ギャル嫌いな俺の隣にギャルがいる   作:イチゴ侍

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始まり(愛さん視点)

 あたしがあの人に出会ったのは、いつもの通りお店の手伝いをしていた時の事だった。

 

 その日も、うちのもんじゃは大絶賛!常連のおじちゃんおばちゃんも、初めて来てくれた人もみんな笑って食べてくれてた。

 

 

「愛ちゃん、いつもお手伝い偉いね〜」

「八百屋のおばーちゃん、ありがとっ!」

「愛ちゃんーおじさんに食べさせてくれ〜!」

「あははっ!もー!またおばちゃんに怒られるよー?」

「げげっ、それは勘弁だーがははは!」

 

 うちの常連さんでもかなり昔からのおじさんだ。一度夫婦で来ていた時に同じようにおじさんが言ったら、おばさん凄い血相でおじさん店の外に連れ出してお説教してたんだよね〜。

 今では笑い話……かな?

 

 そんなあったかいみんなに囲まれていると、あぁーお手伝いしていて良かったーって改めて感じさせられちゃうんだ。

 

 

「すいませーん!」

「はーい! 今行きます」

 

 あ、このお姉さんは初めてのお客さんだ。是非とも、うちの"もんじゃ"食べて「美味いっ!"なんじゃ"こりゃあ!」ってまた来たいって思ってくれると嬉しいなー。

 って、まだ注文もしてないのに気が早いか。

 

 

「お待たせしました!」

「店員さんのオススメってなんですか?」

 

 お! さっそく聞いてきたなー? もちろん、あたし的には全部!って言いたいところだけど……その中でも今は特にこれ!って言ったら──

 

 

「『もち明太子チーズもんじゃ』ですっ!」

 

 メニューを開いて、あたしが自分で作った『オススメの一品』っていうページを開いてお姉さんに見せつける。

 

 

「それじゃ、これ。注文でお願いします」

「はいっ! かしこまりましたー!」

 

 えっへへ〜。やっぱり自分のオススメが選ばれると嬉しいな。あたしは鼻歌交じりに厨房に向かっていき、おばーちゃんに注文を知らせに行った。

 

 具が出来上がるまでの間も大忙しだ。

 今日は比較的お客さんの出入りは少ないけど、レストランとかと違ってお皿を片付けてテーブルを拭いて……の他にも鉄板を綺麗にしなきゃ行けない。焦げ付いたりしてるとそれを剥がすのに一苦労だ。

 だけど、ある程度はみんなが綺麗にして帰って行ってくれるし、特にさっきのおじさんなんかは、一緒に手伝ってくれるから凄く助かってる。

 

 

「愛ちゃん、お待ちどうさま。気をつけてね」

「はーい、持っていくね!」

 

 ボウルに出来上がった具が盛られて、あたしはさっきのお姉さんの元に運んで行く。ちっちゃい頃、そーいえばあたし持っていく時にひっくり返しちゃったことがあったんだ……その時めちゃくちゃ泣いてたっけな……。懐かしいや。

 

 

「お待たせしましたー! 『もち明太子チーズもんじゃ』ですっ。美味しい作り方はこちらに書いてるので、良かったら参考にしてみてください!」

「ありがとう」

「ごゆっくりどうぞっ」

 

 ありがとうって言葉はとっても大好きな言葉。言う側でも言われる側でも心がぽかぽかして嬉しさで「うー!」ってなっちゃう。

 こうしてお手伝いしながら色んな人に出会って、色んな人と話をして、色んな人の笑顔を見る度に『みんなで楽しく笑顔で過ごせたらそれが一番』って、あたしのおねーちゃんが言ってた言葉がだんだん色付いて行く様を見れているようで嬉しかった。

 

 

 そしてまた新しいお客さんが来た。

 

 

「いらっしゃいませー!二名様ですか?」

「え゛」

「はーい、そうでーす」

「席にご案内しますっ!」

 

 男の人が二人だった。大きいリュックを背負った人と……とってもかっこいい人だ。テレビとかで見る若手男性アイドルっぽい人だなーなんて思っていると、その人が何やらあたしの方を見て固まってたんだ。

 

 あたし、なんか変だったかな……? 不安になりながらも、お兄さんに声をかけてみることにした。

 

 

「あ、あのー大丈夫ですか?お兄さん」

 

 返事は帰ってこない。うー? どうしたらいいんだろ……。もう一人の人はせっせこ先に行っちゃうしなぁ。

 でも、お兄さんをそのままにしてはおけなかったため、あたしは意を決して肩を揺すろうとした。

 でも──、

 

 

「……え」

 

 

