反骨の赤メッシュがでろっでろに甘えてくるんだけど   作:コロリエル

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どうも、この話を書いていた時、間違いなく気持ちが最底辺まで落ち込んでいました。毎日家帰るのよる九時は辛い。そこからバイトとか、死ぬ。


だる絡みと赤メッシュ

 

 月が綺麗ですねという謳い文句は、いつの間に一般的なものになってしまったのかと、夜空に浮かぶ丸くて憎いあん畜生を眺める。

 言ってしまえば、あんなものはただの衛星、鉱物の塊、無数の星の一つに過ぎない。ただただ、俺たちが住む地球に、一番近かっただけの存在。

 

 ――でも、俺たちは奴に魅了されてしまう。

 

 理論的に言ってしまえば面白みも何ともないはずなのに、古来より俺たち人類はあいつに対して特別な感情を抱き、ことあるごとにその美しさを褒め称えたり、手が届かないことを嘆いたり、ついにはその地に降り立つにまでなってしまった。

 望月が欠けることはない位の天下だぜと言い切った偉人や、偉大な一歩を踏み出した船長、親指で月を隠してみたりするもじゃ毛のあんちゃんに、薬を飲んでまで月まで飛ぼうとした兎。

 

 みんなみんな……あいつの虜だ。

 

 

 

「……兎がほんとに住んでたら、面白かったのになぁ」

「……なんの話?」

 

 

 

 ぼそりと呟いた独り言に、反応する疑問の声。

 後ろを振り返ってみると、若干髪の毛を濡らしたままの姿の恋人。風呂上がりのせいか、その肌は全体的に火照っていた。今日は、蘭が俺の家に泊まりに来ていた。親父さんには、モカの家に泊まると言ってきたらしい。

 

 ……いかんいかん、今はセンチメンタルに決めるとき。風呂上がりの彼女に欲情することなど、言語道断。浴場で欲情するくらい言語道断。

 

 

 

「あぁ、いや……あれ」

「あぁ、お月様……今日は満月だったっけ」

 

 

 

 床に座ってぼんやりと窓の外を眺めていた俺の隣に、いつもより高い体温。いつもより弱い彼女特有の匂い。いつもより強いシャンプーの香り。

 もっとクラクラクラクラさせてよと叫びたくなるが、揺らぐわけにもいかない。今日の俺は、センチメンタルに、めんどくさく行くのだ。

 

 たまには、ね。

 

 

 

「そそ。んでさ、確かにお月さんはすっげぇ綺麗なんだよ。間違いなく。ちょっと心に余裕のあるやつなら、足を止めて見るくらいには」

 

 

 

 

 

 逆に言えば、月を見て綺麗だと思えない、もしくはそもそも見る余裕すらない人間は、一回休んだほうがいい。上を向いて歩こう。涙がこぼれないようにではなく、涙を流すために。

 俺の言葉を黙って聞いている蘭。何やら俺の雰囲気がいつもと違うことを察知したのか、いつもなら返ってくる相槌すらない。

 しばらく、俺の独白という名の戯言に付き合ってもらおう。

 

 

 

「なんであんなに綺麗なのかなって、考えてたんだよ。見た目、形、輝き、とかな。だけど、もしかしたら、手が届かないからこそ、綺麗なんじゃねぇかなって」

 

 

 

 身近にある月。地球から最も近く、しかし遠い存在。

 本来であれば、誰か一人のものになるはずのない、かといって皆のものとも言えない物質。

 世界一の大泥棒である優しいおっさんですら、結局は諦めたもの。俺はあの物語で、やっぱり月はかくあるべきだと思ってみていた。

 

 

 

 誰かのものの月より、誰のものでもない月がいい。

 

 

 

 恐らく、そんな感想を抱いたのは、俺くらいだろう。

 

 

 

「……誰のものでもない、だから綺麗……分かる気がする。誰にとっても綺麗だと感じられるのも、それが原因かもね」

「あぁ……寒くないか?」

「ううん。続けていいよ」

 

 

 

 相変わらず優しな彼女の言葉に感謝しつつ、それでも彼女が湯冷めしてしまっては大変なので、脇にあるベッドの上から掛け布団を一枚。並んだ二人で、一つの布団。

 

 

 

「……子供の時みたい」

 

 

 なんて笑う彼女は、やはり──

 

 

 

 

 毒されてるなぁ、と苦笑い。

 

 

 

「じゃあさ、もう散っちゃったけど、桜はどうだ? って話になっちゃうのよねぇ……これが」

「桜も、綺麗だもんね……誰かのものではあるけど」

 

 

 

 桜が綺麗、花が綺麗、人が綺麗、生き方が綺麗。

 

 俺たちが『綺麗だ』と感じるものは其れこそ大量に存在するが、結局それらは『誰かのもの』であったり、『自分自身のもの』であったりする。

 月くらいなのだ。本当に『誰のものでもないもの』は。

 

