「はぁ……疲れた」
その後、自宅に帰宅した勇樹。学校での疲労だけでなく、帰り道でも疲労を溜めたその体はボロボロだった。
くたくたになった制服を脱ぎ捨て、ワイシャツ姿でその身をベッドに投げ打つ。
不意にポケットに閉まっていた携帯が震え、勇樹は気だるげに携帯を取りだし、内容を確認する。
「……そうだ、忘れてた」
『こんにちは! 勇樹さん……であってますよね?』
美少女ギャルこと、宮下愛からのメッセージだった。公園での別れ際に連絡先の交換をしようと持ちかけられた勇樹。すぐにでもその場を後にしたかったが、グイグイと迫って来る愛に押されて半ば無理やり連絡先を渡す羽目になったのだ。
「あってますよね……って、用心深いな」
勇樹の携帯をしっかりと確認して連絡先をメモしていたにも関わらず、聞いてくるその姿勢に感心していた。
『どなたですか?』
『えっ!?』
「ぷっ……」
他人を装い愛を少しからかおうとする勇樹。すぐにバレるであろうと予想していた勇樹だったが、愛はしっかりと信じ込んでいた。
『あ、あれ……確かに勇樹さんに見せてもらったはずなのに……』
『えーと、その勇樹さんって人のよく確かめましたか?』
『はい。そのはずなんですけど……』
『0とOの違いとかありがちですよ?』
『それも確かめたんですよ……でも』
──凄いな。よくそこまで確認したもんだ。
用意周到過ぎる愛に、もはやからかう意味もないと勇樹はネタばらしをすることにした。
『……はぁ、凄いね君。俺の負けだよ』
『へっ……?』
『勇樹さんですよ。間違いなくね』
『からかったんですかぁー! もー!』
メッセージと共に、怒っているキャラクターのスタンプが送られていた。
一方、勇樹は愛とのメッセージのやり取りに青春を感じ、満足気に微笑んでいた。
『酷いですよ勇樹さん!』
『ごめんって、だってわざわざ俺かどうか確認してくるもんだからさ』
『うー!それはそうだけどぉ……』
公園でのやり取りを通して、二人はかなり親密になれていた。ファーストコンタクトは決していいものではなかったが、元々は二人ともコミュニケーションは取れる方なためそれほど時間はかからなかった。
しかし、勇樹は不思議に思っていた。
──ギャルってだけでも来るものがあるのに、ましてや金髪ギャルなんだよな……それなのに、なんでこの子とは話していても辛くないんだろ……?
顔を見合わせる事は流石に出来なかった勇樹だが、話しているだけならいくらでも話せるくらいの余裕があった。それも普通の相手に接するように簡単だった。
だからこそ、連絡先を聞かれた際にも押し切られかけたとはいえ、最後には教えると自ら決められたのだ。
今も尚、愛からどんな返信が来るかと常にトーク画面を開いて待ち構えるくらいには楽しんでいる。
『……勇樹さんって意外とおちゃめ?』
『なに、俺が愛らしいって?』
そこでプツンと会話が途切れた。
もはや何度やったか分からないやり取り。恐らく画面の前でまた慌てているのだろうと予想する勇樹。そしてその予想は見事に的中していて、愛は案の定「あー!」や「うおおお!」と荒れていた。
しばらくして返ってきた愛からのメッセージには、
『愛さんだけに』
半ば無理やりなシャレを残していたそうな。
◇
翌日。
「なぁ、景虎。運命ってあるのだろうか」
「え……なに、きも」
「首絞めんぞこら」
先日、勇樹と愛の出会いの話を掲示板の自称ファン達にばらまいた景虎に、制裁をくだした勇樹。
勇樹は早々に制裁を切り上げ、昼飯を食っていたところで話が始まった。
「まさかほんとにしばき倒されると思ってなかった……お前のは冗談抜きで殺しにかかるから首も渡さん」
サッと首を隠す景虎。勇樹の制裁が余程効いていた証拠だ。
「もうやらねぇよ。てか、話の続き」
「ん? ああ、運命がどうとかってやつか?」
「そうそう」
「まぁ、あるんじゃね? もしかしなくても……あの美少女ギャルとのか?」
「──っ!?」
図星だった。むしろあれだけ吐くほど毛嫌いしていたギャルとあそこまで普通に接することが出来ていたのだ。考えない方がおかしいだろう。そして、景虎はあの日からずっと二人の動向を気にしていたためすぐに勘づいた。
「な、なんでそう思うんだよ」
「どう考えたってあの日の勇樹とあの子の出会いは運命的に見えてたし。急にそう聞いてきたってことは、昨日もしくはどっか俺のいない所で進展があったんだろ?」
「……」
これもまた図星だった。
「……ナ、ナニモナイ」
「話せ」
「お前、聞いてどうする」
「えs……親友の恋愛事情を気にしない親友がいるわけが無いだろ?」
──お前今、餌……って、言いかけただろ。
十中八九、勇樹──もといギャルころの自称ファンクラブ用のネタ集めだった。景虎の思惑に引っかかるのは癪な勇樹だったが、ここまでバレてしまってはもう後に引くことは出来ない。
勇樹は、腹を括った。
「……昨日の事なんだが、俺の自宅への帰り道って途中に中学校あるじゃん?」
「あー、あの部活強いとこな」
「そうそう。んで、ふと女子テニスの練習チラッと見たら、あの子がいたんだよ」
「へー、あの美少女ギャルってテニス部だったのか……ヤリサー」
「じゃねぇからな!」
食い気味に否定する勇樹。あの日から随分と進展したのだと実感する景虎だった。
「すまんすまん。てか、中学生だったのかあの子」
「……はぁ、それは俺も思った。そんであの子も俺の事覚えてたみたいで、すぐさま駆けつけてきたんだよ」
「……惚気か?」
「断じて違う」
「いやいやいや。どう考えたって相思相愛の男女のそれじゃねぇかよ!」
「そうか……?」
首を傾げる勇樹。
「まぁ、続けるけど……その後、俺体調悪くなってさ、倒れちまったんだよ」
「……サラッと言ってるけど、お前それ大丈夫なのかよ」
言葉に詰まる勇樹。こと細かく話してしまえば、トラウマについて触れてしまうためどうするべきかと悩む。
「そこは置いといて……」
「置いておくのかい」
「んで、気失ってて起きたらあの子の膝の上だった」
「勇樹……お前は良い友達だよ」
「親友から友達まで下がってるんだが……?」
裏切り者は死すべし、と鬼の血相で勇樹を睨みつける景虎。
「美少女ギャルの膝枕を存分に堪能した氷川勇樹君はそのあとどうしたのかねー?」
「嫌味たっぷりだな……そのあとは特になんもなかったよ」
「ほんとかてめぇ?」
「……連絡先交換した」
その後、昼休み明けに勇樹の座席には本人が座ることは無かったとか……(弁当による食あたり)