反骨の赤メッシュがでろっでろに甘えてくるんだけど 作:コロリエル
反骨の赤メッシュ、と呼ばれる少女が居る。
名は美竹蘭。華道の家元に産まれた一人娘。幼馴染みとガールズバンド、『Afterglow』を結成。そのギタボ。
特徴はなんと言っても、黒い髪に映える、一本入った赤メッシュ。
更に元々口数が少なく、バンド仲間以外と話す事が少なく、更にいえばバンド仲間の中でもあまり喋らない。
そして、学校では授業をサボって平気で屋上に居ることもしばしば。
見た目の派手さや学校での態度、無口な性格から巷では『不良少女』とすら言われている。
しかし、実際の蘭はそんな悪い子ではない。
厳しく育てられたからか礼儀正しい一面もあるし、仲間想いで優しい子でもある。更には、自分の夢のために全力で、それこそボロボロになりそうなほど努力することの出来る女の子。
単純に、周りに素直になることができない、不器用な女の子。
それが本当の『美竹蘭』だ。
ただ、これが俺の前となると話が変わる。
小学校からの幼馴染みにして、唯一の異性の友人であった俺。
お互いに少し大人しかったという事もあり、シンパシーでも感じたのだろうか。気が付けばずっと一緒に居た。
そして、いつの間にやらお互いに惹かれあい、高校に上がると同時にお互いに告白。晴れて恋人同士となる。
その時はそれはもう盛大にお祝いしてもらった。挨拶に行った蘭の父さんの表情が実に面白かった。
さて、話を戻すと。
幼馴染みで、恋人である俺の前での蘭はと言うと……。
「蘭ー? 俺の耳美味いかー?」
「ふぉいひぃい」
「耳食べながら喋んな! くすぐってぇ!」
でろっでろに甘えてくるのです。
─反骨の赤メッシュがでろっでろに甘えてくるんだけど─
「いいじゃん食べても。気持ちいいでしょ?」
「俺が発情したらどーすんだよ。襲うぞ?」
「そんな度胸無いくせに」
「くっ……!」
完全に性格を把握しているし、されている間柄。俺がそんな事をしないと信頼されてる。男が廃ってしまう気もするが、蘭のことは大切にしたい。
……まあ、ヤる事はとっくにヤっているのだが。
さて、ここで現在の状況を説明しよう。
場所は美竹家の蘭の自室。家には俺達以外居らず、蘭の父親は夕方頃まで帰って来ない。
時刻は土曜日朝十時。元々はデートでもしようかと話していたが、『二人で家でゆっくりしたい』という蘭の要望を叶える形をとった。
そして、蘭は胡座をかいて座っている俺の上に座り、俺を正面から抱きしめるように座っている。
そのまま丁度いい高さにあるのか、俺の右肩に顔を乗せて、耳を甘噛みしていた。
何だこの可愛い生き物。
「……蘭、軽い、どいて」
「それ、遠回しに重いって言ってるよね?」
「蘭の重さならウェルカムだけどよぉ……もっとこう、いい体勢ってのがあるだろう?」
恋人が膝の上に対面するように座っていて、耳を食まれる。
やばい。倫理的に不味い。
普通の男なら、恋人がこんな行動をしてしたのなら黙って襲うだろうが、蘭のこの行動には、そういった意味は無い。
純粋に、俺にかまって欲しいだけなのだ。学校も違う俺と一緒に居る時間を、めいいっぱい楽しもうとしているのだ。
「例えば?」
「例えば……そうだな、添い寝とか?」
「添い寝?」
「密着度も高いし、お互いの顔も見やすい。ギューもチューもしやすい。眠たくなったらすぐ寝れる。今なら俺の腕枕付き。どうだ?」
「……何してるの。早くベッド行くよ」
目を爛々と輝かせたかと思うと、抱きついていた腕を解き、スっと立ち上がる。
そのままベッドにぼすん、とダイブしたかと思うと、掛け布団にモゾモゾと潜り込む。
ひょこん、と顔だけ出したかと思うと、照れたようにこちらを見つめてくる。
「……早く来て。寒い」
何だこの可愛い生き物(二回目)。
思わずルパンダイブ決め込みそうになる。あのステテコパンツ一丁になって不二子ちゃんにダイブするやつ。
しないけど。もししたら、蘭は顔真っ赤にしてグーを飛ばしてくる。痛いのだこれが。
「ハイハイ……もっと詰めろ」
欲望に素直な蘭に思わず、苦笑い。惚れた弱み、とはよく言ったもので、そんな彼女ですら愛おしいとすら思ってしまう。
重症だ。俺も蘭も。お互いの事が好きすぎて、脳みそが溶けている。
溶けきって混ざりあって、お互いの境目が無くなればいいのに……なんて、ロマンティックなことを言ってみる。
「ん……暖かい」
「……いや待て待て待て待て」
布団に入り、約束通り蘭の頭の下に右腕を置く。蘭はそのまま俺の身体に再び抱き着いてくる。
しかし、布団から、目の前から、枕から。
俺の身を包んでいる全てから、俺の嗅覚に蘭の匂いが叩き込まれる。
ヤバい、マジでやばい。
どれくらいヤバいかと言うと、理性崩壊するラインの上でコサックダンスしているくらい。
だって俺、男子高校生だもん。好きな子の匂いとか、クるに決まってる。いや、今はキマってる、の方が正しいか?
