転生したら吸血鬼の用心棒にされました   作:灰鳥

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少年は夢から覚め、少女達は夢を見る

「…」

コンコンと、扉を叩く音が聞こえて俺は目を覚ました。ゆっくりと体を起こし、俺が返事をしようとする前に扉が開けられた。

「あ…」

「…」

俺が起きているのがよっぽど予想外だったのか、不意にに「あ…」と言われてしまっている。と言っても俺は現状がまだ何も分からず、目の前にいる顔が綺麗で銀髪のスタイルのいいメイド服の人が俺をここに連れてきてくれたのだろうか。

「…お、起きられたのですか?」

「え、えぇ、まぁ…」

そういうとメイド服の彼女は、少しの間視線を逸らして、またこちらに向き直った。

「少々お待ち頂いてもいいでしょうか、人を呼んできますので」

「はい、大丈夫です」

なんだろうか、彼女はどこか少し俺に怯えているような感覚を覚えた。どうにも違和感がある、まるで俺を見て少し怖がっているような。

そう言って俺は上半身を起こしそこで違和感を覚えた。

全身を引き締める感覚、これは…包帯?。全身の至る所が包帯で巻かれその上に衣服を着せられているような状態だった。

そして、気づく。自分が横たわっているベッドのすぐ隣に何かにぐるぐる巻きにされた長い何か、それこそちょうど人間の片腕程の…。

「っ…!」

そこまで思考して、全身に悪寒が走る。恐る恐る自分の左側を見る、すると本来そこにあるはずの腕は無かった。腕どころか左肩から先がなかった。

荒くなる呼吸を必死で落ち着かせる、よくよく全身を見渡してみれば左足にはギブスのようなものがつけられ、動かせなくなっており、そしてよく見れば右足も膝から下が無く、そして部屋の隅にこれまた何かでぐるぐる巻きにされた何かを視界に捉えることが出来た。