 でも、綺麗なんだ。

 

 

 

「結局さ、何が綺麗かなんて、人によるんだよ。あたしは、月も桜も、すごく綺麗だと思う。感情に定義なんて、あったほうがつまらないし」

 

 

 

 答えは、結局それなんだ。いや、そうやって誤魔化すしかない。

 白黒つけないカフェオレが、この世の中にもっと普及すべきなのと同じように、答えを出してはいけないものが山ほどある。

 綺麗さの定義も、そのうちの一つだろう。

 

 数値化はできる、でもやらない。

 

 それが結局、丸く収まるところなのだ。

 

 

 

「……つまり、蘭は綺麗」

「……まさか、それが言いたいがためのこの前振り?」

「おう」

「ばっかじゃないの? 上手くもなんともないし」

 

 

 

 満を持して言い放ったセリフに返ってきたのは、想像以上の罵倒。

 

 センチメンタルモードなんてただの言い訳。本当は蘭のことをいい雰囲気の中でくっさいくっさいセリフを言いまくって撃沈させるための布石。

 しかし、話している内容が若干支離滅裂だったからか、蘭に途中から話の結論を言われてしまったし、結局締まらなくなって、苦し紛れの一言。言っとけば照れるだろうと考えていたが……。

 

 見事に返り討ち。これが『反骨の赤メッシュ』の本領なのか。違うね。うん。

 

 

 

「全く……綺麗綺麗言いすぎて、何が何だか分かんない。きっと亮は詩人にはなれないね 」

「なる気もねぇよ……なりたいものもねぇけど」

 

 

 

 茶番は終わり。俺はすっと立ち上がり、ベットに向けてボフンとダイブ。天井のシミを一つ二つと数える。

 なんとなく、今は蘭の顔を見るのが怖い。きっと、見抜かれているから。

 普段はバカばっかりやっている俺の様子が、少しおかしいのだ。気付かない訳がない。

 

 誘い受け……というのだろうか? なんとも女々しい。女々しいのが俺の本質なのだと、言ってしまえばそれまでだが、蘭の前では『かっこいい俺』でありたかった。

 

 まぁ……無理な話なのだが。

 

 

 

 

「……不安、なんだね」

 

 

 

 

 ほら、思った通り。

 

 蘭は俺の様子がおかしいことに、やはり気付いた。まさか「なぜ」まで言い当てられるとは思っていなかったが……そこは流石としか言いようがないだろう。

 

 ベットが、普段より沈む。蘭の体重の分だけ。

 

 仰向けになっている俺の上に、覆いかぶさるように四つん這い。普段なら蘭はもっと顔を赤くしているだろうし、俺はそんな蘭を見てにやにやしている。

 今の蘭は、羞恥に顔を染めることなく、ただただ『俺』を見つめていた。

 

 

 

「……そりゃ、俺には何もないから」

 

 

 

 幼馴染たちはすごい。

 

 目的、目標、やりたいこと、成し遂げたいこと。それらを持って普段の生活を送っているのだから。

 彼女らと俺を比べた時、恥ずかしながらそんなもの何一つない。

 

 何になりたい? 何をやりたい? 何を成し遂げたい?

 

 何もない。

 

 勉強も、やったほうがいいだろうという妥協で渋々。バイトは遊ぶ金のため。部活に明け暮れることも趣味に没頭することもない。

 

 

 

 いいのだろうか。俺が蘭たちと共に居ても。

 

 

 

 最近、そんなことばかり考えていた。

 

 

 

 

「……確かに、亮は器用貧乏だし、夢もないし、かといってお義父さんの跡は継ぎたくなさそうだし。意外とわがままだよね。一人っ子だから?」

「……お前も一人っ子だろ」

 

 

 

 そうだった、と蘭は笑う。こういう時の蘭は、でろっでろに甘えてくるようなことはなく、いつもの『反骨の赤メッシュ』。

 可愛い様子は鳴りを潜め、どちらかというと男の俺ですら惚れてしまいそうなイケメン女子。

 全く、俺にはもったいない。

 

 

 

「……あたしが居る。それじゃ、ダメ?」

 

 

 

 そう言いながら、蘭は俺の体に覆いかぶさるように抱きつく。距離はゼロ。ドクドクドクドク。蘭の心臓の鼓動がうるさすぎる。

 いつもだって、俺がちょっと頭を撫でたり褒めたりするだけででろっでろになるのだ。今だって、相当無茶している。

 

 でも、それに茶々を入れるほど、俺は無神経ではない。

 

 

 

「……ありがとな」

 

 

 

 

 答えにはなっていないけど、そう答えるだけで、精一杯だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「で? 何分抱きつく気ですか美竹さん」

「……四百八十分」

「八時間かー」

 

 




ご閲覧ありがとうございます。ぶっちゃけ、亮くんは目標ない系男子です。蘭が生活の中心すぎて、たまにぶれます。


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それでは、また次回。

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