「ん……亮の匂い……落ち着く」
「そうか。俺はお前の匂いで落ち着かん」
すんすんと鼻を鳴らし、俺の胸元で匂いを嗅ごうとする蘭と、嗅ぐまでもなく匂いが飛び込んでくる俺。
幸せだよ? 幸せだけどね? こんなに純粋に触れ合おうとしている蘭に手を出すわけには行かないって言う、理性と本能の戦いが辛い。
「そうなの? 好きな人の匂いって、落ち着かない?」
「落ち着く時と落ち着かない時がある。今は落ち着かん」
正直に答える。嘘をついても、蘭にはすぐバレる。
心臓バクバクだし。体温上がってるし。腕痺れてるし。蘭温かいし。蘭柔らかいし。
しょうがないもん。男の子だもん。股間と脳みそ直列だもん。全世界の男は俺を褒めてくれ。恋人と同じ布団のに入っていて、それでも襲いかかってないだけ褒めてくれ。
「ふーん……? んー……んー……」
「……蘭よ。なんのつもりだ」
「ちゅーして」
「ちゅー言うな」
んっ、と目をつぶって唇を突き出す恋人。反骨の赤メッシュがちゅーとか言ってるとこ、親父さんが見たらどう思うのだろうか。
……お、親父さんの顔思い浮かべたら、色々治まってきた。サンキュー親父さん。フォーエバー親父さん。出来れば帰らないで下さい。いや、帰ってきて下さい。このままではあなたの大切な娘さんに襲いかかってしまいます。いややっぱり帰らないで下さい、娘さんともっとイチャコラしたいです。
相反する思いが自分の中で激しく戦う。具体的には、六対四で帰ってきて欲しい方が強い。
ちゅーくらい何を大袈裟な……と思う諸君。何度も言うが、俺、男子高校生。
コサックダンスは加速。頭の中のロシア人が頑張っている。
「……亮? ちゅーしてくれるって言った……よね?」
コサックダンスからタップダンスになった。より速いリズムで音を鳴らす。ロシア人さようなら、こんにちはこの前テレビで見たタップダンスの達人のおっさん。
もはやここまでせがまれて、ちゅーしない、なんてこと出来るわけない。が、耐えきれるのか俺。
──親父さん、ロシア人のおっさん、タップダンスのおっさん、見守っててくれ……!
頭の中で仲良く肩を組む三人のおっさんに背を向ける。ここから先は、俺の一人の戦いだ。彼らに見せる訳には行かない。
蘭の可愛い姿を見ていいのは、俺だけだ。
「はぁ……目ェ閉じろ」
「……! わ、分かった……ん」
一瞬だけ、ぱあっと目を輝かせたかと思うと、そのまま神妙な面持ちで目を閉じ、唇を突き出す。
彼女の唇。普段はここから凛々しい声を出し、激しい感情をさらけ出しながら歌を魅せる。そこに触れる権利があるのは、俺だけ。
これ程までに、興奮するものは無いだろう?
「……好きだ、蘭」
「えっ、ちょ、んむっ」
有無を言わさず口を塞ぐ。ここまで散々やられた、そのお返し。
触れ合った唇から、熱が広がる。ただでさえ近かった距離が、ゼロ。
物理的な距離も、心の距離も、例外無くゼロ。
一瞬だけ目を見開き、しかしそのあとすぐに幸せそうに目を閉じる。その目じりには少しだけ涙が浮かんでいる──そんな愛おしい様子の蘭の事を、薄目を開けて眺めていた。
「んっ……ぷはっ……はぁ……はぁ……」
リラックスしていた表情が、何故か知らないが赤く染っていた。彼女に一本通った赤色と同じくらいに。
暫く見つめ合っていたが、そのままオレの胸にポスン、と顔を埋めてくる。
「……ずるい」
「どっちが」
頭を撫で、その手触りのいいサラサラの髪の毛に指を通し、抱き締める。彼女自身の髪の匂いが、より強く鼻をくすぐる。
──本当に、ずるいのはどっちだ。
何もしなくても俺を魅了する彼女。どこまでベタ惚れなんだと、思わず苦笑い。
そんな事を考えているとは知ってか知らずが、俺の胸にぐりぐりと額を押し付ける蘭。まるでマーキングだな、と他人事のように考えた。
「……亮のこと、もっと好きになっちゃうじゃない」
「そりゃあ困った。俺もお前のこともっと好きにならなきゃ釣り合わなくなる」
「……好き」
「俺も」
熱い熱い布団の中。
俺達の気持ちは、寝静まることはなさそうだった。
ちなみに、さっきからずっと頭の中で、三人のおっさんが肩を組んで笑顔でタップダンスしていたのは内緒だ。よく耐えた俺。
ご閲覧ありがとうございます。最近病みだったり闇ばっかり書いてたので、これはこれで楽しかったです。よろしければこちらの作品もよろしくお願いします。
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それでは、また次回。
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