反骨の赤メッシュがでろっでろに甘えてくるんだけど 作:コロリエル
皆様、たくさんの閲覧等、ありがとうございます。
「……すぅ……すぅ……」
「パン……パン……」
その寝息はどうなんだよ。
今の状況が全く理解できない俺は、とりあえずスマホを取り出して、目の前の光景を激写。幼馴染たちに転送。
一仕事終えた俺は、手に持っていたコンビニのレジ袋を俺の学習机の上に置く。がさり、という音程度では、二人が起きることはないだろう。
……そう、俺のベットの上では、『反骨の赤メッシュ』と『ゴーマイウェイ』の二人が、仲良くお昼寝していた。
じゃんけんで負けた俺が二人の分のジュースやらパンやらパンやらパンやらを買いに出ている間に、夢の世界へと旅だったのだろう。
それはいい。別に、羨ましいとか、モカそこ退けとか思っていない。ただ、彼女らの体勢が気になっただけだ。
「……モカが抱きしめられる側か」
蘭が、モカのことを胸に抱いて、モカも蘭の胸に顔を埋めるようにして寝ていた。気のせいか、モカの蘭を抱きしめる腕に、力が入っているように見える。
正直、蘭はメンバー内屈指の甘えたがり。人肌の温かさが恋しい人間で、俺と共に寝る時も、基本的に蘭が抱きしめられる形。
そもそも、蘭は恥ずかしがり屋。俺相手でないと、そもそも同性相手ですら添い寝しない。
そんな蘭が、モカのことを抱きしめている。
……これでも、彼女らとは十年来の付き合いだ。『何かあった』のだろう。
「……んー、今日モカバイトだったよな……それまで寝かしてやるか」
「……パン食べるほうがゆうせーん」
もぞり、と動いたモカが、眠そうな目をこすりながら起き上がる。目元が若干赤い気がするのは、寝起きだからだろうか?
「わりぃ、起こしちまったか」
「そーだねー。モカちゃんが半径二メートル以内に侵入してきたメロンパンとクリームパンといちごジャムパンに気付かない訳ないのですよー」
「……なんでドンピシャで当てられるんだよ」
パンを買って来るとき、モカからの指示は「りょーくんが選んだてきとーなパン三つでー」だった。だから、モカに俺が買ってくるパンが分かるはずないのだが……パンに関してのみ、モカはファンタジーだ。気にしてしまっては負けだ。
俺は苦笑しながら、レジ袋の中からメロンパンを取り出し、モカに投げて寄越す。器用に片手で取り、ピッと袋を開け、かぶりつこうとする。ベッドの上で食うな。
駄々をこねるモカを無理やりベッドから下ろし、二人でいまだに寝ている蘭の顔を見つめる。
「ぐっすり寝てるねー。疲れてたのかな?」
「……頑張ってるからな」
「プロレス?」
「……クリームパン没収な」
にやにやと笑っているモカの横で、買ってきたクリームパンの袋を開けて、むしゃりと一口。モカの悲鳴が聞こえたが、無視だ無視。
うっせえ悪いかよ。一か月ぶりで抑え効かなかったんだよ。お前が急に家くるとか言い出したから本気で焦ったんだぞこちとら。
大きく溜め息。再び二人で蘭の寝顔を見る。
それにしても、ぐっすり寝ている。警戒心の欠片もなく、モカという抱き枕が無くなったからか、もぞもぞと動いていた。
「……なんかさ、悪戯したくなーい?」
「……分かる」
ここまでぐっすりだと、何しても起きない気がする。因みに、寝ている間にナニしたことはないが、ナニされたことはあった。意外と積極的なのよ、この子。
俺は床に置いてある鞄の中から、筆箱を取り出す。やはり、寝てるやつへの悪戯と言えば、これだろう。
「てれててっててー。くーろーペーンー」
蘭に小一時間ほど爆笑された激似モノマネで取り出したるは、黒いペン。きっちり水性だ。今の子、このモノマネしても通じないんだろうなぁ。白黒クマの声というイメージのほうが強くなってしまっているのだろうか?
