ギャル嫌いな俺の隣にギャルがいる   作:イチゴ侍

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癒しのもんじゃ

 ジリジリと照りつける太陽が鬱陶しくなる季節。

 周囲はやれ「休みはどこへ行こう」「海行こう」「彼女欲しい」などと口癖のように吐いていた。

 

 ……そう、学生にとっての最高のイベントである夏休みが迫っていたのだ。

 

 もちろんその裏では、宿題、補習、部活……と者によっては地獄が待っているのもいる。

 

 皆がみな、迫る夏休みに浮かれている中で勇樹だけは違った。

 

 

「いらっしゃいませ!」

 

 綺麗な30度のお辞儀をし、入店してきたお客を出迎える。

 勇樹はアルバイト中だった。

 

 

「3番テーブルさん、Aランチ1のお子様ランチ1お願いします!」

 

 高校に入ってすぐに、勇樹はファミリーレストランで働き始めた。当初の目的としては、趣味のためが一つと高校卒業後から一人暮らしを始めるためだった。

 

 

「氷川君! レジ頼めるか」

「あ、はい! 了解しました!」

 

 休日の朝、ここのお店が一日のうちで一番お客で混み合う時間帯。出勤している店員でもギリギリな中で、バイトの勇樹も例外ではない。

 お客の案内から、料理を運び、空いたテーブルをすぐさま拭いては、また案内……その繰り返しだ。

 

 

「氷川先輩! ドリンクバーの烏龍茶出なくなりました!」

「出るまでボタン押せ!」

「は、はい!」

「氷川君! 3番テーブルさん、頼みたかったのAじゃなくてBだって!」

「はぁ!? スープ違うだけじゃねぇか!ざっけんな! あのバ──あーもう!厨房に言ってこなきゃ……間に合うのか……?」

 

 店の中を行ったり来たりとしていれば、理不尽な注文や、突然のアクシデントに見舞われるもの。勇樹は常に応対に追われているが、ここで働く者たちの中でも頼りにされる存在が故の苦悩だった。

 

 

「──はぁ……ギリギリ間に合った」

「すまないね、勇樹くん……今日はたまたま入れる人が少なくて……」

「店長のせいじゃないですよ。気にしないでください、慣れてますから」

 

「氷川先輩! コイン用のガチャガチャでコイン飲まれて景品出てきません!」

「直接そのまま中開けてテキトーに選んで渡しておけ!」

「子供がごねだしました!」

「好きに選ばせろ!」

「はいっ!」

「あと故障中の張り紙忘れるなよ! 今直せないから!」

 

 休む暇もなく動かされる勇樹。少し前ならばボロボロになっていたであろうが、今の勇樹にはそれを乗り越えられるモチベーションがあった。

 

 

「はぁはぁ……お待たせしました。お会計、1530円になります」

 

 

 

 

 

 翌日……。

 

 

 

「……また来てしまった」

 

 ──依存、と言うのだろうか。ここ最近……というか、ほぼ毎日のように来ている気がする。

 

 

「すいませーん」

 

 ガラガラと、お店の扉を開けて店員に声をかける勇樹。その店員とはもちろん──

 

 

「はーいっ! いらっしゃいま──あ! 勇樹さんっ! いらっしゃい!」

 

 入ってきたお客が勇樹だと気がついた瞬間に、100%だった接客スマイルから120%の満点スマイルに切り替えていた。美少女金髪ギャル中学生こと、宮下愛である。

 

 そして勇樹は今日も、愛の実家である『もんじゃ みやした』に足を運んだのだった。

 

 

 

 

 ◇

 

 

 

 

 

 ──いいか?勇樹。お父さんはな、決して浮気しに行くために風俗に行くんじゃないぞ? 常日頃のストレスを受け止めてくれる女の子に癒してもらいに行くんだ。

 

 ──何が違うの?

 

 ──お前も大人になったら分かるさ。お父さんはな……家族にストレスとかそういうのぶつけたくないんだよ。どちらかと言うと俺は、お母さんとか勇樹のストレスを受け止めてやり続ける側でいたいんだ。大黒柱だしな。

 

 

 昔、勇樹の父がまだ小さな勇樹としていた会話の一部である。当然、まだ恋愛だの風俗だのの知識が勇樹にあるわけがない。が、今になって勇樹は父が言っていた事の意味を少し実感していた。

 

 

「(父さん……俺、少しだけ分かった気がするよ。癒しって必要だよな……)」

 

 席に案内されたのもつかの間、勇樹はボーッとしていた。

 

 案内した愛はというと、ちょうどお客さんも減ってきて手持ち無沙汰になっていたところだったため、勇樹とゆっくり話せると上機嫌だった。

 

 

「(ふんふふーん♪ 勇樹さん今日も来てくれた〜えっへへ〜……って、あたしウキウキしすぎじゃない!? ん? 勇樹さん……ウキウキ……ユ"ウキ"だけに……ぷっ)」

 

