反骨の赤メッシュがでろっでろに甘えてくるんだけど 作:コロリエル
もういくつ寝るとお正月。そんな童謡を鼻歌で歌いつつ、愛しい愛しい我が家へと歩を進める。
実際は寝ずに年越しの瞬間を迎えるわけなので、もう寝なくともお正月。帰って蘭が顔を歪める前で笑ってはいけないを見るか、最近実は二人で食事をするほどの仲になっているとの噂の、孤高で無くなった青薔薇達が出る赤と白の番組を見るか。
俺としてはゲラゲラ笑って年越ししたいのだが、蘭はやはり知り合いの出る番組を見たいらしい。
この軽い小付き合いも、最近ではすっかり押し負けてばかり。この前モカに、『しっかり尻に引かれてますなー』とからかわれてしまった。
可愛い婚約者に尻に引かれるのなら、それもまた行幸。
駅から降りて五分。中々の物件を確保出来たと、当時は胸を張っていた。今では五分も歩かなければ蘭の待つ自宅に帰れないのかと思うあたり、相当毒されている。
真剣に車の購入は検討中。相棒のバイクは、最近少しエンジンのかかりが悪いが、まだまだ現役。しかし、蘭以外にも小さな命を載せて走る時が来る。その時のために買わなければならないだろう。
なんて、もう暫くは先の話を想像して、クスリと笑う。まだ挙式も挙げてないのだから。
でも、許してはくれないだろうか。ここまで来るのに、中々時間がかかったのだから。
たどり着いた、一軒のマンション。蘭の親父さんに、『せきゅりてぃだけは万全な場所にしてくれ』と言われたので、割高だが、せきゅりてぃ万全のマンション。
カードキーを通し、すっと建物内。そのままエレベーターに乗り込み、自分達の階層を指定。
早く早く、と急かしてもエレベーターは一定の速度でしか移動しない。ガキじゃないんだからと苦笑い。
ぽーん、と音が鳴ったかと思うと、扉がスッと開く。俺は一つ深呼吸をして、カツカツと靴を鳴らし、目標となる部屋へ。
チャイムを一つ。鍵は持っているが、出迎えられるあの感覚が好きなのだ。
ガチャり、とドアが開く。
「おかえり、亮。寒かったでしょ」
幸せそうに微笑む彼女の右手。その薬指には、銀色のシンプルな輪が輝いていた。
──────
「今年は色々と大変だったよね」
ようやく元の生活様式に戻ってきた矢先にスタートした、蘭との同棲生活。
お互いの気持ちが揺れることが無いことは分かりきっているが、俺たちの社会人としての立場は未だゆらゆら。
それを確立するまで、二人で乗り切ろうとし始めた社会人一年目。本当の意味で人生を共にし始めた。
うん、凄い喧嘩した。沢山沢山喧嘩した。
これまでのように見えていなかった、相手の嫌なところ、譲れないところ、気になって仕方ないところ。
それらがお互いに見えて見えて仕方ない。それで大変な大喧嘩。一時はどうなるかと思ったものだ。
「まぁ、本当に色々とな」
「まぁ、本当に色々ね」
それでも、お互いにお互いの癖が少しずつ移ってるあたり、もう来る所まで来ていた。
譲れなくっても、嫌でも、気になって仕方なくても。
共に人生を過ごすとは、そういうことなのだろう。
「おー、アイツらから連絡すげぇ来てるぞ」
「アタシの所にも」
ふとスマホを見てみると、幼馴染から大量のメッセージ。
モカ、ひまり、つぐ、巴。
それぞれから、それぞれらしいメッセージ。
マイペースに、騒がしく、健気に、情熱的に。
二十年変わらない彼女らに、今年も多大なる感謝。つまりはこれからもどうかよろしくね。
フレンドと言うにはあまりにも深い関わりの彼女らのメッセージに一つずつ返信。その他にも様々な人から、良いお年をとメッセージ。
「そーだそーだ。蕎麦買ってきたぞ。インスタントだけど」
「流石に蕎麦は打てないからね」
赤い狐のカップ麺を取り出し、そのまま机の上でペリペリと蓋を剥がす。そうだ、今度蘭に狐耳付けてもらおうか。
なんだかんだ蘭もノリノリになるから、口車に乗せてしまえばこっちのもの。
来年が楽しみだ。除夜の鐘に煩悩として消されないようにしなければ。
「……お、やっぱり見てた」
ふとテレビに目を向ける。そこには、三年連続の出場になっている、Roseliaの面々。
以前は街中でよく見かけていた彼女らも、今では遠いテレビの向こうの住人……という訳でもなく、羽沢珈琲店やファミレスに行けば割と見かける。