今日は蘭も用事がないとのことだし、何なら家までバイクの後ろに乗せて走らせればいい。
隣でツボに入って動けなくなっているモカを尻目に、蘭の顔にきゅっきゅと筆を走らせる。
「ぶっ!」
書き終えた蘭の顔を見て、モカが床に崩れ落ちる。ここまで爆笑しているモカは、久しぶりに見たかもしれない。
蘭の顔には、さっきのネコ型ロボットよろしく、六本のヒゲ。ここに『狂い咲く紫炎の薔薇』が居たら、悶え死んでいるのではないだろうか。あの人、道に段ボール箱が落ちていたら確実に中を覗き込んでいた。蛇のおっさんが居たらどうするんだよ。
「はぁ……はぁあ……りょーくん、ずるいよそれはー……」
「モカも描くか?」
「もちー」
俺からペンを受け取ったモカは、しばし何かを考えるようなそぶりを見せた後、何かを閃いた。そのまま蘭のおでこに、きゅっきゅとペンを走らせる。
「書けたー」
「待てこら」
にやりと悪戯っぽく笑うモカの頭をポカリ。家庭内DVだー、とのたまうモカを睨みつける。DVが家庭外で起きてたまるかよ。それただの暴行事件だよ。
「これはなんだ?」
「将来の蘭の名前ー」
「だろうよ!」
蘭のおでこには、可愛らしい丸文字で『はかせらん♡』と書かれたいた。おい蘭、歌詞ノート他人に見られてんじゃねぇか。俺以外の誰にも見せないんじゃなかったのかよ。俺の独占欲返せ。
地味に、ひらがなで書いてあるのがポイント高い。プリクラで頭の悪そうなバカップルが描いてそうだ。
蘭はそいつらの上を行っている。肌に直接だもん。
「でもー。否定しなかってことはー、そうしたいとは思ってるんだよねー?」
「あたぼうよ」
「蘭は幸せ者だなぁ。こんなに思ってくれる恋人がいてー」
「……彼女の顔に落書きする彼氏ってやばくないか?」
「やばいよー?」
惚気ている途中でふと冷静になり、まじまじと蘭の顔を見る。
……これは怒られる。口きいてもらえなくなる。しばらくぎゅーしなきゃ許してもらえない気がする。
……ぎゅーすれば、許してもらえるだろう、という考えが間違いじゃないのが恐ろしい話だ。因みに、蘭はチョロインではない。俺とモカとひまりとつぐと巴にチョロいだけだ。多いなおい。
「はぁ……蘭が起きない内に消すか……タオル濡らしてくる」
「そだねー」
「おめぇも動けよ……」
いつの間にやらメロンパンとジャムパンを食べ終えたモカが、パンのゴミをゴミ箱に捨てていた。きちんと捨てて偉い……が、お前もやったんだからどうにかしろよ。
『むげーんだーいなーゆーめのーあとのー』
突如鳴り響く、蘭のスマホ。大音量であったというのもあり、三人してビクッと跳ねる。
どうやら、電話らしい。こんなSNS全盛期に蘭のスマホに電話をかけてくる人など、一人しか心当たりがない。
「もう……なんなの……はい、もしもし……え……それって、今日だっけ!?」
着メロに驚いて起きた蘭が、実に不機嫌そうな顔で電話に出る。しかし、その表情はさぁっと青ざめていき、最終的には冷や汗が出るほどだった。
何度か返事をしたかと思うと、そのまま電話を切って俺に向き直る……恐ろしいほどシリアスな顔で、恐ろしいほど締まらない落書きのままで。
「ごめん亮! 今日家に父さんの友達の華道家が来る日だった! 挨拶する約束だった!」
「「えっ」」
「すぐ帰るね! ホントごめん! 今日の埋め合わせは絶対するから!」
「「ちょっ」」
「じゃあね! 大好きだよ! 亮! モカ!」
やたらとイケメンな捨て台詞を残しつつ、やたらとだらしない様子の顔を見せながら、ドタバタと立ち去る蘭。お邪魔しましたー! という声が、俺以外誰も居ない家に響く。
しばしの静寂。取り残された俺とモカ。お互いに顔を合わせ、頷く。
「「待ってらあああああああああああああああああああああんっ!!」」
急いで立ち上がり、家の鍵だけ閉め、既にはるか彼方を走っている蘭の背中を追いかけた。道行く人が何度見かしていたのは、気のせいではないはずだ。
その後、三人揃って蘭の親父さんから大説教を食らった。元はと言えば蘭が悪いが、俺も褒められた事はしていないので、何も反論出来なかった。
ご閲覧ありがとうございます。ちなみに自分がやられた落書きは、シンプルに『う○ち』でした。しっかり油性で書かれました。
感想、評価、お気に入り登録等して頂けると、なんか倍になります。
それでは、また次回。