不審者として通報されても何も言えない状況だった。が、制服だったこともあり、他校の人だという事で済み安堵する。

 これ以上、目立つのもまずいと早々に立ち去ろうとする勇樹だが、それを愛は逃さなかった。

 

 

「あー!!」

 

 勇樹の肩がビクリと跳ねる。愛は手に握っていたラケットをコート脇に立てかけると、一目散に勇樹の元へと急いだ。

 

 

「(え、なに? なんかあの子こっちに来てないか……?)」

 

 周りが愛の行動に困惑しているが、お構い無しとこちらにやってきている。勇樹はどうするべきかと悩むが、悩んでいる間にも愛との距離は縮まっていた。

 

 

「(足はっや……)」

 

 勇樹の立っているフェンスからテニスコートまでは、それなりの距離はある。しかしそれを全く感じさせない愛の足の速さに驚愕していた。

 

 

「……ふぅ」

「足、早いね」

 

 ついに対面した勇樹と愛。

 

 

「お兄さんこの間お店に来てくれた人だよね!」

「あぁ、うん。よく覚えてたね」

「えっへへ〜。愛さんこれでも一度来てくれたお客さんは忘れないようにしてるんだ!」

「──そうなんだ……」

 

 ──自身を"愛さん"と呼ぶってことは、名前は愛って言うのか?

 頭の片隅でその名に引っかかる自分がいることに困惑する勇樹。そしてその名を聞くだけで汗が止まらなくなることに、さらに訳が分からなくなり目眩すらしていた。

 

 

「……お兄さん、大丈夫?」

「えっ、」

 

 いきなり距離を詰められたことに驚く勇樹。

 愛は、純粋に勇樹を心配していた。

 

 

「なんか顔色も悪いし……」

「そ、そうかな? あはは、大丈夫。ちょっと立ちくらみしただけ」

「うーん……」

 

 心配させまいとおどける勇樹だが、それでも表情が晴れない彼女にどうすればいいのかと頭を抱える。

 

 

「愛ー、急に飛び出してどうしたのさ? って、この人は?」

「あぁ!うん、この間もんじゃ食べに来てくれたお兄さんだよ!思わず飛び出して行っちゃった。えへへ〜」

「ふーん?」

 

 愛の話を聞いた途端に、ニヤニヤと笑みを浮かべる女の子。女の子は、そっと愛の耳元で勇樹に聞こえるか聞こえないかの声量で話し始めた。

 

 

「……ねぇねぇ、愛。もしかして……あの人好きなの?」

「──っ!? な、なに言ってるのさ……!」

「だってさ、あの人と話す時の愛の顔めっちゃ緩んでたよー?」

「う、嘘!?」

 

 ぺたぺたと自分の顔を確かめるように触る愛。慌てふためく見たことの無い愛の姿に笑みが止まらない女の子だった。

 そんな2人の様子をただぼーっと眺める勇樹。時間が過ぎる度に、辺りからの注目の目が増えてきて勇樹は居心地が悪くなっていた。

 

「(これ、どうしたらいいんだ……)」

 

 既に収集がつかなくなりつつある現状に、ガクッと項垂れる勇樹。不幸だ……と弱々しく呟いた。

 

 

「愛も隅に置けないね〜? あの人、年上でしょ? さっすがだな〜」

「だ、だから何がさ! うぅ……とにかく、あたしとお兄さんはそんな仲じゃないんだってば!」

「今は……ね?」

「もぉぉ!」

 

 放っておかれている勇樹を他所に、からかわれ続ける愛。愛が現状、ただ一人を除いて絶対に勝てない相手が彼女なのだ。

 

 

「……あ、あのーそろそろ帰ってもいいかな?」

 

 この状態に耐えきれなくなった勇樹が控えめに問う。そこでやっと、自身が引き止めてしまっていたことを思い出す愛。

 

 

「ご、ごめんなさいっ! あたし、自分から引き止めちゃったのに……」

「えっと……そんなに気にしなくていいからさ。部活、頑張ってね」

 

 勇樹は、愛に謝られるのがあまり好きではなかった。そう思えるのはきっと彼女が謝っていた場面において、彼女には何一つとして悪い所などなかったからだ。

 初めて会った際も、初めてあった勇樹の不調に気付いた愛が優しさで応対しようとした所、勇樹が拒否するという。誰がどう見ても勇樹に非があった。

 

 今回に関しても、愛が引き止めてしまったと言うが、それ以前にここで立ち止まっていたのは勇樹だった。彼女が謝ることは一切無い。

 だからこそ、愛が謝るということは、逆に勇樹を追い詰める要因でしかないのだ。

 

 勇樹は最後に別れの挨拶をして、立ち去ろうとした。その時だった──

 

 

「──あれ、」

「お兄さんっ!」

「うそ!?」

 

 朦朧とする視界。朧気な足取り。勇樹は愛と接している間にも知らず知らずのうちにトラウマから来る疲労を溜め込んでいた。

 それが緊張の緩みからどっと押し寄せてきて、勇樹に立ちくらみの現象を引き起こさせていた。

 

 

「(──やばい、こんなとこで……)」

「お兄さんっ! お兄さんしっかり!」

「救急車とか呼ばないとだよね!」

「……まって、ちょっ……と、どこかでやすんだ……ら、だいじょ……」

「お兄さん!!」

 

 そこで勇樹の意識は途切れた。

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