 ぱしんっ、と肩に触れる既のところで振り払われてしまった。一瞬、訳が分からなくなったあたしは、思わずお兄さんの顔を覗いた。

 その表情は、とても怯えていた。

 

 

「あ、あの……ごめんなさい」

「……こっちこそ、ごめんなさい。ちょ、ちょっと気分が晴れなくて……当たってしまいました」

 

 最初はあたしが怖がられてるのかと思っていた。けど、その後すぐにお兄さんの目が見開いて苦しそうな顔をした。

 今、きっとこの人自分のこと責めてる……って直感で思ったあたしは、何とかして元気づけたいと考える。なのにあたしの頭には何一つとして浮かばなかった。

 

 そんな自分が悔しかった。

 誰かを笑顔にするってことがこんなに難しいことなのか……と、あたしは自分の力不足を実感した。

 

 結局、その場を変えてくれたのはもう一人のお兄さんだった。

 

「お兄さん!是非とも、うちの食べて行って! お兄さんの悩みとか吹き飛んじゃうくらい美味いから!」

 

 空元気って言うのかな。でもあたしは何とか目の前のお兄さんを笑顔にしてあげたかった。だから、これまでたくさんのお客さんを笑顔にしてくれた家のもんじゃに縋ることにした。

 

 

 お兄さん達をテーブルに案内した後もあたしは、他のお客さんの対応に追われていた。でもいつもみたいなテンションではいられなかったな。どうしてもお兄さんの事が頭に浮かんで、それどころじゃなくなっていた。

 でも心配かけたくないからと、あたしはいつも通りを装ってめいいっぱい頑張った。

 

 

「ご注文はお決まりですか?」

 

 そろそろ決まったかな?とタイミングを見計らって、お兄さん達のテーブルにお冷とおしぼりを運んだ。そのついでに注文を聞いた時、あたしは嬉しくなっていた。

 

 お兄さんが頼んでくれたのは、今あたしがオススメしているメニューだったからだ。お兄さんの様子はチラチラと随時確認してたけど、あたしの自作ページを見ている仕草は無かった。

 だからこそ、あたしはお兄さんが数あるメニューの中から、あたしのオススメを選んでくれたことに喜んでいたんだ。

 

 受けた注文をおばーちゃんに伝えて、あたしは考えた。

 やっぱり自分の力でお兄さんを笑顔にしてあげたい……と。

 

 そう思ったあたしはお兄さん達の注文の材料が出来上がると、その材料と共に、アイスクリームを運んだ。

 

 

「⋯⋯アイスクリーム?」

「えっへへ~お兄さんがあたしのオススメ頼んでくれたからサービスですよっ」

「でも⋯⋯悪いよ」

 

 むむむ……頑固だな。でもお兄さんの反応が当然だよね。

 

「ううん!受け取ってください!」

「頑固だな⋯⋯」

「それに、お兄さんにはさっき悪いことしちゃったから」

「そ、それは⋯⋯!」

 

 あたしは半ば無理やりサービスの押しつけをした。けど、それは逆効果だったみたい。またあたしはお兄さんに苦しそうな顔をさせてしまった。

 本当はそんな顔させたくないのに……

 

 

「──もちろんそれだけじゃなくて、その……お兄さんには笑って欲しかったから!」

 

 あたしは無意識に自分の本音を口走っていた。それに気がついた時にはもう既にお兄さんには伝わっていて、その時初めてお兄さんと目が合った気がした。

 お兄さんの目、綺麗だな…………って──

 

 

「あ、あたし何言ってるんだっ!?あ、あの!サービスなので!これからも来てくれたら嬉しい⋯⋯です⋯⋯って、あっ──嬉しいって言うのはそう意味じゃなくて!えと、えと⋯⋯」

 

 この時のあたしはもうとにかくテンパっちゃって、目がぐるぐる〜って回ってもうわけが分からなくなるくらい慌ててたと思う。

 

 

「ぷっ⋯⋯」

 

「えと⋯⋯えと⋯⋯──えっ」

 

「⋯⋯え」

 

 ──それがあたし……愛さんと勇樹さんの出会いだった。

 

 

 

 

 

 ◇

 

 

 

 

 

 勇樹さんが『もんじゃ みやした』に通い始めてからというもの、あたしの学校生活にも変化が起きた。

 

 

「愛ー、今日テニス部の助っ人頼めるかな?」

 

 女子テニス部のアッキーだ。あたしが助っ人に入ったことがない場所は無いってくらいには助っ人参戦してるけど、テニスは特に多かった。なんでも続かない人が多くて、新入生がたくさん入ってくれてもこの夏間近になると退部する人が続出するらしい。

 