 鼻歌交じりにテーブルの拭いているその姿は、傍から見ても上機嫌なのが丸わかりだった。

 空いたテーブルを全て拭き終わると、愛は勇樹の元にお冷とおしぼりを持っていくが、そこにはボーッとどこか遠くを見ている勇樹の姿があった。

 

 

「……? おーい、勇樹さーん?」

 

 お盆に乗せたお冷とおしぼりを勇樹の傍に起き、顔の前で手を振ると、それにつられて勇樹からの反応が返ってきた。

 

 

「……んあ? あぁ、ごめん。ありがと」

 

 勇樹がお礼を言ったタイミングで、さりげなく勇樹の向かいの席に腰を据える愛。

 

「お疲れですか?」

「うん。バイトでね」

「あ、そっかー高校生だからアルバイトも出来るんだ……」

 

 ふむふむと、頷く愛。

 勇樹は、やりたいアルバイトがあるのか、と問うと愛は苦笑いを浮かべた。

 

 

「いろんなことやりたいなーとは思うんですけど、やっぱり愛さんにはここがあるから!」

「今もアルバイトみたいなものか」

「さすがにお給料は貰えないですけどねっ」

 

 しかし、お手伝いとして月のお小遣いにプラスされているためほぼ給料と言っても過言では無かったりする。

 

 

「勇樹さんはアルバイトして貯めたお金ってどーしてるんですか?」

「んー? まぁ、趣味とか後は将来のため……かな」

「将来か……」

「何か悩み事か?」

 

 勇樹は愛の変化に気づき、問いかける。

 それは進路先についてだった。

 

 

「そっか、この時期から考え始める時期だもんな」

「中学までは、なんにも考える事無く流れるよーになるようになってたけど、今度は自分で決めなきゃ行けないってなると……」

 

 勇樹は強く共感した。中学二年の辺りから高校のパンフレットだの、やれ受験勉強だのと次から次に追われ始める。

 何も考えずただ学校に行き、言われるまま勉強していた毎日から引き離されるこの時期というのは、人生最初の鬼門と言ってもおかしくはないだろう。

 

 

「高校に入ってやりたいこととか無いのか?」

「やりたいこと……」

「今だっていろんな部活の助っ人やってるんだから何か一つはこれっ!ってのがあるんじゃないのか?」

「うーん……」

 

 その様子じゃ無いっぽいな……と肩を落とす勇樹。比較的参考にしやすく最高の解決法だったが為に、余計その悔しさは残る。

 

 

「あとはそうだな……女子なら「ここの制服可愛い!」とか「この学校に好きな人が〜」とかが多いのか?」

「──す、好きな人……」

 

 急にしおらしくなる愛に、しまった……と顔をしかめる勇樹。かれこれ出会って1ヶ月ほど経ってきて愛の人柄や、弱点等々が勇樹にははっきりしていた。そしてその弱点の一つである禁止ワードを吐いたしまった勇樹は身構えた。

 

 

「(なんでかは知らないけど、宮下のやつ恋とか好きとかに弱いんだよな……女子と恋バナとかしないタイプなのか? 初心すぎるんだよ)」

 

 これまで何度か勇樹は、それ系でからかう事があったが必ずその後には思考停止し、固まる愛だった。結果、話が終わってしまうため、極力避けていた。

 

 

「(……戻ってくるまであと何十分かかるかな)」

 

 しかし、それは意外と早くやってきた。

 

「……い、いないいない! …………ちょっと、気になる人は……」

「ん?」

「なんでもっ! あ、ほら! いつものやつ来たよ!」

 

 無理やり矛先を曲げる愛だったが、勇樹は特に気にする訳でもなくいつものように頼んでいた『もち明太子チーズもんじゃ』を受け取ると、慣れた手つきで土手を作り始める。

 

 

「勇樹さんも手慣れてきたねぇ〜」

「それなりに来てるからな」

「愛さん的には常連さんが増えて嬉しいよー!」

「言うほど俺って来てるか?」

「先週何回来てるでしょー?」

「……3回?」

「6回!」

 

 ほぼ一週間毎日だった。

 

「嬉しそうな事で……てか、毎度思うけど俺と話してていいのか?」

「なんで?」

「なんでって……一応はお仕事中だろ?」

 

 悪びれる気もなく、何言ってるんだこいつ、とばかりに首を傾げる愛。

 

「そこはまぁ、いいの!」

「えー……」

「あ、ほらほら早く流し込まないと!」

「わ、分かってるっての」

「へへへ〜♪」

 

 鉄板に真剣に向き合う勇樹の顔を眺め、笑みを浮かべる愛。こんな時間がずっと続けば……と考え始めたところで赤面する愛だったが、すぐに振り払う……ことも出来ず悶々としていた。

 その光景を見た店内のお客さんは、こぞって食後のコーヒーを求めたとかなんとか……。

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