反骨の赤メッシュがでろっでろに甘えてくるんだけど 作:コロリエル
「りょーくんー。また蘭とイチャイチャしてるー」
「はぁ? イチャイチャなんかしてないし」
不機嫌です、というオーラを全身から出す愛しの恋人、美竹蘭。
最近あった恥ずかしい出来事は、歌詞ノートに『葉加瀬 蘭』と書いてにやにやしていたところを俺に見られたこと。ちなみに言うまでもないかとは思うが、『葉加瀬』とは俺の苗字だ。
それはいつか現実のものにするとして、彼女が不機嫌になった理由である目の前の白髪の少女……『Afterglow』のギタリスト、青葉モカは、そんな蘭をみて不敵に、しかしゆるーい笑顔を浮かべてみせる。
ちなみに今居る場所は、Afterglowの面々が活用しているライブハウス『CiRCLE』に併設されているカフェテリア。練習は午後からなのだが、折角だから午前中はデートしようと言う話になり、ここでお茶していたのだった。
「ふっふっふー。天才なモカちゃんには全てお見通しなのですよー。小学校の時から片思いしてた蘭が、二人っきりの時にイチャイチャしない訳ないよねー」
「ちょ! モカっ!」
「……え? そんな早いタイミングで!?」
付き合い初めて早二ヶ月にして判明した衝撃の事実に、頭の中にまだ居た三人のおっさんと共に驚く。一週間経ったんだからいい加減帰れ。
俺が蘭の事を好きだと自覚したのが中二の春、告白したのが中三の冬。これでも長い方だと思っていたが、蘭はその倍以上片想いを続けていたというのか。
それは申し訳ないことをした。後でたっぷり甘やかさなければ。
「……お前は知ってたのか?」
「あたしだけじゃないよー? ひーちゃんもトモちんもつぐも、なんならあこちんも蘭のお父さんもお母さんも、クラスの皆も知ってたよー?」
「俺最低じゃね?」
最早言い逃れのできない仕打ちに、仕掛けた本人である俺が頭を抱える。そこまで多くの人間に知れ渡っていて、何故俺の耳に入らない。どれだけ口が堅いんだお前ら。
対面の蘭はモカに暴露されてからというもの、顔を赤く染めてキッとモカを睨みつける。モカはそんな事お構い無しに、緩く笑う。
「サイテーだよー? だからねー、そんなサイテーなりょーくんには、モカちゃんから罰を与えてしんぜよー」
不穏な空気が加速する。さぁ、ここいらでひとつ身構えよう。何を言われるか分かったもんじゃない。
頭の中に思い浮かぶのは、ガタイのいいラガーマンのおっさん達。スクラム組むってか? いいぜ、スクラム組もうぜ。俺ボール入れる役な。
「罰だぁ? 言ってみろよ」
「罰はねー。この店にある『カップル限定ドリンクセット』を二人で飲み切ることー」
……そう来たか。
スクラム組んでたおっさん達は、審判に怒られている。ラグビーの審判って凄い厳しいよね。当たりが強すぎるスポーツだから、当然といえば当然か。
しかし、俺としてはモカの事だから、『山吹ベーカリーのパン沢山買って』とか言うのかと思っていた。
「なっ、なっ、なっ、なっ! 何言ってるのモカ!」
ただでさえ赤かった顔が、耳まで染まる。普段から照れたりする時も顔を少しだけ赤く染めたりしているが、その時を絵の具で着色したと例えるなら、今はペンキをぶっかけた感じ。
以前親父が酔っ払った時もこんな顔だったな、と他人事のように思う。俺も被害受けるはずなのに。
「俺、てっきりパン山ほど奢ってとか言われるのかと……」
「だってー。これは蘭の気持ちに気付かなかった事への罰なんだよー? モカちゃんに得のあることしても、意味ないじゃーん」
この少女も、仲間思いの良い子だった。
まぁ、実際は蘭のことをからかって遊んでいるだけなのだろうが。個人的には、Afterglowの中で二番目か三番目位にはからかいがいがある。一番はあのピンク頭(物理)で確定だが。
ごめん、モカ。お前のこと勘違いしてたよ。
心の中で十年来の幼馴染みに謝罪を告げる。決して口には出さないが。
「それもそうだな……よしっ、蘭。今まで寂しい思いさせたな。その分いっぱいイチャイチャしよう。まずはここのカップル限定ドリンクセット頼むか!」
「ばっかじゃないの!? そんな恥ずかしいこと、モカの前で出来るわけないじゃん!」
今更になるが、『カップル限定ドリンクセット』とは、一つの大きなグラスに、ハートを象った飲み口が二つあるストローが刺さっている、定番のやつだ。
『頭の悪そうなラヴラヴカップルが飲んでそうなやつ』といえば、多分間違いない。
別に俺達が『頭の悪そうなラヴラヴカップル』になりたい訳では無いし、そう見られたい訳でもない。ただ、蘭の気持ちに応えたいだけだ。