「はぁっ…はぁっ…」

自分の身体の一部が無い、その事実は受け入れ難い。いや恐らく厳密には無いというわけではなく、離れているのだが、無いに等しい。

「どうりで…」

どうりで先程の彼女は怯えていたわけだ、確かに怯える、俺が逆の立場でも怯えてる。

この状態で生きているのは傍から見ておかしい、右膝から下がないことはともかくとして腕には人間の生命活動に置いて欠かせない重要な血管があったはずだ。

…右膝から下がないことをともかくと片付ける事はどうかと自分でも思うがそれはこの際いいだろう。

と、俺がようやく心を落ち着け、現在の自分の状況を整理していると、扉がコンコンと叩かれた。

「あの…入ってもよろしいでしょうか?」

「はい、大丈夫です」

まず聞こえてきたのは先程のメイドの彼女の声、俺が返事をするとゆっくりと扉を開けて、こちらを見る。

やはりどうも痛たましい姿を見るような目で見られている、いやまぁ痛ましいにも程があるくらいには今自分の姿が痛ましいことは流石に分かっているけども。

そしてメイドの彼女の後ろに見えたのは、これまた顔の整った美少女だった。歳は俺よりも少し上だろうか。その彼女は俺を見るなり驚いたような顔をした。

まぁそりゃこんな体で普通に起きて会話出来る時点で驚くよな。

そのメイドの後ろの少女は少し変わった服装というか、どことなく魔法使いのような印象を抱かせた。

「あなた、自分の名前、分かる?」

その少女はその見た目に反して、冷たく、落ち着いた声音で話しかけてきた。

「名前…」

俺の名前は…分かる、けど。

「…白夜」

「白夜…だけ?」

「苗字は思い出せない…」

自分の下の名前以外の全ての記憶が思い出せない、自分はどのような人間であったのかさえ分からない。

「そう…なら、白夜でいいわ、私はパチュリー、そこのメイドは咲夜よ」

「咲夜です、よろしくお願いします」

「…よろしく」

喜ぶべきか否か、こんな身体の人間に向かってよろしくお願いしますとは…。

「咲夜、あなた少しは怯えを隠したらどうなの」

「…申し訳ありません」

「いえ、大丈夫ですよ、仕方ないです」

五体満足でない人間を初めて前にして怯えるなという方が無理がある。

「包んであるのは俺の身体ですか?」

「そうね、あなたの体力が戻った時に繋ぎ直すつもりよ、ひとまず今戻せるのは足だけかしらね」

「戻せるんですか?」

「そうね、私は魔法使いだもの、これくらいはやるわ」

「魔法使い…ですか」

「あまり驚かないのね」

「いえ、もう他人に驚くほどヤワじゃないので」

「確かにそうね」

「…でもどうして足だけなんですか?」

「今のあなたの身体でギリギリ耐えれる大きさだからよ、大きければ大きいほど身体への負担はでかくなるから、今のあなたの状態では左肩を繋ぎ直すのは無理よ、死ぬわ、あと私の魔力が保てないわ」

「死…、わかりました」

「それじゃ、足を繋ぎ直すわ、咲夜、お願い」

「かしこまりました、白夜さん、少し痛いですが我慢してください」

「はい、分かりまし…ぐぁぁ!!?」

俺が返事をしきる前に、右足の今ならば無いはずの右膝から下の感覚、よりにもよって激しい痛覚が俺を襲った。

「ぐっ…ぁあ…!」

「少し手荒になってしまったけれど、咲夜の時間停止の時間を考えるとこれが限界ね」

「時間…停止」

「分からないとは思うけれど、一応説明しておくと、咲夜の能力で時間を止めてその間に私が処置をしたわ、もう足は動くでしょう?」

「確かに、繋がってるし、動く…!」

確かについ数秒前までなかった右膝から下の部分か復活している、そして部屋の隅には包んでいたであろう布が丁寧に畳んで置かれていた。

「馴染むのも早いのね、普通ならすぐには動かないし痛みもあると思うのだけれど」

「いや、何も感じないぞ?」

「…なら、いいわ、あなたはどうやら私達と同じのようだしそれに素質もありそうだしね」

サラッと流したけど時間停止と言ったな?、このメイドの人が時間を止めたとか…。何だこの常識にとらわれてはいけない世界。

「それと、ひとつアドバイス」

「…なんですか」

「この世界で生きるなら、常識に囚われないこと、それじゃ咲夜あとお願い」

「はい、かしこまりました」

「……」

心…読むとかいう能力?。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ボロボロだった?」

「はい、私が森の中で見つけていなかったらきっと妖怪の餌になっていたと思います」

パチュリーとかいう魔法使いが部屋を後にして以降、俺は咲夜さんから俺を見つけた時の状況、ここに来るまでの経緯を聞いていた。

「それは…ありがとうございます」

「いえ、ですが私はあなたをその…傷つけてしまった」

「やめてください、当人が一番傷ついてんですから」

そう、先程から咲夜さんはこんな調子だ、きっと優しい人ゆえなのだろうが、話が進まない。

「それで見つけた時は?」

「…私が見つけた時はそれこそ無事なのは頭部だけと言うぐらいで、特に左腕と右足は壊死が酷くて、パチュリー様も魔法による治療を途中で中断して、左腕と右足を切断して、何とか一命は取り留めました。その後、後日に腕と足を別々で魔法で復元し、時間停止の結界を切断面に貼って布にくるんで保存をしていました」

何か、何から何まで助けてくれていたらしい、それも何も見つけてくれた咲夜さんが一番の恩人だ。なぜボロボロだったのかはこの際置いておいて、見ず知らずの他人を助けてくれた咲夜さんとパチュリーさんに感謝せねば。

