反骨の赤メッシュがでろっでろに甘えてくるんだけど   作:コロリエル

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どうも、寒くなってきて、鍋の美味しい季節となりました。タラ鍋食いたい。


方向音痴と赤メッシュ

 

 

 

 

「……巴」

「……なんだよ」

「……俺達はさ、街中で蘭と三人で歩いてたはずだよな?」

 

 

 

 街中に佇む俺と巴。今日は蘭と二人で部屋でダラダラしていたのに、急にやってきた巴に無理やり外に連れ出されてしまった。

 それ自体はまだいい。俺だって基本的には蘭を死ぬほど甘やかしたいが、たまには外で遊んでいる蘭を見たいと思うことはある。

 ある、が……今日の場合は少し話が変わってくる。

 

 本当に、本当にたまたまだったのだが……『ハロー!ハッピーワールド』というバンドのドラマー、松原 花音さんを見かけてしまった。

 ゆるふわ系の優しく大人しい、常識を持ち合わせた良い先輩……なのだが、異常なほどの方向音痴という致命的な欠点がある。

 

 どれくらいの方向音痴かと言うと、一年以上過ごしてきた校内ですら、たまに迷うレベル。どうやって今まで生きてきたんだろうか。

 さて、そんな花音さんを見かけたのだが……どうやら道に迷っていたようで、どこか弱々しい雰囲気で歩いていた。

 

 見かねた優しい女の子の蘭が、花音さんに声をかけて手を掴んだ瞬間、いきなり人通りが異常に増え、落ち着いたと思ったら、蘭と花音さんの姿が消え去っていた。

 

 

 

 

「なんで……蘭たちとはぐれてるの?」

「あたしが聞きてぇよ……なんであの瞬間だけ人通りが増えたんだよ……」

 

 

 

 もはやファンタジーの域に入っている現在の状況。ここまで僅か五分。

 

 どうしたものか、と暫し頭を悩ませる。

 

 

 

「とりあえず、蘭に電話してみる……」

「頼むわ……」

 

 

 

 巴がスマホを取り出し、慣れた手つきでピポパと電話を掛ける。

 ブブブブブ、と震える俺の右ポケット。

 

 俺はおいおい、と言いながら右ポケットのスマホを取り出す。

 

 

 

「巴、今そんなにギャグ要らねぇぞ。なんで俺のスマホに……これ、蘭のスマホじゃん」

 

 

 

 いつも右ポケットに入れているはずのスマホは俺のものではなく、何故か蘭のスマホが入っていた。

 映し出された画面には、何故か俺の寝顔の写真が待ち受けとして設定されていた。いつの間に撮られたんだよ。というか、待ち受けにしないでくれよ。誰かに見られたらどうするんだよ。俺はともかく、お前絶対恥ずかしがって大変なことになるだろ。

 

 墓穴掘るのはいつも蘭。ここ掘れワンワンと、掘り当てるのは宝ではなく墓穴。

 

 

 

「なんでお前が蘭のスマホ持ってんだよ!」

「入れ替わったのかなぁ……俺のスマホに電話掛けてみてくれ。蘭が持ってるかもしれん」

「分かったよ……持ってても、ロック解除できないんじゃ?」

「……知らね」

 

 

 

 

 さすがに蘭と言えども、俺のスマホのロックは外せないはずだ。俺と蘭の誕生日を四桁にして足したものを二で割ったあと二万五千を足したものがパスワードだ。

 流石に分かるはずがない、しかし、念には念をだ。

 

 ため息をもうひとつ吐いた巴は、続けて俺のスマホへと電話をかける。

 

 

 

 

「……カバンの中で鳴ってねぇか?」

「……カバンの中で鳴ってるな」

 

 

 

 肩から提げたショルダーバッグ。あまり中身のないそいつを開けてみると、蘭の寝顔が映し出された俺のスマホが、ブブブブブと鳴っていた。

 相手は、巴だった。

 

 ガッ、と俺の首にチョークスリーパーを掛ける巴。待って待って待って待って。本当に絞め殺しに来てるよね?

 

 

 

「お前な! なんで二つともスマホ持ってんだよ! なんで蘭は一つもスマホ持ってねぇんだよ!」

「ぐえぇ……んなごど言われでも……じらねゑっで……」

 

 

 

 喉から出てくる声は、ひしゃげたヒキガエルのように潰れた声。多分声帯が潰れてる。

 俺はボーカル組のように声帯が強くない。こんなに乱暴にされたらどうなるか分からない。彼女らも物理打撃に強くしているとは思えないが。

 

 ある程度締めあげられたところで、ようやく解放される。

 

 

 

「ゲホッ、ゴホッ……死ぬかと思った……」

「ったく、仕方ない……花音さんに電話しよう……花音さんのスマホは持ってないよな?」

「カバンの中、スマホと財布しか入ってなかったから大丈夫……」

 