決して……決して、蘭の恥ずかしがっている姿が見たいという訳では無い。可愛いんだこれがまた……おっと本音が。
「そうか……そんなに俺とイチャイチャするのが嫌なのか……」
恥ずかしい姿が見たい訳では無いが、俺はわざと落ち込んでいるような表情を作り、テーブルの上に置いてあるコーヒーカップの中身を覗く。
顔を下に向けて正解だった。ニヤけが誤魔化しきれていない。
チラリ、と蘭とモカを見てみる。慌てたような表情の蘭と、笑いを堪えているモカ。
脳内のラガーマン達は、俺へ向けて盛大なエールを送ってくれていた。ありがとう、あなた達に応援されると、俺もっと頑張れる気がするよ。夢をありがとう。
「あれ飲めたら、もっと蘭との距離が縮まると思ってさ……勝手に蘭も同じ気持ちだと思い込んでたよ……俺の勘違いだったな……すまない、蘭。この事は忘れて──」
「そんなことないっ!」
表情を引き締め、無理に作ったような笑顔を見せようと顔を上げると、両の目に涙を浮かべた蘭が、大声を上げながら立ち上がっていた。
──あぁ、やりすぎた。
モカと俺が、同じことを思う。
「ちょ、ちょっと恥ずかしいだけで……もっと亮と仲良くなりたいっ……だからっ、そんな顔しないで……亮が悲しいと、あたしも悲しいっ……」
──自分の気持ちをさらけ出すのが苦手なだけなんだ、あの子は。今も昔も、恐らく、これからも。
そう言っていた、蘭の親父さんの言葉が脳裏を過ぎる。あれは、蘭と交際するという事を報告しに行った時だったか。
最初こそ驚き、悩み、頭を抱えていた彼だったが……一緒に居た蘭に席を外させ、俺と一対一で話していた。そんな時に彼が言った言葉。
──そんな蘭が、好きだと君に伝えたのだろう? なら……それを見守るのが父親の役目だろう。それに、何処の馬の骨とも知らない男だったら考えてたが……君ならもう頷くしかない。
自分を納得させるためのような独白。彼の父親としての娘への愛と、俺への信頼。
重く、しかし温かなそれを受け取った俺は、思わず泣きそうになった。
「……ありがとな、蘭。ごめんな、無茶させて」
立ち上がり、ぐする蘭の頭を優しく撫でる。普段はこんなことないが、たまにはいいだろう。
決して、悲しいなんて一欠片も感じてないという事は言ってはならない。殺される。蘭と、蘭の親父さんに。
「……じゃ、飲むか?」
「……うん」
「そーゆーと思ってー……あたしが注文しといたよー。はいこれー」
いい話風だが、内容は『バカップル専用ドリンクを飲むか飲まないか』という非常にしょうもないもの。周りのお客さんの目線がなんだかくすぐったい。
──いい彼女持ったなお前。
──死に晒せリア充。
──ちくわ大明神。
そんな感情が込められているように感じた……なんだ今の。
「おぉ……ラブコメで見たやつまんまだ!」
「ラブコメで見たやつまんまだね」
想像通り。モカいわく、マンゴー味で、お値段千五百円との事。馬鹿か。ファミレスでちょっと高いやつ一食食える値段じゃねぇか。
早速後悔している。主に金銭的な意味で。
「ほら……早く飲むよ」
腹を括った蘭は強い。
スっと座ったかと思うと、俺と蘭の間に置かれたグラスに刺さったストローの片方を咥える。
早く、と俺に目線で訴える。
急かされては仕方ないので、椅子に腰掛け、改めてストローを咥えた蘭を見る。
……あれこれ、めっちゃ恥ずくね?
今更怖気付く。これ、蘭のこと笑えねぇぞ。すんげー恥ずい。
なんなら、蘭が咥えてるストロー見て、ちょっと……うん。ごめんね? 想像力豊か過ぎて。男子高校生だもん。休み時間に下ネタでゲラゲラ笑ってるような連中だもん。
脳内のラガーマン達の応援に、日本で一番熱い男の応援が加わる。脳内の温度が上がった気がするが、彼に応援されては、奮い立たない訳に行かない。
今日から俺は、富士山だ。
「ハイハイ……よっと」
意を決した俺は、目の前のストローをパクッと咥える。
蘭と目線を絡ませ、一気に吸う。
ちゅー。
ちゅー。
ちゅー。
ズズズッ。
間抜けな音が辺りに響く。
「……このジュースさ」
「……うん」
「「すっごい美味しくね(ない)?」」
恥ずかしさとか、諸々全て吹き飛ぶほどの美味が、口の中いっぱいに広がっていた。
後日。モカの手によって、彼女らのバンド仲間の面々に『バカップルドリンク』を二人仲良く飲んでいる写真が出回ったのは、言うまでもなかった。俺しーらね。
ご閲覧ありがとうございます。あのジュースを大衆の面前で飲む神経が分かりません。分かる日は多分来ない。
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それでは、また次回。