「ところでさっき、パチュリーさんが『私達と同じ』ってあれどう言う意味なんですか?」

「そうですね、まずはここがどこかを説明しなければなりません、と言っても我々も来て日が浅いのであまり分からないのですが」

「大丈夫です、簡単に分かればいいので」

「…この世界の名は幻想郷、楽園と呼ばれる天国でも地獄でもない、別世界です」

「幻想郷…」

なんだろう、この違和感は。

「聞き覚えがあるんですか?」

「…いえ、ないです」

そう、無いはずなのだ、無いはずなのに、何だ…この胸の疼きは…。

「大丈夫ですか?顔色が優れないようですが…」

「大丈夫です、心配ないですよ」

「そう…ですか」

なんだろう、まだ会って間もないけれど、優しくて心配性なこの人に嘘をつくのはシンプルに心が痛む。だがここまで世話になった以上これ以上心配をかける訳にも世話をかける訳にもいかないしできるだけ、自分で出来ることは自分でやらないと。

と言っても今は何も出来ないわけだけど。

「本当になんでもないですよ、少し傷が疼くだけですから」

「そうですか…ならいいのですが」

「…咲夜さんは優しいんですね」

「えっ…!な、何故そんな事を…」

「いえ、心の中で思った事を言っただけですよ」

「それならそれで心の中にしまって置いてくださいっ」

「…すみません、咲夜さん」

「今度はなんですか?」

「気、失いそうなんで寝ていいですかね?、起きたら死んでるとか無いですよね?」

「大丈夫です、それは恐らく体力の低下に伴ってパチュリー様の術式が作用して回復の為に睡眠を促しているだけなので」

「そう…ですか」

「目が覚めた頃にはきっと足のギブスも包帯も取れていますよ」

「そうですか…、それは窮屈でなくて…済む」

「ですから、安心して眠ってください…あなたは私が守ります」

「そう…です…か」

そこで俺の意識は途絶えた。

咲夜さんもパチュリーさんも優しそうな人だったし、どうにか生きて行けそうかな、いやいずれはここを離れて一人で生きていかなけれはまなんだろうけど、あの二人がいれば大丈夫な気もする。

でもそれはきっと甘えだ、だからこれからの時間を大切にしなければ。

俺の、多分きっと限られている時間を。

 

 

 

 

 

 

 

 

「…」

その少女は月を眺めていた、屋根の上で、そして月を見ながら物思いに耽ける。この世界へ誘われた際にあてがわれた巨大な屋敷は月明かりに照らされて怪しく照らされていた。少女は、ふいに目に入ったものを見る。

そこには月明かりに照らされ、今も尚眠り続ける少年の姿があった。

少女は目を閉じ、行使する。

思い浮かべる憧憬は自らの前に背中を向けて立つ、少年。かつて見た夢、願った夢、そして今この瞬間も願い続ける夢。

誰かが自分を助けてくれるのを待っていた訳では無い、差し伸べられた手はいくらでもあったのだ。だがそれら全ては眼前で全て奪われ、そして一番優しく、寄り添ってくれていた手は自らで振り払った。

後悔後に立たずとはこの事だろう、つくづく自分が惨めになる。どれだけ人前で取り繕ったところで本質は変わらないという事か。

 

見た夢は少年が手を差し伸べる夢、だがその夢は赤い液体と共に飛び散った。倒れ伏す少年、絶望する己に容赦なく降りかかる激怒の刃。

そこで、夢は終わった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「…」

少女は月を見ていた、閉じ込められた部屋の天窓から指す月明かりは少女を優しく照らした。だが少女にとっては、その優しさこそが残酷であった。

誰にも理解されず、誰にも相手にされず、親も、誰もが自分から離れていった。そして自分も人を遠ざけた。

寂しさという感情は、とうに捨てた。悲しみという感情は胸にしまい込んだ。

 

だから少女は月明かりを背に今日も眠る、そして夢を見る。

 

自分を助けてくれる少年の夢。

 

そしてその少年を自らの手で傷つけ、壊す夢。

 

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