うち一人は羽沢珈琲店が住処のようなものだし、特段遠くなった気がしない。
でも、やはり知り合いのアルバムがヒットチャートのトップをひた走っているのは少しソワソワする。ちなみにだが、我が家にはRoselia専用の棚が用意されていて、かなり綺麗に飾り付けられていた。あれだけライバル視していた蘭が……大きくなって。
「つぐがちょっとだけ寂しそうだったけどね。すごく嬉しいけど、って」
昔ならここで怒り狂って守る会としての職務を全うしていたものだ。
今でこそテレビに映る、より精度をましたメトロノームのことは信用しているが、当時だったら無理な話だろう。
幸せにしなかったら〇スのは変わらないが。
「幸せならOKですってね……お、BLACK SHOUT」
「Roseliaだからね」
そういう蘭はどこか満足そうで。
心の底から彼女らの活躍を応援していた。それこそ、自分の事のように。
──ふと、彼女の髪に目が行く。
「随分伸びたな。切りに行くか?」
隣に座った蘭の髪の毛をひと房持ち上げる。高校時代はショートボブだった彼女の髪はどんどん伸び、今では腰まで伸びていた。今でも赤メッシュは健在だが、親父が「蘭ちゃんが赤メッシュを染めることと前髪切ることしかさせてくれないんだよねぇ」と嘆いていた。
親父の売り上げが伸びないのは最悪俺が稼げば問題ないのだが、それにしては蘭が髪を伸ばし続けている理由はどうも解せない。
可愛いんだけどな、綺麗なんだけどな!
「うーん……まだいいかな。ウェディングドレス着るまで伸ばそうかな」
──本当にズルくなった。
ちょっと前までなら、こういうのは俺の専売特許だったのに、最近の蘭はふとした瞬間に俺の心を揺さぶってくる。
ウェディングドレスて。和装の方が似合うかなぁとかこの前言ってたくせに。
癪だ。やはり。ニヤリといたずらっぽく笑う蘭を見て、完全にスイッチが入った。
「そうか……なぁ、蘭。ちょっと書いてもらいたい書類があるんだけどさ」
俺はそう言いながら、カバンの中に入っていた一枚の紙を取り出し、机の上に置く。
髪の毛を耳に掛けながら、俺が置いた書類をまじまじと見て──顕になった耳まで真っ赤にした。
口をパクパクとさせながら、俺とその紙を交互に見る。
「こっ、こここここここ、これ……」
「あぁ、見ての通り、婚姻届。そろそろ準備しとかないとな。サインして、使う時まで額にでも入れて飾っとこうか」
本当に……本当にたまたまの話なのだが、帰り道にばったり出会ったモカが手渡してきたのだ。「モカちゃんにはまだ必要無いからー、りょーくんにあげるねー」と、押し付けられたのだ。
手に握られていた結婚情報誌は、一体なんのためだったのだろうか。その時が楽しみだ。
「なっ、なんで……」
「ん? そりゃあ……婚約してるのに、婚姻届の一つも書いてないのはおかしいよなぁと」
出来上がったカップそばにかき揚げを入れ、手を合わせて頂きます。これを食べ切り、蘭と共に婚姻届を書けば、今年やるべきことは全てやり終えたことになる。
「……なんで、亮が書くとこ全部書ききってるのっ! し、しかも……ハンコまで押して!」
「だって……結婚するんだろ? 俺たち」
そばに手を付けようとしたが、蘭が俺をグワングワン揺らすので、一旦箸を置いて蘭に向き直る。
ここでちょっと俺が真剣な顔をしてみれば、もう蘭は大人しい。
高校時代から、恋人になってから、婚約者になっても。
責められると、弱くなってしまう。
「そ、そうだけど……うん、そうだね……うん、そう、そう……ちょっとまってて! ハンコ持ってくる!」
漫画だったら、目の中にグルグル渦巻きだろうなぁ、と思っていると、蘭が急に立ち上がり、ドタドタと奥の部屋に引っ込んだ行った。
今の隙、と言わんばかりにテレビのリモコンをピッと変える。何年経っても、おでん芸が面白いということだけは、世界の摂理だなと思いながら、机の上の婚姻届に目を通す。
十二月号辺りの付録なのか、仲良く手を繋いだ雪だるまが、実に可愛かった。
──良いお年を。
ご閲覧ありがとうございます。これにて、今年の投稿は終了です。ここまでこの作品を見て下さった方々、大変ありがとうございました。また来年も、この作品をよろしくお願いいたします。
それでは、また来年。