 

 

 その場にうずくまって喉を抑える俺を後目に、巴はこの五分間で三回目の電話。花音さんまで電話が繋がらなかったら、正しく八方塞がり。

 都会で方向音痴がスマホを持っていない。それ即ち、死。

 

 言い過ぎでは? と思われるかもしれないが、実際問題恋人とはぐれてしまうというのは些か心許ない。

 もしかしたら今頃、ここはどこだと泣いているかもしれない。魂がここだよと叫んでも、あいにく俺達はテレパシーが使えない。

 

 

 

「……あっ! もしもし花音さん! 今どこに居るんですか!?」

 

 

 

 どうやら電話が繋がったようで、巴が大変焦った様子で声を荒らげる。

 

 俺が目配せすると、巴は通話モードをスピーカーモードに切り替え、周囲に通話内容が聞こえるようにする。

 

 ──スピーカーから聞こえてきたのは、女の子二人がすすり泣く声だった。

 

 

 

「蘭っ!? 花音さんっ!? どうしたんですか!?」

 

 

 

 普段から目に涙を浮かべていると言っても過言ではない花音さんは兎も角、蘭まで泣いているというのは明らかに異常事態だ。

 普段俺の前以外では余程のことがない限り涙を流すことの無い蘭。何か余程の事態が起こってしまっているのだろう。

 

 

 

『り……りょう……助けて……どこか分かんない……』

 

 

 

 電話から聞こえてくる蘭の声に、俺と巴は険しい顔のまま首を傾げる。はて、蘭が方向音痴だったという話は聞いたことがない……というより、どちらかと言うと方向感覚は良い方の人間だったはず。

 幼馴染五人で出掛けに行った時も、なんだかんだでナビゲーションしている。

 

 そんな彼女が、今どこか分からない?

 

 涙を流している蘭を思いっ切り抱きしめてやりたいと考えていたが、何かがおかしい、と冷静になり始める。

 

 

 

「おい……蘭……周りに何か目立つものとかは?」

『そ、それが……全く来たことの無いところで……これ……駅?』

「「駅?」」

 

 

 

 周りを見渡す。しかし、この周囲で駅と言ったら暫く歩いたところにある程度で、とてもでは無いが五分やそこらでたどり着けるとは、到底思えない。

 何かの間違いではないか、と蘭に聞き返そうとする。

 

 

 

 

『──三番のりばに、列車が参ります──』

「「駅だ!!」」

 

 

 

 うっすらと聞こえてきた構内放送。思わず巴と二人で叫んでしまう。間違いなく、彼女達は、どこかの駅にいる。

 

 どこにいるか判明してほっとしたのもつかの間、『一体どうやって彼女らは駅まで移動したのか』という謎が残り、背筋が凍る。

 

 もはやファンタジーの出来事に巻き込まれてしまっている感覚。常識離れした経験をしたので、SANチェックした方が良いのだろうか?

 

 \(・ω・\)SAN値!(/・ω・)/ピンチ!\(・ω・\)SAN値!(/・ω・)/ピンチ!……はい。落ち着こう。

 個人的見解だが、あの作品は作品としては非常に面白かった。が……クトゥルフ神話と認めるのは、何か違う気がした。

 

 

 

 

『ふえぇ……ごめんね蘭ちゃん……巻き込んじゃって』

『仕方ありませんよ……花音さんが悪いわけじゃありません』

 

 

 

 蘭の隣から聞こえる、花音さんの声。

 

 まさかとは思うが、彼女の方向音痴は、他人にも影響を与えるほどの強力なものなのか……?

 

 身体中を悪寒が走る。もしそれが正しければ、彼女達を早く見つけ出さなければならない。

 もしかしたら、何か変な呪いでもあるのではないだろうか?受けたダメージの半分他のキャラクターに受け流す防具のような。

 

 

 

「二人とも、そこから動く──」

『あ! 看板あった! えっと……よこ、はま?』

 

 

 

 

 嫌な予感は、すぐさま回収された。

 

 よこはま、YOKOHAMA、ヨコハマ、I☆YOKOHAMA。

 

 四文字のひらがなを何とか漢字に変換しようと、俺と巴の灰色の脳細胞が躍動する。そして、ようやくひとつの単語が頭の中に出てくる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『横浜』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「「はあああああああああああああああああああああああっ!?」」

 

 

 

 

 都会の喧騒のど真ん中。俺と巴の怒号が、ビルの群れに吸い込まれて行った。

 

 

 余談だが、二人と合流したのは、何故か山梨県だった。富士山は冗談抜きででかかった。

 

 




ご閲覧ありがとうございます。実際自分もかなり方向音痴なので、他人のこと笑えません。学校内でたまに迷います。普段行かない場所に行ったりすると、どうしてもね。

感想、評価、お気に入り登録等して頂けると、小指詰めます。

それでは、また次回。
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