 友達の頼みは聞きたい……でも今のあたしにはそれより大事なことがあった。

 

 

「ごめんっ! 今日は参加できないの! この埋め合わせは必ずするかr──」

「いいっていいって!気にしないでいいよ。むしろ、こっちが無理にお願いしてる側なんだから埋め合わせとかなんとかも考えなくていいんだからね?」

「で、でも……」

「そ・れ・に……」

 

 そう言いながらアッキーは、ニヤニヤとした顔で距離を縮めて、耳元で話し始めた。

 

 

「あの時のお兄さん絡みでしょ? まっかせなさいって、愛の恋路は絶対応援してあげるから……ね?」

「──なっ!? な、なにを!」

「あれ違った?」

「え、えと……あのぉ……違……くはないけど……でも勇樹さんとは、そういうあれじゃ……」

「ふむふむ……なるほど、もう下の名前で呼び合う仲にまで進展していたと……流石は愛。距離の詰め方が上手いなぁ」

 

 ……そんな調子であたしは散々いじられ続けた。その後もテニス部の助っ人を蹴ったという噂が流れ流れて、他の部活からも依頼が来てしまったけどそれを全部断り──

 

 

「はぁ……はぁ……ただいま」

「あら、愛ちゃん。おかえりなさい」

「おばーちゃん! 勇樹さんまだ来てない?」

「ふふふ、ええ。だから安心して着替えて来なさい」

 

 最初の意味深な笑みには引っかかるけど、すぐにも勇樹さんが来るかもしれないと思い立ったあたしは、すぐさま自分の部屋に向かっていく。

 

 

「あ、そうそう。さっき、愛ちゃん宛にお手紙が届いてたよ?」

「手紙? 誰からだろう」

「それが送り主は書いておらんかったのよね」

 

 なんともまぁ、おっちょこちょいな人だな。

 

「愛ちゃんの部屋に置いておいたから確認しておいてね」

「うん! 分かった」

 

 おばーちゃんとの話を切り上げて、あたしは部屋に入る。さっそく制服を脱ぎ、きちんとハンガーに掛けてから、お店の制服に着替えた。

 髪型も普段のポニーテールを解いて、愛用の赤いチェック柄の鉢巻を巻き付ける。

 これが愛さん仕事ver.だ!

 

 鏡の前でしっかり身だしなみを整える。

 そんな時ふと、デートに行く前ってこんな感じなのかなーなんて考え始めて自分で赤面した。

 

 どうしてか、勇樹さんと会ってからというものあたしはそういう手の事に耐性が無くなっている気がする。まぁ……元から無かったのかもしれないけど、同い年の子ともそんな話になったこと無かったから余計分からない。

 

 

「うー……早く赤いの引いてくれぇ〜……」

 

 このままじゃ勇樹さんの前に出られないよ……と、自分の頬に言い聞かせる。ふうー、と深呼吸をして気持ちを整える。

 

 

「……よし!」

 

 準備は万端、いつでもかかってこい!

 いつもより少し強めに鉢巻を締めて、気合を入れる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「──あ、そういえば手紙……」

 

 さて行こう……と思ったところで机の上に届いたという手紙が置いてあるのが目に止まった。

 

 

「……差出人は本当に無しだ。誰だろ……」

 

 あたしの知り合いならだいたいは携帯で連絡は取り合えるから、考えるとしたら連絡先を知らない人が妥当だよね。

 

 

 

 ──そして、その封を開ける前のあたしには知る由もなかった。

 

 

 

 

 

 

 

「──なに……これ」

 

 

 ──封筒の中から出てくるのは、複数枚の写真と二つ折りにされた1枚の紙。

 

 

「──っ、うっ……」

 

 

 思わず口を覆う。写真に映されていたのは──、

 

 

 

 

 

 

 制服を脱ぎ、体操着に着替えるまでの一連のあたしの姿だった……。

 

 

「……」

 

 あたしは恐る恐る、一緒に入っていた二つ折りの紙を開く。

 

 

『愛ちゃん。昨日は新しいブラジャーとショーツだったね。この前の薄いピンクも可愛かったけど、新しいオレンジ色も可愛いね。胸もちょっと大きくなったのかな? 男の視線には気をつけるんだよ。ところで最近は部活に参加しないですぐ帰ってるけど……まさか、彼氏ができたとかじゃないよね? 僕の愛ちゃんがそんなことするわけないもんね? あ、それとも──』

 

 

「──っ」

 

 最後まで見るまもなく紙が手から滑り落ち、あたしは震える体を必死に両腕で抑える。

 

 

「──誰か……」

 

 

 

 

 

 目の前が真っ暗になった。

 

 

 

 

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